異世界結婚相談所 ~最高に幸せになれる結婚相手、ご紹介しますっ!~

エール

文字の大きさ
5 / 72

第5話 運命の糸(フォーチューン・ライン)

しおりを挟む
 灰色熊を退けた後、さらに二時間ほど走って、ようやく目的地であるアーテムの村に辿り着いた。

 入り口には、一応警備兵が立っていたが、ジルさんとは顔見知りのようで、馬車に乗っている俺達二人とも特になにもチェックされず通された。

 村、とはいえ、結構大きい。
 ぐるりと高さ三メルほどの石壁で囲まれているし、建物も、石造りのものが多い。

「元々は小さな村だったんですが、特殊な魔鉱石がこの近くで発見されて人が集まり、それが取り尽くされた現在でも、街道の拠点として重要な場所なんですよ」

 と、ジルさんが教えてくれた。
 この村、周囲四つの街のちょうど中間点になるのだという。
 確かに、人通りも多いのだが……心なしか、活気がないように見える。

「あ、見て見て、タクヤ。ハンティング依頼……すごい、ドラゴンだって!」

 街中の共同掲示板に、ユナが反応した。

「竜!? ……本当だ。懸賞金、二百万ウェンか。これって、高いのか?」

「うーん、どうかな……竜でもいろいろ種類、あるからね。亜種のレッサードラゴンならこんな物でしょうけど、そうじゃなくて、成体だったら、ちょっと安すぎるね」

「……君なら倒せるか?」

「私? ……挑戦してみようか? レッサーでないなら、たぶん無理だけど」

「いやいや、今はそれどころじゃない」

 あぶない、余計な面倒ごとを増やすところだった。

「竜、か……私が数ヶ月前に来たときは、こんな依頼、なかったんだがね……」

 ジルさんも興味を持ったようだが……。

「……と、そんなことより、ジルさんのお相手、探さなきゃな……」

「えっ……明日の朝市まで、待つんじゃないの?」

「いや、俺が一緒に来た以上、それを待つ必要は無い。さっき言っただろう? 俺には二人を繋ぐ『運命フォーチューンライン』が見えるって」

「あ、そうね。じゃあ、それをたどっていけば……」

「ああ、すぐに見つかる……あれ? あの女性……」

 今、俺達がいるのは村の玄関広場、共同掲示板付近。
 そこに、買い物袋を片手に歩いていた女性が、こちらに近づいてくる。
 二十代前半ぐらいで、濃い茶色の髪。
 今朝見たイメージ通りで、何より決定的なのは、『運命の糸』が、ジルさんと直結していることだ。

「ジル先生……やっぱり、ジル先生ですね。お久しぶりです」

「……やあ、君は確か、ダージルさんのところの……」

「はい、アイシスです!」

 ……あっけなく、ジルさんの『最良の結婚相手』が見つかった。
 俺は彼に、

「この女性です」

 と、小声で知らせた。

「えっ、あっ……あ、そうなのですか……」

 と、戸惑い、若干慌てていた。
 俺とユナは顔を見合わせて、微笑み合った。

「えっと、それで、ダージルさんは……」

「はい……母は……ちょうど二ヶ月前に、亡くなりました……」

「そうですか……」

 二人とも、沈痛な表情になる。
 俺とユナも、えっという感じで言葉を失った。

「……でも、もう五十を超えていましたし、本人も亡くなる前に、幸せな人生だったと言っていました。先生にも、お世話になったと伝えて欲しい、とも言っていました」

 この国では、男女とも平均寿命は五十歳ぐらいだ。
 ならば、この女性の母親は、長生きではなかったが、短すぎる人生ということでもなかったのだろう。
 ジルさんも、

「私の力では、どうしようもありませんでした……でも、そう言って頂けたのであれば、医者として救われる思いです」

 と、残念そうにしていた。

「それで、えっと……今回も診療ですか?」

「いえ、今回は、ちょっとプライベートで……ああ、ご紹介が遅れましたね。この方達は……」

 と、ジルさんは俺達の事を紹介しようとして、急に言葉が途切れた。
 それはそうだろう、「結婚相談所の方です」なんて、言える訳がない。

「私は、この村までの護衛を任せられました、ユナという者です」

 と、お辞儀して自己紹介する少女。うん、ナイスな答えだ。

「……同じく、同伴させて頂きました、タクヤです」

 ここは同調させてもらった。

「ユナさんにタクヤさん、ですね。お若いのに、ハンターさんなのですね」

「はい、こう見えて私、上級ハンターなのですよ」

「上級……へえ、凄いのですね」

 そう言って微笑んでくれる。
 うん、この娘さん、あんまりハンターのこと知らないみたいだ。

 それにしても……イメージで見たより、ずっと美人だ。
 歳は二十代前半ぐらい。
 笑顔も綺麗だし、髪もつややかで清潔感に溢れている。
 目もぱっちりと大きくて、鼻筋もすっと通ってて。
 微笑んだときに出来るえくぼが、これまた……。

 と、その時、つま先に衝撃、一瞬遅れて激痛を感じた。

「いてっ!」

 足元を見ると、ユナにかかとで踏みつけられているではないかっ!

「な、なにを……」

 文句を言おうとしたが、そのまま腕を引っ張られて数メートル移動させられた。

「ちょっと、なにジロジロあの人のこと、見つめてるのよ!」

「なっ……見つめてるって、朝イメージで見た人だったから、その確認をしてただけだよ」

「……それだけ? 見とれていたんじゃないの?」

「そ、そんな事ないっ……」

「……指輪、光った! ほら、ウソついてるじゃないっ!」

 ……こいつ、面倒なアイテム持ってるんだった……。

「ま、まあ、綺麗な人だなとは思ったけど……」

「もう、男の子ってみんなそうなの? 言っとくけど、あのアイシスさんは、ジルさんの最良のパートナーなんだからねっ!」

「そんなの、分かっている……っていうか、俺が教えたんじゃないか」

「分かってるなら、ジロジロ見たりしないのっ!」

「どうして……」

「どうしてもっ!」

 なぜかよく分からないが、彼女の機嫌を損ねてしまった。
 別に俺は、ジルさんのパートナー候補を奪おうなんて考えはこれっぽっちもないのだが、なんか誤解されてしまったらしい。
 いや、同じ女性として、自分を差し置いて綺麗な女性を見つめられるのは嫌なものなのだろうか。

「……いや、俺、そういうの鈍感だから……気に障ったなら謝るよ」

「……そ、そう? ならいいけど……ごめん、私も怒りすぎた」

 なぜかちょっと赤くなるユナ。
 うーん、女心はいまいち分からない……っていうか、ユナがまだ子供なだけか?
 まあ、ここは分かり合えたことにして、笑顔で二人の元に戻る。

「タクヤさん、大丈夫ですか? 何か痛そうにしてたみたいですけど……」

 アイシスさん、ユナが俺のつま先を踏むところは見ていなかったようだ。

「いえいえ、何でもないんですよ、ご心配なく」

 なぜかユナが答える。

「そうなんですか? ……お二人とも、仲良いんですね。うらやましい……」

「私達が? いえ、むしろジルさんとアイシスさんの方がうらやましい……」

 ユナが余計な事を口走るので、今度は俺が肘で突いて注意する。
 彼女はあわてて自分の口を手で塞ぐが、ちょっと遅い。

「わ、私? いえ、私はただ、ジル先生にお世話になったことがあるっていうだけですよ」

 そう言うわりには、かなり赤くなっている。
 うん、わかりやすい。この人、以前からジルさんに憧れていたんだ。
 ジルさんも照れている……そりゃそうだろう、目の前の美人が、最良の結婚相手だと分かっているのだから。

 まあ、ちょっとハプニングはあったけど、結果的に打ち解けることができて、

「もしお暇ならば、家でお茶でもいかがですか」

 というアイシスさんのご好意に甘えることにした。
 彼女の家までの道中、前を歩く二人に聞こえないように、小声でユナと会話する。

「さっき言ってた、『運命の糸』がぼやけているっていうの、喪中だから結婚できない、とかじゃないの?」

「いや、それは時間が解決してくれる話だから、『大きな障害』って訳じゃないはずだ」

 この国の喪中期間は、長くても一年だ。

「そうなんだ……それで、やっぱり今もぼやけてるの?」

「ああ。あんなに短い距離で、直結してるのにな……」

 そんなやりとりをしているうちに、すぐにアイシスさんの家に辿り着いた。
 そこは、やや小さいながらも綺麗にまとめられた、彼女の人柄を現すような、かわいい感じの家だった。

 丸く小柄なテーブルに、木製の四つの椅子。
 二つは自分と母親がずっと使っており、残りの二つは来客用で、彼女の母親が元気なときは、毎日のように友人がお茶を飲みに来ていたという。

 父親も三年ほど前に亡くなっており、その時に相続の関係でそれまで住んでいた家を売って、その遺産でこの借家で生活していたらしい。

 アイシスさん、母親を亡くした後は、買い物の代行や家事手伝いの仕事をしていたが、生活できるほど稼げるわけでもなく、遺産も少なくなってきていたので、そろそろ街に出ようと考えていたという。

 すると、ジルさんが

「ちょうどいい、今、サウスバブルの私の病院で看護師の仕事を募集している、母親をずっと看病していた君なら務まると思う」

 と切り出し、アイシスさんも

「本当ですか、私で良ければ、ぜひ!」

 と、目を輝かせ、そこまでは完璧な展開だったのだが……。
 アイシスさんが、ティーカップを持ち上げたときに、ポトリとそれを取り落とし、わずかに残っていた紅茶が白いテーブルクロスに広がった。

 彼女は、

「ごめんなさいっ!」

 と、慌てて立ち上がろうとしてそれができず、椅子に落ちるように座り込んだ。

「ほ、本当にごめんなさい……最近、こうやって静かに座っていると、突然手が痺れて、足にも力が入らなくなるときがあって……」

 ジルさんは、慌てて彼女の側に駆け寄った。

「ちょっと、失礼……」

 そう言って、彼女の目の下や、首筋に触れる。いわゆる、触診だ。
 俺もユナも、彼が医者であることを思い出して、成り行きを見守っている。

「……まさか……」

 ジルさんの表情が、厳しいものに変化する。

「まさか、『アーテム病』……十数年前に根絶されたはずなのに……」

 ジルさんの重い言葉に、なにか、空恐ろしいものを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...