映画感想 七月

犬束

文字の大きさ
上 下
4 / 5

ぼくの伯父さんの休暇

しおりを挟む
  抜け感は完璧な演出の賜物



 原作が同じの『太陽がいっぱい』と『リプリー』を見比べて、スピーディーでサスペンスフルな『リプリー』の方が面白くて好きなのだけれど(ファッションも見応えあるし)、ルネ・クレマンのおっとりした演出の方が優雅で上品で、名作と呼ばれる風格があるのかな、と思ったりします。
 過剰さより、慎ましさに上品さが宿るのか、なんて。
 ジャック・タチの映画も、モノクロームの画面(カラー作品も制作していますが)、台詞の少なさ、穏やかに心躍る音楽、くすくす笑いのギャグ、そして何より画角の広さ。そんな要素が、うっとりと仕合わせな気分にしてくれます。神経に障るものが何もないのです。
 昔々、『環境ビデオ』なるものがありましたが、まさに海辺の環境、景色が写し出されている。ユロ氏の巻き起こす騒動、おなじみのバカンス客(不自然でなくキャラが立っているので、あらまあ、あのひと、またユロ氏に迷惑を被ってぷりぷりしてるわ、とか見分けがつくようになる)、ホテルのレストラン、テニスコート、ビーチなどが、臨場感を持って、こちらの世界を侵食してくるような。リモートで、バカンス気分を味わえます。
 画角が広いとは、つまり演出で支配する範囲もそれだけ広大なわけで、隅々まで気を配り、完璧な計算の末の軽やかさ、ユーモア、抜け感なのか、と労力を惜しまぬ才能にも、感嘆します。
 とは言え、要は、何も考えずに、ただ嬉しさに浸るだけ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

リスの森

現代文学 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:3

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,254pt お気に入り:2,363

お絵描き練習帖 八月

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1

L’INDICATIF PRÉSENT(ランディカティフ・プレゾン/直説法現在)

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:2

真夜中の山の毒気と宿る雨

ホラー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:4

図書感想 六月

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:2

映画感想 二月

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:0

本当はあなたを愛してました

m
恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:218

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:53

処理中です...