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後日談

本音6

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現地に着いてからは、なるべくシオン様の行きたい所へ行った。たった3日間、されど3日間。なんだか、彼の笑みが変わってきたように思えた。

「帰りはまたあのクルーザーに乗るんですよね?」

現地のホテルで膝枕しながら、彼のふわふわの髪を撫でながら、聞く。

「うん、そうだよ」
「それなら、今から考えておいてくださいね?何がしたいか。シオン様は、もっとワガママになっていいんです」
「ワガママ、かあ……うーん、難しいな。だって僕が望むただ一つは、もう既にあるんだもの」

そっと手を取られ、婚約指輪に口付けされた。それが紛れもない彼の本心だとわかっているから、何も言い返せない。

「……あ、じゃあひとつ。このままキスして?」

自分から言い出したものの、真正面から言われると何となく気恥ずかしくなって。私は頬にキスを落とす……文句を言われるとわかっていて。ほら、やっぱり。

「もう、意地悪だなあ。ここにして欲しい……言わなきゃわかんない?」

唇をとんとんと指さされる。

「……目、閉じててくださいね?」
「それは約束出来ないなあ、だって君のキスする時の顔、真っ赤で可愛いんだもの……それに、今思えばこの旅行中、君からまだ一度もキスされてないし」

はっきり言葉にされると、余計顔が熱を持つ。そのままなかなか踏ん切りがつかずにいると、しょうがないなあとシオン様が起き上がった。
何をするのかと思えば、そのまま目を瞑って制止する。何事かと考えていると、その疑問に答えるようにシオン様が言った。

「今回は目、閉じてるよ。だから……ね?」

そこから微動だにしないシオン様。何の気なしに、その顔を眺める。すっと通った鼻筋に、薄い形のいい唇。鍛え上げられた筋肉は分厚くて、でも実用的につけられているのがわかる。グレーの髪色は、本人的には気に入っていないようだけれど、何の変哲もない私のただの金髪からしてみれば、綺麗で美しい。こんなにかっこいい人が、私なんかを愛してくれている……幸せ、だなあ。そんな風に考えていると、シオン様がじれったそうに瞳を開けた。

「もう!躊躇が長いよ~」
「ご、ごめんなさい!思わず見惚れてしまって……」

頬をかけば、シオン様がまた固まった。ただし今回は、顔が真っ赤だ。

「し、シオン様?私何かまたおかしなことでも……?」
「……僕、かっこいい?」

髪の毛で顔を覆うシオン様。これにはすぐに答えられた。

「はい、とっても!」
「~~っ!」

本当、君には適わないなあ。

なにか言った気がしたけれど、次の瞬間には押し倒されていて、それどころではない。

「煽ったのは、君だからね?」

意地悪そうに微笑むシオン様に心当たりがないと言っても通じるわけなくて。私はそのまま「わがまま」に付き合わされることになった。
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