本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

文字の大きさ
122 / 230
起転[承]乱結Λ

33話 嵐の前に。

しおりを挟む
 クリスティーナ・ノルドマンにとってベルニクで過ごす日々は不愉快なものとなっている。

 奴隷となるところを救われた点は感謝すべきだが、何もかもが彼女の気に入らない状況だったからだ。

 まず、弟のレオンが黒髪の剣闘士風情に懐いてしまった。

 父は父で誘拐犯の一味であった首席補佐官と毎日のように会って何事かを相談している。

 そして──、

「お姉さま――ブリジット様。何とお労しい……」

 自分を妃に欲しいと言ったらしい男の執務室を、女男爵メイドと共に白痴のブリジットが掃き清めていた。

 クリスにとって見るに堪えない光景である。

「その女はホントに悪い奴なのです。それに、ブリジット様にはもっと相応しいお務めが――」
「うう」

 クリスが迫ると、ブリジットは泣きそうな表情を浮かべ、逃げるようにマリの背へ隠れた。
 
 ――ああ、なんて悲劇的なのかしら。このままでは、お姉さまがメイド服姿になってしまう日も近いわ。

 
 天秤衆の装束姿を脳裏に浮かべ、クリスは思わず落涙しそうになる。

「おはようございます」

 そんな彼女の悲嘆をよそに、朝から能天気な声音で挨拶をしながらトールが執務室に入って来た。

「おはよう」
「うぅ」

 メイドと元修道女が頭を下げる。

「クッ――」

 クリスは恒例となりつつあるトールへの怒りの発散を敢行しようと拳を握った。

 この為に朝早くから執務室を訪れたのである。

「ちょっとアンタね、伯爵だか元帥だか知らないけど――」
「童子よ、実に殺風景な部屋であるな」
「――け、けど――え!?」

 トールの後に続いて姿を現した巨躯に狼狽え、クリスは次の言葉が出てこなかった。

「はあ、そうですかね」
「我が良き調度品を取り寄せてやろう」

 旧帝都のアレクサンデル邸を思い起こし、トールは慌てて首を振った。

「金ぴかは――あ、いや、ともかく結構です」

 黄金で贅を凝らした調度品など、彼からすると悪趣味にしか思えなかったのだ。

 ――何より落ち着かないしね。

 金を惜しむ男ではなかったが浪費や贅沢とは無縁であり、この点について商務補佐官リンファ・リュウなどは苦言を呈している。

 ──質素倹約など愚の骨頂です。持てる者が使ってこそ、経済とは上向くのです。庶民のマインドとは――云々といった次第である。

 故にトールは金を使う方策を考え、トジバトル・ドルゴルに差配を任せていた。

「ま、良いわ。ところで麗しの我が肉人形は、なぜこの部屋におるのだ?」

 ブリジットに気付き、悪漢が尋ねた。

「どうにも、マリが好きみたいなんです」

 屋敷に来た当初は白痴の笑みを浮かべたまま日がな聖堂で過ごしていたのだが、マリと出会ってからは彼女の傍を片時も離れなくなってしまった。

 セバスによれば、寝室も共にしているようである。

 ――という事は――お風呂も――ゴクリ。

「トール様、お風呂は別だから」
「え!?」

 驚くトールの表情にマリは僅かに頬を緩める。

 彼女のエロスレーダーは──トール相手に限ってのみとなるが──もはや人智を越えた鋭敏さを備えるようになっていた。

「ほう――」

 アレクサンデルは、ようやくマリの存在に気付き、瞳を細めて彼女を見据えた。

「――なるほど」

 その視線は、ブリジットを怯えさせたらしい。

「死にぞこないへの忠誠か」

 誰にとっても意味の分からぬ言葉であった。

「巫女への妄執――いずれであろうな」

 ◇

 アドリア・クィンクティは、不安と絶望の底にある。

 ――明るい側面なんて見えそうにないわ……。

 愛用の眼鏡を外し目頭を軽く抑えた後に、息を吐きながら机の上に突っ伏した。

 ルキウス邸の自室に籠ったまま、板状デバイスでメディアと世間の反応に怯え続けている。

 祭祀庁より船付神官解任の報せを受けたのは昨夜の事だった。

 ――ああ――お父様――何て無茶なことをしたのかしら……。

 恩義のある相手とはいえ、さすがに恨みがましい気持ちとなっていた。

 ルキウスが帝国と結んだ条約とその後の顛末については、発表より一週間ほどの遅れとなったが、グノーシス船団国内においても大々的に報道されている。

 ――誰も彼もが怒っているわ。

 条約締結のメリットではなく、奴隷解放や略奪停止という部分がセンセーショナルに取り上げられていた。

 さらに、執政官が格下の存在として扱われたという点も、国民の怒れる炎に油を注ぐ結果となっている。

 ――とりあえずは、世間の皆様のほとぼりが冷めるのを待ちましょう。

 と、問題を棚上げしたアドリアは、自分が酷く空腹である事に気付いた。

「何か、食べないと」

 声に出して独り呟き、椅子を立ったところで部屋の扉が叩かれる。

「――アドリア様」

 使用人の声音に、幾らか緊張感が混じっている事に気付いた。

 アドリアは眼鏡を見えぬところに隠し、細身のペーパーナイフを袖下に滑り込ませる。

「サラね。ど、どうしたの?」
「お客様がお見えです」

 招かれざる客なのだ──、とアドリアの直感が告げる。 

「えと――あのう――今日は体調が優れないので――」
「きゃあっ」

 アドリアが言い終える前に、サラの悲鳴に続いて荒々しく扉が開け放たれた。

 部屋に倒れた彼女の背後には、黒いチュニックを纏うソルジャ達が立っている。

「誰っ?なな、なんですかっ!!」

 震える声を抑える余裕など無かった。それどころか、油断すれば失禁しかねない。

「徽章に目を凝らして頂けますかな。グノーシスの僕たる神職様なら我等を歓迎して頂けるはずですが――」

 人壁の向こうから不遜な声音が響く。

 眼鏡を外しているアドリアは目を細め、恐怖を堪えてソルジャー達の胸元を見詰めた。

「あ、あなた方は……」

 サークルに五芒星、つまりは超原理主義団体、梵我ぼんが党であった。

「ククク、その表情――堪りませんな」

 人垣を分け、後ろに居た男が前へと進み出る。

 ソルジャー姿であるのは同じだが、他とは異なり白地のチュニックを纏っていた。

 消したい記憶を刺激する相手の風貌に、アドリアは足元から力が抜けていくのが分かった。

「覚えていて下さいましたか」

 男は満足した様子で笑みを浮かべる。

「となると──、唾棄すべきクィンクティの養女になったとはいえ、カッシウス家の誇りも覚えていましょうな?」

 幼き頃の絶望が彼女の内に蘇る。

「アドリア・カッシウス嬢」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...