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愚かな王子様
しおりを挟む公爵家を後にして、モヤモヤとした気分で王宮に戻った。
こんな状況でも私を好きだなどと宣う彼に、もう何も信じられないような気さえしてくる。
今夜もやっぱりうまく眠れそうにない。
夜、ベッドの中で時間を持て余すことも億劫になってしまい、今夜は趣向を変えて広い王宮を散歩することにした。
本当は庭園にでも行こうかと思ったが、こんな夜更けに外に出るのははばかられたので適当に廊下をぶらつく。
警備は外に集中しているので、道を選べば気づかれることなく散歩ができる。
室内を散歩というのも変な言い方だが。
ふらふらと歩いていると、目の前の廊下に私と同じ金色の頭をした彼を見つけた。
「っ、姉上…」
ユリウスはどこか気まずげにポツリと呟く。
彼も眠れなかったのだろうか。
「…何?」
アカリさんと関わる様になって変わってしまった彼の態度を思い出し、返事がそっけなくなってしまった。
このくらいは仕方ないと思う。
「いえ、別に」
「そう」
どうして私の周りにはこうも煮え切らない態度の男性ばかりなのだろう。
思わず呆れ笑いが漏れてしまう。
私はそれ以上ユリウスに何かを言うことも無く、彼の隣を足早に通り過ぎる。
すれ違う瞬間、彼がぎゅっと拳を握りしめるのが見えた気がした。
「ごめんなさい、姉上…姉上っ、いかないでくださいっ」
そんな声が聞こえた途端、袖をぎゅっと捕まれ足を止める。
「僕が悪かったです…っ、姉上が誰かの恋人を奪うような、そんな愚かな人じゃないことくらい、そばで見てきた僕が一番わかってたはずなのにっ…姉上、僕のこと嫌わないでくださいっ、姉上…」
言い終わるや否や、年甲斐もなく泣きそうな顔で言葉を紡ぐユリウスにギョッとしてしまう。
「この前姉上にっ、僕のことなんて眼中にないような態度をとられて…やっと気づきましたっ…僕は姉上の弟です。信じなきゃいけない人は…異世界から来た少女なんかより、大切な姉上だったのに…ごめんなさっ、姉上…」
「ちょ、ちょっとユリウス落ち着いて?」
鼻をずずっと吸ってうるうるとこちらを見つめるユリウスは、本当に十七歳の男の子なのだろうか。
…少し甘やかされて育ちすぎたみたい。
根っからの末っ子気質だものね、あなた。
王族としては失格のそんな態度に呆れてため息をついたが、姉としては少し喜んでいる自分もいた。
私は心底彼に甘い。
王家の第五子である私の唯一の年下の姉弟は彼だけだから、仕方ない…と思うことにする。
「…落ち着いた?」
少し時間を置いてそう尋ねると、彼はこくこくと頷いていた。
「姉上を傷つけてしまって、申し訳ありません…僕のこと、嫌いになりましたか?」
「その言い方はずるいわ、ユリウス」
「…ごめんなさい」
彼はしゅんと眉を下げる。
「正直言って、あなたの他人の主張に踊らされやすいところは王族としてあってはならないことだと思います」
「…はい」
「時期国王は王太子であるお兄様だからと言って、あなたがしっかりしなくてもいい理由にはならないのよ?」
「…はい」
淡々とした私の言葉に、ユリウスは大人しく耳をすましていた。
「反省したからと言って、学園でのあなたの振る舞いが無かったことにはなりません。あなたは王家の権威を失墜させるような内容の噂話を鵜呑みにして、先陣をきって私を叱責したの。それがどんなに重大なことかわかってる?」
「はい、僕は王族失格です」
思い詰めたような顔で唇を噛み締める。
ユリウスは自分がやってしまったことを理解しているように思えた。
「どう償うかはあなたが自分で考えることです」
そう言うと彼は先程の泣きそうな姿とは比べ物にならない程凛とした表情をして深く頷いた。
「王族として、あなたの行いは到底許すことが出来るものでは無いけれど…ただの一人の姉としては、応援しているわ」
「っ、ありがとうございます…姉上」
ユリウスは涙を堪えて、へにょりとしたなんとも残念な表情を浮かべていた。
姉としては、甘ったれな弟だって可愛く思えるけれど、この国の王子としては、やっぱりまだまだ成長途中のようだ。
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