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第七回 じゃ行くか、と…
しおりを挟むじゃ行くか、と俺は立ち上がり、若者と食を求めて金座街を脱出、再び大通をよろけながらも急いだ。
それにしても、いくら平日とは云い条、人が少ないにもほどがある。市民の皆様はシエスタでございますか。よろしゅうございますね。って、うっかり箍が外れて口に出さんばかりの時、居たんである。路傍の若人。電話ボックスの脇で、独りであるにもかかわらず恋人でも待っておるのか、何やら楽しげに佇む青年が。袖の部分が白い水色のスタジャンに赤いトレーナー、ジーンズと云った服装は、アメカジと云うより小学生めいた感じで、年の頃ならそれでも二十歳前後ってとこだろう。やれ助かった、って俺は、
「一寸いいかな」と声をかけた。「ここいらに輸入雑貨の店があるらしいんだけど」
「ああ、『チェリー』ですね」
青年は愛想よく答えた。
「店の名前は聞き忘れたんだけど、そこは安珠さんって子の店なの」
「はい、そうです。間違いないです。僕、アンちゃんの友達で、良太って云います。どうぞよろしく。あなたは?」
なんじゃ、こいつ。くっきりした二重の眼を仔犬みたいにきらきらさせて、俺を凝視めるのはやめろ。全く以って妙な奴に出くわしてしまった。で、俺はしょうことなしに、
「……和紗だよ」と控えめに名乗った。
「へーっ、和紗さん。カッコいい名前ですね。羨ましいなあ」
「それで、どこにあんの」
「この道をですね、あ、だけど今日は定休日だったんだ。アンちゃんが結婚したのはご存知ですか」
「うん、まあね。日本に居るうちに逢っときたいかなとか思ってさ」と云ったあとで、俺は、やべえ、と後悔した。既に人妻となった女を未練がましく追いかけて来た、と誤解されちゃうじゃないですか。
いやでもそれは、俺の後ろめたさがそう連想させるだけで、単純に友達との別れを惜しんでいるだけであるから、おかしくはない、と惚けていたけれど、
「和紗さんはぁ、アンちゃんとどーゆうご関係?」
ほらね、やっぱり。このガキ、首を傾げて興味津々で訊きやがったよ。
「彼女さ、一時期、江向市に住んでたじゃん。その頃の、まあ、知り合い、ってゆうかさ、俺より連れが仲良かったから」
「わざわざ江向市からいらしたんですか」って良太は大仰に驚き、「いつまでこっちにいらっしゃる予定なんです?」
「帰るよ、今日中に」
「残念だなあ。だったら、実家に電話してみましょう、居るかも知れないし。アンちゃん、喜びますよ、絶対」
云うが早いか、俺の返事も待たずに良太が二つ折りの携帯電話を開けると、ピピピ、ピーッって電池切れ。俺はポケットから自分のを出して貸与。したら、
「すみません、お借りしまぁす」と良太はにっこり笑って、「あ、このアイフォン、あったかぁい」と抜かしやがった。
〈 続 〉
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