本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

文字の大きさ
210 / 230
起転承[乱]結Λ

69話 誰が為に鐘は鳴る。

しおりを挟む
「本当なら、この時間は面会させられねぇんですぜ」

 奇妙な組み合わせの客人に対し、獄卒は恩着せがましい口調で何度も同じ事を言っていた。

「タルタロスの鐘が鳴る頃合いは、誰も入れちゃ駄目な決まりなんでさぁ」
「恩に着よう」

 ミザリーは五度目も律儀に同じいらえを返した。

「へ、へへ、へぇ」

 前方を歩く獄卒の肩が満足気に揺れる。

 太上帝の近習はお堅い坊主共とは違うらしい──と、獄卒は舌で乾いた己の唇を舐め回した。便宜を図れば何らかの見返りが期待出来ると判断したのである。

 エヴァン公に連なる貴人らしき車椅子の老婆は、厚手のローブに包まれながら「寒い寒い」と繰り返す無力な存在に見えた。
 
 そして、老婆の車椅子を押すのは、健気な美幼女である。

 ──ぐひひ、実におぼこい娘っこだぜぇ。ご褒美でおいらに呉れねぇかなぁ。

 下卑た妄執の波動を感じたテルミナは悪寒を覚えたが、懸命に無垢な笑みを浮かべ穢れ無き童女の演技を披露していた。

「随分と奥まで来ましたけれど、従伯父様のお部屋はまだなのかしら?」

 と、テルミナは白々しい台詞で告げる。

「ぐふふ、もう少しだよ、お嬢ちゃん」

 タルタロス牢獄最奥部、厚い鉄扉の並ぶ薄暗い通路を歩いていた。

 鉄扉の覗き穴を通じ怨嗟えんさに満ちた呻きが辺りを満たしている。

「ここいらの連中はまだマシでさぁ。はりつけは容赦してやってますから」

 嫌疑の度合いに応じた扱いという建前だが、実際には獄卒の手間を省く為なのだろう。

「まあ、そうなんですの。さすがは──」
「た、助けてくれっ!!!」

 テルミナ迫真の幼女演技を遮ったのは、鉄扉の向こうから叫ぶ男の声だった。
 
 覗き穴に怯えた二つの眼差しがある。

「あ、あんたを──見た事がある。見た事があるんだっ!!」
「え? 誰だテメ──いや、ど、何方どなたですの?」

 瞳だけでは分からないし、声にもテルミナは聞き覚えが無かった。

「ベルニクの──」
「うるせぇ!! 気狂いめっ、ぺっぺっ」
「ぎゃっ」

 哀れな囚人の双眸へ濁った痰唾を吐きつけた獄卒は荒々しく覗き穴の蓋を閉じた。

「お嬢ちゃんが怖がるだろうが」
「い、いえ別に──」

 ベルニクという言葉に背の冷える思いはしたが、自分を知っていると言う男の素性は気になった。

「ありゃ、熊の子倅でさぁ」

 そう言いながら、獄卒は頭の脇で人差し指をくるくると回す。

「完全にイッちまってます」
「まあ」

 テルミナは口元を押さえ、相手の期待する通り怯えた表情を浮かべた。

 ──熊の子倅──ジェラルド・マクギガンか。
 ──けど、どこで、あーしの顔を?

 疑問は残ったが、茶飲み話を出来る状況ではない。 

「着きましたぜ。ミザリー様、ええと──」

 ミザリー以外の相手は名すら尋ねていなかった事を獄卒は思い出した。

「ご苦労」

 と、ミザリーが鷹揚に告げた時、丁度タルタロスの鐘が鳴り響いた。

 獄卒が壁面で鈍い燐光を放つ小さな丸座へ掌を押し当てると、スライド錠の外れる音を確認してから鉄扉を押し開いた。

「お嬢ちゃんには刺激が強いかもしれやせんぜ」
「──!」「──!」

 言われるまでもなく凄惨な状況を覚悟していたが、薄暗い照明が灯る牢獄の光景にミザリーとテルミナは言葉を喪った。

 嘗ては銀河で最も権力を握ったはずの男が、Λラムダを逆さに象った杭へ磔にされているのだ。

 また、宮女達の心を惑わせた彼の顔貌は、絶え間ない暴力と飢餓により原型を止めていない。美しく艶やかだった長い銀冠の多くは抜け落ちている。

 四肢の爪は全て剥がされ、その全身に鞭だけでは不可能な傷痕が生々しく残っていた。右脚に至っては壊死しかかっている──。

 信仰の罪に対する刑罰ではない。

 歪んだ妄執を抱く者達が、与えられた玩具を好きに甚振った結果に過ぎなかった。

「い、生きてんのか?」

 演技を完全に忘れてしまったテルミナが地声で疑問を口にした。

「勿論でさぁ。殺しちゃ楽しみが──おふう、いやいや、女神の審判まで大切に預かるのがタルタロスの務めでしてね」

 獄卒が軽い足取りでエヴァンの許へ近付いていく。

「鐘が鳴ったんで、今から降ろしまさぁ。ちょいと面倒でね」

 獄卒が杭の後ろ手に回りエヴァンの拘束を解くと、枯れ葉の如く力無い身体が地面に落ちた。

 後頭部を硬い床へ打ちつけたが痛がる様子もなく仰向けのまま身動き一つしない。

「ふう」

 さしたる重労働をした訳でもないが、獄卒は額の汗を拭う仕草をして見せた。

「近頃じゃ、どうにも気合いが足りない男になりましてね。コイツを起こすには──」

 腰に吊るしたバックから注射器を取り出した。

「バシィンと打つ必要があります。打てば愉快に話しますんで暫しお待ちを──ひひ」
「待て」

 エヴァンの右腕を取る獄卒の動きをミザリーが制した。

「一つ確認したいのだが」

 事前に調べてはあったが、念の為に問うておこうと考えたのである。

「房の中は監視していないのだな?」
「そりゃそうです。出れもしねぇんですから」

 囚人に対する非道な扱いを映像記録として残さない為でもある。

「改善の余地ありと太上帝には進言しておく」
「はぇ? い、いや、そいつはお薦めでき──ぬぎゃっ!!」

 テルミナが無防備な獄卒の背に回り込み、相手の腰に吊るされた短剣を引き抜いて、尻の穴をするりと刺し貫いたのである。
 獄卒の絶叫は、体躯に似合わぬ万力で抑え込んだ。

 そして、取り落とした注射器を拾い上げたミザリーが、獄卒の脳天へ「バシィン」と針を打ち込むと、呆けた眼差しと笑みを浮かべ床に崩れ落ちた。

「なかなか効くようだ」
「勿体ねぇ末だがな。まあ、往生しやがれ」
「あんた達、こっちも起きたようだよ」

 車椅子から降りたミセス・ドルンは、エヴァンの傍にしゃがみ彼の頭を膝に乗せ頬を撫でている。

 その姿から慈愛めいた想いも感ぜられたが、隻眼に秘められた本心は誰にも推し量れない。

「けど、生きて運び出せるかは微妙だね」

 陽光に晒すだけでも息絶えそうに見えた。

「糞ッ」

 テルミナが獄卒の後頭部を蹴り上げる。

「エヴァ公! テメェを助けてやる。ベルニク様のご厚意だ」
「────」
「気合いで生きろッ!!!」
「──ぁ──」

 ベルニクに反応したのか否か、わずかにエヴァンのひび割れた唇が動いた。

 ──駄目だ。コイツは死ぬ……。

 テルミナは与えられた任務の優先順位に基づき行動する。

「死ぬなら、その前に教えてくれ」

 意味不明だがトールの指示を履行しなければならない。

「お前の名を教えてくれ。エヴァン・グリフィスじゃない。本当の名前だ」

 ミセス・ドルンとミザリーの視線が奇妙に交錯したが、生憎と必死のテルミナは気付けなかった。

「頼む」

 エヴァンの瞳に意思が宿る。

「──く──は──」

 良く聞き取ろうとテルミナが耳を寄せた。

「──オオ──ガ──」

  だが──、

「時間が無いよ。御託は終わりさ」

 ミセス・ドルンは仕込み杖の先にあるきりをエヴァンの弱り切った胸に突き刺した。

「あ、お、おい、テメェっ!?」

 予想外の展開にテルミナは狼狽えるが、彼の胸から溢れ出す血を止める術はない。

「これで運び易くなった」

 膝に乗せていたエヴァンの頭をそろりと床に置いて立ち上がるとスカートの裾に着いた埃を掃った。

「死体はトラッキングシステムに検知されないからね」

 呆然とするミザリーと歯噛みするテルミナへ向かってミセス・ドルンは人の悪い笑みを浮かべた。

「さっさと車椅子に乗せな。ずらかるよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...