本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起[転]承乱結Λ

43話 袂を分かつ。

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 ベネディクトゥスの叛乱軍を誅し、首魁しゅかいウルリヒ・ベルツを捕らえた。

 この報は、ベルニク軍が帝都を発った三日後、ベルニク領邦政府より公式発表されている。
 同星系にベルニク現る――という前日の報道以上の衝撃を人々に与えた。

 公式発表の翌日、トール・ベルニクは、オソロセア領邦のロスチスラフと共に会見を行っている。

 協力して叛乱軍を討ったと宣した後、カドガン領邦の無法について糾弾した。
 無論、九条発令を待たなかった点については謝している。

 メディアからの質問にも答えた。

首魁しゅかい――ウルリヒの身柄は、どうされるのでしょうか?」
「背後関係が気になりますので、取り調べ中です」
「帝都に送致せず――ですか?」
「ほら、まだ、あそこは危なそうじゃないですか」

 惚けた表情で応えた。

「陛下のご無事は慶賀けいがすべきですが――では陛下も?」

 帝都に送り届けないのかという質問である。
 女帝ウルドは、ベルニク領邦領主の屋敷に在るとの情報があった。

「そうですね」

 事情を知る者が見れば、いっそ悪魔の微笑みに見えたかもしれない。

「ほら、まだ、あそこは危なそうじゃないですか」

 最後は、以下の言葉で締めくくり、会見は終了となった。

「いつも言ってますけど、安心安全なベルニク領邦への移住を強く――」

 他方の帝都であるが、ベネディクトゥスの叛乱平定より二日ほど遅れた後、グリフィス領邦軍が帝都の治安を回復させた。
 銀獅子艦隊も、ユディトポータル防衛に成功している。

 さらに一週間が過ぎる頃には各地で起きた乱も鎮まり、帝都における戒厳令も解かれた。

 暫定統帥権を握るエヴァンは、ようやく乱の鎮圧を表明した。
 幾つかの不手際を認めた後、以下の発表をしている。

「功あれど、法は厳正に適用されるだろう」

 名指しはしなかったが、九条に違反したベルニク領邦とオソロセア領邦である事は明らかである。

「帝都は安らかとなった。陛下には速やかにお戻り頂き、まつりごとを執って頂けるものと臣は信ずる」

 宰相エヴァンの声明に対し、ベルニク領邦及びオソロセア領邦は何の反応も示さなかった。
 ところが、無関係であるはずの、新教皇アレクサンデル・バレンシアは、聖都に向かう前日にメディアに対してこう告げている。

「儀を終えても、我はここには戻らぬ」

 聖都にて、忠実なる僕の儀を執り行って、ようやく正式に教皇となる。

「愛した屋敷は喜捨きしゃし、女も捨て――いやいや、女はおらぬ。誓っておらぬのだったな」

 そう語るアレクサンデルの隣には、虚ろな眼差しの美女が立つ。

「とまれ、かように喧騒な都では祈りが女神に届かぬ。我の屋敷は他におく。そうさな――」

 聖性とは程遠い笑みを浮かべて言った。

「――今度は辺境にでもするか」

 と、アレクサンデルは言うものの、帝都の治安は一応の回復を見せている。
 渡航制限も緩和されており、宇宙港は多くの人々で賑わっていた。

「奇遇だな」
「奇遇ね」

 出航前に喉を潤そうとラウンジに来たトジバトル・ドルゴルは、極短期間だけ雇用していたリンファ・リュウと出くわした。
 恋人だろうと早合点したトジバトルの幼馴染は、用を足すと言い残し姿を消す。

「帰るのか?」「行くの?」

 言葉がぶつかり、互いに苦笑いを浮かべた。

「――帰るわ。太陽系――ベルニクに」

 一度はロベニカの誘いを断っている。

 もう不要と言われる可能性もあるが、駄目ならばそれでも良いと思っていた。
 帝都で差別されて暮らすより、あの男が治める辺境の方がマシだろう。

 トール・ベルニクは、ロベニカの言う通り変わったのだ。

「正解だろうな。どのみち、俺達みたいなのは――」

 トジバトルは、リンファの黒髪を指差す。

「――ここじゃ肩身が狭くなる」

 戒厳令は解除されたが、厳しい統制下に置かれる気配は強まっている。

 今のところ暫定統帥権を担う宰相エヴァンは、融和政策を採用すると公言しているが、すぐに撤回するだろう。
 被害を受けた既得権益者や、これを利用しようとする排外主義者の突き上げが有るからだ。

 既に貧乏人や黒髪に向ける市井の人々の視線は厳しくなっている。
 叛乱に乗じた暴徒の生々しい記憶は容易には消えない。

 それは仕方がない、とトジバトルは考える。
 自身が同じ立場ならば、そう行動するだろうからだ。

「俺なんぞに何ができるか分からんが、あの御仁をひとつ頼ってみるさ」

 後年トジバトル・ドルゴルは、この選択こそが、自分の人生における祝福と呪いであると述懐する。

 だが、今は――、

 宇宙港に在る多くの人々と共に、遥かな辺境へ行くのだ。

 幾ばくかの希望と、恐らくは夢を抱いて――。

 ◇

 乱より一ヵ月が過ぎた。

 ロスチスラフは、ベルニク領邦領主の屋敷を訪れている。
 誰もいない屋敷の聖堂で、女神像を見上げ物思いに耽っていた。

 ――本当に、この日が来るとはな。

 奇想を聞かされた夜を思い出す。

「まずは、仔細を聞かせよ。いらえは、その後でも良かろうな」

 ついて来い、などと大言を吐く若造の話に興味が湧いた。

「幾つかの方法は、現時点では秘密にしたいのですが――」
「うむ」
「ええと、ボクやロスチスラフ侯は、結局のところ帝国では傍流ですよね」

 ベルニクは辺境の弱小領邦である。
 オソロセアは強大とはいえ同じく辺境であり、領主がピュアオビタルでは無い。

 主流派とはなり得ず、廷臣として宮廷に影響を及ぼす立場にもなれない。
 帝国において、政治的には二流、三流の存在である。

「これを覆す必要があります」

 ようは主流派勢力になろうとしているのだ。

「これから起きる叛乱に乗じて、まずは女帝陛下をさらいます」

 あまりの馬鹿馬鹿しさに、思わずロスチスラフは嗤った。
 嗤った後に、トールをたしなめるため厳しい表情を作る。

さらって何とする? 刃で脅し勅命を出したところで、従う諸侯などおらん」
「いえ、勅命は直ぐには出しませんよ」
「あん?」
「まずは、みんなで協力をして、完全なる正義の味方になりましょう!」

 叛乱軍から救うというていで女帝の身柄を確保する。
 そのまま、いかなる方法を使ってか、一路ベネディクトゥスに向かう。

首魁しゅかいを確保して、全部エヴァン公が悪いって事にしちゃいましょう」
「ぜ、全部?」

 ともあれエヴァンを追い落とそうという意味だと理解した。
 だが、それだけで、辺境領邦が主流派になれるとは思えない。

 ――いや、待てよ――女帝を使うのか……。

 優しく微笑む目の前に座る若者を見た。

「そこで、勅命か。エヴァンを討てと――」

 ――それでもエヴァンに従う者は居るだろう。
 ――評判の芳しくない女帝と、それをさらった辺境領主が相手なのだ。

「ううむ――全ての諸侯が従うとは思えんな」
「構いませんよ。というより、目的はボク等が優位に立つ為だけですから、勢力は割れて良いのです」
「割れて――良い?」

 訝し気な表情を浮かべるロスチスラフに、トールが言葉を重ねる。

「遅かれ早かれ、帝国は瓦解します」

 不死の巨象など存在しない。
 死した巨象の腐肉を餌として、そこから新たな巨象が生まれるだけだ。

「だったら、せめてボク等に有利な壊れ方にしませんか?」

 あの夜の奇想が、今日――現実となるのだ。

 ◇

 厳粛な場所が良かろう、という事で選ばれたのが屋敷の聖堂である。

 女神像を背に、女帝ウルドが立っていた。玉璽をその手に掲げ、朱色のドレスを纏う姿は、確かに女帝然としていた。
 
 ウルドの前には、ベルニク、オソロセア、マクギガン、八名の諸侯が臣下の礼で跪いている。

 なお、この場に集っていない諸侯は十四名いた。
 グリフィス、ウォルデン、カドガン、また選帝侯達は誰も来ていない。

 ただし、旗色を明らかにしていない諸侯も多いため、当分の間はこれを取り合う勢力争いが続くだろう。

 ともあれ、女帝宣下である。

「臣下並び万民ばんみんに告ぐ」

 静謐な空間で、ウルドが口を開く。
 あらゆるメディアが、EPRネットワークへブロードキャストしている。

「此度の乱が鎮まりし儀、諸侯と兵らにまずは礼を述べる」

 跪く諸侯が頭を臥す。

「ただ、首魁しゅかいを改めた結果、この暗愚を操る逆賊が分かった」

 ウルリヒ・ベルツの身柄は、憲兵司令部の留置所に在った。
 兄ルーカスの幻聴が聞こえると怯えているそうだが、実際、隣の房にいるのだから当然だろう。

 この一ヵ月、ウルリヒの証言として、都合の良い情報をメディアに流布させている。真偽などどうでも良いのだ。

 なお、イヴァンナの次第については、不始末がありその行方を失っている。

「勅命である。逆賊エヴァン・グリフィスを討て」

 苺嫌いとなり堕してゆく日々の中で、これを夢見た夜もあっただろう。

「公爵位を剥奪し、その領地を召し上げる。これに与する者共も同様とする」

 無論、書類上の話であり、領地は力で奪う必要がある。

「逆賊共は、一族郎党プルガトリウムへ堕とす」

 プルガトリウムとは、死より恐ろしい量子監獄であった。
 死んでアフターワールドへ召される事など許さぬという意思表示であろう。

「――が、逆賊が帝都に未だ巣食っておるのも事実」

 帝都にはエヴァンが健在で、宮廷政治も彼が抑えている。
 また、帝都存するカナン星系の周囲は、グリフィスに与する勢力が占めていた。

「ゆえ、遷都する。新たな帝都をベネディクトゥスに置く」

 フェリクス総督府では、既に大規模な改修工事が進められている。
 無論、箱だけを用意したところで、すぐに帝都として機能するはずもない。
 
 根本的に新たな制度体系を構築し、廷臣や官吏も揃える必要があった。
 また、帝都を中心に考えられていた法令、教育、地図、交通機関なども再整備しなければならない。
 
 このように課題は山積しているが、確かな事はひとつある。
 
 ベルニクは、辺境領邦ではなくなったのだ。

「励め」

 ウルドがそう告げると、跪く諸侯はさらに深く頭を臥した。

「おお、そうじゃ。すえとなったが、余より叙する者共がおったな――」

 そう言いながらウルドは、少しばかりさかし気な視線をトールに送った。

 ◇

 かくして――、

 遥かな昔、銀河を統一したオビタル帝国は、二大勢力に分割された。
 乱世の英雄となるトール・ベルニクが、天下を二分したのである。

 当然ながら、いずれの勢力も、自らこそが正統なオビタル帝国であると主張した。
 女帝と玉璽を喪ったエヴァンとて、正統性を主張する手札を未だ持っているのだ。

 よって、以降は以下の様に記述する。

 女帝ウルド擁するオビタル帝国を新生派オビタル帝国、または新生派。
 宰相エヴァン率いるオビタル帝国を復活派オビタル帝国、または復活派。

 復活派の所以については、後に語る。

 いずれにせよ、歴史はトール・ベルニクが知る物語と袂を分かった。
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