本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

文字の大きさ
135 / 230
起転[承]乱結Λ

46話 女神の盾。

しおりを挟む
 不運な男の緊急打電は文字通り首船プレゼピオを震撼させた。

 漆黒の闇に浮かぶ朱色の大群を、船団国メディアは繰り返し流したのである。

「これより三時間後、帝国の愚か者共が来るのは事実だ」

 臨時執政官ポンテオ・ペルペルナは、執政官室から国民に対し緊急演説を行っていた。

「とはいえ、落ち着いて欲しい。勇敢で理性あるグノーシスの民よ」
 
 無数の人々が宇宙港に殺到しているが、既に軍が閉鎖しており首船を去る事は出来ない。

 民間船に飛び回られても困る為、政府としては当然の対応だろう。

「我が方には万全の備えが有る」

 恒星マグダレナを包むダイソン球外殻に備えられた武装の概要は以下の通りである。

 荷電粒子砲台、三十万基。
 レイルガン砲台、二十万基。
 指向性ミサイル発射台、五十万基。

 数字の上では十分に堅牢と言える上、決戦兵器と呼ぶべき砲台も存在する。

「偉大な船団国に相応しい威容である。各レギオン艦隊へも首船防衛を発令した。些かの不安も──」

 と、辛うじて面目を保ちつつ緊急演説を終えたポンテオの元に首船防衛司令官が訪れた。

 なお、プレセビオ防衛という緊急事態を想定してこなかった船団国において、首船防衛司令官とは名誉職に等しい。

 そもそも防衛戦略に関わるドクトリンが構築されていないのだ。

「臨時執政官殿」
「どうした?」
「大変申し上げ難いのですが――その──」

 首船防衛司令官は喉を鳴らし息を整えた後に話を続けた。
 
「――使用可能な砲台数に齟齬があったのです」

 故ルキウス・クィンクティが執政官の職にあった際に最も注力したのは殖産と教育である。

 ――女神のお恵みで攻められるはずもないのに維持費だけは馬鹿みたい掛かります!
 ――皆さんのお給料は余った予算で上げちゃうとして、砲台のメンテ費用を控えめにしましょうか。

 古来より人は平時の城壁に掛かる費用を惜しんだ。

「少しばかり?」
「十数パーセントほどが――」

 ポンテオは執務机を叩いて吠える。

「クッ――歯抜けの裏切り者めッ!! だ、だが、まあ、許容範囲と言えなくもない」
「い、いえ」

 司令官は震える声音で続けた。

「――有効稼働するのが、十数パーセントでして」

 ポンテオの頭頂部へと血流が駆け上った後、一気に血の気が引いて行く。

 目の前に立つ男と、その部下である薄ら馬鹿共は、自らの懐を温める為だけに偉大な先祖の遺産を単なるオブジェへ堕してしまったのである。

 ――殺す。コイツは殺す。

 次の返答次第では直ぐにも処刑しようと考えた。

 今次防衛戦において最も重要な問いなのである。

「否と言わせるつもりはないが――アレは使えるのだろうな?」

 ◇

「――という次第ですので、実際に使える砲台の数は大いに減っているはずです」

 旗艦カンジヤのブリッジで教皇アレクサンデルが巨躯を揺らし笑った。

「常の如く周到な童子であるな」
「全てはルキウスさんの長年に渡る努力――いや、裏切り行為の賜物です」

 彼はひたすらに、船団国の牙を丸くする事に努めていたのである。

「こちらの重力場シールドが十分に耐えうる火力でしょう。後は、軌道都市を巻き込まぬよう砲台を擦り潰して頂ければボク等が晴れて揚陸出来ます」

 領邦同士の戦いとは異なり、非人道的な戦闘行為を縛る条約など存在しない。
 
 ならば、最も手っ取り早いのは、ダイソン球を周回する首船プレゼピオそのものを火力で破壊し尽くす事となる。

 ――まあ、さすがにそれは出来ないなぁ。

 原理主義的な指導層を排除する事が目的なのだ。

 民間人もろとも首船を吹き飛ばしてしまえば未来は制御不能となる。残存勢力を相手に全ての倫理を逸脱した戦いが待つ事は想像に難くない。

「揚陸さえ出来れば、一日から二日で片が付くはずです」

 制宙権をトール側が握っている為、彼等に逃げ場は無いのだ。

 氏族の長、民会議員などの指導層、梵我ぼんが党に代表される原理主義的な政治団体、さらには大神官を頂点とする宗教的権威に対して捕縛という悠長な指示は下していない。

 疑わしきは全て斬れ──。

「一分後に有効射程内へ入ります」

 オペレータが告げた瞬間、巨大なダイソン球に無数の光点が明滅した。

 荷電粒子砲、指向性ミサイル、レイルガン──等々全ての砲門が焔を放ったのである。

「では、聖下」

 旗艦カンジヤ率いる聖骸布艦隊を先行させ、トール達は敵陣に乗り込まねばならない。

「――神輿を上手く運んで下さいね」
「ハッ、抜かせ」

 トールが小憎らしくなったアレクサンデルは舌を打ってEPR通信を切断した。

「生意気な童子に我らの力を見せよ! 異端の墓標を歴史に刻むのだ、ハレルヤ」

 ブリッジに沸く聖兵達のたけりを耳にしながら、教皇アレクサンデルは秘かに嘆息していた。

 ――教皇とは面倒なものよ。

 信仰の裏書を必要とする己に些かの不満を感じ始めていたのである。

 ◇

「敵勢力は、十光秒付近に迫っております」

 無意識に爪を噛んでいたポンテオは我に返った。

「そうか」

 現在の火力では、犠牲を覚悟した敵は追い払えない。

「準備は出来ているのだな?」

 念を入れるかのようにポンテオは首船防衛司令官に再び尋ねた。

「最終手順に入っております。敵が五光秒圏内に入ったところで――」

 ◇

「テュールの隻腕せきわん──と、ルキウスさんに教えてもらいました」
「は、はあ」

 正面に映る首船プレゼピオは、ダイソン球から伸びる巨大なアーム状の構造物に覆われつつあった。

「確かに、腕っぽいですねぇ」
「重力場シールドで防げないのは困りものですな……」

 テュールの隻腕せきわんの前面には大口径の砲門が備わっている。

「対消滅しますので、斥力で払う事は不可能でしょう」

 対消滅に伴って発生する莫大なエネルギーが、さらなる被害を艦隊にもたらす。

 とはいえ、有効射程距離が四光秒から五光秒に限られるという点に使い勝手の悪さがある。

 威力が減衰するのではなく、反粒子を内包する対消滅保護膜の維持時間に拘束されているのだ。

「聖骸布艦隊の前衛は、そろそろ五光秒付近に至りそうですが――」

 テュールの隻腕せきわんの射程圏内に入りつつあった。

「アハハ、怖い者知らずだなぁ」
「いえ、ご存じないだけかと――」
「あ、そうでした、そうでした。聖下に言うと逃げるかもしれないので、ボクとケヴィンさんだけの秘密にしてましたね」

 ――こ、この人は……。

 ケヴィンのおののきなど気にする様子もなくトールは肩に乗る猫の頭を撫でた。

「みゆうさん、準備を!」
「はぁい」

 拘束を解かれたみゆうにより、重弩級艦トールハンマーは新たなほこと盾を得ていた。

隻腕せきわんに高エネルギー反応!」
「味方艦隊の七十パーセントが五光秒圏内に入りました」
「か、閣下──」

 ケヴィンが慌てた声を出した。

「早く、バリアを!」
「ケヴィン少将、違いますッ!!」

 トール・ベルニクは珍しく憤慨した声音となった。

 彼を怒らせた理由については諸説あるのだが最も有力なのは――、

「アンチフェノメン・シールド、或いは女神の盾ですッ!!!」

 彼にしか分からぬ言語センスとされている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...