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第64話 アイゼンハイムの開発魔法
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ウィンの見た目は、二十歳そこそこの青年のようだ。
しかし実年齢は、八十歳を越えた老人である。
神に特別な能力を与えられた彼だけの特異体質かと思ったのだが、『究極縁結能力』で見たクラーラも同じぐらいの歳なので、ウィンの『究極完全回復魔法』を受けた者は同じような体質に変化している、と俺は考えている。
その仮説が正しければ、ユナも歳をとらない。
そうすると、俺だけ老けていくのを、見た目十代のユナがずっと見守り続けて行くわけで……それはそれで辛い。
いっそ、ウィンに俺もその大魔法をかけてもらいたいのだが、今でさえとんでもない見返りを要求されているのだ、言うだけ無駄だろう。
彼は、自分の歳をごまかすためなのか、あえてやや子供っぽい口調で話す。
その気になれば、威厳のある貴族のようにも、人生経験豊富な老人のようにも話せるらしいが、普段は今のしゃべり方の方が落ち着けるのだという。
ちょっと世の中を達観したような……悪く言えば、我々を小馬鹿にしたような物言いをすることがあるが、それも年齢故か。
なんでも、彼の治癒魔法を頼って多くの人々が訪れるのだが、危険な目に遭ったこともあるし、裏切られたこともあるという。
純粋に治療目的で訪れるだけでなく、なんとか利用してやろうと考える不届き者がいるわけで……そんなのが何十年も続いたのだ、多少人間不信になったとしてもおかしくはない。
そんな彼だが、クラーラの話をしたときは、真剣な表情になる。
六十年という歳月を経てなお、彼が恋い焦がれる相手。
俺の占いでも、最も幸せに慣れる結婚相手として、ウィンとクラーラは運命(フォーチューン)の糸(ライン)で結ばれている。その事に彼は期待しているし、なんとしても彼女に会いたいと努力している。
俺達のような若者となんら変わらぬその熱い情熱に、何度感動させられたことか。
だから、俺達はウィンのことは、こう認識している。
『ちょっと考え方の古くさい、同じ年代の若者』と……。
そんな彼だが、『究極完全回復魔法』以外にも、実に多彩な治癒魔法が使え、また、世に広めたことで、彼のもう一つの名前、『アイゼンハイム』が知られている。
その代名詞と言われるのが、『放出回復魔法』だ。
通常、止血や増血、鎮痛、麻痺解除、解毒といった回復魔法は、怪我人や患者の側に寄り添い、直接患部に触れるか、またはごく近距離で手をかざして詠唱しないと効果は現れない。
しかし彼の場合、『目標に飛んでいく』攻撃魔法のように、回復魔法を飛ばす事ができるのだ。
これは、『威力のごく弱い、害のない攻撃魔法』に回復魔法を混ぜ合わせる、かなりとんでもない手法なのだが、彼はこの方法を思いつき、開発に成功した。
このおかげで、例えば『百メル先で倒れた』兵士の治療を、安全な場所から実施することができるのだ。
もちろん、高度な魔法技術ゆえ、修得するには生まれつきの才能に加え、厳しい訓練が必要になる。
また、本来であれば一般の医師には必要のない技術だ。
冒険の中で幾度となく窮地に陥った彼だからこそ、開発の必要性を感じたのだろう。
基礎さえマスターすれば、応用が効くのもこの手の魔法のすばらしいところだ。
つまり、『目標に向かって正確に飛ばす』技術さえ身につければ、止血だろうが解毒だろうが、飛ばすことができるのだ。
ただ、難点は、やはりその修得難易度の高さであり、十メル以上の遠距離に飛ばせるのは、今のところ二十人もいないのだという。
また、『事前回復魔法』も、彼が開発した偉大な魔法の一つだ。
これは、敵との戦闘になった際、『怪我をしそうな味方』にあらかじめかけておく。
すると、実際に怪我をしてしまった時、その瞬間に回復魔法が発動するというものだ。
効果が数分しか持たず、空振りに終わることも多いのだが、肉弾戦に挑む騎士や戦士にとって、この魔法をかけられているのといないのでは、戦闘に対する安心感が全く異なるのだという。
これはさらに修得が難しい魔法で、使用できる者は十人もいない。
もちろん、ウィンはこれらの魔法を、しかも多重に操れる唯一の治癒術師だ。
この国の戦術を大きく変える、とまで絶賛された彼の功績は、決して軽んじられるべきではないだろう。
……と、俺はそんな事を、馬車の中で話した。
乗っているのは、俺とユナ、ミリア、そしてウィンだ。
ウィンはそれに対し、
「うん……タクヤはよく分かっているなあ。結構開発に苦労したんだ、そんな風に褒められるの、悪い気分はしないね」
と、上機嫌だ。
「まあ、今も話したとおり、ジル先生みたいな普通の医師には全く必要ないかもしれないけど、戦地に赴く騎士とか、俺達みたいな冒険者にとっては、ものすごくありがたい魔法だな」
俺はなおも褒める。
「いろいろ嫌な経験、してきたからねぇ。もちろん、君たちがピンチの時にはかけてあげるよ。同じ目的を持った、仲間だからね」
確かに、王国、いや、大陸一と言われる治癒術師が仲間になってくれているのは、ものすごく心強いことだ。ただ、冒険自体が彼のためであるのだけれども。
「……分かった!」
ユナが、ぽん、と手を叩いて、嬉しそうに声を上げた。
「今言った魔法って、全部、クラーラに褒めてもらいたくて開発したでしょう!」
そのユナの一言に、俺は、まさか、と反論しようとしたが……。
「……い、いや、別にそういう訳じゃあないけど……」
ウィンは真っ赤になっている。絶対にそういう訳だ。
「うん、ウィンも可愛いところ、あるね。早くクラーラに会って、見せてあげなくちゃね」
「……まあ、早く見せたいっていうところは当たっていると言っておくよ」
照れるウィンを見て、ユナにかかれば齢八十の大治癒術師も、友達ぐらいにしか思えないんだろうな、と、その大物ぶりに感心したのだった。
しかし実年齢は、八十歳を越えた老人である。
神に特別な能力を与えられた彼だけの特異体質かと思ったのだが、『究極縁結能力』で見たクラーラも同じぐらいの歳なので、ウィンの『究極完全回復魔法』を受けた者は同じような体質に変化している、と俺は考えている。
その仮説が正しければ、ユナも歳をとらない。
そうすると、俺だけ老けていくのを、見た目十代のユナがずっと見守り続けて行くわけで……それはそれで辛い。
いっそ、ウィンに俺もその大魔法をかけてもらいたいのだが、今でさえとんでもない見返りを要求されているのだ、言うだけ無駄だろう。
彼は、自分の歳をごまかすためなのか、あえてやや子供っぽい口調で話す。
その気になれば、威厳のある貴族のようにも、人生経験豊富な老人のようにも話せるらしいが、普段は今のしゃべり方の方が落ち着けるのだという。
ちょっと世の中を達観したような……悪く言えば、我々を小馬鹿にしたような物言いをすることがあるが、それも年齢故か。
なんでも、彼の治癒魔法を頼って多くの人々が訪れるのだが、危険な目に遭ったこともあるし、裏切られたこともあるという。
純粋に治療目的で訪れるだけでなく、なんとか利用してやろうと考える不届き者がいるわけで……そんなのが何十年も続いたのだ、多少人間不信になったとしてもおかしくはない。
そんな彼だが、クラーラの話をしたときは、真剣な表情になる。
六十年という歳月を経てなお、彼が恋い焦がれる相手。
俺の占いでも、最も幸せに慣れる結婚相手として、ウィンとクラーラは運命(フォーチューン)の糸(ライン)で結ばれている。その事に彼は期待しているし、なんとしても彼女に会いたいと努力している。
俺達のような若者となんら変わらぬその熱い情熱に、何度感動させられたことか。
だから、俺達はウィンのことは、こう認識している。
『ちょっと考え方の古くさい、同じ年代の若者』と……。
そんな彼だが、『究極完全回復魔法』以外にも、実に多彩な治癒魔法が使え、また、世に広めたことで、彼のもう一つの名前、『アイゼンハイム』が知られている。
その代名詞と言われるのが、『放出回復魔法』だ。
通常、止血や増血、鎮痛、麻痺解除、解毒といった回復魔法は、怪我人や患者の側に寄り添い、直接患部に触れるか、またはごく近距離で手をかざして詠唱しないと効果は現れない。
しかし彼の場合、『目標に飛んでいく』攻撃魔法のように、回復魔法を飛ばす事ができるのだ。
これは、『威力のごく弱い、害のない攻撃魔法』に回復魔法を混ぜ合わせる、かなりとんでもない手法なのだが、彼はこの方法を思いつき、開発に成功した。
このおかげで、例えば『百メル先で倒れた』兵士の治療を、安全な場所から実施することができるのだ。
もちろん、高度な魔法技術ゆえ、修得するには生まれつきの才能に加え、厳しい訓練が必要になる。
また、本来であれば一般の医師には必要のない技術だ。
冒険の中で幾度となく窮地に陥った彼だからこそ、開発の必要性を感じたのだろう。
基礎さえマスターすれば、応用が効くのもこの手の魔法のすばらしいところだ。
つまり、『目標に向かって正確に飛ばす』技術さえ身につければ、止血だろうが解毒だろうが、飛ばすことができるのだ。
ただ、難点は、やはりその修得難易度の高さであり、十メル以上の遠距離に飛ばせるのは、今のところ二十人もいないのだという。
また、『事前回復魔法』も、彼が開発した偉大な魔法の一つだ。
これは、敵との戦闘になった際、『怪我をしそうな味方』にあらかじめかけておく。
すると、実際に怪我をしてしまった時、その瞬間に回復魔法が発動するというものだ。
効果が数分しか持たず、空振りに終わることも多いのだが、肉弾戦に挑む騎士や戦士にとって、この魔法をかけられているのといないのでは、戦闘に対する安心感が全く異なるのだという。
これはさらに修得が難しい魔法で、使用できる者は十人もいない。
もちろん、ウィンはこれらの魔法を、しかも多重に操れる唯一の治癒術師だ。
この国の戦術を大きく変える、とまで絶賛された彼の功績は、決して軽んじられるべきではないだろう。
……と、俺はそんな事を、馬車の中で話した。
乗っているのは、俺とユナ、ミリア、そしてウィンだ。
ウィンはそれに対し、
「うん……タクヤはよく分かっているなあ。結構開発に苦労したんだ、そんな風に褒められるの、悪い気分はしないね」
と、上機嫌だ。
「まあ、今も話したとおり、ジル先生みたいな普通の医師には全く必要ないかもしれないけど、戦地に赴く騎士とか、俺達みたいな冒険者にとっては、ものすごくありがたい魔法だな」
俺はなおも褒める。
「いろいろ嫌な経験、してきたからねぇ。もちろん、君たちがピンチの時にはかけてあげるよ。同じ目的を持った、仲間だからね」
確かに、王国、いや、大陸一と言われる治癒術師が仲間になってくれているのは、ものすごく心強いことだ。ただ、冒険自体が彼のためであるのだけれども。
「……分かった!」
ユナが、ぽん、と手を叩いて、嬉しそうに声を上げた。
「今言った魔法って、全部、クラーラに褒めてもらいたくて開発したでしょう!」
そのユナの一言に、俺は、まさか、と反論しようとしたが……。
「……い、いや、別にそういう訳じゃあないけど……」
ウィンは真っ赤になっている。絶対にそういう訳だ。
「うん、ウィンも可愛いところ、あるね。早くクラーラに会って、見せてあげなくちゃね」
「……まあ、早く見せたいっていうところは当たっていると言っておくよ」
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