毒の美少女の物語 ~緊急搬送された病院での奇跡の出会い~

エール

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お見舞い

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 その夜、慣れない病室で、隣のベッドに一目惚れしてしまった同い年の女子高生が寝ているというシチュエーションに興奮してしまい、深夜までなかなか寝付けなかったのだが……。

 翌日、複数の女性の話し声で目を覚ました。
 時計を見ると、朝の八時半を回っている。

 今日は月曜日、学校のみんな、俺が入院したと知って、どんな反応してるのだろうな……。
 そんな事を考えていると、

「あと、おにーちゃんにも挨拶するーっ!」

 とのかわいい声が聞こえてきた。

 うん、これは間違いなくひなちゃんだが……挨拶?
 そっとカーテンを開いてみると、

「あ、おにーちゃん、起きてたっ!」

 との元気な声。

 昨日はパジャマを着ていたのに、今日は普通の洋服だ。
 瞳も起きており、ベッドに腰掛けているが……こちらはパジャマだ。
 それと、初めて見る、二十歳ぐらいのお姉さんと、三十歳ぐらいの女性。

「おはようございます……娘のひなが、お世話になりました」

 と言って、三十歳ぐらいの女性が頭をさげる。ひなちゃんの母親だ。

「あ、いえ、こちらこそ……まあ、昨日会ったばかりですが……」

 と寝ぼけ眼で言うと、その場のみんながちょっと笑った。

 どうやらひなちゃん、退院するらしい。
 よく考えたら喉にアメ玉を詰まらせただけなので、取れてしまえばすぐに良くなったというわけだ。

 しばらく談笑した後、バスの時間が迫ったみたいで、

「またねーっ!」

 と明るく手をふりながら、母親と一緒にひなちゃんは元気に退院していった。

 ……後に残った、二十歳ぐらいの女性。
 すらっとしていて、とても美人だ。
 ちょっと困ったような顔をしながら俺の方を見て、瞳と小声で話し込んでいる。

「……どうして男の子がいるの?」

「えっと……なんか、病室が空いていないらしくて……一応、二人とも子供って扱いで、一緒の病室になったみたいなの」

 ……彼女、瞳の身内みたいだ。
 で、当然この状況をいぶかしがってるわけで……まあ、普通はそうだろうな……。

「でも、もう瞳も高校生でしょ? ひなちゃんも居なくなって、二人だけになっちゃうじゃない」

「うん……でも、二、三日だけだと思うし……」

「それでも、ゆっくり寝られないでしょう? ちょっと先生か看護師さんに話してみるわ」

「あ、だめ、お姉ちゃんっ、このままの方がいいのっ!」

 出口の方に歩き出していた女性は、瞳のその声に足を止め、ゆっくりと振り向いた。
 そして、きょとんとしている俺と、ちょっと赤くなっている瞳の顔を交互に見つめ……なぜかニヤっと笑った。

「……なーるほど、そういうことか……」

「えっ、そういうって、どういう……」

 瞳が明らかに焦っている。

「えっと……君、名前教えてもらっていいかな?」

「僕ですか? 加賀和也です」

「加賀和也君……覚えやすい名前ね……私、瞳の姉の泪(るい)です。よろしく」

 なぜか満面の笑みのお姉さん。

「あ、はい、よろしくお願いします」

「和也君、中学生? 高校生?」

「高校一年生です」

「へぇー、瞳と同じね。どこの高校?」

「えっと……帝大付属高校です」

「帝大付属!? すごいじゃない、頭いいのね」

 うーん、やっぱり世間じゃそう見られるのか。

「なんか、可愛い顔してるし……お似合いかも。瞳、ずっと女子校だったから、あんまり男の子とお付き合いとかしたことないけど、よろしくね」

「え、あ、はい……」

「もう、お姉ちゃんっ! そんなんじゃないからっ!」

 瞳が真っ赤になって否定する。

「はいはい……でも、本人同士がいいっていうなら、まあ、同室でも問題ないかな……邪魔者は退散するとしますか」

「あ、おねえちゃんっ! 違うからねっ!」

 ……お姉さん、後ろ向きで手を振りながら帰って行ってしまった……。

「……どうしよう……誤解されちゃったかも……」

 誤解……誤解なんだ……。
 なんか、ちょっと残念な気がした。

 ほんのちょっと、気まずい空気が流れたけど……またどちらともなくラノベの話題が出て、昨日のシナリオの続き、一緒に考え始めていた。

 ……気がつくと、午前11時を過ぎている。
 不意に、病室の扉をノックする音が聞こえた。

 二人で揃って、

「「はい」」

 と返事をすると……扉を開けて、俺達と同い年ぐらいの三人の女の子が入ってきた。

「瞳、今日も来たよ……」

 と、俺の姿を見て、全員目が点になっている。
 いたたまれなくなって、俺はベッドのカーテンを閉めた。

 ……なんか微妙な雰囲気の中、女の子達が瞳のベッドの側で話を始めた。

「……誰、あの人……」

「……昨日から? どうして男の子が同じ部屋なの……」

 小声で話しているつもりだろうが、こんな薄いカーテンなんてなんの遮音性もないから、わりと内容が把握できてしまう。

 それと、どうして彼女たちはこんな早い時間に見舞いに来ているのかと思ったが……俺達の学校もそうだが、もう期末テストが終わっているから、春休みまで午前中ちょっと授業があるだけみたいだ。

「……ふーん、いい人なんだ……」

「えっ、帝大付属高校?」

 ……なんか、また学校の名前が出ている。

「……へえ、いいなあ……」

 なんか、女の子達の声が明るくなってきている……。

「……和也君、カーテン開けてもらっていい?」

 これは瞳の声だ。

 ちょっと一瞬、迷ったが……こう声をかけられたら、従わざるをえない。
 ゆっくりカーテンを開けると……なぜか彼女たちから、うわあって歓声があがった。

「はじめましてぇー!」

 みんな、声を揃えて挨拶するから、ちょっときょどりながら

「あ、はじめまして……」

 と挨拶すると、なぜか笑われた。

「一日で、瞳と仲良くなったんですってね」

「帝大付属って、本当ですか?」

「部活とか、何やっているんですか?」

 質問攻めに遭う俺。

「あの……彼女とか、いるんですか?」

「いや、特にいないけど……」

 と答えると、またうわぁ、と歓声が上がる。

「瞳、よかったね」

「なっ……そんなんじゃないからっ!」

 また否定する彼女。うーん、ちょっと残念。

と、ここでまた病室の扉をノックする音。

「「はい」」

 また揃って返事する瞳と俺。

「失礼しまーっす……」

 と、入ってきたのは見覚えのある男三人。俺の同級生だ。

 どうやら見舞いに来てくれたようだが、女子高生に囲まれてニヤけているパジャマ姿の俺を見て、全員固まってしまった――。

 この日をきっかけに、今まであまり接点のなかった帝大付属高生と阿奈津女子高生の交流が始まったのだった。
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