無垢の美少女とぬいぐるみのオオカミ

エール

文字の大きさ
8 / 18

妖魔の強さ

しおりを挟む
 模擬戦の勝負が付いたところで、一旦昼休憩のために学舎に戻ることとなった。

「まさか、ハルカと二人で組んで試合したのに負けるとは思わなかったよ……私も最低限接近戦ができるように、矢を短い槍みたいにして戦う術は身につけてたけど、長刀(なぎなた)でかかってこられたらかなわないな……」

 男勝りなナツミは、負けたことが相当悔しそうだった。

「私も、近距離はどうしても苦手です。『水流壁』を破られて、『濃霧』も通用しなかったら打つ手ありません……実戦でなくて優奈さん相手だったから良かったですけど、知能のある妖魔とかだったら死んじゃってたかもしれないです……」

 真面目なハルカは落ち込んでいる。

「大丈夫だよー、優奈ちゃんとタクが接近戦に強いっていうだけだから。今回は元々近くからの勝負だったのと、タクが思ったより頭が良かっただけだよ!」
 
 脳天気に励ますのはハルカの契約精霊、竜のユキアだ。
 そしてナツミの契約精霊であるリンは平然としていた。

「まあ、あれはユキアの言う通り、元々中~近距離の戦いで優奈ちゃんに有利でしたからね。落ち込むよりも、敵に接近されても対処できる仲間が増えたということを喜ぶべきでしょうね」

 やはりぬいぐるみっぽいキツネのリンは、ニコニコと微笑んでいる。

「いえ、でもタク様の助言が無ければ私はなにもできませんでしたから……」

「助言したのは、私とユキアも同じですよ。いかに相手に近づけさせないか、そしてその状態でどうやって攻撃するか。まだまだ研鑽が必要ですね。もしこれが接近戦が得意な大鬼なんかだったら、二人とも命はありませんでしたよ。模擬戦で良かったと考えるべきです」

 帰りの道中、リンは指摘する。
 タクは、大鬼、という単語が気になったが、あえて聞かなかった。

「さすが経験豊富なリン様、ですね。私が指摘すべきことを、全ておっしゃっていただきました」

 教官の茜がリンにそう礼を言う。

「経験豊富って……凜さんは、『初霊』じゃないってことですよね?」

 タクがそう質問した。

「ええ、私はナツミで四人目です。前の三人は、二十歳の誕生日を迎えて精霊巫女を卒業していきました」

「へえ、凄い! 大先輩、ですね! そんな人……いや、精霊がいるのなら心強い!」

「ありがとうございます。でも、前の三人も、危ない場面がいくつもあったのですよ。仲間が命を落としたこともありました。だからこそ、気を引き締めなければなりません。帰ったら反省会、ですね」

 リンの言葉に、ハルカとユキアのコンビは

「うわぁ……」

 と苦い顔をし、それがおかしくて、優奈とナツミは笑った。
 学舎に戻ると、三人は用意されていた昼食 (梅干しと高菜のおにぎり、味噌汁) を食べて、休憩した後に、タクの知識が十分ではないこともあって、他のメンバーにとっては復習となる座学を始めた。

 この世界の魔獣や妖魔には、いくつか種類がある。

 魔獣:
 獣や人間、亜人間が何らかの呪いの影響を受け、魔石を宿し凶暴になったもの。日光の元でも活動できる。
 通常の武器 (刀剣、銃など)でもダメージを与えることができる。

 妖魔:
 瘴気が元になって半実体化し、核となる魔石が生まれ、成長したもの。日光の下では活動できない。
 通常の武器ではダメージが与えられず、精霊巫女が具現化した装備か、特別な呪法が込められた武器でないと倒せない。

 先ほどリンが話題にした「大鬼」は、人の体に似ているが、角があり巨大で凶暴な「魔獣」に属するという。
 また、希に魔獣に妖魔が入り込んだ複合型の化け物も存在するらしい。

 次に、妖魔や魔獣の強さについて。
 これはその敵に対峙したとき、精霊ならばステータスで確認できるという話だった。
 星で強さを表し、

 一つ星:凶暴化したネコぐらい。小さな子供にとっては危険。集団化すれば普通の大人でも危ない。

 二つ星:凶暴化した闘犬ぐらい。単体ならば、武装をしっかりとしていれば精霊巫女一人でも問題なく倒せる。

 三つ星:トラやクマに匹敵する強さとなり、精霊巫女でも数人のパーティーで対処すべき強敵。集団で襲われると驚異となる。

 四つ星:人を丸呑みにする大蛇や金棒を持った大鬼など、強力な個体となってくる。熟練の精霊巫女複数組で対応が基本。南向藩でも数年に一度ぐらいの割合で発生する。

 五つ星:全国的に見れば一年~数年に一度出現する。大きな藩であっても自領の精霊巫女総掛かりで対応しなければならないほどの魔物。南向藩でも過去一度だけ巨大な人型の魔獣が発生し、その際は隣の藩からも精霊巫女を派遣してもらってようやく倒せたが、自藩の巫女三名が死亡したと伝えられている。

 五つ星強:伝説級の妖魔・魔物で、全国的に見ても数十年に一度発生するかどうか。最近では二十年ほど前に北方の藩で家屋より大きなムカデの魔獣が発生し、近隣諸藩から数十人の精霊巫女が集められ、多くの犠牲を出しながら辛くも倒したという。

 六つ星:数百年に一度、国家規模の大災害級。万の兵と全国から集めた数百の精霊巫女で対処に当たらねばならないと伝承されている。古文書には、複数の藩が壊滅的な損害を被ったと記されているらしい。

 六つ星強:神話でしか伝承がないレベル。神々が倒したという逸話が残っているのみ。

 七つ星:神話上最強・最悪・最凶の邪神。邪気王と呼ばれる存在。神々ですら倒すことができず、どこかに封印されていると伝えられている。

 これらの話を聞いたタクは、なぜ五つ星と六つ星だけ「強」が存在するのか質問したが、リンから「前世の地震の震度もそうだったでしょう?」と聞かされて、そんなものか、と納得した。

「五つ星以上など、私も出会ったことがありませんし、そうなれば南向藩全体の危機になりますので、今は知識として知っておくだけで大丈夫です。万が一、そのような敵に出会うことが会ったら、全力で逃げ延びて、この養成所の関係者か、藩の役人に報告することを最優先に考えてください」

 と教官の茜が指摘した。
 リンが以前の戦闘で、巫女の仲間を失ったときは、四つ星の妖魔が相手だったという。

 また、気になる指摘もあった。
 近年、出没する魔獣や妖魔のレベルが上がりつつある、というのだ。
 実際、南向藩の三回生、四回生は、現在藩内に出現した四つ星の魔獣退治のために遠征に出ているという。
 知恵も持っており、なかなか仕留められず苦戦しているらしい。
 そのために現在、二回生が三つ星レベルの敵に対処しなければならなくなっており、実際にこの日も討伐に出ていた。
 一回生も近くそうなる可能性が高いという話だ。

 そのほかにも、呪力とは何か、生命力、治癒呪法の使用方法などを復習して、座学は終了。
 もう一度訓練場に出て、長刀、弓、呪法の訓練をそれぞれ行い、日没をもってこの日の修練は終了となった。

 学舎に帰ると、共同風呂が沸かされているから入るようにと、管理人の五十代ぐらいの女性から全員に言われた。
 この学舎の世話は、風呂や食事、洗濯や掃除も含めて、このあたりの神社の氏子が実施しているという。
 もちろん、全員女性だ。
 精霊巫女は、それだけ大事にされているという証だった。

 初夏の訓練で、巫女達は教官も含めて全員汗をかいていた。
 この日は一回生しかおらず、独占的に入浴できるとあって、巫女達は皆、喜んで風呂場に足を運ぶ。
 しかしタクは流石に自制し、外で待っていることにしたのだが……。

「タク殿、当然あなたも一緒に入るのですよ?」

 キツネ型の精霊であるリンにそう言われて、ぬいぐるみのような顔についている彼の目は、点になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...