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第65話 砂漠の遺跡

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 小都市サイカまでは、馬車と船を乗り継いで、七日間もかかってしまった。

 王都セントラル・バナンの遙か東に位置し、その規模はサウスバブルと同程度。
 街自体に際立った特徴はないのだが、その北側に砂漠が存在することで知られている。

 南北に十キロ、東西に二十キロと、それほど大規模ではなく、砂丘と言った方がしっくりくるかもしれない。

 とはいえ、見渡す限り一面砂原で、風により波のような『風紋』が広がっている光景は、初めて見る者を感動させる。
 実際、ユナは大はしゃぎしていて、退屈そうにしているミリアとは対照的だった。

 そんな砂漠の真ん中に、数十メルの規模で円形に窪んだ場所があって、その底は石造りの建物のような物が存在した。

 ただし、半分以上砂に埋もれている。
 一応、窪みの周りはロープが張られ、『立ち入り禁止』の札が立てられているが、見張りがいるわけでもない。

「信じられないかもしれないけど、この砂地の下には、大きな神殿が存在している。さらにその奥に、『門(ゲート)』が存在しているんだけど……見た方が早いだろうな。ミリア、すまないけどこの砂をどかしてくれ」

 俺がミリアにそう頼むと、彼女はこくりと頷いて、両手をかざし、意識を集中して呪文を唱えているようだった。

 見る間に、高さ十五メル以上の大きなつむじ風が窪地の直上に発生、建物に降り積もった砂を巻き上げていった。

「……相変わらず、ミリアの魔法は凄いねー」

 と、やっぱりユナは大はしゃぎだ。

 数分間にわたってつむじ風を継続した結果、扉のような物が見えてきた。
 強大な魔術師であるミリアにとっても結構なハードワークだったようで、息を大きく切らしている。熱も出ているようだ。

『氷水晶の護符』と『魔結晶』で彼女の回復を図ってから、あらためて全員でその遺跡を見た。

「……これが、古代地下神殿への入り口だよ。最初見たときに窪んでいたのも、ミリアが前に砂をどけたときの名残なんだ。『運命の糸』がなければ、ここにこんな物が埋まっているなんて、絶対に誰も気付かなかっただろう」

 俺がそう説明すると、

「ほんとに、そうね……これだけの砂を掘り出そうなんて、気が遠くなること誰も考えない。私達だって、ミリアがいなければ相当苦戦したでしょうね……」

 ユナは目を丸くして、呟くようにそう言った。

「しかも、ここに入るには鍵が必要だ……その鍵だって、まさかあんな森林の奥深くに存在しているとは思わなかったけどな」

「えっ……砂漠の神殿の鍵が、森林にあったの?」

「ああ……ここから馬車で半日もかからないぐらいの場所で、『天女の墓所』と呼ばれている。確かに変な石像とか、遺跡っぽいなにかがあるけど、古すぎて研究の対象にもなっていなかったんだ。お宝が発見された、なんて話もないらしいし」

「……でもお宝、あったんでしょう?」

「ああ、意表をついた形で見つかった。空っぽの遺跡の下に、もう一つ別の遺跡があったんだ」

「……なにそれ?」

「俺達もよく分からない。数千年以上前の遺跡だ、伝説すらも残っていない。ひょっとしたら、神話の一部にこれらを作った者達の話が、組み込まれているのかもしれないな……」

 神話の中では、一夜にして消えた都市の話なんかはいくらでもある。この砂漠の遺跡も、『天女の墓所』も、その内の一つだったのかもしれない。

 鍵は、金色に輝き、両手で持ってもまだ余るほど大きく、そして頭の部分には、青い光を放つ、人差し指の爪ぐらいの美しい宝石が埋め込まれていた。

 その大きな先端を、ウィンが扉の鍵穴に差し込むと、その部分から上下に分け目が現れて、ゆっくりと自動で開いていく。

 ちなみに、鍵は扉にはついて行かず、ウィンの手元に残ったままだった。
 全員が中に入ると、扉はゆっくりと元の閉った状態へと戻っていった。

 そして次の瞬間、ユナは

「うわあっ、すごいっ!」

 と歓声を上げた。

 天上全体が、星をちりばめたように光り輝いている。
 壁面や床も、うっすらと明かりが灯り、歩くことに支障はない。

「すごいすごい、これってどうなってるの? あれ、ホシクズダケ?」

「いや……多分、僕の魔力で光っている、そういう照明なんだろうね。扉が開くときに、僕の魔力、結構な量が吸い取られたから」

 ウィンがそう説明した。

「……っていうことは、これって……神話とかによく出てくる、超古代の仕掛けっていうこと?」

「ああ、そうだろうな……少なくともこの遺跡を作った古代人達は、俺達よりも遙かに進んだ文明を持っていた。この先、もっと驚くことになる」

 俺の一言に、ユナはますます目を輝かせた。
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