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[起]転承乱結Λ
15話 人事異動。
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会議室に集められた軍高官は、憮然とした表情を浮かべ領主を見詰めている。
「いやぁ、聖なる剣を手に入れちゃいましてね」
入ってくるなり開口一番、トールは間抜けな笑顔を浮かべて告げた。
鞘付きの状態で、チャンバラのように振り回している。
「聖剣って事です」
誰が見ても普通の剣であった。
――やはり、アホなのだ。
それぞれの顔に苦々しい表情が浮かんでいた。
蛮族が迫る中、こんな男に従わねばならぬ不幸を呪っているのだ。
中でも、オリヴァー・ボルツ大将の不機嫌ぶりは群を抜いていただろう。
「閣下、武人にとって剣はおもちゃではありませんぞ」
カイゼル髭を揺らし苦言を呈する。
――こんなアホに、大事な邦笏を返さねばらなんとはッ!
これを手にし、なおかつ手放さぬため、どれほど苦労してトールを手名付けてきた事か。
先代エルヴィンの治世から続く、自身の面従腹背な労苦を思い起こす。
――だが、それも一時的な事よ。
――もう少しで我が事は成る。それまではせいぜい浮かれているが良い。
そんなオリヴァーの内心はともあれ――、
各管区の司令長官、憲兵司令官、基地司令官が一同に会している。
急遽、招集が掛かり、各拠点から亜光速移動で駆け付けて来たのだ。
何の気まぐれか、トール・ベルニクが大元帥に就任した事は知れ渡っている。
危機的状況にあって、今回の行動はメディアでも概ね好意的に報じられていた。
領主が国防の務めを果たす意思を示したと解したのだろう。
一方のオリヴァーの解釈はまた異なる。
――俺から邦笏を取り上げるつもりなのだ。
オリヴァーが邦笏を持つのは、あくまで総司令官代行としてである。
正式な総司令官が就任するならば、邦笏を返還するのは当然であった。
――総軍指揮権を失うのは不便よな。
――あのアホを脅すため、宣戦布告を早めにさせたのが失敗だったかもしれん。
――とはいえ、異端船団を急がせようにも、EPR通信も使えん蛮族どもでは……。
状況が、当初の予定と変わりつつある事は、オリヴァーも理解していた。
だが、ベルニク軍の主力は、未だ彼の手元にある。
トールが指揮するつもりであろう迎撃軍に、極力巻き込まれないようにすれば良いのだ。
――海賊か、地表の馬鹿共に、軽く火星で騒ぎでも起こさせるか。
幾らでも手段はあると思われた。
オリヴァーは自らの計画が、予定通り進むと結論付ける。
何より目の前で剣を振り回している男は、底抜けのアホに見えるからだ。
ならば、後世の歴史で疑念が掛からぬよう、忠義心を示しておくのも良いと思われた。
「それで閣下。邦笏の返還についてですが――」
「あ、それ?」
最後まで言わせず、トールが答えた。
「ボクはいりませんよ。持ってて下さい」
「――は!?」
「総司令官は、オリヴァー大将のままにします」
あ、アホだ。
底抜け所ではない。
宇宙の果てを突き抜けるほどのアホなのだ。
今宵の彼は、女神ラムダに感謝を捧げつつ、愛人と乱痴気騒ぎをしようと決めた。
「その代わり、ちょっとした人事異動をします」
オリヴァーを喜ばせる発表が続く事になる。
「中央管区司令長官 パトリック・ハイデマン大将」
「は」
真面目そうな老将が答える。
「火星方面管区の副司令長官をお願いします」
幹部達のざわめきが大きくなる。
管区の司令長官が、異なる管区の副司令官へ。
傍目には、懲罰的な降格人事と映る。
おまけに、パトリックは、オリヴァーを何度か糾弾した事があった。
そんな彼が、実質的にオリヴァーの部下になるのだ。
領主の不興を買ったとしか思えぬ人事であろう。
「――拝命しました」
パトリックは抗弁する事もなく静かに頭を下げた。
「し、しかし――あまりに――いや、中央管区はどうされるのです?」
黙っていられなかったであろうパトリックの副官が声を大きくした。
「そこは、ボクが司令長官やりますね」
「ふ―――」
ふざけるな、と本当は言いたかったのかもしれない。
それが許される訳もないので、直属の上司に忠実な副官は口を閉じて耐えた。
――ククク、読めたぞ。
オリヴァーは薄目を開けて、それぞれの動向を見ている。
彼としては実に面白い見世物であった。
――このアホは強襲突入艦に乗るなどと言って月面基地に行っていた。
――月面基地司令は了承したろうが、頭の堅いパトリックに邪魔をされたのだ。
――この人事はその腹いせか……。
踊りながら笑いたい衝動を抑えるために、オリヴァーは鋼の意思を行使する必要があった。
◇
――遡ること数時間前。
トールは二人の人物を、執務室に呼び出している。
ロベニカの調査によって、彼らがグノーシス異端船団やオソロセア領邦と繋がっていない事は分かっている。
中央管区司令長官 パトリック・ハイデマン大将。
憲兵司令部司令官 ガウス・イーデン少将。
「――というような事を、ガウス少将率いる憲兵隊にはお願いしたいのです」
「なるほど。でしたら打ってつけの人材が特務課におりますな」
「残された時間はほとんどありませんけど、大丈夫ですか?」
トールの問いに、ガウスはニヤリとした笑みを浮かべ答えた。
「奴が懇意にしている業者筋は我々が抑えています。性癖も分かっていますから――知らぬは本人だけでしょう」
その回答に、トールは少しばかり同情心が湧いたが、艦隊戦のため――いや、領邦のためだと思い直した。
「で、お次はパトリック大将へのお願いなんですが――」
物静かな老将に目を向ける。
この時のトールは、悪戯っ子のような表情だったと、後にロベニカは語っている。
「演技はお得意ですか?」
「いやぁ、聖なる剣を手に入れちゃいましてね」
入ってくるなり開口一番、トールは間抜けな笑顔を浮かべて告げた。
鞘付きの状態で、チャンバラのように振り回している。
「聖剣って事です」
誰が見ても普通の剣であった。
――やはり、アホなのだ。
それぞれの顔に苦々しい表情が浮かんでいた。
蛮族が迫る中、こんな男に従わねばならぬ不幸を呪っているのだ。
中でも、オリヴァー・ボルツ大将の不機嫌ぶりは群を抜いていただろう。
「閣下、武人にとって剣はおもちゃではありませんぞ」
カイゼル髭を揺らし苦言を呈する。
――こんなアホに、大事な邦笏を返さねばらなんとはッ!
これを手にし、なおかつ手放さぬため、どれほど苦労してトールを手名付けてきた事か。
先代エルヴィンの治世から続く、自身の面従腹背な労苦を思い起こす。
――だが、それも一時的な事よ。
――もう少しで我が事は成る。それまではせいぜい浮かれているが良い。
そんなオリヴァーの内心はともあれ――、
各管区の司令長官、憲兵司令官、基地司令官が一同に会している。
急遽、招集が掛かり、各拠点から亜光速移動で駆け付けて来たのだ。
何の気まぐれか、トール・ベルニクが大元帥に就任した事は知れ渡っている。
危機的状況にあって、今回の行動はメディアでも概ね好意的に報じられていた。
領主が国防の務めを果たす意思を示したと解したのだろう。
一方のオリヴァーの解釈はまた異なる。
――俺から邦笏を取り上げるつもりなのだ。
オリヴァーが邦笏を持つのは、あくまで総司令官代行としてである。
正式な総司令官が就任するならば、邦笏を返還するのは当然であった。
――総軍指揮権を失うのは不便よな。
――あのアホを脅すため、宣戦布告を早めにさせたのが失敗だったかもしれん。
――とはいえ、異端船団を急がせようにも、EPR通信も使えん蛮族どもでは……。
状況が、当初の予定と変わりつつある事は、オリヴァーも理解していた。
だが、ベルニク軍の主力は、未だ彼の手元にある。
トールが指揮するつもりであろう迎撃軍に、極力巻き込まれないようにすれば良いのだ。
――海賊か、地表の馬鹿共に、軽く火星で騒ぎでも起こさせるか。
幾らでも手段はあると思われた。
オリヴァーは自らの計画が、予定通り進むと結論付ける。
何より目の前で剣を振り回している男は、底抜けのアホに見えるからだ。
ならば、後世の歴史で疑念が掛からぬよう、忠義心を示しておくのも良いと思われた。
「それで閣下。邦笏の返還についてですが――」
「あ、それ?」
最後まで言わせず、トールが答えた。
「ボクはいりませんよ。持ってて下さい」
「――は!?」
「総司令官は、オリヴァー大将のままにします」
あ、アホだ。
底抜け所ではない。
宇宙の果てを突き抜けるほどのアホなのだ。
今宵の彼は、女神ラムダに感謝を捧げつつ、愛人と乱痴気騒ぎをしようと決めた。
「その代わり、ちょっとした人事異動をします」
オリヴァーを喜ばせる発表が続く事になる。
「中央管区司令長官 パトリック・ハイデマン大将」
「は」
真面目そうな老将が答える。
「火星方面管区の副司令長官をお願いします」
幹部達のざわめきが大きくなる。
管区の司令長官が、異なる管区の副司令官へ。
傍目には、懲罰的な降格人事と映る。
おまけに、パトリックは、オリヴァーを何度か糾弾した事があった。
そんな彼が、実質的にオリヴァーの部下になるのだ。
領主の不興を買ったとしか思えぬ人事であろう。
「――拝命しました」
パトリックは抗弁する事もなく静かに頭を下げた。
「し、しかし――あまりに――いや、中央管区はどうされるのです?」
黙っていられなかったであろうパトリックの副官が声を大きくした。
「そこは、ボクが司令長官やりますね」
「ふ―――」
ふざけるな、と本当は言いたかったのかもしれない。
それが許される訳もないので、直属の上司に忠実な副官は口を閉じて耐えた。
――ククク、読めたぞ。
オリヴァーは薄目を開けて、それぞれの動向を見ている。
彼としては実に面白い見世物であった。
――このアホは強襲突入艦に乗るなどと言って月面基地に行っていた。
――月面基地司令は了承したろうが、頭の堅いパトリックに邪魔をされたのだ。
――この人事はその腹いせか……。
踊りながら笑いたい衝動を抑えるために、オリヴァーは鋼の意思を行使する必要があった。
◇
――遡ること数時間前。
トールは二人の人物を、執務室に呼び出している。
ロベニカの調査によって、彼らがグノーシス異端船団やオソロセア領邦と繋がっていない事は分かっている。
中央管区司令長官 パトリック・ハイデマン大将。
憲兵司令部司令官 ガウス・イーデン少将。
「――というような事を、ガウス少将率いる憲兵隊にはお願いしたいのです」
「なるほど。でしたら打ってつけの人材が特務課におりますな」
「残された時間はほとんどありませんけど、大丈夫ですか?」
トールの問いに、ガウスはニヤリとした笑みを浮かべ答えた。
「奴が懇意にしている業者筋は我々が抑えています。性癖も分かっていますから――知らぬは本人だけでしょう」
その回答に、トールは少しばかり同情心が湧いたが、艦隊戦のため――いや、領邦のためだと思い直した。
「で、お次はパトリック大将へのお願いなんですが――」
物静かな老将に目を向ける。
この時のトールは、悪戯っ子のような表情だったと、後にロベニカは語っている。
「演技はお得意ですか?」
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