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プレッシャー と期待と
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「とりあえずその辺に座れ。書類はこれだ」
ばさばさっと、乱雑に書類が寄越される……これ、今日1日で終わるか?けれどレウザン様の机には、軽く見積もってもその2倍はある書類が積み重なっているので、文句は言えない。覚悟を決めて、私は腰を下ろした。
1時間はたっただろうか。カリカリとペンの音だけが響く部屋で、私は思わず尋ねていた。
「レウザン様、あなたに、プレッシャーはないのですか」
彼は原作でも、プレッシャーを跳ねのけ続けている。たまに見せる弱みは、父親、つまり現国王に対して意見して、それがへし折られる時のみだ。自身の境遇について悩む描写は見受けられない。そこがルディーと対になっていて美味しいと思っていたが、ふと考えればどうして悩まないのか、不思議だ。5人兄弟の末っ子である私ですら、たまに押しつぶされそうになることがあるというのに。
「それは書類に関係ある質問か?」
「いいえ、個人的に気になったまでです……不躾に、すみません」
「構わん、集中力も、そろそろ尽きてきた頃だろう」
そういうと、レウザン様はコーヒーを2杯、遠慮する間もなく魔法でさっといれる。
「……苦手なら、砂糖やシロップもある」
「いいえ、大丈夫です。手ずから入れていただき申し訳ありません。ありがたく頂戴します」
暖かいそれを受け取って、2人、無言で飲む。
「プレッシャー……だったな。感じないと言えば、嘘になる。むしろ、幼い頃は感じてばかりいた。どうして自分がこんな立場なのかと、周囲に喚き散らしたことさえある」
初めて知る、情報。初めて聞く、彼自身の立場への本音。
「だが、成長するにつれ、理解していった。それを一身に背負う者こそが、王なのだと。だから、お前の質問への答えはYESだ。俺は四六時中感じている。視線を、重みを。だがそれはプレッシャーという名ではない……それを俺は、期待と呼ぶ」
黄金の瞳が、真っ直ぐに私を捉えた。強く輝く、王の瞳。コップを持つ手が、勝手にカタカタと震え出す。でも、言わなければ。これだけは、伝えなくては。
「……私は共に背負いたいです。あなたの言う、期待を」
「ハッ!自分は期待されるに足る存在だと?」
「今はそうでなくとも、なってみせます」
真っ直ぐに、その視線を受け止める。手が震えていても、表情が引きつっていても、構わない。
「必ず、なります。あなたを慕う者として」
「……そうか、ならば、俺も「期待」しよう……お前を、認める者として」
「!」
思わず立ち上がった私に、レウザン様は余裕たっぷりに笑って見せる。
「期待するぞ、ヴィヴェルーナ。同じ、「この国を支える」者としても」
覚えていて、くださった!魔力量測りの、次の日。フィリと共に国を支えたい、と言った私の言葉を。
「それと……そこまで畏まらずともいい」
「え?」
「……ルディーには、もっと普通に接しているだろう」
フイっと顔を背けられる。
「……アンジエくらいでいいと言っている。その、……ヴィー」
ほんのり、頬が染まっている。
「はい!!!レウザン様!」
1歩、でも確実に、距離が縮まった。それが嬉しくて嬉しくて。俄然、やる気が出てきた。
私は今まで以上に全力で書類を捌き、最後にレウザン様からお褒めの言葉を頂いて、興奮で倒れかけることとなった。
いやだってそもそも質問に答えてくれた時点でだいぶ嬉しさゲージ限界ギリギリだったんだよ?それに加えて愛称呼び、照れ顔。その2つをくらったゲージなんて破裂に決まってるじゃん???破裂したところにさらに注いだらぶっ倒れるほかなくない???しかも、抱きとめられたんだよ???
「っと、ヴィー、どうした、大丈夫か?」
なんて吐息たっぷりの声が耳元でするんだよ???無理に決まってるじゃん。危うく昇天しかけたところを、リーフィリ達成という大きな未練で何とか現世にとどまることが出来た。なおも心配してくださるレウザン様に感謝しながら、私は壁伝いに部屋に戻ったのだった。
ばさばさっと、乱雑に書類が寄越される……これ、今日1日で終わるか?けれどレウザン様の机には、軽く見積もってもその2倍はある書類が積み重なっているので、文句は言えない。覚悟を決めて、私は腰を下ろした。
1時間はたっただろうか。カリカリとペンの音だけが響く部屋で、私は思わず尋ねていた。
「レウザン様、あなたに、プレッシャーはないのですか」
彼は原作でも、プレッシャーを跳ねのけ続けている。たまに見せる弱みは、父親、つまり現国王に対して意見して、それがへし折られる時のみだ。自身の境遇について悩む描写は見受けられない。そこがルディーと対になっていて美味しいと思っていたが、ふと考えればどうして悩まないのか、不思議だ。5人兄弟の末っ子である私ですら、たまに押しつぶされそうになることがあるというのに。
「それは書類に関係ある質問か?」
「いいえ、個人的に気になったまでです……不躾に、すみません」
「構わん、集中力も、そろそろ尽きてきた頃だろう」
そういうと、レウザン様はコーヒーを2杯、遠慮する間もなく魔法でさっといれる。
「……苦手なら、砂糖やシロップもある」
「いいえ、大丈夫です。手ずから入れていただき申し訳ありません。ありがたく頂戴します」
暖かいそれを受け取って、2人、無言で飲む。
「プレッシャー……だったな。感じないと言えば、嘘になる。むしろ、幼い頃は感じてばかりいた。どうして自分がこんな立場なのかと、周囲に喚き散らしたことさえある」
初めて知る、情報。初めて聞く、彼自身の立場への本音。
「だが、成長するにつれ、理解していった。それを一身に背負う者こそが、王なのだと。だから、お前の質問への答えはYESだ。俺は四六時中感じている。視線を、重みを。だがそれはプレッシャーという名ではない……それを俺は、期待と呼ぶ」
黄金の瞳が、真っ直ぐに私を捉えた。強く輝く、王の瞳。コップを持つ手が、勝手にカタカタと震え出す。でも、言わなければ。これだけは、伝えなくては。
「……私は共に背負いたいです。あなたの言う、期待を」
「ハッ!自分は期待されるに足る存在だと?」
「今はそうでなくとも、なってみせます」
真っ直ぐに、その視線を受け止める。手が震えていても、表情が引きつっていても、構わない。
「必ず、なります。あなたを慕う者として」
「……そうか、ならば、俺も「期待」しよう……お前を、認める者として」
「!」
思わず立ち上がった私に、レウザン様は余裕たっぷりに笑って見せる。
「期待するぞ、ヴィヴェルーナ。同じ、「この国を支える」者としても」
覚えていて、くださった!魔力量測りの、次の日。フィリと共に国を支えたい、と言った私の言葉を。
「それと……そこまで畏まらずともいい」
「え?」
「……ルディーには、もっと普通に接しているだろう」
フイっと顔を背けられる。
「……アンジエくらいでいいと言っている。その、……ヴィー」
ほんのり、頬が染まっている。
「はい!!!レウザン様!」
1歩、でも確実に、距離が縮まった。それが嬉しくて嬉しくて。俄然、やる気が出てきた。
私は今まで以上に全力で書類を捌き、最後にレウザン様からお褒めの言葉を頂いて、興奮で倒れかけることとなった。
いやだってそもそも質問に答えてくれた時点でだいぶ嬉しさゲージ限界ギリギリだったんだよ?それに加えて愛称呼び、照れ顔。その2つをくらったゲージなんて破裂に決まってるじゃん???破裂したところにさらに注いだらぶっ倒れるほかなくない???しかも、抱きとめられたんだよ???
「っと、ヴィー、どうした、大丈夫か?」
なんて吐息たっぷりの声が耳元でするんだよ???無理に決まってるじゃん。危うく昇天しかけたところを、リーフィリ達成という大きな未練で何とか現世にとどまることが出来た。なおも心配してくださるレウザン様に感謝しながら、私は壁伝いに部屋に戻ったのだった。
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