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起[転]承乱結Λ
38話 100(ワンハンドレッド)。
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「乗艦、確認されず」
ブリッジで報告を受けたトールは微かに息を吐いた。
既に、叛乱軍艦隊は白旗信号を発信し、重力場シールドを解除している。
戦果報告によれば、艦種問わずで轟沈、大破五百隻以上――と、完全に敵は継戦能力を失っていた。
白旗信号自体は早い段階で発せられていたが、戦時領邦協定を知らずか、あるいは手違いにより、降伏時に定められた重力場シールドの解除を実施しなかったのだ。
結果として、トールが想定したより大きな被害を与えている。
――今回も、たくさん鹵獲しよう――なんて虫が良すぎたのかな?
ともあれ、ウルリヒ・ベルツが、フェリクスポータル方面艦隊に居ない事は確認された。
「後は、ソテルか――」
ケヴィンが座るはずのシートに陣取るロスチスラフが呟いた。
このまま、ブリッジに居座るつもりなのかもしれない。
なお、ディアミド・マクギガンより、野人伯爵らしい打電を受けている。
――我、腐肉を炭にする。
九条発令の報せも届いており、トールは、エヴァンがマクギガン領邦の動きを追認した事実を知った。
ガバナンスの喪失を、既成事実化しない為であろうとも理解している。
とはいえ、ソテルポータル方面の叛乱軍艦隊に、現在の思い人であるウルリヒ・ベルツが乗り合わせていなければ何の問題も無い。
――始まってしまったのなら、ソテルは捨て置くしかないなぁ。
目の前に、ウルリヒが存する可能性が最も高い総督府があるのだ。
こちらの攻略を、まずは優先するのが必然であろう。
そのような事情で、現時点におけるトールの懸念はひとつを残すのみである。
――ゲート開放が先か――それとも――。
トールの懸念を反映したわけでもあるまいが、二人のオペレーターが対照的な声音で同時に報告を上げた。
「閣下、ゲート開放が始まりましたッ!」
「ランドポータル方面、質量多数の存在確率上昇を検知」
ひとつは、朗報である。
ジャンヌ・バルバストルが、管制センターを制圧したのだ。
後は、壁面砲の脅威はあれど、宇宙港に強制着艦し、さらなる白兵部隊を派出したうえで総督府を陥とすのみであった。
翻って、急報である。
ランドポータル方面に射出しておいた量子観測機の報告は、トールの懸念が想定より早く顕在化した事を示す。
カドガン領邦が動いたのであろう。
「来ましたか――」
内心はどうあれ、表面上のトールは落ち着いている。
――叛乱軍が、危なくなれば必ず直ぐに動くのか……。
もう少し後で、と期待する気持ちがあったのは事実である。
ベルニク領邦軍の艦隊のみで、カドガン領邦軍に抗する事は不可能、とトールは考えていた。
ゆえに、備えは有る。
些かの薄氷を踏む事にはなるのだが――。
「ロスチスラフ侯――」
「安ぜよ――違えぬ」
後の記録が示す通り、ロスチスラフ・オソロセアという男は――奸なれど、その性は浮薄に対し極北に在る。
「分かっています」
当然だとばかりにトールは頷き、言葉を続けた。
言質を欲していた訳では無かったのである。
「ええと、ただ、ボクの方は――」
ロスチスラフの記憶によれば、この時のトールは、心底から申し訳なさそうな表情を浮かべていたらしい。
「――食事会の約束は守れないかもしれませんね」
死を覚悟してのものであったのか。
あるいは、本心を語ったに過ぎないのか――。
何れか判じ兼ねたロスチスラフは、咳払いに止めた。
◇
工作部隊でもある第四小隊の尽力により、ゲート開放シーケンスが開始されていた。多層式エアフィルターの活性化に時を要するとはいえ、数刻も過ぎれば実際に開放が始まる。
管制センターの敵は既に殲滅しており、管制塔内に残る叛乱軍の掃討も終えていた。逃亡する敵兵が多く、ホワイトローズ揚陸部隊は、多少の物足りなさを感じていたかもしれない。
民間人は既に逃げているが、管制塔一階にある出入口の閉鎖はしていない。
民生用の閉鎖機器であり、ナノ合金製の武装に対し意味を為さないからだ。
ともあれ、トール達が宇宙港に着艦するまで、管制センターに叛乱軍を立ち入らせぬ事が任務となる。
ジャンヌ・バルバストルは、管制センターに在った。
超硬ガラスを破砕したため、吹き曝しとなったフロアでは風が舞っている。
だが、頭部装甲により、髪をなびかせる事は無かった。
各隊の報告を受けながら、ジャンヌは外の景色にふと違和感を感じる。
北北東に、多数の黒点が見え――、見る間に大きくなっていく。
「輸送機――十機」
積み荷が兵士なら、百名ほどのペイロードは有りそうに見えた。
「およそ、千か」
ジャンヌの与り知らぬ事であるが、ウルリヒの指示は四百名の派出であった。
危惧したイヴァンナは、勝手に千名の兵を出したのである。
「一階入口を固めますか?」
第五小隊隊長が、ジャンヌに尋ねた。
損耗なく手元に百名の部隊は残っているが、十倍の兵力差は大きすぎる。
敵地降下部隊の宿命とも言えるが、撤退は許されず、撤退する場所も無かった。
――どうする。
さすがのジャンヌ・バルバストルも迷った。
兵力差が大きすぎて、こちらの兵を分散させる事は出来ない。
百の兵が固まり動く必要がある。
第五小隊隊長の想定通り、一階で守るか?
否――比較的低層な二階から侵入されれば挟撃の憂き目に遇う。
尚且つ高地を取られるのだ。
ならば、最も高地であるこのフロアに籠るか?
否――敵方が昇降機を手配すれば、文字通り包囲される。
四方は破砕した窓のため、狭隘な地勢とする事も不可能だ。
外を見れば、着陸した輸送機から、続々と兵士が降りてくる。
武器は長槍のようだが、極一部の兵士のみ珍しい形状の得物を持つ。
――あれは……。
暫し黙考するジャンヌの元に、第四小隊隊長が傍に寄る。
「少佐、ゲート開放が始まりました」
その報で、ジャンヌ・バルバストルは決断した。
「第一から第三は、丸盾に換装せよ」
ツヴァイヘンダーを背に差す音が響く。
「第四は、フロア内の全センサを無効化した後――」
もはや、管制センターなど不要である。
「――燃やせ。万年続く、太古の灯台とせよ」
彼女なりのジョークだろう。
◇
九百名の叛乱軍兵士が五列横隊で並び、管制塔を見上げていた。
「おいおい、燃えてるぞ!!」
輸送機を降り、管制塔前まで来た彼らを出迎えたのは、最上階から吹き上げる噴煙と炎である。
「ベルニクがやったのか?」
「――噂だけどよ――蛮族より野蛮らしいぜ」
「管制センターが燃えたなら、俺たち帰ってもいいよなぁ」
そんな囁きが、あちらこちらで交わされている。
元より低い士気であったが、敵の狂気を見せつけられ足がすくんでいた。
「貴様らあああああッ!!!」
彼らの後方に、熊のような大男がひとり立っている。
右手に長柄としたモルゲンステルンを握っていた。
いわゆる、棘の付いたメイスである。
大男は、その凶暴な顔貌を見せる為か、頭部装甲を外し吠えていた。
容姿、腕力、そして残虐性のみで、今回の指揮官に抜擢されたのである。
「管制塔に押し入れば勝てる。相手は百人だッ!!」
人数差で比すれば勝利は疑いようがない。
「引くな、進め。いいか、引くなよ。引けば――」
大男の後ろには、同じく長柄のモルゲンステルンを握る百名ほどの兵士が居た。
士気が皆無の兵を戦わせる方法は、古来よりひとつしか無い。
「――頭蓋を砕く」
督戦隊である。
「ほれ、阿呆のベルニクはシャッターも下ろさず、ロビーで突っ立っておるわ」
管制塔のエントランスは、ガラス張りのため中が見通せる。
数十人の兵士が、微動だにせず立っていた。
「行けッ!突撃ぃぃぃぃ」
と、叫ぶが動かぬ弱兵に、大男は業を煮やした。
モルゲンステルンを振り上げ、適当に選んだ後列の兵士の頭頂部を打つ。
頭部装甲があるとはいえ、恐怖と驚きで悲鳴を上げた。
構わず大男は何度も打ち付け、脳漿と共に兵をひとり減らす。
この凶行は功を奏したらしい。
残った兵士達は長槍を構え、奇声を上げながらエントランスに殺到した。
逃げているのか、攻めているのか、もはや本人達にも分からない。
半数ほどが、ロビーに侵入したところで、大男の視界に上空から奇妙な光が入る。
大男は慌てて背を見せると、意外な俊敏さで督戦隊の後方に駆けた。
危地に対する悪運の強さが有るのかもしれない。
直後、白い悪魔――ジャンヌ・バルバストルが、刃先と共に落ちて来たのだ。
立っていれば、既に事切れていただろう。
次いで、追うように落ちて来た兵が、彼女を囲むようにして立った。
「べ、ベルニクだッ!上から――おい、全軍戻れ、戻せ、殺せ、殺せえええいッ!!」
大男の叫びに反応し、残っていた兵の長槍が殺到する。
ロビーに在るのが、仲間の死体であると知った兵達も戻って来た。
「甲羅ッ」
ジャンヌの大喝で、第一から第三小隊は丸盾で周囲を覆う。
見た目には、亀の甲羅の如くとなった。
弾かれた数多の穂先が、耳障りな金属音を鳴らす。
百の兵は、敵兵の集落に在るが、一団の城を作ったのだ。
「下衆熊を斬る」
下衆熊とは、先ほどの大男であろう。
得物の割合を見た時から、下衆――督戦隊かと目していたのである。
奴隷に等しい敵ならば、下衆の頸を取れば良い。
「垣を抜けよッ!!」
横殴りの雨のように打たれる長槍を弾き、ジャンヌ達の城は進んだ。
「殺せ、殺せ、殺せ」
視界は悪いが、下衆熊は、大音声で下らぬ指示を出している。
本人としては必死なのであろうが、ジャンヌ達にとれば道標となった。
長槍の群れを抜け、いつしか重みのある打撃音が響き始める。
危険を悟った督戦隊が、ようやく味方ではなく敵に――ベルニクの甲羅にモルゲンステルンを振るい始めたのだ。
つまり、近い――。
「散ッ!!」
亀の甲羅が一斉に解かれ、内に隠れていた第四、第五小隊が、全方位にツヴァイヘンダーを突き出した。
第一から第三は、丸盾で周囲の敵を殴打した後、己の剣を背から抜く。
「血祭れッ!捧げよ、ベルニクに」
ジャンヌの叫びに呼応し、剣戟が拡がった。
ベルニク軍は、十倍に近い敵に包囲されている。
その外周に督戦隊が立ち、誰彼構わず長柄の凶器を振り下ろしていた。
怒号、悲鳴、剣風、打突、血煙、臓腑、脳漿――あらゆる不幸な音色が響く中、ジャンヌには一本の細い道が見えている。
その道を――愛剣と狂気を頼りに、ひた進む。
「き、来たぞ、おい、前へ立たんかッ!!」
下衆熊は、包囲を抜けつつある白い悪魔に気付き、辺りの督戦隊を自身に寄せた。
督戦隊は、モルゲンステルンの長柄を活かし、交差させて壁を作る。
「打ち殺せッ!こら、屑共、奴隷共、こっちだッッ!!!」
長槍を持った兵達が、ジャンヌの後背に殺到した。
意に介さず、それら全てを引き連れ、包囲を抜けた彼女が跳ねる。
「はが!?」
跳躍したジャンヌのツヴァイヘンダーが、モルゲンステルンの壁を突き抜け、彼女を下衆熊の足元へと誘った。
壁に削がれ、そのまま貫くに至らなかったのであるが、それで下衆熊の悪運も尽きる。
ジャンヌが、頭部装甲の無い顔面に一閃すると、鼻先から上が宙に舞った。
だが――、
彼女が抜け、未だ後背に在る敵は、あまりに多い。
下衆熊の死は奴隷にとって撤退の機であるが、場には勢いというものがある。
数多の槌頭と穂先が、ジャンヌ・バルバストルの背に襲い掛かった。
ブリッジで報告を受けたトールは微かに息を吐いた。
既に、叛乱軍艦隊は白旗信号を発信し、重力場シールドを解除している。
戦果報告によれば、艦種問わずで轟沈、大破五百隻以上――と、完全に敵は継戦能力を失っていた。
白旗信号自体は早い段階で発せられていたが、戦時領邦協定を知らずか、あるいは手違いにより、降伏時に定められた重力場シールドの解除を実施しなかったのだ。
結果として、トールが想定したより大きな被害を与えている。
――今回も、たくさん鹵獲しよう――なんて虫が良すぎたのかな?
ともあれ、ウルリヒ・ベルツが、フェリクスポータル方面艦隊に居ない事は確認された。
「後は、ソテルか――」
ケヴィンが座るはずのシートに陣取るロスチスラフが呟いた。
このまま、ブリッジに居座るつもりなのかもしれない。
なお、ディアミド・マクギガンより、野人伯爵らしい打電を受けている。
――我、腐肉を炭にする。
九条発令の報せも届いており、トールは、エヴァンがマクギガン領邦の動きを追認した事実を知った。
ガバナンスの喪失を、既成事実化しない為であろうとも理解している。
とはいえ、ソテルポータル方面の叛乱軍艦隊に、現在の思い人であるウルリヒ・ベルツが乗り合わせていなければ何の問題も無い。
――始まってしまったのなら、ソテルは捨て置くしかないなぁ。
目の前に、ウルリヒが存する可能性が最も高い総督府があるのだ。
こちらの攻略を、まずは優先するのが必然であろう。
そのような事情で、現時点におけるトールの懸念はひとつを残すのみである。
――ゲート開放が先か――それとも――。
トールの懸念を反映したわけでもあるまいが、二人のオペレーターが対照的な声音で同時に報告を上げた。
「閣下、ゲート開放が始まりましたッ!」
「ランドポータル方面、質量多数の存在確率上昇を検知」
ひとつは、朗報である。
ジャンヌ・バルバストルが、管制センターを制圧したのだ。
後は、壁面砲の脅威はあれど、宇宙港に強制着艦し、さらなる白兵部隊を派出したうえで総督府を陥とすのみであった。
翻って、急報である。
ランドポータル方面に射出しておいた量子観測機の報告は、トールの懸念が想定より早く顕在化した事を示す。
カドガン領邦が動いたのであろう。
「来ましたか――」
内心はどうあれ、表面上のトールは落ち着いている。
――叛乱軍が、危なくなれば必ず直ぐに動くのか……。
もう少し後で、と期待する気持ちがあったのは事実である。
ベルニク領邦軍の艦隊のみで、カドガン領邦軍に抗する事は不可能、とトールは考えていた。
ゆえに、備えは有る。
些かの薄氷を踏む事にはなるのだが――。
「ロスチスラフ侯――」
「安ぜよ――違えぬ」
後の記録が示す通り、ロスチスラフ・オソロセアという男は――奸なれど、その性は浮薄に対し極北に在る。
「分かっています」
当然だとばかりにトールは頷き、言葉を続けた。
言質を欲していた訳では無かったのである。
「ええと、ただ、ボクの方は――」
ロスチスラフの記憶によれば、この時のトールは、心底から申し訳なさそうな表情を浮かべていたらしい。
「――食事会の約束は守れないかもしれませんね」
死を覚悟してのものであったのか。
あるいは、本心を語ったに過ぎないのか――。
何れか判じ兼ねたロスチスラフは、咳払いに止めた。
◇
工作部隊でもある第四小隊の尽力により、ゲート開放シーケンスが開始されていた。多層式エアフィルターの活性化に時を要するとはいえ、数刻も過ぎれば実際に開放が始まる。
管制センターの敵は既に殲滅しており、管制塔内に残る叛乱軍の掃討も終えていた。逃亡する敵兵が多く、ホワイトローズ揚陸部隊は、多少の物足りなさを感じていたかもしれない。
民間人は既に逃げているが、管制塔一階にある出入口の閉鎖はしていない。
民生用の閉鎖機器であり、ナノ合金製の武装に対し意味を為さないからだ。
ともあれ、トール達が宇宙港に着艦するまで、管制センターに叛乱軍を立ち入らせぬ事が任務となる。
ジャンヌ・バルバストルは、管制センターに在った。
超硬ガラスを破砕したため、吹き曝しとなったフロアでは風が舞っている。
だが、頭部装甲により、髪をなびかせる事は無かった。
各隊の報告を受けながら、ジャンヌは外の景色にふと違和感を感じる。
北北東に、多数の黒点が見え――、見る間に大きくなっていく。
「輸送機――十機」
積み荷が兵士なら、百名ほどのペイロードは有りそうに見えた。
「およそ、千か」
ジャンヌの与り知らぬ事であるが、ウルリヒの指示は四百名の派出であった。
危惧したイヴァンナは、勝手に千名の兵を出したのである。
「一階入口を固めますか?」
第五小隊隊長が、ジャンヌに尋ねた。
損耗なく手元に百名の部隊は残っているが、十倍の兵力差は大きすぎる。
敵地降下部隊の宿命とも言えるが、撤退は許されず、撤退する場所も無かった。
――どうする。
さすがのジャンヌ・バルバストルも迷った。
兵力差が大きすぎて、こちらの兵を分散させる事は出来ない。
百の兵が固まり動く必要がある。
第五小隊隊長の想定通り、一階で守るか?
否――比較的低層な二階から侵入されれば挟撃の憂き目に遇う。
尚且つ高地を取られるのだ。
ならば、最も高地であるこのフロアに籠るか?
否――敵方が昇降機を手配すれば、文字通り包囲される。
四方は破砕した窓のため、狭隘な地勢とする事も不可能だ。
外を見れば、着陸した輸送機から、続々と兵士が降りてくる。
武器は長槍のようだが、極一部の兵士のみ珍しい形状の得物を持つ。
――あれは……。
暫し黙考するジャンヌの元に、第四小隊隊長が傍に寄る。
「少佐、ゲート開放が始まりました」
その報で、ジャンヌ・バルバストルは決断した。
「第一から第三は、丸盾に換装せよ」
ツヴァイヘンダーを背に差す音が響く。
「第四は、フロア内の全センサを無効化した後――」
もはや、管制センターなど不要である。
「――燃やせ。万年続く、太古の灯台とせよ」
彼女なりのジョークだろう。
◇
九百名の叛乱軍兵士が五列横隊で並び、管制塔を見上げていた。
「おいおい、燃えてるぞ!!」
輸送機を降り、管制塔前まで来た彼らを出迎えたのは、最上階から吹き上げる噴煙と炎である。
「ベルニクがやったのか?」
「――噂だけどよ――蛮族より野蛮らしいぜ」
「管制センターが燃えたなら、俺たち帰ってもいいよなぁ」
そんな囁きが、あちらこちらで交わされている。
元より低い士気であったが、敵の狂気を見せつけられ足がすくんでいた。
「貴様らあああああッ!!!」
彼らの後方に、熊のような大男がひとり立っている。
右手に長柄としたモルゲンステルンを握っていた。
いわゆる、棘の付いたメイスである。
大男は、その凶暴な顔貌を見せる為か、頭部装甲を外し吠えていた。
容姿、腕力、そして残虐性のみで、今回の指揮官に抜擢されたのである。
「管制塔に押し入れば勝てる。相手は百人だッ!!」
人数差で比すれば勝利は疑いようがない。
「引くな、進め。いいか、引くなよ。引けば――」
大男の後ろには、同じく長柄のモルゲンステルンを握る百名ほどの兵士が居た。
士気が皆無の兵を戦わせる方法は、古来よりひとつしか無い。
「――頭蓋を砕く」
督戦隊である。
「ほれ、阿呆のベルニクはシャッターも下ろさず、ロビーで突っ立っておるわ」
管制塔のエントランスは、ガラス張りのため中が見通せる。
数十人の兵士が、微動だにせず立っていた。
「行けッ!突撃ぃぃぃぃ」
と、叫ぶが動かぬ弱兵に、大男は業を煮やした。
モルゲンステルンを振り上げ、適当に選んだ後列の兵士の頭頂部を打つ。
頭部装甲があるとはいえ、恐怖と驚きで悲鳴を上げた。
構わず大男は何度も打ち付け、脳漿と共に兵をひとり減らす。
この凶行は功を奏したらしい。
残った兵士達は長槍を構え、奇声を上げながらエントランスに殺到した。
逃げているのか、攻めているのか、もはや本人達にも分からない。
半数ほどが、ロビーに侵入したところで、大男の視界に上空から奇妙な光が入る。
大男は慌てて背を見せると、意外な俊敏さで督戦隊の後方に駆けた。
危地に対する悪運の強さが有るのかもしれない。
直後、白い悪魔――ジャンヌ・バルバストルが、刃先と共に落ちて来たのだ。
立っていれば、既に事切れていただろう。
次いで、追うように落ちて来た兵が、彼女を囲むようにして立った。
「べ、ベルニクだッ!上から――おい、全軍戻れ、戻せ、殺せ、殺せえええいッ!!」
大男の叫びに反応し、残っていた兵の長槍が殺到する。
ロビーに在るのが、仲間の死体であると知った兵達も戻って来た。
「甲羅ッ」
ジャンヌの大喝で、第一から第三小隊は丸盾で周囲を覆う。
見た目には、亀の甲羅の如くとなった。
弾かれた数多の穂先が、耳障りな金属音を鳴らす。
百の兵は、敵兵の集落に在るが、一団の城を作ったのだ。
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得物の割合を見た時から、下衆――督戦隊かと目していたのである。
奴隷に等しい敵ならば、下衆の頸を取れば良い。
「垣を抜けよッ!!」
横殴りの雨のように打たれる長槍を弾き、ジャンヌ達の城は進んだ。
「殺せ、殺せ、殺せ」
視界は悪いが、下衆熊は、大音声で下らぬ指示を出している。
本人としては必死なのであろうが、ジャンヌ達にとれば道標となった。
長槍の群れを抜け、いつしか重みのある打撃音が響き始める。
危険を悟った督戦隊が、ようやく味方ではなく敵に――ベルニクの甲羅にモルゲンステルンを振るい始めたのだ。
つまり、近い――。
「散ッ!!」
亀の甲羅が一斉に解かれ、内に隠れていた第四、第五小隊が、全方位にツヴァイヘンダーを突き出した。
第一から第三は、丸盾で周囲の敵を殴打した後、己の剣を背から抜く。
「血祭れッ!捧げよ、ベルニクに」
ジャンヌの叫びに呼応し、剣戟が拡がった。
ベルニク軍は、十倍に近い敵に包囲されている。
その外周に督戦隊が立ち、誰彼構わず長柄の凶器を振り下ろしていた。
怒号、悲鳴、剣風、打突、血煙、臓腑、脳漿――あらゆる不幸な音色が響く中、ジャンヌには一本の細い道が見えている。
その道を――愛剣と狂気を頼りに、ひた進む。
「き、来たぞ、おい、前へ立たんかッ!!」
下衆熊は、包囲を抜けつつある白い悪魔に気付き、辺りの督戦隊を自身に寄せた。
督戦隊は、モルゲンステルンの長柄を活かし、交差させて壁を作る。
「打ち殺せッ!こら、屑共、奴隷共、こっちだッッ!!!」
長槍を持った兵達が、ジャンヌの後背に殺到した。
意に介さず、それら全てを引き連れ、包囲を抜けた彼女が跳ねる。
「はが!?」
跳躍したジャンヌのツヴァイヘンダーが、モルゲンステルンの壁を突き抜け、彼女を下衆熊の足元へと誘った。
壁に削がれ、そのまま貫くに至らなかったのであるが、それで下衆熊の悪運も尽きる。
ジャンヌが、頭部装甲の無い顔面に一閃すると、鼻先から上が宙に舞った。
だが――、
彼女が抜け、未だ後背に在る敵は、あまりに多い。
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年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
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