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呼び捨て

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翌日、目覚めた時にはリエルが腕の中にいた。暗闇に似合わぬほど明るい亜麻色の髪。ひと房救って月に透かす。それが何より美しいと、今の私には思えた。
そうしてリエルの髪なり頬なりをいじっていると、やがてゆっくりとその瞼が開かれた。

「ん……ルイ、さん……?」

寝ぼけているのか目の焦点が合わない。目元にキスを落としておはようと声をかければ、ようやく昨日の全てを思い出したらしい。ぼうっとうなじまで赤く染まる。距離をとろうとするのはお見通し。あらかじめ腰に巻いていた腕でぐいと引き寄せた。

「おはよう。体調は大丈夫か?」
「ルイさん、お、はようございます……はい、ちょっと疲れてるくらい、です」

今度は目が合わない。ぐいと上を向かせて、今度は唇に口付ける。

「ルイ……そう呼べと言ったのを忘れたか?」
「!」

あわあわとリエルが慌てふためく様は見ていて面白い。が、今はそれよりも、どうしてだかリエルに名前を呼ばれたかった。急かすように顔のあちこちにキスを落とす。最後に耳元でねだれば、ようやく観念したらしい。小さく、だがはっきりと、リエルはルイと呼んだ。その事実に満足して、俺たちは微笑みあった。

道中リエルを気遣いながら来たからか、予定時刻より少し遅くはなったものの問題は無い。私たちは無事、真夜中のエルフの谷へと降り立った。

「ここでは花をいただくんですよね」
「そうだ。だがその前に長に会いに行くぞ」
「長、ですか?」
「ああ、このエルフの谷で最も長寿の女王の元へ行く」
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