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彼女たちの沙汰
しおりを挟む「そう言えば、先程処分が決定したとおっしゃってましたが、アカリさん達はどうなったのですか?」
気になっていたことをハルト様に聞いてみる。
「…せっかく良い雰囲気だったのにもう冷静になっちゃった?」
残念そうに口をとがらせてそう言う彼に少しだけ恥ずかしくなってしまう。
「もう、いいから早く教えてください」
「わかったから、そんなに眉間にしわ寄せたら戻らなくなってしまうよ。そんなミリアも可愛いけどね」
「ハルト様!」
厳しい口調の私に彼は観念したように苦笑を浮かべて口を開いた。
「ミリアが眠っていた間に、さっきも言った通りアカリと関係者の処分が決定したよ」
「私は、そんなに眠っていたんですか?」
「いや、丸一日くらいなんだけど、今回の脱走の件もあって処分は早い方がいいだろうって陛下が」
丸一日眠っていたのね。
確かに少し体がだるい気がする。
「ミリア、話の前に水だけでも飲んでた方がいいよ。軽食も頼んでおこうか?」
ハルト様は水差しの水を私に手渡してくれる。
「ありがとうございます。軽食はまだ大丈夫です」
お腹は空いているけど、それよりも早く話の続きを聞きたかった。
コンコン
小さな音をたてて、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します。ユリウス様からミリア様が目を覚まされたので軽いお食事をお持ちするようにと。具沢山のスープをご用意致しましたが召し上がれそうですか?」
入ってきた侍女が心配そうに私に尋ねた。
「ありがとう、頂くわ」
「かしこまりました!すぐご用意致しますね!」
ユリウス…なんてできた子…
これでご飯も食べれるしハルト様のお話もすぐに聞けるわ。
「…本当に、アカリに呆気なく騙されてしまったような人間にはとてもじゃないけど見えないよ」
「人間誰しも欠点があるものですよ」
「ミリアに関して盲目なとことか?」
だけど、そうね、最近のユリウスは信頼を取り戻すために頑張りすぎているようだから少し心配だわ。
…あんまり無理しすぎないといいのだけど。
以前から国政や国の教育、福祉なんかには興味があったけれど、最近はより熱心に学んでいると聞く。
きっと彼は兄達とは違うベクトルから国の発展に貢献するようになるだろう。
弟の成長を喜ばしく思う反面、自立し姉離れが進んでしまっているようで少し複雑だ。
そんなことを考えているうちに食事が運ばれてくる。
「食べながら話をしようか」
「はい、お願いします」
「まず、今回のアカリの逃亡を手助けしたのはジェラール・モーガンの独断で、自宅謹慎していた他の二人は関係なかったみたいだ。トーマス・グラハムは侯爵家追放の後平民に。リッツ・ベルムスについてはベルムス家追放の後貧民街で奉仕活動に尽力してもらう。ここまではもう聞いてたかな?」
二人の処分については父から聞いていた通りだった。
「ジェラール・モーガンは、今回の騒動を起こすまでは平民落ちだけで済んでいたけど、さすがにミリアに危害を加えようとしたアカリを手助けした罪はそんなに簡単に赦されるものじゃないからね。息子の責任をとってモーガン公爵は男爵家に降格処分、騎士団長という地位も剥奪されることとなった。そしてジェラール・モーガンは奴隷制度が存続する国で奴隷として売られることになったよ」
「…奴隷、ですか」
奴隷制度のないこの国で育った私でも、それが想像を絶する苦悩を伴うことなど簡単に理解出来た。
ジェラール様は、立派な国家反逆罪を起こした。
しかし、それでもそんな彼を不憫に思ってしまう私は甘いのだろうか。
「彼は腕っ節や体力だけは恵まれているから、どうにかやっていけると思うよ」
安心させるようにそう言うハルト様に、少し申し訳なくなった。
私の心の平穏のために、彼に嘘をつかせてしまった。
力だけで生き残れる程甘い世界なら、こんな罰でジェラール様が赦されるわけがないのだ。
「ハルト様、ありがとうございます」
「…僕は何もしてないよ」
「アカリさんはどうなったのですか?」
一番気になっていたのは、彼女の処遇だった。
異世界からやって来た彼女は、この世界ではいろんなことをやらかしてしまったが、それでも突然召喚された被害者でもある。
悩ましい存在だと思う。
「アカリは、しばらくは投獄だって」
「投獄、ですか?」
案外落ち着いた刑罰で拍子抜けしてしまう。
やはりこちら側の非も認めてのことだろうか。
「アカリは自分からこの世界に残りたいと言っていたし、異世界からの迷い人だということを考慮してこの刑を下されたというわけではないよ」
「はぁ、それは、娘が言うのもなんですが、よくあの父がそれだけで赦しましたね?」
「それだけ、とは思わないけど…どうやらしばらくしたら元の世界にも返してやるみたいだよ」
恩赦というやつだろうか。
やはり彼女はいろいろと特例らしい。
「私としては元の世界に帰るのなら、早く帰って欲しいです…」
「それは難しいかもね。いろいろ引っ括めての彼女の罰だから」
何故か含みのある言い方が気になるが、ハルト様はこれ以上深く話してくれる気はないようだった。
釈然とせず、もやもやしている私に、ハルト様は宥めるように困ったような笑みを零した。
「今回のことで、ミリアにはたくさん辛い思いをさせてしまったね」
「確かに、苦しかった時もありましたけど、それでも以前よりもハルト様のことをたくさん知ることができましたから」
「見捨てないでくれて…ありがとう」
切なげにそう言うハルト様の瞳が少し潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「愛していますから」
「…っ、それはずるいと思う」
ほっぺを赤く染めてぽつりと呟くハルト様が可愛くて愛しくて…
この世界で誰よりも強い彼が、弱さをさらけ出せるような、そんな存在になりたいと思った。
「僕だって、心の底から…ミリアのこと愛してる」
そうして彼は微かに震える手で私の頬に触れた。
ゆっくりと近づいてくる整った顔に目を瞑ると、今度こそ彼の少し熱い唇が私のそれに触れる。
初めてのキスはレモンの味がするって聞いたことがあるけど、私達は少し酸っぱいトマトスープの味だった。
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