異世界結婚相談所 ~最高に幸せになれる結婚相手、ご紹介しますっ!~

エール

文字の大きさ
8 / 72

第8話 やっぱり誰とも結婚できない

しおりを挟む
 翌日、寝坊することなく三人とも村の広場に集合。

 まずは馬をレンタルすることから始める。
 馬はごく一般的な移動手段であり、冒険者や行商人であれば乗馬は必須スキルとなる。
 俺も、山を下りてきて間もなく、三日ほど集中して訓練に励み、馬のしつけが良かったこともあって、なんとか駈歩かけあしまでは出来るようになっていた。

 冒険者のユナはもちろん、医者でお金持ち(たぶん)のジルさんも俺よりうまい。
 その方が目的地まで早く着く、ということもあるが、万一竜と出くわしたとき、やはり馬に乗っていた方が逃げられる確率がぐんと高くなる。

 なお、情報収集は前日にあらかた済ましている。
 一番の情報源は、やはり冒険者ギルドだ。
 この竜は賞金首になっていることもあって、そこそこネタが集まっていた。

 ざっと調べたところでは、

「緑色で、山のように巨大だった」

「ものすごい勢いで走って追いかけてきた」

「五人でホシクズダケを取りに行っていたところ、その竜に出くわし、バラバラに逃げた。四人は無事帰還したが、一人は行方不明のまま」

 等の情報が得られていた。
 さらに、まだ本職のハンターによる討伐は一度も行われていない、とのことだった。

 ユナによれば、やはり二百万ウェンで竜退治は、安すぎるということだ。
 例えば五人で討伐に出たとしたならば、命がけの戦いになるのに、倒せても一人四十万ウェン。割に合わない。

 竜の種族としては、緑色をしていて、走る速度が速いということで、やはり地竜と呼ばれる最も一般的な竜である可能性が高いとのことだ。

 この竜、空こそ飛べないが、上位種である(空を飛ぶ)真竜と比べても、走力は短距離であればそれほど劣らず、凶暴であるという。

 山のように巨大、というのが少々気になるが、体長が七~八メル、大物になれば十メル、体高も三~四メルにもなるというのだから、初めて見た人は大げさに『山のように』と表現してもおかしくはない、ということだった。

 さらに注目すべきは、五人で逃げて、四人助かったという点。
 ユナによれば、散り散りに逃げた結果、一人だけが襲われて、あとの四人は助かったのだろうということだ。

「申し訳ないけど、襲われたら食べられてくれる? 私達、その間に逃げるから」

 という彼女の悪魔の様なお願いは、もちろん全力で拒否しておいた。
 冗談だとは思うが、本音だったら怖い。

 この日の天気は快晴。
 見通しも良く、竜がいればすぐ見つけられる絶好のコンディションだ。
 といっても、狩るわけではなく、逃げるためなのだが。

 一時間ほど馬に乗り、目的の『星の洞窟』近くに到着。
 背の高い木はほとんど生えておらず、草原の中にごつごつとした石灰岩柱が生えている。
 視界を遮る物は存在せず、これなら、竜が近づいて来ればすぐ分かる。

 そしてその洞窟は、ぽっかりと、大きな口を開けているように存在していた。
 縦に十メル、横に三十メルほどもの大きさがあり、斜め下に緩やかな傾斜で入り込んでいるという。

 俺達は、用心のために百メルほど離れたところで馬を降り、まずユナが、一人で様子見にその入り口へと近づいていった。
 だが、その穴の中に入ることはなく……血相を変えて、すぐに帰ってきた。

「ありえない……何かの間違いよ。すぐに引き返しましょう……」

 心なしか、震えているようにも見える。

「……竜が、洞窟の中に居るのか?」

「ううん、多分いない。『生物探知』の魔法に引っかからなかったから」

「……だったら、チャンスじゃないのか?」

「そういうレベルじゃないの! 足跡……信じられないけど、地竜のサイズじゃない。それよりも、遙かに大きな……」

 と、その時、辺りが一瞬暗くなった。
 全員驚いて空を見上げると、眼前を巨大な……本当に巨大な、『山のような』何かが通り過ぎた。

 そしてそれは、二百メルほど先に、轟音と共に着陸……いや、不時着した。
 それほど、バタバタとした着地だった。
 そして全員、目を見張った。

「そんな……どうして……どうして、真竜がいるの……話が違う……」

 青ざめるユナ。
 ジルさんも、呆然としている。

 俺は、夢でも見ているのかと思った。
 体高、約十メル。
 体長、約二十五メル。最大級の鯨に匹敵する。
 これが、この生物が、空を飛んでいたのだ。

 伝説級の古代種、真竜。

 翼に傷を負っているのか、かなり気にしてるようだった。
 その化け物が、我々を視界に捕らえ、そして凄まじい咆吼を上げた。
 そこに居た三人共が、耳を押さえてしゃがみ込んだ。

 馬は三匹とも、全力で逃げていった。

 そしてその巨竜は、ゆっくりと、地響きを轟かせながらこちらに向かってくる。
 少しずつ、その歩みが速くなり……俺は、死を意識した。

 と、一歩前に出たユナ。
 大きく印を結び、長い詠唱で魔力を両手に集中させている。
 バチバチと、全身から身の毛がよだつような恐ろしい音が聞こえる。

 そして次の瞬間、

大疾空雷撃破リフ・レイン!」

 ユナの叫びにも似た呪文の発動と共に、両手から衝撃波を伴った凄まじい雷撃が発せられ、狙い違わず巨竜に直撃した。

 直後、ユナは、ふらふらとよろめきながらも視線を真竜に向け、

「お願い……お願い……」

 と、呟いていた。

 俺も、ジルさんも、あの灰色熊の時とは比べものにならない、ユナの全力の魔法を食らった竜が、倒れるか、逃げ出すのを期待し、祈った。

 ……しかし、巨竜は……ほんの数秒、動きを止めたものの……かえって怒りを覚えたのが、ものすごい勢いでこちらに向かって走り出した。

 逃げられない。
 到底、逃げられるものではない。

 死。

 このままでは、あと十数秒後に確実に死が訪れる。

 口の中が乾く。
 さっきの咆吼で戦意など根こそぎ刈り取られており、立っていることがやっとの状態だった。

「……空を飛ばなかったのは、翼を怪我していたため。こんな餌のないところに真竜が住み着いたのも、おそらく、何らかの原因で不時着せざるをえなかったため。今、傷が癒え、試しに空を飛んで感触を確認していた……そして、『山のような』という目撃情報も、大げさじゃなかった……」

「ユナ、いいから、早く、逃げろ!」

 呆然としているように見えるユナに、俺は大声で怒鳴った。

「ごめん、タク……ジルさん。私の判断ミス。星三つの冒険者なのに、とんだ失態……」

「そんな事、いま言っている場合じゃ無いだろう! 早く、早くっ!」

「……無駄よ。真竜の走る速度は、馬の全力疾走以上。確実に、一人は食い殺される……」

 そしてユナは、ゆっくりと俺達の方に振り返った。

「タク……あなたの占い、凄いね。見事、的中……私は、やっぱり誰とも結婚できない……幸せにもなれなかったかった……」

 目に涙をため、引きつった笑みを浮かべるユナ。
 俺はその表情を、一生忘れることは無いだろう。

「ばかなっ! 諦めるな、逃げるんだっ!」

 その言葉に、ユナは首を横に振った。
 そして、鞘から長剣を抜く。

 素人目にも分かる、微妙に虹色の輝きを放つ、強力な魔力の込められた逸品。
 しかし、それでも、そんな長剣程度であの化け物を倒せるとは思えなかった。

「……二人だけで、全力で逃げてっ! その間、私が食い止めるからっ!」

 それだけ言い残すと、満年齢で十六歳のその少女は、単身、伝説級の巨竜に立ち向かっていった。

 自分の身を犠牲にして、我々二人を生き残らせるために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...