本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転[承]乱結Λ

34話 夢の始まり。

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 レギオン旗艦のは、建物の老朽化が進んでおり路面状態も良いとは言えない。

 スキピオの暮らすアパートメントも似たようなもので、氏族の一員が住むとは思えないような外観だった。

「ボロいな」

 フリッツが思ったままの感想を呟く。

 他方のスラム育ちなテルミナには、不思議と落ち着ける雰囲気だった。

「船団国の限界って事さ」

 肩を竦めてスキピオが応える。

 首船プレゼピオは例外として、他のレギオン旗艦も似たような状況なのだ。

「そもそも、俺達がここ──旗艦で過ごすのは年に数日も無い」

 略奪、輸送、密貿易、採掘、工業──彼等の経済活動は艦艇で飛び回る事により成立する。

「ルキウスについて回ってるあんたも――って事だな」

 ああ、とフリッツの問いに頷いた。

「俺も、ここに戻るのは半年ぶりだ」

 玄関ロビーを抜けた先の昇降機に乗ると聞いた事もないような異音を立てて上昇をし始める。

 七階についたところで扉が開くと居室に直接繋がっており、空腹に響く香りが周囲を満たしていた。

 テルミナは周囲の様子を窺いながら懐に潜ませたバヨネットの手応えを確認する。元海賊フリッツも同様に警戒心を露わにした。

 だが――、

「いやぁ、良い匂いですね」

 殺人鬼トーマスは気にする様子もなく、他人の居室へ我先にと足を進めていった。

「私はもう腹ペコで誰かを――いやいや――まずは腹ごしらえをしないと――ぐはあ」

 打突音の後、前方でトーマスが悲鳴を上げ倒れる。

 と、同時に彼の頭を打ち付けたフライパンらしきものが床に転がった。

「お、おい、トーマス」

 駆け寄ろうとしたフリッツの肩を、スキピオが掴んだ。

「待て――」
「帰って来たか」

 物陰からエプロン姿の大男が現れる。

「糞坊主」
「チッ」

 スキピオが舌を打つ。

「随分と手荒な歓迎だな。――親父」
 
 ◇

「ま、食ってくれ」
「頂きます」

 額から流れる血はそのままに、トーマスは幸せそうな表情で頬張り始めている。

「気配からして屑だと分かってな」

 それだけでフライパンを使い殴打されては堪ったものではないが、今回に限っては正しい行いだったかもしれない。
 何しろ、殺人鬼なのである。

「――客人ならば仕方あるまい」

 そう言って、トーマスも含めて各人のグラスにワインを注いだ。

 つまりは、レギオン総督コルネリウス ・スカエウォラの手酌という事になる。

 船団国の国民であれば名誉に感じたかもしれないが、生憎とテーブルを囲んでいるのは、帝国臣民の中でも札付きの礼儀知らずな連中だった。

 ――どうせ、帝国から奪ったもんだろうしな。

 と、似たような商売をしてきたフリッツは一切の遠慮を感じていない。

「旗艦にいたのか」
「皆いるぞ。お前とルキウスのせいで、ミネルヴァは暇なんだよ」
「――そうか」

 ルキウスの後援者であるミネルヴァ・レギオンは、使節団訪問以降は帝国からの略奪行為を停止していたのだ。

「苦労を掛けるが今暫くの辛抱だ」
「小僧の分際で一丁前の心配をするんじゃねぇ」

 そう言ってグラスを一気に煽る。
 
 本当ならもっと強い酒を飲みたかったのかもしれない。

「なあ、少しばかり気になる事があるんだが」

 と、既に食事の手を休めていたテルミナは親子の会話に口を挟んだ。

「何だ?」 
「──そこの二人は奴隷船に乗っていたんだ」

 フリッツとトーマスを顎で指した。
 
「で、聞いたんだが、ルキウスの娘が見張り番をしていたらしい」

 奴隷制度廃止を訴える男の娘が奴隷船で働いているという点に、テルミナは違和感を抱いていた。

「――どうにも変じゃねぇか?」

 皿を舐めるように食するフリッツも、油断のならない視線をスカエウォラ親子に送っている。

 ルキウス達を完全に信用するのは危険だ――と、テルミナに忠告していたのはフリッツなのだ。

「それが普通なんだ」

 コルネリウスが、空いた自身のグラスにワインを注ぎながら言った。

「船団国は異端から奪う権利がある。なぜなら、選ばれし民として約束の地アフターワールドへ至るまでは、食って糞をして子孫を残す必要があるからだ」

 グノーシス船団国の教義によれば、彼等に与えられる約束の地がアフターワールドなのである。

 約束の地を求める旅路を続ける為には全ての非道が女神により免罪されるのだ。

「ルキウスこそが異常ってことだ。いや――」

 少しの躊躇いを見せた後にコルネリウスは再び口を開いた。

「俺達こそが異常なんだろう」
「テメェも含むって意味か?」

 そうだ──と、コルネリウスは頷いた。
 
「ただ、アドリアにあんたが感じた違和感は、彼女がカッシウス家の娘だからかもしれん」

 船団国では名家とされる氏族の出自という意味になる。

「ルキウスの父親を自由奴隷としたのも、俺とカッシウスの絆による」
「ふむん」
「だが、政争に敗れたカッシウス家は取り潰しとなり、その多くは処刑──あるいは奴隷に堕とされてしまった」
「アドリアは救われたのか?」
「ああ」

 恩返し、あるいはルキウスの信条かは分からないが、アドリアを自らの養女として保護下に置いたのだ。

「ともあれ、彼女には色々と不幸が重なった。何らかの歪みを抱えている可能性はある」

 神官職以外の道もあったはずだが、彼女は船付神官を選んでいた。

「学生時代の苦労も多かったと聞く」
「色々と属性が乗っかってるからな。分かるぜ」

 幼少期のフリッツにもそれなりの苦労はあったのだろう。

「解放奴隷の養女にしてカッシウス家の娘。集団から排除する材料は豊富だったろうな」

 この場では口にしたくない事件の幾つかを、コルネリウスは耳にしている。

「なるほど、な」

 修道院では肉人形にされかけたテルミナも、実のところ学生時代には良い思い出が無かった。

 ――つっても、逃げるか――殴るかはしてきたぜ。
 
 今が幸せかと問われても確たる答えを持ち合わせていないのだが、昔に戻りたいかといえば明確に否定するだろう。

「で、カッシウス家の連中は何をやらかしたんだ?」

 国家反逆罪相当の案件なのだろうとは想像が出来た。

「夢を見たのさ」

 だが、コルネリウスの返す言葉は謎めいたものとなった。

「そこからルキウスの夢も始まった」
 
 ◇

 同じ頃──、

 梵我ぼんが党のアドリアに対する蛮行を伝える円筒デバイスを受け取り、ルキウスは激烈な怒りに肩を震わせていた。

「いいでしょう」

 民会へはかる前に、相手は実力行使に出たのである。

「もはや、どちらに転んでも私に敗北はありません」

 ルキウス・クィンクティの瞳に昏い炎が灯った。
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