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起転[承]乱結Λ
45話 朱色の艦影。
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女帝の勅命を受けたトール・ベルニク率いる艦隊は、円環ポータルを目指し星間空間を亜光速ドライブで航行中である。
途中、スキピオの箱舟ともランデブーを果たしていた。
首船プレゼピオにおける任務を終えたテルミナ・ニクシーを、旗艦トールハンマーに移乗させる為である。
だが、この時トールは、とある男の意見に耳を傾けた。
「どうにも信用がならねぇ」
と、呟いたフリッツだけでなく、トールの居室に奇妙な面子が揃っていた。
「アンタと、アンタの相方が一番に信用できないんだけど」
クリスが疑わしい眼差しをフリッツに送る。なお、相方のトーマスは医務室にて治療中だった。
隣に立つマリは肯定も否定も口にしなかったが、表情から察するに似たような感想を抱いているのだろう。
「連中は、あの化け物を目覚めさせようとしてたんだろ?」
「ええ──まあ、既に目覚めちゃいましたけどね」
そう言いながら原因となった男が頭を掻いている。
加えて、トールには別の疑問も残っていた。
フェリクスの台座から戻った時と同じく、想定されたタイムラグが発生しなかったのだ。
「この後のプランを俺に聞かせちゃくれねぇか?」
「馬鹿ね。アンタみたいな三下に――」
「非常に単純です」
クリスの横槍は意に介さず、トールは全てを話し始めた。
「――って事は、帰りは少しばかりヤベェな」
全てを聞き終えたフリッツは腕を組んだ。
「親玉共がくたばったとしても、各レギオンの艦隊は残ってる訳だろ」
故に、彼らが円環ポータルへ到着する前に決着をつけて撤収する必要がある。
「ミネルヴァ主導で改めて和議を──って筋書は最もらしいけどよ」
「スキピオさんが裏切ると?」
「いや、そこまでの阿呆とは思わねぇが――あんたに――い、いや――閣下に隠し事が有るって気はするな」
マリに睨まれ、フリッツは慌てて呼称を変えた。
「だから、保険は打っておいた方がいいと思うぜ」
「保険ですか?」
「ああ」
相手の興味を惹いたと判断したフリッツは、少しばかり得意気な表情となった。
「提案が有る」
◇
ブリッジに立つトールの元へ、独りの女がベルニク兵に伴われてきた。
女は怯えた様子で周囲を見回すが、当然ながら周囲に立つのはベルニク兵のみである。
「――どういうつもりなんですか?」
それでも勇気を振り絞り、女は主犯格であろう男の背に抗議の声を上げた。
「は、犯罪ですよ」
「無法な手段となった点は謝罪します。ただ、あなた方も似たような行動があったと思いますけどね」
そう言ってトールが振り向いた。
「――アドリアさん」
クリスの衣服を着せられたアドリア・クィンクティが怯えた様子でトールを見詰めている。
既に遥か彼方へ過ぎ去ったミネルヴァの箱舟には、アドリアに変装したクリスが乗り込んでいた。
――都合が良い事にアドリアって女は居室に独りで籠っているらしい。
――挨拶がてらテルミナを迎えに行く事にして、コイツを身代わりに放り込んじまおう。
――俺もどうにか忍び込んでくから、無事に連れ帰って来てやるよ。
フリッツを長手として使い、万が一の場合はアドリアを人質にするのだ。
外交的リスクや、クリスの危険を承知しつつも、トールは元海賊らしいフリッツの提案に乗った。
敵の本丸に飛び込む前に、打てる保険は全て打つと判断したのだろう。
「あなたの父上の事は信じています。ただ、全てを話してくれた訳ではないでしょうし、スキピオさんが同じ考えという保証もありません」
トールに秘めたる手札がある以上、相手も同じなのだ。
「ともあれ、ご安心ください」
トールは些か不器用な笑みを浮かべる。
「この船が最も安全な場所と断言できますから」
◇
μポータルに護られたグノーシス船団国は長らく安全保障の概念が希薄だった。
円環ポータルには守備隊が配置されていないどころか、哨戒システムすらも構築されていない。
故に、その姿を最初に捕捉したのは、近傍のFAT通信中継用施設で働く民事人だった。
元々はソルジャーだったが、傷病兵保護プログラムに則り手に入れた職は、円環ポータルを通過する連絡船を監視という閑職である。
「暇だな」
独り言の多くなってしまった彼の眼前に七つの巨大なモニターが並んでいた。
円環ポータルはその名が示す通りポータルがリング状になっており、各レギオンの星間空間に繋がっている。
円環近傍の中継施設がFAT通信を受信すると、宛先に応じた連絡船が各ポータルを使って次の中継施設に対してFAT通信を行うのだ。
EPR通信を持たぬ彼らの構築した通信網である。
「今日は、からっきし船が通らねぇ……」
巡礼祭も半ばを過ぎた頃合いは、往来する艦艇が極端に減るタイミングだった。
「まあ、俺は巡礼祭も楽しめんのだが」
この時期に中継施設当直とされた者の不運である。
裏切り者ルキウスの公開処刑は彼も現場で見たいと願っていたのだ。
略奪と奴隷を否定するなど、ソルジャーに対する侮辱──と彼は感じていた。
「へへ――しかし、まあ、歯抜け野郎に相応しい末路だったぜ」
ポンテオを真似るが如く、失った右腕の代わりに左腕を振った。
「頸を落とせ――ってな――ん――?」
間の抜けな表情を浮かべたまま、彼はモニターの一つを凝視する。
見た事もない数値が並んでいたからだ。
「三万――二千――五!?」
ミネルヴァ・レギオンに繋がるポータルである。
「な、なんだ、こりゃあ?」
これほどの艦艇数が一時にポータルを通るなど前例がない。
男が狼狽える間にも存在確率は上昇してゆき、やがて光学的に認識できる状態となった。
大規模な円筒陣を組んだ朱色の艦隊である。
数は少ないながら、その中央部には白で構成された艦艇と、巨大なμ艦も見えた。
彼が知る限り、何れのレギオンもかような艦隊は保持していない。
「馬鹿な――って事は――糞ッ!!!!」
悪態をつきながらも首船へ緊急打電を送った直後、聖骸布艦隊から荷電粒子砲の斉射を浴び、中継施設と男は文字通り消滅した。
◇
帝国歴2801年 10月03日 11:00(帝国標準時)――。
朱色の艦影現るの報が届くのは、光速度の限界により五時間後の事となった。
首船プレゼピオに血の雨が降る。
途中、スキピオの箱舟ともランデブーを果たしていた。
首船プレゼピオにおける任務を終えたテルミナ・ニクシーを、旗艦トールハンマーに移乗させる為である。
だが、この時トールは、とある男の意見に耳を傾けた。
「どうにも信用がならねぇ」
と、呟いたフリッツだけでなく、トールの居室に奇妙な面子が揃っていた。
「アンタと、アンタの相方が一番に信用できないんだけど」
クリスが疑わしい眼差しをフリッツに送る。なお、相方のトーマスは医務室にて治療中だった。
隣に立つマリは肯定も否定も口にしなかったが、表情から察するに似たような感想を抱いているのだろう。
「連中は、あの化け物を目覚めさせようとしてたんだろ?」
「ええ──まあ、既に目覚めちゃいましたけどね」
そう言いながら原因となった男が頭を掻いている。
加えて、トールには別の疑問も残っていた。
フェリクスの台座から戻った時と同じく、想定されたタイムラグが発生しなかったのだ。
「この後のプランを俺に聞かせちゃくれねぇか?」
「馬鹿ね。アンタみたいな三下に――」
「非常に単純です」
クリスの横槍は意に介さず、トールは全てを話し始めた。
「――って事は、帰りは少しばかりヤベェな」
全てを聞き終えたフリッツは腕を組んだ。
「親玉共がくたばったとしても、各レギオンの艦隊は残ってる訳だろ」
故に、彼らが円環ポータルへ到着する前に決着をつけて撤収する必要がある。
「ミネルヴァ主導で改めて和議を──って筋書は最もらしいけどよ」
「スキピオさんが裏切ると?」
「いや、そこまでの阿呆とは思わねぇが――あんたに――い、いや――閣下に隠し事が有るって気はするな」
マリに睨まれ、フリッツは慌てて呼称を変えた。
「だから、保険は打っておいた方がいいと思うぜ」
「保険ですか?」
「ああ」
相手の興味を惹いたと判断したフリッツは、少しばかり得意気な表情となった。
「提案が有る」
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ブリッジに立つトールの元へ、独りの女がベルニク兵に伴われてきた。
女は怯えた様子で周囲を見回すが、当然ながら周囲に立つのはベルニク兵のみである。
「――どういうつもりなんですか?」
それでも勇気を振り絞り、女は主犯格であろう男の背に抗議の声を上げた。
「は、犯罪ですよ」
「無法な手段となった点は謝罪します。ただ、あなた方も似たような行動があったと思いますけどね」
そう言ってトールが振り向いた。
「――アドリアさん」
クリスの衣服を着せられたアドリア・クィンクティが怯えた様子でトールを見詰めている。
既に遥か彼方へ過ぎ去ったミネルヴァの箱舟には、アドリアに変装したクリスが乗り込んでいた。
――都合が良い事にアドリアって女は居室に独りで籠っているらしい。
――挨拶がてらテルミナを迎えに行く事にして、コイツを身代わりに放り込んじまおう。
――俺もどうにか忍び込んでくから、無事に連れ帰って来てやるよ。
フリッツを長手として使い、万が一の場合はアドリアを人質にするのだ。
外交的リスクや、クリスの危険を承知しつつも、トールは元海賊らしいフリッツの提案に乗った。
敵の本丸に飛び込む前に、打てる保険は全て打つと判断したのだろう。
「あなたの父上の事は信じています。ただ、全てを話してくれた訳ではないでしょうし、スキピオさんが同じ考えという保証もありません」
トールに秘めたる手札がある以上、相手も同じなのだ。
「ともあれ、ご安心ください」
トールは些か不器用な笑みを浮かべる。
「この船が最も安全な場所と断言できますから」
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μポータルに護られたグノーシス船団国は長らく安全保障の概念が希薄だった。
円環ポータルには守備隊が配置されていないどころか、哨戒システムすらも構築されていない。
故に、その姿を最初に捕捉したのは、近傍のFAT通信中継用施設で働く民事人だった。
元々はソルジャーだったが、傷病兵保護プログラムに則り手に入れた職は、円環ポータルを通過する連絡船を監視という閑職である。
「暇だな」
独り言の多くなってしまった彼の眼前に七つの巨大なモニターが並んでいた。
円環ポータルはその名が示す通りポータルがリング状になっており、各レギオンの星間空間に繋がっている。
円環近傍の中継施設がFAT通信を受信すると、宛先に応じた連絡船が各ポータルを使って次の中継施設に対してFAT通信を行うのだ。
EPR通信を持たぬ彼らの構築した通信網である。
「今日は、からっきし船が通らねぇ……」
巡礼祭も半ばを過ぎた頃合いは、往来する艦艇が極端に減るタイミングだった。
「まあ、俺は巡礼祭も楽しめんのだが」
この時期に中継施設当直とされた者の不運である。
裏切り者ルキウスの公開処刑は彼も現場で見たいと願っていたのだ。
略奪と奴隷を否定するなど、ソルジャーに対する侮辱──と彼は感じていた。
「へへ――しかし、まあ、歯抜け野郎に相応しい末路だったぜ」
ポンテオを真似るが如く、失った右腕の代わりに左腕を振った。
「頸を落とせ――ってな――ん――?」
間の抜けな表情を浮かべたまま、彼はモニターの一つを凝視する。
見た事もない数値が並んでいたからだ。
「三万――二千――五!?」
ミネルヴァ・レギオンに繋がるポータルである。
「な、なんだ、こりゃあ?」
これほどの艦艇数が一時にポータルを通るなど前例がない。
男が狼狽える間にも存在確率は上昇してゆき、やがて光学的に認識できる状態となった。
大規模な円筒陣を組んだ朱色の艦隊である。
数は少ないながら、その中央部には白で構成された艦艇と、巨大なμ艦も見えた。
彼が知る限り、何れのレギオンもかような艦隊は保持していない。
「馬鹿な――って事は――糞ッ!!!!」
悪態をつきながらも首船へ緊急打電を送った直後、聖骸布艦隊から荷電粒子砲の斉射を浴び、中継施設と男は文字通り消滅した。
◇
帝国歴2801年 10月03日 11:00(帝国標準時)――。
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