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ただの食事、いつもの食事

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出立の日、リエルは身につけたものの総額を改めて計算して固まっていたが、上空に登れば、前と同じくきゃっきゃとはしゃいでいた。

宿について互いにおやすみと言ったあと、慌てた様子でリエルが部屋へと入ってきた。

「そんなに慌ててどうした」
「今日、血を吸って貰う日でした!」

さあどうぞと言わんばかりに、肩を出して私の前に立つ。初めて吸血した日から、あの約束は一度も忘れず続いていた。変わったことといえば、リエルが恥ずかしいからと言って後ろから吸血するよう望んだくらいか。しかしその願いからもしばらく経つ。私たちはいつも通り、何一つ変わりなく、捕食する側とされる側として、私は首筋に噛み付いた。
ただ一つ違ったのは、目の前に鏡があったこと。ただそれだけ。

吸血鬼は鏡に映らない。だけれど人間は写る。そう、写ってしまう。私はその時初めて見たのだ。吸血時の、リエルの顔を。
プスリと歯を突き立てた瞬間、漏れる呻きと一気に上気する頬。血を吸われれば吸われるほど、目を細め、体を震わせ、吐息が激しくなる。この表情を、私はどこかで見たことがある。そうだ、あの。
思い出した瞬間、私はリエルをベッドに押し倒していた。困惑したような素振りを見せつつも、まだリエルは恍惚とした表情に溺れている。ペロリと口の端から垂れた血液を舐める。リエルは一層昂った表情を浮かべた。

「吸血される時、お前はいつもこのような表情をしていたのか?」

耳元で囁けばリエルは顔を真っ赤にして、先程までとは打って変わった、幼い表情を見せる。けれどそれすら、今の私には興奮を掻き立てる要因にしかならない。

「私は食事をしていただけなのに……お前は毎度あんなにもいやらしい顔を浮かべていたのだな」

ふっと耳元に息を吹きかけると、面白いくらいリエルの体が跳ねる。

「そういえばお前は当初、俺を愛していると言っていたな。もしやこの半年間、ずっとこうなることを期待していたのではないか?……ふははっ、素直なのは変わらないな」
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