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【商店街夏祭り企画】夏祭りはこれから
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花火大会の夜から、わたしはお隣さんとのコミュニケーションに苦労している。
といっても、ただわたしがユキくんと顔を合わせるのが急に苦手になってしまっただけなんだけれど。
苦手?
違う。怖い、かな?
あの瞳で真っ直ぐに見られたら何かを見透かされそうな、そんな気がずっとしているから。
あの瞳はわたしが気付きたくない感情までも、きっと暴いてしまうから。
「璃青、あんた商店街の夏祭りでも同じ浴衣を着るつもりなの?」
お店の品物を奥から補充してくれながら母にそう話しかけられて、相変わらずブレスレットを作っていたわたしは作業に夢中で、おまけに誰かさんの事を考えていたから一瞬何の話かわからなかった。
「あぁ。うん、浴衣ね。分かってたらもう一枚持っていても良かったかな、って思うけど今更遅いしね。今年はあの浴衣を洗ってまた着るわよ。でも来年はここで新しいのをもう一枚作ろうかなぁ。もう少し大人っぽいやつ」
「確か呉服屋さんがあったものね」
「うん、紬屋さんね」
そんな話を親娘でしていると、お店のガラス戸が開いて、カラン、とベルが控えめに鳴った。“いらっしゃいませ”と言おうとして、入ってきたその人の目が、やっぱり正面から見られない。
「こんにちは!澤山さん」
「あ、ユキくん、こーーー」
「あら、ユキくん♪ こんにちは~」
ユキくんがお店に来ると何故かテンションの上がる母は、いつもいの一番に挨拶をしたがる。
しかもユキくんの方も真っ先に母に向かって挨拶しているのが何となく面白くない。そんなこと、口が裂けても言わないけれど。
「今日も暑いですね」
「うん。暑くて外に出たくないくらい。……ええと、今日はどうしたの?」
そうかと言って、いざこちらに向かれたらやっぱりその目が見られなくて。
僅かに視線をそらしたまま答えるしかないわたしは、随分と矛盾している。
「いえ、金魚の様子が気になりまして。元気かな、ご飯ちゃんと食べられているかな、と……」
………あぁ、そっちですか。
いや、がっかりなんかしてないけど。
でも何か悔しいから自慢してやろうっと。
「この通り元気よ。ご飯をあげるときなんて、もう元気すぎるくらいなの。あのね、わたしが近付くと、この子たち上にあがってきて口をパクパクしてるのよ。それがもう可愛くって……」
そう。毎日この子たちに癒されているのは本当。時々口に入れた餌をペッと吐き出すのもまたご愛嬌。まぁ結局何をしても可愛いってことなんだけれど。
ヤマトヌマエビさんのお食事シーンも、小さなハサミを使ってお行儀良く食べているのがやっぱり可愛いし。
「暑かったでしょ、どうぞ~!」
わたし達は同じ高さで並んで水槽を覗き込んでいたけれど、母の声に我にかえり、いつの間にか近すぎていた距離に気付いて、わたしの方から慌てて離れた。
「申し訳ありません。頂きます」
グラスを受け取った彼に、母が「ごゆっくり~」なんて余計な一言を残して奥に消える。
何が“ごゆっくり”よ。ユキくんだってだってヒマじゃないのよ。……多分ね。
「………それで、今日は金魚を見に来たの?」
間が持たなくて、聞いてみる。
こんな言い方になっちゃったけれど、けして金魚さんに嫉妬をしていた訳ではない。断じて違う。
「いえ、それだけではなくて、商店街の夏祭りの日の事で来たんですよ」
何よ、ちゃんと金魚以外の目的があったんじゃない。
しかも聞いてみれば、金魚さんどころではない重要な内容。早く言ってよ。
夏祭りの当日には、月の透かし模様の入った和紙に願い事を書いて、それを月の形に折り【月読神社】に奉納するという風習があるという。
けれども商店街の皆さんは忙しくて当日神社に行く時間が取れない。そこで代表者がその紙を集めて回り、神社に奉納する事になっている、とのこと。
その今年の代表者としてユキくんとわたしが選ばれたんだとか。
「え、わたしなんてまだこの商店街に来たばかりでしょ。どうしてわたしにそんな大役を?」
「逆にだからなんですよ。俺と璃青さんはこの商店街に来たばかり。だからこそ商店街の皆とこれを機会に交流を深めて貰おうという皆さんの心遣いのようなんですよ」
なるほど、そういうことなんだ。
「もちろん、その間のお店の方はうちでもフォローします」
いや、さすがにそれは。
代表者としてわたしまで選ばれたのはユキくんのせいではないんだし、そこまでして貰わなくてもいいんだけど。それより……、
「でも、ユキくんと一緒にとはいえ、わたしなんかに出来るのかしら。足手まといにならないかな………」
「俺の方が少し早めに商店街に来ていますし、町内会での仕事もしているので、璃青さんに当日皆さんを紹介できると思うし、そんな不安になる事はないですから」
ユキくんはわたしよりも余程商店街のことに詳しいから大丈夫かもしれないけれど。やっぱりそんな大役、わたしに務まるとは到底思えない。
「お店の方なら、私が見てるから大丈夫よ~?こういう機会は大事にするべきだと思うわよ。商店街あってのこのお店でもあるんだから、ね?」
いつの間にか母が奥から出てきて勝手に話に割り込んでくる。一体どこから聞いていたんだろう。
「璃青さんはもう、すっかりこの商店街の一員として皆に愛されているから、楽しく挨拶するだけで終わりそうですけどね。俺が皆と話している時に璃青さんの話になると、皆口々に誉めてくるんですよ。『あんな素敵なお嬢さんはなかなかいない』とか『お嫁さんにお勧めだよね』とか。皆、璃青さんの事大好きなんですね」
何なのそれ。聞いてないんですけど………!!
ていうか、ユキくんと商店街の皆さんの会話のどこにわたしの話の入る余地があるのよ。
違うよ、“お嫁さん”とか絶対それ、何かの勘違いだから!!
母に目線を送るけれど、母は「あら、まぁまぁ」なんて言って、ユキくんの話に夢中だ。
「そんな風に商店街の人から愛されている璃青さんの事、俺も好きです」
え…………?
今、何て………。
ーーーあぁ、勿論この商店街の人間としての“好き”だよね。わたし、ここの人間として認めて貰えた、ってことなんだよね?
それは喜ぶべきことなのに、“好き”という響きに胸がチクリと痛む。
「家の叔父と叔母も当日こちらのお店の事もフォローします。璃青さんは俺がしっかりエスコートしますから安心してくださいね」
「ユキくんがいれば、安心ね! 娘を任せたわよ!」
………お母さんに言ったんじゃないから。
手を取り合ったりして何か勘違いしてないかなぁ?
「任せてください!」
もう、ユキくんまで。何を任されちゃってるのよ。
「一緒に商店街を回るだけなので、璃青さんが心配するような事はありませんから、そんな顔しないでください。何があっても俺が助けますので」
そういうんじゃないの。お役目が心配なんじゃないのよ。いやもちろんそれも大いに心配だけれど。
ユキくんと母が、わたしに向けてそれぞれがキラキラとした視線を送ってくる。
それを見たわたしは、“はぁ……”と複雑な気持ちでため息をついていた。
翌日、買い物から帰るとお店の前で、たまたま澄さんに会った。
「あら、璃青ちゃんお買い物?」
「はい。母が未だにこちらにいるので食材が欠かせなくて……」
「親娘で仲が良くていいわねぇ。ずっとここにいて欲しいでしょう?」
「いえ、実家の方も心配なんですよね。同居している兄夫婦は共働きですし、母がいないとみんな困ってるんじゃないでしょうか」
まぁ、兄嫁との仲はイマイチだけれど、それでも専業主婦の母が長い間不在なのはあまり良くはないだろう。わたしとしては、母不在の我が家がとても心配だ。
「そう……。帰ってしまわれたら寂しくなるわね。お母さま、いつまでこちらにいて下さるの?」
「一応、商店街の夏祭りが終わるまではこちらに……」
「それじゃ、お祭りの日はまたご一緒できるのね。楽しみだわ~。ところで璃青ちゃん、夏祭りの日はどんな浴衣を着るのかしら?私、璃青ちゃんの浴衣姿も楽しみにしてるのよ」
「え?ええと、一枚しか持っていないので、また同じ浴衣ですよ。……新しい浴衣は来年には作ろうとは思っているんですけど、今年はもう今から作るのは間に合わないですし」
この商店街の人は、複数持っているのが普通なのかな。前もってリサーチしておけばよかったな。
「それなら、私の浴衣で良かったら着てみない?何枚か持っているし、璃青ちゃんに似合いそうな柄の浴衣もあると思うの」
「わぁ、いいんですか?あ、見せて頂くだけでも全然構わないんですけど。来年の参考になるし」
あまり図々しいのもね。
そう思ったけれど、澄さんのご厚意が嬉しくて。
「後でお店に来て声をかけてね。一緒に選びましょうね♪」
「はい、じゃあ、お願いします!」
澄さん、何だか楽しそう。
いつもあの優しい笑顔に癒されてしまうのよね。
そんなところ、あのひともよく似てる。
そうして夕飯が済んでから、お隣へ。
「お言葉に甘えて、来てしまいました」と言うと、何やらとっても楽しげな澄さんに、お二人の住まいに案内され、あれこれ羽織っては感想を言い合った。
見た目にはちょっと渋いかな?と思った女郎花色に竹の柄が描かれた浴衣は、それだけを羽織ってみると見た目通り落ち着いた色味。なのにそこに若緑の帯を合わせることで、とても若々しく清楚な感じになる。
最終的には今まで着たことのない色味のその浴衣にふたりの意見が一致した。
「ね、これに璃青ちゃんのお店の天然石でピンクを使った帯留めがあったら、とっても素敵じゃない?」
「はい、自作で恥ずかしいんですけど、ローズクオーツのならあるんです。合うかなぁ」
「あら~、いいじゃない!髪飾りも同じ石のものがあると、もっといいわねぇ」
かくして、帯留めと髪飾りまでアドバイスをしてもらい、楽しい浴衣選びは終了。
なんだかんだで、当日が楽しみになってきた。
素敵すぎる浴衣をちゃんと着こなせるか心配はあるけれど、その初めての色合いは、きっといつもと違う自分になれる。
願い紙を集めるのはお祭りの日の夕方。その時ユキくんはどんな浴衣を着ているのかな。内心それもちょっとだけ楽しみだったりして。
さあ、お祭りまで、カウントダウン開始。
といっても、ただわたしがユキくんと顔を合わせるのが急に苦手になってしまっただけなんだけれど。
苦手?
違う。怖い、かな?
あの瞳で真っ直ぐに見られたら何かを見透かされそうな、そんな気がずっとしているから。
あの瞳はわたしが気付きたくない感情までも、きっと暴いてしまうから。
「璃青、あんた商店街の夏祭りでも同じ浴衣を着るつもりなの?」
お店の品物を奥から補充してくれながら母にそう話しかけられて、相変わらずブレスレットを作っていたわたしは作業に夢中で、おまけに誰かさんの事を考えていたから一瞬何の話かわからなかった。
「あぁ。うん、浴衣ね。分かってたらもう一枚持っていても良かったかな、って思うけど今更遅いしね。今年はあの浴衣を洗ってまた着るわよ。でも来年はここで新しいのをもう一枚作ろうかなぁ。もう少し大人っぽいやつ」
「確か呉服屋さんがあったものね」
「うん、紬屋さんね」
そんな話を親娘でしていると、お店のガラス戸が開いて、カラン、とベルが控えめに鳴った。“いらっしゃいませ”と言おうとして、入ってきたその人の目が、やっぱり正面から見られない。
「こんにちは!澤山さん」
「あ、ユキくん、こーーー」
「あら、ユキくん♪ こんにちは~」
ユキくんがお店に来ると何故かテンションの上がる母は、いつもいの一番に挨拶をしたがる。
しかもユキくんの方も真っ先に母に向かって挨拶しているのが何となく面白くない。そんなこと、口が裂けても言わないけれど。
「今日も暑いですね」
「うん。暑くて外に出たくないくらい。……ええと、今日はどうしたの?」
そうかと言って、いざこちらに向かれたらやっぱりその目が見られなくて。
僅かに視線をそらしたまま答えるしかないわたしは、随分と矛盾している。
「いえ、金魚の様子が気になりまして。元気かな、ご飯ちゃんと食べられているかな、と……」
………あぁ、そっちですか。
いや、がっかりなんかしてないけど。
でも何か悔しいから自慢してやろうっと。
「この通り元気よ。ご飯をあげるときなんて、もう元気すぎるくらいなの。あのね、わたしが近付くと、この子たち上にあがってきて口をパクパクしてるのよ。それがもう可愛くって……」
そう。毎日この子たちに癒されているのは本当。時々口に入れた餌をペッと吐き出すのもまたご愛嬌。まぁ結局何をしても可愛いってことなんだけれど。
ヤマトヌマエビさんのお食事シーンも、小さなハサミを使ってお行儀良く食べているのがやっぱり可愛いし。
「暑かったでしょ、どうぞ~!」
わたし達は同じ高さで並んで水槽を覗き込んでいたけれど、母の声に我にかえり、いつの間にか近すぎていた距離に気付いて、わたしの方から慌てて離れた。
「申し訳ありません。頂きます」
グラスを受け取った彼に、母が「ごゆっくり~」なんて余計な一言を残して奥に消える。
何が“ごゆっくり”よ。ユキくんだってだってヒマじゃないのよ。……多分ね。
「………それで、今日は金魚を見に来たの?」
間が持たなくて、聞いてみる。
こんな言い方になっちゃったけれど、けして金魚さんに嫉妬をしていた訳ではない。断じて違う。
「いえ、それだけではなくて、商店街の夏祭りの日の事で来たんですよ」
何よ、ちゃんと金魚以外の目的があったんじゃない。
しかも聞いてみれば、金魚さんどころではない重要な内容。早く言ってよ。
夏祭りの当日には、月の透かし模様の入った和紙に願い事を書いて、それを月の形に折り【月読神社】に奉納するという風習があるという。
けれども商店街の皆さんは忙しくて当日神社に行く時間が取れない。そこで代表者がその紙を集めて回り、神社に奉納する事になっている、とのこと。
その今年の代表者としてユキくんとわたしが選ばれたんだとか。
「え、わたしなんてまだこの商店街に来たばかりでしょ。どうしてわたしにそんな大役を?」
「逆にだからなんですよ。俺と璃青さんはこの商店街に来たばかり。だからこそ商店街の皆とこれを機会に交流を深めて貰おうという皆さんの心遣いのようなんですよ」
なるほど、そういうことなんだ。
「もちろん、その間のお店の方はうちでもフォローします」
いや、さすがにそれは。
代表者としてわたしまで選ばれたのはユキくんのせいではないんだし、そこまでして貰わなくてもいいんだけど。それより……、
「でも、ユキくんと一緒にとはいえ、わたしなんかに出来るのかしら。足手まといにならないかな………」
「俺の方が少し早めに商店街に来ていますし、町内会での仕事もしているので、璃青さんに当日皆さんを紹介できると思うし、そんな不安になる事はないですから」
ユキくんはわたしよりも余程商店街のことに詳しいから大丈夫かもしれないけれど。やっぱりそんな大役、わたしに務まるとは到底思えない。
「お店の方なら、私が見てるから大丈夫よ~?こういう機会は大事にするべきだと思うわよ。商店街あってのこのお店でもあるんだから、ね?」
いつの間にか母が奥から出てきて勝手に話に割り込んでくる。一体どこから聞いていたんだろう。
「璃青さんはもう、すっかりこの商店街の一員として皆に愛されているから、楽しく挨拶するだけで終わりそうですけどね。俺が皆と話している時に璃青さんの話になると、皆口々に誉めてくるんですよ。『あんな素敵なお嬢さんはなかなかいない』とか『お嫁さんにお勧めだよね』とか。皆、璃青さんの事大好きなんですね」
何なのそれ。聞いてないんですけど………!!
ていうか、ユキくんと商店街の皆さんの会話のどこにわたしの話の入る余地があるのよ。
違うよ、“お嫁さん”とか絶対それ、何かの勘違いだから!!
母に目線を送るけれど、母は「あら、まぁまぁ」なんて言って、ユキくんの話に夢中だ。
「そんな風に商店街の人から愛されている璃青さんの事、俺も好きです」
え…………?
今、何て………。
ーーーあぁ、勿論この商店街の人間としての“好き”だよね。わたし、ここの人間として認めて貰えた、ってことなんだよね?
それは喜ぶべきことなのに、“好き”という響きに胸がチクリと痛む。
「家の叔父と叔母も当日こちらのお店の事もフォローします。璃青さんは俺がしっかりエスコートしますから安心してくださいね」
「ユキくんがいれば、安心ね! 娘を任せたわよ!」
………お母さんに言ったんじゃないから。
手を取り合ったりして何か勘違いしてないかなぁ?
「任せてください!」
もう、ユキくんまで。何を任されちゃってるのよ。
「一緒に商店街を回るだけなので、璃青さんが心配するような事はありませんから、そんな顔しないでください。何があっても俺が助けますので」
そういうんじゃないの。お役目が心配なんじゃないのよ。いやもちろんそれも大いに心配だけれど。
ユキくんと母が、わたしに向けてそれぞれがキラキラとした視線を送ってくる。
それを見たわたしは、“はぁ……”と複雑な気持ちでため息をついていた。
翌日、買い物から帰るとお店の前で、たまたま澄さんに会った。
「あら、璃青ちゃんお買い物?」
「はい。母が未だにこちらにいるので食材が欠かせなくて……」
「親娘で仲が良くていいわねぇ。ずっとここにいて欲しいでしょう?」
「いえ、実家の方も心配なんですよね。同居している兄夫婦は共働きですし、母がいないとみんな困ってるんじゃないでしょうか」
まぁ、兄嫁との仲はイマイチだけれど、それでも専業主婦の母が長い間不在なのはあまり良くはないだろう。わたしとしては、母不在の我が家がとても心配だ。
「そう……。帰ってしまわれたら寂しくなるわね。お母さま、いつまでこちらにいて下さるの?」
「一応、商店街の夏祭りが終わるまではこちらに……」
「それじゃ、お祭りの日はまたご一緒できるのね。楽しみだわ~。ところで璃青ちゃん、夏祭りの日はどんな浴衣を着るのかしら?私、璃青ちゃんの浴衣姿も楽しみにしてるのよ」
「え?ええと、一枚しか持っていないので、また同じ浴衣ですよ。……新しい浴衣は来年には作ろうとは思っているんですけど、今年はもう今から作るのは間に合わないですし」
この商店街の人は、複数持っているのが普通なのかな。前もってリサーチしておけばよかったな。
「それなら、私の浴衣で良かったら着てみない?何枚か持っているし、璃青ちゃんに似合いそうな柄の浴衣もあると思うの」
「わぁ、いいんですか?あ、見せて頂くだけでも全然構わないんですけど。来年の参考になるし」
あまり図々しいのもね。
そう思ったけれど、澄さんのご厚意が嬉しくて。
「後でお店に来て声をかけてね。一緒に選びましょうね♪」
「はい、じゃあ、お願いします!」
澄さん、何だか楽しそう。
いつもあの優しい笑顔に癒されてしまうのよね。
そんなところ、あのひともよく似てる。
そうして夕飯が済んでから、お隣へ。
「お言葉に甘えて、来てしまいました」と言うと、何やらとっても楽しげな澄さんに、お二人の住まいに案内され、あれこれ羽織っては感想を言い合った。
見た目にはちょっと渋いかな?と思った女郎花色に竹の柄が描かれた浴衣は、それだけを羽織ってみると見た目通り落ち着いた色味。なのにそこに若緑の帯を合わせることで、とても若々しく清楚な感じになる。
最終的には今まで着たことのない色味のその浴衣にふたりの意見が一致した。
「ね、これに璃青ちゃんのお店の天然石でピンクを使った帯留めがあったら、とっても素敵じゃない?」
「はい、自作で恥ずかしいんですけど、ローズクオーツのならあるんです。合うかなぁ」
「あら~、いいじゃない!髪飾りも同じ石のものがあると、もっといいわねぇ」
かくして、帯留めと髪飾りまでアドバイスをしてもらい、楽しい浴衣選びは終了。
なんだかんだで、当日が楽しみになってきた。
素敵すぎる浴衣をちゃんと着こなせるか心配はあるけれど、その初めての色合いは、きっといつもと違う自分になれる。
願い紙を集めるのはお祭りの日の夕方。その時ユキくんはどんな浴衣を着ているのかな。内心それもちょっとだけ楽しみだったりして。
さあ、お祭りまで、カウントダウン開始。
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