本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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[起]転承乱結Λ

30話 気乗りのしない会食。

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 ロベニカ・カールセンにとって、気乗りのしない会食ではあった。
 
 案内されたテーブルは、恐らくは最も眺望ちょうぼうの良い場所なのであろう。
 邦都の景観と、軌道都市上空に拡がる満点の星空が一望できる。
 
 会食相手から指示されたリストランテだった。
 ロベニカとしては、もう少しカジュアルな場所が良かったのだが――。
 
 プライベートではない事を強調するため早めに到着し、この場では浮くであろう仕事用のスーツを選んだ。
 周囲を見回すと、どの女性も自身のポテンシャルを高めるべく着飾っていた。
 
 ――蛮族が攻めてくるのに呑気なものね……。
 
 グノーシス異端船団から宣戦布告されてから最初の一週間は、領邦内で多くの混乱があった。
 
 それらの混乱も、ここ数日はすっかり収まっている。
 ごく一部が対象ではあるが避難計画が実施されている事と、何よりバスカヴィ宇宙港での一件が大きい。
 
 刻印の誓い、そして暴漢を一閃した。
 
 トール・ベルニクに対する信任が、領民の間で急上昇しているのである。
 複数の調査会社の結果で、記録的な上昇率を示していた。
 
 ロベニカとしては嬉しい反面、怖さもあった。
 
 彼らは、領邦軍の戦力を正確に把握などしていないだろう。
 為政者への盲目的信任と、敵の姿がまだ見えていない事から来る正常性バイアスではないのか?
 
 状況は決して楽観できない。
 だからこそ、私はここにいる――。
 
 ◇
 
「やっぱ、ダメかもですね」
 
 執務室は、信用できる者だけを集める会議室へと変化していた。
 ロベニカとジャンヌがソファに座り、老将パトリックがEPR通信で参加している。
 
 ロベニカとしては、状況が落ち着き次第、他の家臣達との連携を深めるよう進言するつもりでいた。
 現在のままでは、統制上問題が発生する事は明らかだろう。
 
「何がですか?」
 
 とはいえ、この気の置けない空間を、愛おしく思い始めている自分がいるのも事実だ。
 
「勝てない気がしてきました」
「は、はぁ?」
 
 今さら言われても困るのだが――。
 ロベニカは焦ったが、ジャンヌとパトリックは表情を変える様子も無かった。
 
「えっと、少しばかり艦艇数が足りてないですね」
 
 トールが自由に動かせる艦艇は、中央管区艦隊に限られる。
 
 戦艦       2
 駆逐艦     10
 戦闘艇   1000
 強襲突入艦    1
 
 主要艦艇では以上となる。
 残る艦艇のほとんどは、火星方面管区の艦隊に所属していた。
 
「正確には、戦闘艇がもう少し――いや、もっと欲しいんです」
「戦艦や駆逐艦ではなくでしょうか?」
 
 パトリックが疑問を呈した。
 
「そもそも少ないので、多少増やしたところで仕方がありません」
 
 歩兵、騎兵、砲兵による三兵戦術を機能させるには、十分な砲兵が必須である。
 砲兵役となる戦艦の絶対数が少な過ぎるのだ。
 
 他方でグノーシス異端船団の陣容は、トールが予測したよりも大規模である可能性が高まっていた。
 
 ――セバスさんのお陰だよ。
 
 トールが困惑したのは、EPRネットワーク上で流通するグノーシス関連情報の少なさである。
 
 残虐で、野蛮な異端者達であり、星間空間を流浪する船団国家。
 何ら生産行為をせず、未知のポータルを使い、帝国の領邦を海賊のように荒らしていく。
 
 得られる情報はその程度なのだ。
 
 ところが、先代エルヴィンが遺した書斎には、多数のグノーシスに関わる書物があった。
 彼らの建国の経緯から、政治システムに至るまで幅広く網羅されている。
 
 ――ボクの想像力も捨てたもんじゃないなぁ。
 
 中でもトールの目を引いたのは、「ベネディクトゥス 観戦武官の記録」である。
 
 五十年前、ベネディクトゥス星系で発生した、グノーシス異端船団国との戦いの記録であった。
 
 彼らは、一艦隊で概ね八千隻程度の編成であったらしい。
 巨大な旗艦を擁し、巧みな艦隊運用で帝国側は苦戦を強いられたとある。
 
 ――巨乳戦記でもあったけど、EPR通信が無いのに強いんだ。
 
 戦域の広い宇宙の艦隊戦において、通信速度は勝敗を左右する要素であろう。
 本来なら、超光速通信を持つ帝国側が、連携が重要となる艦隊戦では圧勝するはずなのだ。
 
 ――そうならないから不思議だったんだよね。
 
 こうしたトールの疑問は、観戦武官の残した記録によって解決した。
 ベネディクトゥス星系の戦いで、旗艦一隻の鹵獲ろかくに成功していたのだ。

 大戦果を誇るべきはずなのだが、帝国の記録には残っていない。

 ともあれ、観戦武官の記録には、鹵獲ろかくした旗艦について記されている。
 現地領邦軍の許可を得て、彼は旗艦の中へ立ち入ったのだ。

 機関室の先――巨大な空間――。 
 
 ――だ――れ――。
 
「閣下!?」
「え?」
 
 いつの間にか、無言で考え込んでしまっていたようだ。
 ロベニカが心配そうな表情で、トールを覗き込んでいる。
 
「あ、す、すみません。艦艇数の話でしたよね」
 
 トール自身、蛮族という言葉に惑わされていたのだろう。
 海賊よりは大きいだろうが、中央管区艦隊をそこまで上回らないのではないか……。
 
 ところが、実際にはベルニク軍の全艦隊を上回る数で侵攻される可能性が高い。
 
「何隻ほど必要なのでしょうか?」
「最低でも五千隻は欲しいです」
「――無理ですな」
 
 パトリックが即答した。
 
「ですよねぇ」
 
 相手の出現ポイントで待ち伏せできる優位があるとはいえ、あまりにも数が劣勢である。
 火星軌道基地にある主力軍の援軍を待つという方針に切り替えるべきか?
 
 トールとしても悩みどころであった。
 
「うーん、この際、宇宙船なら何でも良いか――」
 
 劣勢である以上、乾坤一擲けんこんいってきの一撃を加えるほかない。
 また、真実を知った今となっては、別の思惑も加わっている。

 デコイ――弾避けが必要だ。
 
「――商船とか手に入りませんかね?」
「接収されるおつもりですか?」
 
 戒厳令を敷けば法的には可能となる。
 とはいえ、ロベニカとしてはお勧めしないという気持ちを言外に込めた。
 
「いやいや、代価はお支払いしますよ」
「幾ら必要か分かってます?領邦の予算からしますと――」
「あ、はい。無理なんですよね」
 
 ――貧乏な領邦なんだもんね。
 
「詳細は後で話しますけど――まず商船の多くは全壊するかもしれません」
「は?」
「ただ、侵略者の皆さんに勝った暁には、同数程度の船をお返しできると思います」
「は?」
「それでも足りない場合は――」
 
 そう言って、トールは自身の頭を指差した。
 銀の冠を。
 
「差し上げます。そんなわけで、どなたか相談に乗ってくれそうな伝手はないでしょうか?」
「は?」
 
 ◇
 
 ――全く無茶苦茶なのよ、あの人は……。
 
 刻印の譲渡――。
 
 失う事が可能であるように、譲渡も可能なのだ。
 帝国基本法でも定められている。
 
 ただし、ピュアオビタルが破産し、債権者が請求した場合に限られる。
 請求は拒否できず、銀の冠と「アフターワールド」へ召される特権を失うのだ。
 
 貴族や諸侯に、財政的規律を求めるための制度であろう。
 
 ロベニカとしては、トールにそんな事はさせたく無かった。
 今夜の相手に、どうにか良い印象を与え、円満な取引への道筋を作る必要がある。
 
 ――やっぱり、もっとお洒落をしてくるべきだったかも……。
 ――今さらだけど、せめて胸元を……そんな馬鹿な相手じゃない……でも……。
 
 などと考え、ドレスシャツのボタンに手を掛けた時の事だ。
 
「遅くなってすまないね。ロベニカ」
「――あ――」
 
 トールが望む伝手――グレン・ルチアノが爽やかな笑みを浮かべ現れた。
 
「ぐ、グレン――さん」
「おいおい、それは酷いよ。同窓生じゃないか」
「――ゴメンなさい」
「ハハ、変わらないな。ところで、我らが姫君は元気なのかい?」
 
 給仕に飲み物をオーダーしながら言った。
 
「ええ。そうね、元気よ。最近は仕事で良く会ってるの」
「良かったよ。ジャンヌが海賊にならなくて。商売敵になるからね」
「馬鹿な事言わないで」
 
 答えながら、自然な笑みを浮かべている事に気付く。
 未だに意識しているのは自分だけなのかもしれない、と感じた。
 
 ――昔の話だものね。
 
 グレン・ルチアノ。
 
 ルチアノグループ総帥の子息で、現在はグループ企業である商船会社の役員である。
 保有する艦艇は、大小合わせて二万隻近くになる事は調査済みだ。
 
 無理が通りそうな伝手といえば、ここしか無かった。
 昔話をしているうちに、給仕がグラスを運んでくる。
 
 ロベニカの一か月分の給金に匹敵するであろうワインを注いだ。
 
 ――や、やばい……。
 ――これって経費申請通るのかしら。
 
 状況的に、何より自身の気持ちとして、相手に支払わせるわけにはいかなかった。
 そんな彼女の思いを察してか、グレンは片目を閉じて見せる。
 
「乾杯しよう。姫君が軍にいる事と――君の大事な――グレイオビタルに」
 
 言葉尻に僅かばかりの棘を感じた。
 
 ――相変わらず、ピュアオビタル嫌いなのね。
 
 気合の入ったドレスで来るべきだったと悔やみ、軽く息を吐いた。
 グレンには、学生時代からピュアオビタルへの歪んだ思いがある。
 
 ――でも、成功させないと駄目――絶対に――。
 
 彼女の主人、新生トール・ベルニクは、銀の冠を賭けたのだから。
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