本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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[起]転承乱結Λ

39話 胡蝶の夢か。

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 ハチの巣に入り、銃口のように差し込まれた穴から射出されると、激しいアラート音に出迎えられた。
 
 ――左舷下腹部破損、移乗攻撃確認。繰り返す。左舷――。
 
 トールは五月蠅いなと思いながら周囲を見回した。
 
 装甲と外壁を穿うがったのみだが、当然ながらその衝撃は凄まじく、揚陸地点の内装は破壊されている。
 残った形跡から判断すると居住エリアだったのだろう。
 
 何名かの死体もあったが、リカバリージェルにより真空状態は回避されているため窒息死ではない。
 先行して揚陸した第一小隊から第三小隊により斬り殺されたのだ。

 百名の揚陸部隊は、二十名ずつの小隊で編成されている。
 第一から第三が前衛、第四が工作、そしてジャンヌ率いる第五小隊が続く。
 
 揚陸地点の破壊された居住区の先は通路になっている。
 噴煙で視界は悪いが、すでに戦闘が始まっている事は分かった。
 
 激しい剣戟けんげきの音が響いてくる。
 
「二次解析まで完了。出しますか?」
 
 第四小隊からの報告を受けて、ジャンヌは黙って頷いた。
 空間照射モニタに、3Dマップがワイヤーフレームのみで描かれていく。
 
 常に更新されているのは、最新の解析結果がリアルタイムに反映されるためだろう。
 
 ――凄いな。これで屋敷を調べられたら終わりだよね。
 
 地下に残したグノーシスのしるしを思い出す。
 セバスに消すよう頼んではあるが、うまく差配してくれているだろうか。
 
「閣下」
「はい」
 
 いらぬ事を考えている場合では無かったと背筋を伸ばして返事をした。
 とはいえ、元来の姿勢が良いので、外身そとみにはさほどの変化は見られない。
 
「機関室とブリッジの位置は、ほぼ特定できました」
「おぉ、凄い」
「――100%ではありませんが――三次解析まで待つ余裕は無さそうです」
 
 旗艦に乗り込んだとはいえ、外では未だ艦隊戦が続いている。
 敵が射線を存分に活かせる状況になれば、殲滅されるのはベルニク軍なのだ。
 
「撤退可能性を残すならば、この地点は死守する必要があります」
「いや――」
 
 この瞬間、恐らくトール・ベルニクに初めて迷いが生じた。
 
 撤退余地など無いのは明らかだ。
 敵陣地のど真ん中に単艦乗り込み、無事に戻れるはずもない。
 
 仮に戻れたとしても、陣形を整え終えた敵に、残艦もろとも殲滅されるだろう。
 ならば、生き残るには、旗艦の揚陸部隊が勝ちきるほか無い。
 
 簡単な答えなのだが、それは同時に勝利か死を強制する事になるのだ。
 
 それが重い。
 
 ――だけど――夢――だよね?
 
 ここまで、夢だと思い込んで進んで来た。
 良い意味で脱力しており、即断即決が好結果を生んできたのかもしれない。
 
 だが、あまりにリアルで長い。
 目覚めようとしても目覚めない。
 
 彼を信じ指示を仰ぐジャンヌ、そしてケヴィン、他の揚陸隊員たち。
 連れて来た艦隊にも多数の人間が乗っているのだ。
 
 地球軌道に戻れば顔見知り――いやそれ以上の人々がいる。
 ロベニカ、マリ、セバス、テルミナ、ガウス、パトリック、ソフィア、グレン――。
 
 全員が本当に存在していたら?
 実は、秋川トオルの方が、夢だったのだろうか。

 秋川トオルは、ごく普通の会社員だった。

 温厚な性格で、至って真面目な男であり、常識も分別もある。
 インドア派とはいえ、幼少期から続けている剣道は今でも道場に通っていた。

 そんな彼には好きなモノ――いや異常に愛する――

 ――夢――あれは――なのか――。
 
 この土壇場で、決して迷ってはならぬ時に彼は迷ってしまった。
 
 その刹那――、
 
隔壁かくへきッ!!」
 
 ケヴィンが声を張った。
 構造解析では通路など無かった壁面がせり上がりつつある。
 
 そこから三小隊規模と思われる敵が、反身の剣を構え向かって来たのだ。
 
「第三小隊戻れッ!」
 
 叫ぶようにジャンヌが指示を送るが、前方通路で交戦状態にあり動けない。
 
「うおおおおおおお」
 
 ジャンヌの指示下にないゲストであるケヴィンは、叫びながらツヴァイヘンダーを突撃体勢で構え走った。
 前方通路で戦う味方が挟撃される可能性と、恐らくはトールを守るためでもあったのだろう。
 
 敵を引きつけたいのだ。
 
「――第四小隊、解析中断。第四、第五は私に続けッ!」
「了」
 
 ジャンヌもそれに続き決断を下す。
 数は劣勢ながら、守勢に回るべきタイミングでは無いと判断したのだ。
 
「閣下、ご高覧あれッ!」
 
 そうひと声残し、敵に向かっていく。
 トールには止める権利も、そして理由も無かった。
 
 彼は怒りの感情を好まないし表出させる事はより嫌う。
 内心に湧いた怒りは、妄想、読書、さらには竹刀を振る事で発散してきた。
 
 だが、今は怒りを感じている。
 他者にでは無く、迷った己に対して怒っていたのだ。
 
 揚陸地点など捨て置き、速やかに前方通路の戦いを終わらせておけば、各個撃破出来ていた可能性がある。
 
 ――これは夢か?
 
 だが、撤退余地が無いことを告げるのを躊躇った。
 
 ――あるいは現実なのか?
 
 勝利か死か――これ以外の選択肢など無いと告げるのを躊躇った。
 
 ――夢――現実――――いや――。
 
 迷いを払おうとするかのようにトールは首を振る。

 ――もう、いい。

 胡蝶こちょうか否かの無駄な問答に終止符を打った。

 全てが夢であれ、全てが現実であれ、あるいは蝶の微睡まどろみが生んだ幽世かくりよであれ、人の身で答えが出せる問いでは無い。
 
 トールはマリから受け取った剣を抜く。
 
 ――ボクには――この聖剣がある。
 
 本人の意思に従い、以後は聖剣と記す。
 聖剣などでは無いと後日判明するのだが、彼は生涯に渡って聖剣と信じ、そして共にあった。
  
 ともかく今は――、
 
「迷うな」
 
 自身を励ますかのように小さく呟き、彼は走る。
 
 ◇
 
 剣道――と彼が呼ぶ剣術が、実戦向きでは無いと言う者もいたそうだ。
 真剣では無いのだから確かにそうなのかもしれない。
 
 だが、戦場――しかも超近接戦闘において重要なのは、恐怖心の克己こっきであろう。
 
 その点においてトールに分があった。
 夢とうつつ狭間はざまで生きているからである。

 死ねば目が覚めるとの思いが、頭の片隅にあったのかもしれない。
 
「か、閣下は、後ろへッ!!」
 
 後方待機という約束を違え、前に出て来たトールをジャンヌが諫める。
 
「ジャンヌ!横ッ」
「――シッ」
 
 ツヴァイヘンダーを横に薙ぎ払うと、迫っていた敵兵が吹き飛ばされた。
 
 パワードスーツの外殻はナノ合金で、伸縮性と剛性を兼ね備えている。
 無論、刀剣側とて比する剛性があり、さらに対数フィードバック機能が剣圧を強化していた。
 
 斬り、突かれ、叩きつけられれば、装甲は損耗していき、やがては脆い肉体に辿り着く。
 
 とはいえ、剣道で培われたスピードと、パワードスーツの相性は良かった。
 最初こそ攻めを受けるのに精一杯であったが、徐々に相手の隙が見えてきたのだ。
 
 隙が見えると突きたくなる。
 相手の動きが読めると先取りをしたくなる。
 
 傍目にもトールの動きが、加速度的に良くなっていくのが分かった。
 
 ――血は怖いけど――意外にやれちゃうのかも。
 
 トールの戦いぶりにたぎったのは、味方の揚陸部隊であった。
 
 ジャンヌ以外の揚陸部隊は、心意気を認めていたものの、戦力になるとは考えていなかったのだ。
 領主の意外な戦士ぶりを見せられて、否が応にも士気が上がって行く。
 
「ベルニクッ!」「ベルニクッ!」「ベルニクッ!」

 ジャンヌはさらにたぎった。
 性的愉悦など遥かに上回る脳内麻薬に、全身が焼かれるほどの感覚を味わう。

「捧げよッ!」

 叫び、ツヴァイヘンダーを振りかざす。

「血、肉、骨あああぁッ!!」

 向かって来た敵へと大上段から振り落とし、頭部装甲ごと頭骨を砕いた。
 
 いかなる時代であれ戦士は熱狂を欲する。
 それが、勝利を生み出す事を知っているからだ。
 
 狂気に近いそれは、瞬く間に周囲へと伝染し数的劣勢を覆していく。
 中でもケヴィンの戦いぶりは、獅子奮迅とでも表現すべきさまであったかもしれない。
 
 彼もまた、トールとは異なる意味で、他とは違う死生観に至っていたのであろう。
 
 こうして敵は押し込まれ、瓦解し敗走を始めた。
 通路の奥へと戻って行く。
 
 防衛ラインを下げて体勢を立て直すつもりなのだ。
 
「――追うなッ」
 
 ジャンヌが、ツヴァイヘンダーから血糊を滴らせ告げる。
 噴煙の薄れた正面通路に目を向けると、こちらも制圧間近のようであった。
 
「ふぅ」
 
 トールも息を吐き、改めて周囲を見回した。
 
 敵味方共に被害は出ている。
 
 刃先の折れたツヴァイヘンダーを捨てたケヴィンが、負傷兵をハチの巣へ運んでいた。
 ホワイトローズに戻すのだろう。
 
 トールは床に落ちていた敵の得物を拾い上げる。
 戦闘中から気にはなっていたのだ。
 
 ――反身か。
 
 直刀に比べメリットもあれば、当然デメリットもある。
 
 ――やっぱり、これって……。
 
「閣下、お見事です」
 
 負傷兵の退避を終えたケヴィンが近付いて来た。
 
「あ、いえいえ」
 
 答えながら反身の剣を床に戻し、解析結果で得られたワイヤーフレームマップを再び確認する。
 都合が良いのか悪いのか、敵の撤退した通路の先が機関室方面であった。
 
 ――それに、アレもちゃんとあるな。
 
 機関室の奥に巨大な空間が描かれている。

「ケヴィン准将、ジャンヌ少佐」

 改めて意思を告げておく必要性を感じていた。

「もはや、撤退は出来ません」
「承知しましたわ」
「でしょうな」

 二人が頷く。

「揚陸地点の死守は不要です」
 
 そう言ってトールは、隔壁の先を指差した。

「機関室を制圧します」
「勝利か死か――」

 ジャンヌは、またも全身の疼きを感じているため、不埒ふらちな声音にならぬよう細心の注意を要した。

「――ご下命かめいとあらば謹んで」

 狂笑きょうしょうに近い彼女のかおを見て、ケヴィンは咳払いをしつつ半歩離れた。
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