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エール

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第21話 爆炎の使い手

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 広さ五十メル四方、高さ二十メルという巨大な石造りの空間は、壁と天上から、白く、淡い魔法の光が放たれていた。

 そこにたたずむのは、黒で統一された魔法衣を纏う、十代前半の少女だった。
 漆黒の帽子からこぼれる髪は金色で、白色の光を反射し、輝いている。
 両手には何も持たず、無表情で、その視線は虚空を見つめて動かない……いや、焦点があっていないようにも見えた。

 突然、壁の一部が幅十メルほどに渡って上方にせり上がり……そこに待機していたおぞましい巨大な魔獣が、ゆっくりと大きな空間の中へと進んできた。

 丸く、大きな光る目。
 耳元まで裂けた巨大な口。
 この巨大な大広間の三分の一を占めるほどの巨躯を引きずり、四本の足をのそり、のそりと動かすその化け物は、少女に気付き、身の毛もよだつような雄叫びを上げた。

 極上の、エモノ。
 人間の、娘。
 生きたエサに食らいつけるのは、いつ以来だろうか……。

 その巨大生物……いや、自分が『死んでいる』ことに気付いていない屍竜(Dragon zombie)は、わずかに残っている本能のまま、腐乱死体とは思えぬ俊敏な動きで少女に襲いかかる。

 が、彼女が右手をかざした次の瞬間、火炎の大渦が腐敗したその肉体を蹂躙した。

 危機を察知した屍竜は耐魔レジストを試みるが、その想像を絶する熱量と魔力に対しては、文字通り『焼け石に水』の状況だった。

 屍竜にとっては、生前ほど耐魔能力が発揮できなかったとはいえ、あまりに力の差が大きすぎた。
 盛大に『火葬』され、その魔獣は一分と持たずに魔核と骨を残して崩れ落ちた。

「……『屍竜』が一撃か……だが、耐魔ではなく、耐熱・耐炎であればどうか……」

 どこからともなく男の声が聞こえ、先程とは反対側の壁がせり上がり、次の巨体が放たれた。
 高さ十メル、灰褐色の、人型をした巨大な石像。
 ストーン・ゴーレム、意思を持たぬ、ただ目の前の敵だけを殲滅するよう命令されている伝説級の巨兵だ。

 ストーン・ゴーレムは、武器は持っていない。その必要がないからだ。
 その石の拳が、超重量の足が、十数人の騎士を全滅させるほどの攻撃力を持っている。

 それに対し、少女は、相変わらず無表情のまま、今度は両手を頭の上に掲げる。
 しかし、ゴーレムの動きはその巨躯にかかわらず非常に早く、少女の体に接近し、全力で拳を振り下ろした。

 石造りの広間全体が震えるほどの衝撃、振動が、轟音と共に湧き起こる。
 だが、その場に少女はいなかった。

 ほんの一瞬の間に、彼女は同じ姿勢のまま、大広間の隅に移動していた。
 そして彼女が両腕を振り下ろした瞬間、ゴーレムの前方と、左右の斜め後方から同時に、人間の頭ほどの火球がゴーレムを襲う。

 三つがほぼ同時に、三方からゴーレムに激しくぶつかった瞬間、凄まじい爆音と火炎、熱風が発生し、黒い煙がしばらく立ちこめた。

 煙が晴れた時、バラバラに砕けたゴーレムと、その破片を見下ろす少女が、傷一つつかないまま、最初の時と同様にじっと佇んでいた。

 ただその呼吸は荒く、顔全体が真っ赤になっていた。

 そして対面の壁から、今度は小さく……といっても、普通の家屋のドアぐらいの大きさで壁面が開き、二十代後半ぐらいの男と、六十は超えているであろう老人が、大広間に入ってきた。

「ストーン・ゴーレムも一撃か……火炎・熱が効きそうもないと判断し、爆撃系に切り替えた。なかなか頭を使ったな……」

 若い方の男はそう言いながら、少女に近づき、なにやら魔法をかけた。
 とたんに彼女は霜が付いたように白くなり、それらが徐々に消えた後、普通の状態に戻っていた。

「さすがは転生体、といったところか……末恐ろしい娘に育ったもんじゃの」

 老人が冷やかすように青年に告げた。

「まったく……恐ろしすぎて、私の手には負えないぐらいです」

 彼は苦笑いを浮かべながら、右手でその頭を撫でた。
 少女は無表情なまま、わずかに首を縦に動かしていた。

「……あの屍竜もストーン・ゴーレムも、おぬしの傑作、お気に入りだったのではないか?」

「貴方が、ミリアを手放せと言ったからでしょう? その前に、どれだけ戦えるか腕試しのつもりだったのですが、想像以上の実力を示した……その実験のための人造魔獣二体の犠牲など、安い物です」

 彼はそう言いながら、わずかに笑みを浮かべた。

「ふむ……やはり相当、その娘に入れ込んでいるようじゃの……ところで、その預ける先のパーティメンバーについて、もう少し詳しい状況が分かったぞ」

「……そうですか、それならばぜひ聞きたい」

 若い方の男は、興味深げに老人にそう伝えた。

「うむ。メンバーは五人。うち三人は、治癒術士、剣士、魔導剣士じゃ」

「魔導剣士? それはめずらしいですね」

「うむ。しかも若い女性じゃ。さらにもう一人、女性がおる。この娘は、上級の氷結系魔術師じゃ。まだ十代半ばぐらいのようじゃが……潜在魔力は、ワシやおぬしを軽く超えておるぞ」

「十代半ばで上級の魔術師? ……それはすごい。しかも氷結系なんていうレアスキル、定期的に冷却しなければならないミリアにはぴったりだ……さすが老師ですね……」

「ふっ、おだてるのがうまいな……しかし、驚くのはまだ早い。残りの一人は若い男で……ワシやお前と同じく、『神から与えられし特殊能力ユニークスキル』を持っておるぞ」

「なっ……まさか……一体、どんな能力なのですか!?」

 青年が、初めて動揺した表情を見せて、老師と呼ばれた男はにやり、とほくそ笑んだ。

「まだそこまでは分からぬ……しかし相当えげつない能力であることは間違いないじゃろう」

「……なるほど、一筋縄ではいかない、ということですね……それならば、逆にますますこのミリアを同行させることに異議はありません」

「ふ、調子のよいやつめ……ただ、ワシは『同行する』ところまでしか見えておらぬ。どのような結果になるかわからぬ。それでもいいのじゃな?」

「ええ……いざとなればこのミリア、世界の反対側からでも単独で帰還することでしょう」

「さすがおぬしの最高傑作、相当な自信じゃな……じゃが、前にも言ったように、表向きは姫様の治療法調査の旅じゃ。くれぐれも『やりすぎ』のないようにな」

「心得ております。このミリアにもよく言い聞かせておきます」

 彼はそう言って、彼女の頭をぽんぽんと、軽く叩いた。
 ミリアという名のその少女は、相変わらず無表情のまま、小さく頷いて答えたのだった。
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