本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転[承]乱結Λ

51話 終局の始まり。

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 レギオン旗艦の台座の先と同じく、プレセビオの台座の先も周囲は森だった。

 石畳の小路が巨大な待針まで続いている点も一致している。

 尚且つ──、

「やはり、こちらの世界は時間の進み方が遅いようです」

 ポンテオと贈歌巫女の背中は未だ数十メートル先に見える。

 待針に向かおうとしているのだろうが、容易に追い付ける距離だった。

「追いましょう。マリとブリジットさんは――」
「護衛を付け後方へ。離れ過ぎるのは危険です」
「そうですね」

 事を決めるとトールとジャンヌは即座に駆け出した。

 対数フィードバックを効かせて迫りくる二人の装甲歩兵に気付いたポンテオが振り返る。
 
 顔を引き攣らせて何事かを叫んだが、真の危険はトール達では無かった。

「え――?」

 地面の揺れを感じたトールが立ち止まると同時、ポンテオと贈歌巫女の傍の木陰から巨大な四つ足の生物が姿を現した。

「閣下ッ!」

 他方、危地におけるポンテオの即断即決は冴え渡っている。

 己が生き残る為、贈歌巫女の無防備な背中を四つ足の生物に向かって押し出したのだ。

 四つ足が前足を彼女の頭上に振り下ろすと奇妙な角度で腰から折れ曲がり絶命した。

 ──が、ポンテオの命運も尽きる。

 無造作に伸ばされた四つ足の柔らかそうな小指がポンテオのトーガに巻き付いたのである。

 四つ足は軽やかな笑声を上げ、足をバタつかせるポンテオの両足を握りしめた。

 数秒間ほど興味深そうに見詰めた後、上半身を口に含んで舐り始める。

 だが、激しく動く足が顎先に当たるのを不快に感じたのだろう。

 ポンテオの下半身を掴んで動けなくすると、ようやく納得がいった様子で尻を地に着けて座り込んだ。

 頬をすぼめ、ちゅうちゅうとねぶるようにポンテオを吸っては声を出し笑う。

 四つ足――巨大な赤子の口許から血流が滴った。

 臨時執政官ポンテオ・ペルペルナは、栄光に満ちた人生の末路を赤子の玩具として終える。

 今際いまわの言葉は無い。

 ◇

 斬首対象リストにあった四百六十二名の殺害を終えた。

 なお、作戦遂行に伴い犠牲となった対象外の人数は二千余名を超えた。想定よりは遥かに少ない犠牲で済んだ点については申し添えておこう。

 彼等は慎重に尚且つ迅速に斬首作戦を進めたのである。

 だが、現在のトール・ベルニクは喜べる状況ではない。

「ふぎゃあ」

 赤子はポンテオをねぶるのに飽きたのか、くびの千切れ掛けた彼を背後に放り投げた。

 美しい放物線をえがいて緑葉と枝の摩擦音を響かせながら森の中へ飲まれ、数舜後には大地が彼を優しく迎え入れる。

「閣下、後ろを!」

 珍しくジャンヌが切迫した声で叫んだ。

 後方のマリ達に別の四つ足が襲い掛かっていたのである。

 さらに、トール達と後方を分断するかのように、複数の四つ足達がいつの間にか復路に立ち塞がっていた。
 
「マリッ!!」

 四つ足が前腕を伸ばすとブリジットはマリを後ろへと突き飛ばし、身体の回転を効かせてハルバードを振り抜いた。

「ひぎぃ」

 柔らかい皮膚を僅かに裂かれた四つ足は痛みと怯えを含んだ悲鳴を漏らして尻をつき座り込んだ。

 後方へ助太刀に行こうと動きかけたところでトールはさらなる異常に気付く。

「これは──」

 台座の遥か後方に土煙が見えていた。

 質量の大群が地を駆けている事を示唆する地響きも鳴っている。

「クロエ、皆を撤退させよッ!」

 ジャンヌが叫び台座を指差すと、後方にいた装甲歩兵がマリを抱えて脱兎の如く駆け出した。
 
 他の装甲歩兵とブリジットも後に続いて走る。

 異常事態は、もはや誰の目にも明らかなのだ。

 四つ足の大群が、巨大な赤子の群れが、大地を揺るがして迫り来ている。
 
 無邪気な微笑みの横陣おうじんは、呪われた絵師の描く地獄絵図を想起させた──。

「待つなッ!!」

 トールが聖剣を振ると、意を決したクロエがマリを引き摺り台座に飛び乗った。

「――駄目――トール様ッ――駄目ぇっ!」

 マリの悲痛な残響音を残し、彼等はアフターワールドへ消えた。

 プロビデンスを失ったトールとジャンヌに残された選択肢は一つだけとなる。

「ジャンヌ中佐」

 トールは聖剣を握り直した。
 
 前門の赤子、後門の赤子――。

「待針へ」
「ハッ!」

 些か面妖な死地とはなったが、ジャンヌ・バルバストルに怖れるものなど存在しない。

 至高の想い人が己の隣で剣を振るうのである。

 高ぶる気持ちは、秘かな吐息でなだめた。

 ◇

「第八連隊の帰投確認しました」

 オペレータの報告に、ケヴィンは軽く頷いた。

 ジャンヌ率いる第一連隊、及びトール率いる第十連隊以外は、輸送機にて艦艇への帰投が確認された。

 降下した一万の装甲歩兵のうち、死傷者は百名に満たず、大半は神殿兵との戦いによるものだった。

 今次の作戦が大成功であると同時に、一方的な殺戮行為であった事をも示している。

 ――とても、戦争とは言えんな。

 トールの伝記を勝手に書き始めているソフィアから、凱旋後に詳細を聞かせるよう頼まれているが、どうにも気乗りがしないと感じ始めていた。

「大質量体の光学映像、捕捉しました」
「来たか――出してくれ」

 量子観測機ボブにより概ねの構造は把握されているが、サピエンスは存在の本質とは異なる光学映像の呪縛から逃れられない。

「到着まで残り二時間――」

 ミネルヴァの目的は今もって不明である。

「おい、ケヴィン」
「え?」

 不遜な態度でブリッジに姿を現したのはテルミナ・ニクシーである。

「いや、何か、あーしの連絡先しか知らなかったらしくてさ」

 テルミナが指を振ると、照射モニタがケヴィンの鼻先に現れた。

「うわ」<< うわ >>

 ケヴィンと、照射モニタに映るフリッツが同時に声を上げた。

 << オッサンの前に飛ばすなっての。気色悪い >>

「か、海賊――いや、フリッツ――」

 テルミナの暫定部下となったフリッツ・モルトケである。

「――クリス嬢!」

 クリスティーナ・ノルドマンの姿を確認したケヴィンは胸を撫で安堵した。

 同じ父親として彼にも思うところがあったのかもしれない。

「貴様、これまで何の連絡も寄こさず――」

 他方の元海賊に対しては怒りの感情のみが湧いた。

「待て待て、おっさん。詳しい事は後で話すけど、レギオン旗艦の五光秒圏内はEPR通信を無効にされちまうんだ」

 大質量体であるレギオン旗艦が早めに減速したところで、ようやくフリッツ達の乗るμミュー艦がECM圏外に出れたという次第である。

「トールに――痛ッ――閣下に伝えてくれ。スキピオの野郎は──」

 クリスに耳朶を引かれたのだ。

「皆殺しにするつもりだ」

 ◇

 待針が戻ったレギオン旗艦の神殿地下には、λラムダフロントだけでなくブリッジも存在する。

 クイーンの目覚めによりレギオン旗艦は駆動力を得たが、全ての力を解放するには動力源が圧倒的に不足していた。

 巨大な質量を推進させるには、旗艦都市の生活機能を全て停止する必要がある。最大範囲でECMを有効にしているのも過負荷状態の要因なのだが──。

 スキピオ・スカエウォラは子飼いのソルジャー達が行き交うブリッジで、黙したまま眼前のモニターを眺めていた。

 ――計画通りに進んでいる。何が問題なのだ?

 決裂した父コルネリウスは、ソルジャーに抑えつけられてなお吠えた。

 ――分かったんだよ。

 スキピオは理解したのである。

 ――ルキウスの計画は上手くいかない。

 原理主義的な指導層を排除し、船団国の主導権をミネルヴァが握る。その上で新生派帝国と組み、経済支援を得ながら殖産し、星系を手に入れ、奴隷や略奪を必要としないまともな国家へと――。

 ――このクリティカルパスを通すには、俺達には力が足りない。

 その点は、ルキウスも自覚していた。

 指導層が消えたとしてもミネルヴァのみで他レギオンを抑えるのは困難であろうし、新生派帝国と対等であるには軍事力が必要となる。

 故にこそ、クイーンの目覚めを望んでいたのだ。

 ――我等のクイーンの魂を解放なさい。

 スキピオにとって、これがルキウス・クィンクティの遺言となった。

 ――だから、目覚めたろう。馬鹿が。

 漆黒の遮光グラスに隠された双眸に危険を感じ、父コルネリウスはスキピオの胸倉へ手を伸ばす。

 ――まだだ。まだ十分じゃない。

 スキピオは父の万力がこもる拳を抑えた。

 ――お前――まさか――。

 意図を理解し、コルネリウスは瞳を見開く。

「スキピオ」

 ソルジャーに伴われブリッジに現れた女の声でスキピオの追憶は中断された。

「ああ」

 無論、欲するのは力だけでは無い。

 あの広場で――。
 友と認めた唯一の存在の死を願い、祝う、あの呪われた広場で――。

 スキピオ・スカエウォラの心は定まった。

 友が企図した計画の一部だったとしても免罪符にするつもりは無い。

「――アリス・アイヴァース、君も視るべきだと思った」

 彼が欲するのは、

「首船を墜とす」

 報復である。

 ◇

 巨大とはいえ、その姿は赤子である。

 今となれば歴戦の勇士と言うべき二人の剣筋とて、些かの躊躇いがあり殺傷するのを避けていた。

 ポンテオを貪り殺した四つ足も、その踵を斬るにとどめたのだ。

「ここにも、はぐれ四つ足がいます」

 森に潜んで出てくる相手をトールは「はぐれ四つ足」と呼んだ。

「邪魔ですね」

 ようやく辿り着いた待針のエントランス前に、はぐれ四つ足が座り込んでいたのである。

「私が引きつけましょう」

 これまで繰り返してきた手筈だった。

 頭部装甲を外したジャンヌが相手の気を引き、その間にトールが背後から四つ足の踵を切り裂く。

「頼みます」
「はい」

 慈母の笑みに切り替えたジャンヌが、手を打ち鳴らして近付いていく。
 
 優しい声音でトールが聞いた事の無い歌を口ずさんでいた。

「だぁ」

 はぐれ四つ足の視線が反れ、その隙に聖剣を横に流したトールが走る。

 ――毎回、少し心が痛むんだけど……。

 無防備になった踵を前に、それでもトールは聖剣を振り上げた。

 が、その時――唐突にジャンヌの歌声が止んだ。

「え――?」
「だぁだぁ!」
「くっ」

 さかしさか、偶然か、それとも二人の不注意だったのか。

 音も無く背後から迫っていた別の四つ足がジャンヌの左腕を咥え持ち上げている。
 
 その弾みで彼女はツヴァイヘンダーを取り落としてしまったのだ。

 玩具、あるいは母を取られたと感じた四つ足は、不満そうな声を上げてジャンヌを取り返そうと前腕を伸ばした。

「離せッ!!」

 形相が鬼に変じたトールは、四つ足の弾む肉塊の上を奔り、足元から尻、そして背中へと駆け登っていく。
 そのまま脊髄まで進むと聖剣で柔肌を躊躇う事なく切り裂いた。

「ふぎゃああああああああッ」

 絶叫を上げた四つ足が地に臥す前に、トールはその背から跳ね飛んでジャンヌの腕を咥える他方の四つ足の眼球に聖剣を突き刺した。

「ふぎゃああああああああッ」

 四つ足が口腔を拡げ雄叫ぶと、解放されたジャンヌは地に落ちた。

「ジャンヌ!!」

 聖剣を引き抜き、ジャンヌの許へ駆けた。

「――か、閣下――不覚を――置いて――」
「黙って」

 パワードスーツの応急機能により、止血、殺菌、判断力を失わぬ程度の鎮痛剤の投与までは為されている。

 だが、激痛を抑えるには十分でなかった。

「大丈夫――帰ろう」

 トールは微笑んでから、彼女のパワードスーツ背面を操作する。

 緊急医療モードとして彼女の痛みを和らげる事にしたのだ。

 昏睡状態となるため単独行動は取れなくなる。

「一緒に帰るんだ」

 そう呟いて、左前腕を喪ったジャンヌ・バルバストルを抱き上げた。
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