本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転[承]乱結Λ

8話 咲き誇れ三人娘。

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 親善行事とは互いの親密ぶりを内外に知ら示す事が目的である。

 だが今回は、ベルニクとオソロセアの同盟締結に向けて領邦民へのアピールという側面が強い。

 故に観艦式のような大掛かりな行事は無く、新設された商業施設の見学や、大聖堂にて聖話を聞くなど、トールとしては退屈な内容に終始していた。

 そのせいだろうか──。

「トール様」

 ウトウトとしていたトールの耳元に心地の良い息吹が届く。

「──う、ううん──もっと──お願いします」
「クッ」

 メディアさえ入っていなければ思い切り耳朶を引っ張れるのだが──と、ロベニカは横目でトールを睨んだ。

 ──こういうところは相変わらずよね。

 と、呆れつつ、幾らか同情めいた想いも湧いている。

 ──やっぱり──疲れてるのかしら……。

 さして大きくはない両肩に、トール・ベルニクはあらゆる重責を担っていた。
 
 呑気な表情と、緊張感の無い声音に人は皆騙されるのだろう。

 彼ならば、いかなる窮地であれ、きっと飄々と乗り越えていけるのだ──と。

 だが、タイタンポータルへと向かう月面基地で、トールの小さな背中を見送った瞬間から、ロベニカはその豊かな胸の内奥に秘したる決意があった。

 誰も追えぬほどに早く、そして誰も届かぬほどの高みへと飛翔する若鷹は、いつかどこかでその不思議な翼が折れてしまうのではないか――。
 
 歴史と慣例を意に介さず、凡夫には描《えが》けぬ未来を見据えるであろう若者は、老獪で退屈な多数派の網にかかり足下をすくわれる可能性があった。

 故に自分はトールの傍に在らねばならない。

 例え疎まれようとも一般論を振りかざし続けるのだ。

「あっ──わわ」

 パチリとトールが瞳を開く。 

「す、すみません。寝てましたよ」
「しぃ」

 ロベニカが人差し指を唇に当てて囁く。

「聖話中ですっ! ホントにもう」

 その言葉とは裏腹に、どうにもいたわるように穏やかな彼女の表情を見てとり、フェリクスの食事が美味しかったのかな──と散文的な感想を抱いていた。

 ──あんまり怒られなくて良かったけど──ふわぁ、それにしても眠いなぁ。

 彼は大いに寝不足だったのである。

 昨夜、喉を潤す間もなく、執政官ルキウスは自身の目論見を全て明かした。

 仰向けとなりトールに腹を見せたのである。

 彼が付き合いのあるロスチスラフではなくトールを頼る事情も分かった。

 ──とはいえ、悩ましいな……。

 奴隷制度の廃止には大賛成だったが、 それはトールの行動を決定する動機とはならなかった。

 ──兎も角、まずは太陽系を第一に考えないと。

 彼は己の能力を過信する驕りとは無縁であり、さりとて正義を追求する愚か者でもないのだ。

 ◇

 退屈な行事日程は午前で終わり、残すは庭園で催される昼食会のみとなる。

「わぁ、良かった!」

 格式張った食事会を想像していたトールは嬉しそうな声を上げた。

「バーベキューなら気が楽です」

 そんなトール様に気を使ったのでしょう──と言おうとたところで、嫌味に聞こえそうだと思い胸中に留めておくことにした。

「こほん──ええ、そうですね。父が友人たちを招待していた頃を思い出します」
「へえ。ロベニカさんのお父さんといえば──」
「これこれ」

 巨大な肉塊の刺さった鉄串を片手に、ロスチスラフがトール達のもとを訪れた。

「いつまで仕事の話をしておるのだ。肉を食ってくれ」

「あ、そうですよね」

 使用人達が総出で肉を焼いているせいか、食欲をそそる香りが辺りに漂っている。

 ベルニクとオソロセアの蜜月ぶりを喧伝する事が目的の為、メディアも招待されておりソフィア・ムッチーノの姿も見えた。

 ──トール様のいる所に、どこまでも追いかけてくる人ね。

 ロベニカは呆れと感心を同時に抱きつつ、トールに倣って肉串をひとつ取った。

「あ、あの──」
「ごきげんよう、伯」
「──」

 ロスチスラフが離れるのと入れ替わり、トールの元を訪れたのは──。

「(もぐもぐ)──あ!? ええと」

 誰ですか、などとさすがに尋ねてはいけない相手である。

 ──ふ、ふぇお、ふぇお──フェオドラ──レイラ──オリガ!!

 長女の名を思い出すと、関連付けにより全てが浮かんだ。

「フェオドラさん、レイラさん、オリガさん」
「まあ」

 フェオドラとオリガが、大袈裟な仕草で口元に手を当てる。

「覚えていて下さったのね、トール伯」
「嬉しい──です」

 カットアウトドレスを諦めて昼食会用ドレスを纏うフェオドラは、一般的には十分に美しく令嬢然としていた。

 ──フェオドラさんて、高校の時に好きだったに似てるなぁ。

 他方、本人が聞けば喜びそうな事をボウと考えていた。

「ボクこそ、お招き頂いた事に感謝しています」
「でも、バーベキューだなんて、庶民的過ぎて恥ずかしいですわ──」
「そうですか? お肉も美味しくて、ボクは好きですよ」
「──嬉しい──お父様も喜びます」

 オリガが、潤んだ瞳で告げた。

 結局、三人娘は共に行動しようと決めたのである。

 旧帝都で催された祝賀会の頃ならばいざ知らず、今となってはトール・ベルニクがあまりにも高みへと至ってしまった。

 階級社会に厳然と存在する壁を三姉妹は熟知している。
 
 だが、僅かな望みはあった──。

 銀冠を戴かぬオビタルで胸も月並みだが、彼女たちの父親はトールの盟友になろうとしているのだ。

 ──それに、私だって十分に美しいはずよ。

 フェオドラは、己の容姿に自信を持っていた。
 レイラやオリガとて同様である。

 勿論、その自己評価は誤りではないのだが──と考えつつ、姉妹の中では冷静なレイラはトールの一歩後ろに立つ女に視線を移していた。

 ──彼女が、噂の首席秘書官ね……。

 トールの前で浮かれる姉や妹とは異なり、レイラはロベニカを観察していた。

 相手の視線に気づいたロベニカは、失礼にならぬよう会釈を返す。

 優美にして雄大な曲線美──。

 そしてトールの周辺には、彼女にも引けを取らない女が居並んでいる。

 だが──と、レイラは思考を進めていく。

 彼女や他の女にも欠けているピースがある。そのピースの優先度を明らかにした上で、今後の打ち手を決めねばならない。

「トール伯」

 フェオドラとオリガが、という視線をレイラに送る。

「はい」
「少々、不躾な質問を御許し下さい」
「ええ、どうぞ」

 トールは呑気に応えた。

「では──」

 レイラは、つと背筋を伸ばす。

 彼女は目的に対して手段を選ばず直截に進む性向があり、三姉妹の中で最もロスチスラフの血を色濃く受け継いでいた。

「トール伯に想い人有りとの噂は真なのですか?」
「え、そんな噂があったんですか?」

 名の知られた人物が独身であれば、誰もが巷間で囁く類の噂である。

「想い人なんて、今のところ居ませんよ」

 フェオドラとオリガの表情に、隠せぬ喜色が浮かぶ。

「あら、噂って下らないですわね。ですが、伯を射止める幸運な御方は──」

 レイラは胸元に上げている両の手を強く握った。

「当然ながら銀冠の乙女なのでしょうけれど」

 オビタルに根付いた価値観からすれば、ピュアオビタルという至高の遺伝特性は確実に子へと継承していくべきものである。

 だが、レイラは質問する相手を間違えたのかもしれない。

「正直なところ──」

 胸のサイズが気になります、とはさすがに公言しなかったが──、

「ピュアオビタルとかは、どうでも良いですね!」

 この不遜な発言は、各所に波紋をもらたす事となった。
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