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犬束

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エターナル・サマー

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 空はピンクがかった灰いろと、藍いろをまぜた灰いろの雲におおわれ、その切れ間からのぞく闇にはかすかな夜あけのきざし。いくつかの星たちが散らかりまたたく。八月もなかばをすぎた、ある日の午前五時。しずかな住宅街。きこえるのは虫の声ばかり。しめりけをおびたつめたい風がここちよい。
 玄関のガラスドアをひらき、白いキャスケットをかぶった少女が姿をあらわした。ボーダーのTシャツに黒いパンツ、はきなれているらしい少しくたびれたブーツで、荷物はもっていない。石段をかけおりる。アラベスクをえがいた敷石の茶いろい部分だけ、ステップをふむように爪さきでけりながら鉄門にたどりつくと、彼女はふりかえって二階の窓をみあげた。おだやかなまなざし。口のなかでちいさくつぶやく。鉄門をひいて歩道へでると、たちどまって指をなめ、風向きをよんだ。星の位置を観測し、空気のにおいをかぐ。そして、少女はあるきはじめた。
 あるじの去っていった二階の寝室。つかわれた形跡のないベッド、ワードローブ、壁かけ時計、すみに年代ものの黒いリネンチェストをおいただけの、白くすっきり片づいた部屋。ベッドの正面、窓のない壁いちめんに、おさなげなパステル画がえがかれている。
 背景は、ホテルかレストランのテラスらしい。地面はみずみずしい黄緑いろの芝生で、白い丸テーブルのうえには赤いブドウ酒。椅子に腰かけているのは、ほとんど等身大のわかい男だ。栗いろのやわらかい巻き毛。おなじいろの澄んだ瞳。うすい水いろのシャツをきて、膝に本をのせているが、彼は背中を椅子にもたせかけ、顔をあげてうっとりと宙をながめている。ややかしげた首。脣にほほえみをうかべ。彼にしかみえない、なにかをみている。




 その古びた双眼鏡は、子どもにはおおきすぎた。重さをこらえながら、少年は海をみつめる。ゆるいささ波をたたえた海面は、なめらかな碧いろ樹脂みたい。海賊船はおそいにこない。どれい船も。退屈で死んでしまいそう。七月の太陽は新鮮な炎でできているから、ふりそそぐ日射しも、さらさらと膚のうえをすべってゆく。
 だが、彼がいるのはマストの見張台じゃない。レンズからのぞく視界のなかを、水着の子どもたちがよこぎった。



         〈 未完成 〉


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