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妖魔の強さ
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模擬戦の勝負が付いたところで、一旦昼休憩のために学舎に戻ることとなった。
「まさか、ハルカと二人で組んで試合したのに負けるとは思わなかったよ……私も最低限接近戦ができるように、矢を短い槍みたいにして戦う術は身につけてたけど、長刀(なぎなた)でかかってこられたらかなわないな……」
男勝りなナツミは、負けたことが相当悔しそうだった。
「私も、近距離はどうしても苦手です。『水流壁』を破られて、『濃霧』も通用しなかったら打つ手ありません……実戦でなくて優奈さん相手だったから良かったですけど、知能のある妖魔とかだったら死んじゃってたかもしれないです……」
真面目なハルカは落ち込んでいる。
「大丈夫だよー、優奈ちゃんとタクが接近戦に強いっていうだけだから。今回は元々近くからの勝負だったのと、タクが思ったより頭が良かっただけだよ!」
脳天気に励ますのはハルカの契約精霊、竜のユキアだ。
そしてナツミの契約精霊であるリンは平然としていた。
「まあ、あれはユキアの言う通り、元々中~近距離の戦いで優奈ちゃんに有利でしたからね。落ち込むよりも、敵に接近されても対処できる仲間が増えたということを喜ぶべきでしょうね」
やはりぬいぐるみっぽいキツネのリンは、ニコニコと微笑んでいる。
「いえ、でもタク様の助言が無ければ私はなにもできませんでしたから……」
「助言したのは、私とユキアも同じですよ。いかに相手に近づけさせないか、そしてその状態でどうやって攻撃するか。まだまだ研鑽が必要ですね。もしこれが接近戦が得意な大鬼なんかだったら、二人とも命はありませんでしたよ。模擬戦で良かったと考えるべきです」
帰りの道中、リンは指摘する。
タクは、大鬼、という単語が気になったが、あえて聞かなかった。
「さすが経験豊富なリン様、ですね。私が指摘すべきことを、全ておっしゃっていただきました」
教官の茜がリンにそう礼を言う。
「経験豊富って……凜さんは、『初霊』じゃないってことですよね?」
タクがそう質問した。
「ええ、私はナツミで四人目です。前の三人は、二十歳の誕生日を迎えて精霊巫女を卒業していきました」
「へえ、凄い! 大先輩、ですね! そんな人……いや、精霊がいるのなら心強い!」
「ありがとうございます。でも、前の三人も、危ない場面がいくつもあったのですよ。仲間が命を落としたこともありました。だからこそ、気を引き締めなければなりません。帰ったら反省会、ですね」
リンの言葉に、ハルカとユキアのコンビは
「うわぁ……」
と苦い顔をし、それがおかしくて、優奈とナツミは笑った。
学舎に戻ると、三人は用意されていた昼食 (梅干しと高菜のおにぎり、味噌汁) を食べて、休憩した後に、タクの知識が十分ではないこともあって、他のメンバーにとっては復習となる座学を始めた。
この世界の魔獣や妖魔には、いくつか種類がある。
魔獣:
獣や人間、亜人間が何らかの呪いの影響を受け、魔石を宿し凶暴になったもの。日光の元でも活動できる。
通常の武器 (刀剣、銃など)でもダメージを与えることができる。
妖魔:
瘴気が元になって半実体化し、核となる魔石が生まれ、成長したもの。日光の下では活動できない。
通常の武器ではダメージが与えられず、精霊巫女が具現化した装備か、特別な呪法が込められた武器でないと倒せない。
先ほどリンが話題にした「大鬼」は、人の体に似ているが、角があり巨大で凶暴な「魔獣」に属するという。
また、希に魔獣に妖魔が入り込んだ複合型の化け物も存在するらしい。
次に、妖魔や魔獣の強さについて。
これはその敵に対峙したとき、精霊ならばステータスで確認できるという話だった。
星で強さを表し、
一つ星:凶暴化したネコぐらい。小さな子供にとっては危険。集団化すれば普通の大人でも危ない。
二つ星:凶暴化した闘犬ぐらい。単体ならば、武装をしっかりとしていれば精霊巫女一人でも問題なく倒せる。
三つ星:トラやクマに匹敵する強さとなり、精霊巫女でも数人のパーティーで対処すべき強敵。集団で襲われると驚異となる。
四つ星:人を丸呑みにする大蛇や金棒を持った大鬼など、強力な個体となってくる。熟練の精霊巫女複数組で対応が基本。南向藩でも数年に一度ぐらいの割合で発生する。
五つ星:全国的に見れば一年~数年に一度出現する。大きな藩であっても自領の精霊巫女総掛かりで対応しなければならないほどの魔物。南向藩でも過去一度だけ巨大な人型の魔獣が発生し、その際は隣の藩からも精霊巫女を派遣してもらってようやく倒せたが、自藩の巫女三名が死亡したと伝えられている。
五つ星強:伝説級の妖魔・魔物で、全国的に見ても数十年に一度発生するかどうか。最近では二十年ほど前に北方の藩で家屋より大きなムカデの魔獣が発生し、近隣諸藩から数十人の精霊巫女が集められ、多くの犠牲を出しながら辛くも倒したという。
六つ星:数百年に一度、国家規模の大災害級。万の兵と全国から集めた数百の精霊巫女で対処に当たらねばならないと伝承されている。古文書には、複数の藩が壊滅的な損害を被ったと記されているらしい。
六つ星強:神話でしか伝承がないレベル。神々が倒したという逸話が残っているのみ。
七つ星:神話上最強・最悪・最凶の邪神。邪気王と呼ばれる存在。神々ですら倒すことができず、どこかに封印されていると伝えられている。
これらの話を聞いたタクは、なぜ五つ星と六つ星だけ「強」が存在するのか質問したが、リンから「前世の地震の震度もそうだったでしょう?」と聞かされて、そんなものか、と納得した。
「五つ星以上など、私も出会ったことがありませんし、そうなれば南向藩全体の危機になりますので、今は知識として知っておくだけで大丈夫です。万が一、そのような敵に出会うことが会ったら、全力で逃げ延びて、この養成所の関係者か、藩の役人に報告することを最優先に考えてください」
と教官の茜が指摘した。
リンが以前の戦闘で、巫女の仲間を失ったときは、四つ星の妖魔が相手だったという。
また、気になる指摘もあった。
近年、出没する魔獣や妖魔のレベルが上がりつつある、というのだ。
実際、南向藩の三回生、四回生は、現在藩内に出現した四つ星の魔獣退治のために遠征に出ているという。
知恵も持っており、なかなか仕留められず苦戦しているらしい。
そのために現在、二回生が三つ星レベルの敵に対処しなければならなくなっており、実際にこの日も討伐に出ていた。
一回生も近くそうなる可能性が高いという話だ。
そのほかにも、呪力とは何か、生命力、治癒呪法の使用方法などを復習して、座学は終了。
もう一度訓練場に出て、長刀、弓、呪法の訓練をそれぞれ行い、日没をもってこの日の修練は終了となった。
学舎に帰ると、共同風呂が沸かされているから入るようにと、管理人の五十代ぐらいの女性から全員に言われた。
この学舎の世話は、風呂や食事、洗濯や掃除も含めて、このあたりの神社の氏子が実施しているという。
もちろん、全員女性だ。
精霊巫女は、それだけ大事にされているという証だった。
初夏の訓練で、巫女達は教官も含めて全員汗をかいていた。
この日は一回生しかおらず、独占的に入浴できるとあって、巫女達は皆、喜んで風呂場に足を運ぶ。
しかしタクは流石に自制し、外で待っていることにしたのだが……。
「タク殿、当然あなたも一緒に入るのですよ?」
キツネ型の精霊であるリンにそう言われて、ぬいぐるみのような顔についている彼の目は、点になった。
「まさか、ハルカと二人で組んで試合したのに負けるとは思わなかったよ……私も最低限接近戦ができるように、矢を短い槍みたいにして戦う術は身につけてたけど、長刀(なぎなた)でかかってこられたらかなわないな……」
男勝りなナツミは、負けたことが相当悔しそうだった。
「私も、近距離はどうしても苦手です。『水流壁』を破られて、『濃霧』も通用しなかったら打つ手ありません……実戦でなくて優奈さん相手だったから良かったですけど、知能のある妖魔とかだったら死んじゃってたかもしれないです……」
真面目なハルカは落ち込んでいる。
「大丈夫だよー、優奈ちゃんとタクが接近戦に強いっていうだけだから。今回は元々近くからの勝負だったのと、タクが思ったより頭が良かっただけだよ!」
脳天気に励ますのはハルカの契約精霊、竜のユキアだ。
そしてナツミの契約精霊であるリンは平然としていた。
「まあ、あれはユキアの言う通り、元々中~近距離の戦いで優奈ちゃんに有利でしたからね。落ち込むよりも、敵に接近されても対処できる仲間が増えたということを喜ぶべきでしょうね」
やはりぬいぐるみっぽいキツネのリンは、ニコニコと微笑んでいる。
「いえ、でもタク様の助言が無ければ私はなにもできませんでしたから……」
「助言したのは、私とユキアも同じですよ。いかに相手に近づけさせないか、そしてその状態でどうやって攻撃するか。まだまだ研鑽が必要ですね。もしこれが接近戦が得意な大鬼なんかだったら、二人とも命はありませんでしたよ。模擬戦で良かったと考えるべきです」
帰りの道中、リンは指摘する。
タクは、大鬼、という単語が気になったが、あえて聞かなかった。
「さすが経験豊富なリン様、ですね。私が指摘すべきことを、全ておっしゃっていただきました」
教官の茜がリンにそう礼を言う。
「経験豊富って……凜さんは、『初霊』じゃないってことですよね?」
タクがそう質問した。
「ええ、私はナツミで四人目です。前の三人は、二十歳の誕生日を迎えて精霊巫女を卒業していきました」
「へえ、凄い! 大先輩、ですね! そんな人……いや、精霊がいるのなら心強い!」
「ありがとうございます。でも、前の三人も、危ない場面がいくつもあったのですよ。仲間が命を落としたこともありました。だからこそ、気を引き締めなければなりません。帰ったら反省会、ですね」
リンの言葉に、ハルカとユキアのコンビは
「うわぁ……」
と苦い顔をし、それがおかしくて、優奈とナツミは笑った。
学舎に戻ると、三人は用意されていた昼食 (梅干しと高菜のおにぎり、味噌汁) を食べて、休憩した後に、タクの知識が十分ではないこともあって、他のメンバーにとっては復習となる座学を始めた。
この世界の魔獣や妖魔には、いくつか種類がある。
魔獣:
獣や人間、亜人間が何らかの呪いの影響を受け、魔石を宿し凶暴になったもの。日光の元でも活動できる。
通常の武器 (刀剣、銃など)でもダメージを与えることができる。
妖魔:
瘴気が元になって半実体化し、核となる魔石が生まれ、成長したもの。日光の下では活動できない。
通常の武器ではダメージが与えられず、精霊巫女が具現化した装備か、特別な呪法が込められた武器でないと倒せない。
先ほどリンが話題にした「大鬼」は、人の体に似ているが、角があり巨大で凶暴な「魔獣」に属するという。
また、希に魔獣に妖魔が入り込んだ複合型の化け物も存在するらしい。
次に、妖魔や魔獣の強さについて。
これはその敵に対峙したとき、精霊ならばステータスで確認できるという話だった。
星で強さを表し、
一つ星:凶暴化したネコぐらい。小さな子供にとっては危険。集団化すれば普通の大人でも危ない。
二つ星:凶暴化した闘犬ぐらい。単体ならば、武装をしっかりとしていれば精霊巫女一人でも問題なく倒せる。
三つ星:トラやクマに匹敵する強さとなり、精霊巫女でも数人のパーティーで対処すべき強敵。集団で襲われると驚異となる。
四つ星:人を丸呑みにする大蛇や金棒を持った大鬼など、強力な個体となってくる。熟練の精霊巫女複数組で対応が基本。南向藩でも数年に一度ぐらいの割合で発生する。
五つ星:全国的に見れば一年~数年に一度出現する。大きな藩であっても自領の精霊巫女総掛かりで対応しなければならないほどの魔物。南向藩でも過去一度だけ巨大な人型の魔獣が発生し、その際は隣の藩からも精霊巫女を派遣してもらってようやく倒せたが、自藩の巫女三名が死亡したと伝えられている。
五つ星強:伝説級の妖魔・魔物で、全国的に見ても数十年に一度発生するかどうか。最近では二十年ほど前に北方の藩で家屋より大きなムカデの魔獣が発生し、近隣諸藩から数十人の精霊巫女が集められ、多くの犠牲を出しながら辛くも倒したという。
六つ星:数百年に一度、国家規模の大災害級。万の兵と全国から集めた数百の精霊巫女で対処に当たらねばならないと伝承されている。古文書には、複数の藩が壊滅的な損害を被ったと記されているらしい。
六つ星強:神話でしか伝承がないレベル。神々が倒したという逸話が残っているのみ。
七つ星:神話上最強・最悪・最凶の邪神。邪気王と呼ばれる存在。神々ですら倒すことができず、どこかに封印されていると伝えられている。
これらの話を聞いたタクは、なぜ五つ星と六つ星だけ「強」が存在するのか質問したが、リンから「前世の地震の震度もそうだったでしょう?」と聞かされて、そんなものか、と納得した。
「五つ星以上など、私も出会ったことがありませんし、そうなれば南向藩全体の危機になりますので、今は知識として知っておくだけで大丈夫です。万が一、そのような敵に出会うことが会ったら、全力で逃げ延びて、この養成所の関係者か、藩の役人に報告することを最優先に考えてください」
と教官の茜が指摘した。
リンが以前の戦闘で、巫女の仲間を失ったときは、四つ星の妖魔が相手だったという。
また、気になる指摘もあった。
近年、出没する魔獣や妖魔のレベルが上がりつつある、というのだ。
実際、南向藩の三回生、四回生は、現在藩内に出現した四つ星の魔獣退治のために遠征に出ているという。
知恵も持っており、なかなか仕留められず苦戦しているらしい。
そのために現在、二回生が三つ星レベルの敵に対処しなければならなくなっており、実際にこの日も討伐に出ていた。
一回生も近くそうなる可能性が高いという話だ。
そのほかにも、呪力とは何か、生命力、治癒呪法の使用方法などを復習して、座学は終了。
もう一度訓練場に出て、長刀、弓、呪法の訓練をそれぞれ行い、日没をもってこの日の修練は終了となった。
学舎に帰ると、共同風呂が沸かされているから入るようにと、管理人の五十代ぐらいの女性から全員に言われた。
この学舎の世話は、風呂や食事、洗濯や掃除も含めて、このあたりの神社の氏子が実施しているという。
もちろん、全員女性だ。
精霊巫女は、それだけ大事にされているという証だった。
初夏の訓練で、巫女達は教官も含めて全員汗をかいていた。
この日は一回生しかおらず、独占的に入浴できるとあって、巫女達は皆、喜んで風呂場に足を運ぶ。
しかしタクは流石に自制し、外で待っていることにしたのだが……。
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