【本編完結】最愛の勇者が同郷の迷い人に夢中なので、この婚約は破棄したいです。

のんのこ

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勇者と迷い人 sideハルト

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Side ハルト

■□▪▫■□▫▪■□▪▫





ミリアから婚約を破棄したいと告げられた後、ベッドに入るまでの記憶なんて一ミリもなかったが、気がつくと肌触りの良いタオルケットに包まれて朝を迎えていた。


…少しだけ頭がスッキリしたような気がする。





______もう逃げ続けるのはやめにしよう。



ふとそんなことを思った。



______誰から?


勿論、アカリから。



そして、未だに僕の心に住み着く両親から。




僕が守りたいものは一つだけだ。

アカリから彼女を守るつもりでいたが、結局はそれすらも僕のエゴで、最終的に彼女を傷つけたのはアカリなんかじゃなく…紛れもない僕だった。


あと一週間だけアカリの望み通りに過ごせば彼女をどうにか元の世界に返して平穏に過ごせると、楽観的にそう信じていた。

だけどそれは間違いで、僕が最善だと信じたものは…これでもかって程最悪手だったのだ。



今までもそうだったのだろうか。


ミリア程守りたいと思える存在はいなかったが、それでも僕を慕ってくれた故郷の人達は、僕自身がアカリから守らなければならなかったのかもしれない。


両親の願いを無視して、アカリに抗って…



「僕はもう日本にいた頃の、意思のないお人形なんかじゃない」


思いは言葉にすると強くなる、なんて昔聞いたことがあった。


世界を救った勇者がこんなにうじうじしていたら子ども達に笑われてしまう。



魔王を倒した僕がどうしてあんなにちっぽけな少女を恐れる必要があるのだろうか。



弱いままの僕では、ミリアの隣には立てない。


強くなるから、待っててミリア。




朝の支度を済ませて、食事に向かうと、アカリは既にテーブルについていた。


「ハルちゃんおはようっ」

「朝食をとったら、話がある」


「えぇ~、何かなぁ?」

惚けたような笑顔浮かべる彼女に僕は何も返さず食事に手をつけた。



ミリアに会って謝りたい。

そして、彼女を強く抱き締めたい。


きっとこんな僕を彼女はそう簡単に許してなんてくれないだろうけど、僕だって絶対に諦めたりはしない。



…おっと、まずは目の前の少女と決着をつけなければならないね。



「それで、話って?」

食べ終わってお茶を飲んでいるアカリが僕に声をかけた。


「率直に言うと、もう僕に執着するのはやめて欲しい」

「………え?」


「この世界には僕が愛を欲していた両親はもういない。いや、例え彼らが存在していたとしても…もう自分を殺して君に従うなんて愚かな真似はしない」


きっぱりとした口調で言うと、目の前の女は信じられないといった風に顔を歪めていた。



「言っておくけど、君が過去にいろんな人にそうした様に、ミリアに何かしたらただじゃおかないよ。…と言うか、もしかしてもう既に彼女を傷つけていたりなんかしないよね?」


可能性を考えていなかったわけではなかった。

だが、今までも僕が彼女に付きっきりであれば、アカリが誰かに手を出すことはなかったから安心してしまっていた部分はある。


僕の言葉にピクリと反応したその女に、そんな考えが大きな間違いであったことに気づいた。


「…本当に、どこまでも僕を怒らせたいみたいだね」


腸が煮えくり返るような怒りが込み上げる。


目の前の女に、


そして、どうしようもなく愚かな自分に。



結局のところ僕もこの女も同罪なのだ。



「ちがっ、あたしはハルちゃんのことが好きだったから…それなのにっ、みんなハルちゃんとあたしの仲を邪魔してくるんだもんっ」


「…わかったよ、アカリ」


僕の返事に彼女がホッとしたような表情を浮かべる。

何を安心しているんだろうか。



「お前の頭が完全にイカれてるってことが」

「えっ…?」


「僕は曲がりなりにも勇者だから、悪はとことん排除しなくてはならない立場なんだけど…どうしようか」

どうやって、魔王よりも胸糞悪いこの女を打ち倒したらいいだろうか。



「で、君は彼女に何をしたの?日本でやっていたみたいに、君を慕う人間に彼女を傷つけさせた?それとも、彼女に対する不名誉な噂でも流したの?」


「……」


ガンッ

黙ったまま何も答えない彼女に苛立ちを覚えダイニングテーブルを蹴りつける。


マナーもへったくれもないが今だけは目をつぶって欲しい。



「っ、ユリウスやジェラール達に、あの女を叱ってもらって…王家やミリア様のちょっとだけ悪い噂を、流したのっ。でも、本当のことよ?だってあたしとハルちゃんは、あんなに想いあってたでしょう?」



「へえ、そっか」


ミリア大好きなユリウス殿下まで味方につけるなんて、本当に恐ろしい女だ。


王家やミリアの悪い噂なんて、この世界に来て日が浅いとは言え…大変なことをしてくれた。




「そういうことなら、僕が手を下すまでもないか。王家なら僕より酷い罰を提案してくれるだろうし」

「罰…?」


「異界からの迷い人だからと言って、王家の権威を貶めた女を陛下程聡い人が野放しにするとは思えないからね」


顔を青ざめる幼馴染だった女に同情なんて微塵も湧いてこなかった。

当たり前だけど。



「それと、一つ勘違いしているようだから、教えてあげる。僕は昔から君のことなんて心底嫌いだったよ。僕らが想いあってるなんて、冗談じゃない。事が終われば、もう二度と僕に関わるな」


「っ…!」


「まあ、関わろうとしても関われないだろうけど」



王家に仇をなした彼女が生きていられる保証はどこにもない。

よくて投獄、普通は極刑だ。




「返事は?」

「っ、わかっ…た」


涙や鼻水を垂れ流しながら頷いた彼女に、漸く僕の心に鎖のように絡みついていた何かが解けていくような感じがした。



冷めきってしまったお茶を一口飲むと高まっていた気分が少し落ち着いた気がする。


王宮に行かなければならない。


国王に…そして、最愛の彼女と話をしに。



流された噂がどんなものなのかは、先程のアカリの発言から嫌という程理解できた。

もしも、ミリアがあの噂を信じていたのなら、それはきっぱりと否定しなければならない。


彼女の誤解を後押ししてしまったのは、きっと紛れもなく僕自身の行いだ。





先触れを頼み、泣き続ける彼女を使用人の二人がかりで引きずらせて馬車に向かった。






王宮に着くと、すんなりと応接間に通される。

そこには既に国王陛下がソファに腰掛けており、僕とその隣に抑え込まれるアカリをじっと見つめていた。


「オーツ公爵、いや…ハルト・オーツ。私がお前に言ったことを覚えているか?」


先に口を開いたのは陛下だった。

突然呼ばれた元の世界での名前と紡がれた言葉の内容に、彼の怒りを感じる。



「ミリアを傷つけたならば僕もここにいる者と共に元の世界に強制送還、ですよね」


「ほう、よく覚えていたな?」


陛下は皮肉たっぷりな笑みを浮かべた。



「申し訳ございません、ミリアを傷つけました」

「知っておるわ馬鹿者」

「…返す言葉もございません」


いくら僕が自分の行いを省みても彼女を傷つけたという事実は変わらない。

言い訳すら思い浮かばなかった。



「つまり、元の世界に大人しく帰るということか?そこの迷い人と連れ添って?」

「それだけは有り得ません!そして僕は、ミリアのそばを離れるつもりもありません」


「…では、国王であるこの私との約束を反故にするというのか?」


陛下の言葉にぐっと息を飲んだ。


確かに僕はあの日の陛下の言葉に頷いていたのだ。



だけど、それでも


「ミリアと生きていきたいのです」

「それはただのお前の我儘だろう?」


陛下の言葉に弁解の余地もなく口を噤む。


我儘

それは確かに的を射ていた。


結局は僕がミリアのそばにいたいだけで、彼女は僕に婚約破棄を請うたくらいだ…僕のことなどもう好きではないのかもしれない。


だとしたら彼女と共に生きることを望むのはただのエゴだ。



「…お願いします、もう彼女の隣に立つことができなくても…それでも、僕の一生を彼女に捧げたいのです」


こんな僕に想われることすら彼女の迷惑になるというのなら大人しく身を引かなければならないのだろうが…

しかし、諦めるにはまだ早いのではないか。


僕はまだ彼女にしっかりと自分の本心を伝えていない。

彼女に理解してもらう努力すらしていなかった。


そればかりか、こんな情けない自分を知られまいと必死に隠してきたのだ。



「彼女と話をさせてください、陛下…」


陛下の、彼女と同じ瑠璃色の瞳をじっと見つめて頼みこむ。

言うや否や頭を下げると、陛下はしばらく黙り込んだが、落ち着いた口調で言葉を紡いだ。



「頭を上げよ。別に私はミリアと話すことを止めはしない。…最後に決めるのはあの子だ」

「っ、ありがとう…ございます」

じんわりと瞳に涙が浮かぶが、喜ぶのはまだ早かった。



「ミリアは部屋にいるはずだ。憔悴しきった彼女を早く慰めて来なさい」

「はい!行ってまいります!」


僕は足早に応接間を後にしようとした。


「ハルちゃん…っ」

そんな不快な声が耳に入り、彼女ではなく陛下を振り向き口を開く。



「この女の処遇については陛下にお任せしてもよろしいでしょうか?罪状は…」

「ユリウスから聞いておる。そなたは罪人よりも私の可愛い娘のことだけ気にしておけば良い」

「重ね重ね感謝致します」


そう一言述べ、ようやく僕はミリアの元へ急ぐのだった。





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