バカンス、Nのこと

犬束

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「八月になったらオーナーの別荘が借りれるから、一緒においでよ」
 個展のレセプションパーティで、Nは私を見つけると、意外なほど嬉しそうに云った。
 銀杏並木の裏手に位置するガラス張りのカフェギャラリーは、ドレスアップした招待客で混雑し、シャンパングラスのきらめきと、ざわめく声の反響音がめていた。カジュアルな恰好をしているのは、彼の友達たちだろう。ふるまわれるドリンクもフードも、無農薬のベジタリアン仕様なのが彼らしい。
 その夜に彼が着ていたのは、ギャルソンっぽいアシンメトリーの変わり型ファンシーな白いシャツで、スーツ姿の大人に取り巻かれているせいか(悪い大人に利用されはしまいか心配したものだ)、いつにも増して幼げに見え、奇妙に可愛かった。
 高校一年生の夏休みのことで、その当時、Nは大学の研究員ながら、すでに映像作家として脚光を浴びつつあった。
 私が返事をするより先に、母が別荘行きを断った。父方の又従兄である彼とはあまり交流がなく、軽薄で危なっかしい人物だと、決めつけていたから。
 Nにつきっきりだった、ハイブランドのヴィンテージワンピースを着こなした、すらりとした女性が、
「お母さまもお誘いしないと」とNに耳打ちして、母にむかい、他に滞在するのはNの姉夫婦くらいであるし、お身内でくつろいでほしいなどと、説得をはじめた。
「このひとが、ここと別荘のオーナーの娘さん」
 彼女を紹介するNの口調はそっけなく、彼にとっての身内はむしろ彼女であるように感じられ、微かに苛ついた。母の独身の妹を同伴する条件をのまされたのも、気に入らなかった。私が交渉をしたら、そんなヘマはしなかったのに、と心の中で舌打ちをした。
 とにかく、こうして、二週間ほどを、海沿いの町にある木立に囲まれた、プール付きの瀟洒なヴィラで過ごすことに決まったのだった。

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