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想定外の決着
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優奈と対峙するサルの精霊巫女、キヌは、短剣を両手に持つ二刀流剣術の使い手だった。
一撃ずつはそれほど重くないのだが、何しろ手数が多い上にキヌ自身も身軽で、優奈の長刀の攻撃は簡単にかわされてしまう。
超接近戦を許してしまった優奈は、長刀の柄の部分でなんとか相手の攻撃を防ぐという防戦一方となった。
じりじりと後退し、他の一回生メンバーと距離が離れてしまう。
その頃、ハルカは幻影の大蛇の中に実際の精霊巫女がいることを恐れて、大技「水流爆」を使ってしまうが、これが空振り。
それどころか、背後からクジャクの精霊巫女、エノの「羽根飛剣」を受けて生命力を削られてしまう。
その様子を見たナツミが、矢を連打してエノを倒そうとするが、その前に幻影の大蛇が襲いかかる。
先ほど実際に短剣使いが出てきたために身構えてしまい、矢を射かけるタイミングを失った。
そして次にエノを目視で確認したとき、その姿は消えていた。
「くっ……あのサルの巫女は優奈が相手をしているから、ここにはいないと分かっていたんだが……」
ナツミは、側に居たハルカに謝るように声をかけた。
どうしても大蛇の幻影に腰が引けてしまうのだ。
「一旦、防御に徹しましょう……『水流壁っ』!」
高速で渦を巻く薄い水の膜が、ナツミとハルカを完全に取り囲んで守りを固める。
この状態でも、上部は空いているのでナツミは矢を打てるのだが、その手の内は相手に知られてしまっており、一旦上空に飛んで軌道を変え、落下してくると言う無駄の多い矢の軌道は、相手側の精霊により巫女に伝えられて躱されてしまう。
向こうも攻撃できないとはいえ、この水流壁は使用し続けるだけで激しく呪力を消費してしまう。
この状態で勝つ見込みがあるとすれば、優奈が相手の一人を倒してこちらに来てくれて、守りを解除して一斉に残り二人を責め立てるという、かなり望みの薄い展開だ。
そんなふうに考えていると、空いている上空から複数の刃が降り注ぎ、二人とも生命力を削られた。
最初何が起きたのか分からなかったが、
「あっ……ここは林の中、高い木の上から刃を飛ばせるみたいですっ!」
とハルカが気づいたことを言って、ナツミもようやく理解した。
「くそっ……向こうも、飛び道具の軌道を変えることができたかっ!」
ナツミのようにほぼ180度軌道を変えることはできないだろうが、ある程度の高所からなら垂直に降り注ぐように軌道を変更できるようだった。
もう二人にあまり体力の余裕はない。
一か八か、水流壁を解いて全力で遠距離攻撃を打つ以外に勝機は見いだせない。
「ナツミさん、行きますっ!」
ハルカがそう言って、渦を巻く薄い水の膜を解除した。
相手がどこにいるか、おおよその位置は精霊のリン、ユキアが示していた。
次の瞬間、その方向に見えた相手に向かって、ナツミは狐火を帯びた矢を、そしてハルカは最近覚えた氷刃を、それぞれ全力で連射した。
それらは正確に木の上の巫女、大木の側に隠れた巫女に各々高速で飛んでいき、貫いたかに見えたのだが、なんの手応えも無く素通りしていった。
そしてそれらが、いつの間にか消えていた大蛇の代わりに、シロヘビの巫女が用意した幻影であることに気づいた時には、もう手遅れだった。
すぐ隣の木に隠れていたクジャクの巫女から大量の「羽根飛剣」が降り注ぎ、二人の生命力の残りは三分の二を下回ってしまった。
接近戦を繰り広げていた優奈とサルの精霊巫女、キヌ。
最初はその手数に押されていた優奈だったが、長刀の柄を少し短くし、刃を両端に付けた形状に変化させると、相手の動きについて行けるようになった。
「くっ……生粋な……」
焦ったキヌは、一旦離れて素早く木によじ登り、そこから落下速度を上乗せして両方の剣を振り下ろしてきた。
「きゃあぁ!」
思わぬ重い一撃をなんとか防いだ優奈だったが、体勢が崩れた。
「もらった!」
キヌがここぞとばかり踏み込んで、両方の剣を交差させるように振りかざしたが、優奈は瞬時にバックステップしてそれを躱した。
「なっ……!」
キヌが呆然とする中、優奈が反撃に出るが、そこで甲高い笛の音が二回、響いた。
一回生の二人が敗退した合図だった。
一瞬、優奈の顔がゆがみ、それに反してキヌに笑みが漏れる。
しかし、それでも優奈の心は折れない。逆に、自分一人で最後まで戦おうと決意する。
これまで、ナツミ、ハルカの二人には、自分が精霊巫女ではないということで迷惑をかけてしまっていたのだ。
二人のためにも、自分が精一杯戦わないといけない。
その執念と、優奈の天賦の才が、自らを傷つけかねない両刃の長刀を高速で操らせた。
「ちっ……この……うっ……」
二刀流の短剣使いが、得意の接近戦で、速さと重さで押され始める。
キヌがダメージを受け、まずい、と思ったときに、優奈の動きが突然鈍った。
優奈は、キヌの加勢に来たエノによる「羽根飛剣」を受けてしまっていたのだ。
さらに、キヌの体が二体に分裂する。ウタによる幻影だ。
「……まったく、余計なことを……まあ、けど、これもチーム戦の掟だ。悪いけど、あっさり終わらせるよっ!」
キヌが笑みを大きくする。
優奈はなんとか耐えようとするが、三対一では流石に勝ち目がない。
あっという間に生命力が削られていく。
キヌ一人が相手なら勝てる……そう考えていたのは、優奈を見守り、励ましていたオオカミ型の精霊、タクだ。
しかし、ここに来て一気に状況が変わり、彼の心に焦りが、次に怒りがこみ上げてくる。
――何をしている……なんで三人がかりで、俺の精霊巫女一人に攻撃を加えているんだ……。
俺の可愛い優奈を、なぜ三人で虐めているんだ……。
止めろ……それ以上優奈に手を出すなら、俺が相手になってやるっ!
――唐突に、その化け物は現れた。
体長3メートルを優に超える、巨大な銀色のオオカミだ。
所々に黒い紋様も混じっており、その姿は美しさ、猛々しさ、神々しさを併せ持っていた。
巨躯のオオカミは、咆吼を上げた。
そのあまりのすさまじさに、その場に居合わせた二回生の精霊巫女は全員腰を抜かして座り込んだ。
一回生の優奈も、目を見開いて驚き、立ちすくんでいる。
オオカミは、考えた。
優奈を虐める三人を、どうしてくれようか、と。
するとその目の前に、一体の精霊が割り込んできた。
サルのぬいぐるみのような小さな体を震わせ、涙目になっている。
「やめろっ! それ以上ボクの巫女に近づくな! 『聖獣体』になるなんて、反則だぞっ!」
そのサルの精霊、ココミは、両手を広げて巨躯の銀狼の前に立ちはだかった。
「……『聖獣体』?」
「そうだ! 知らないのか? 自分のステータスを見てみなよっ! そんなので攻撃されたら、ボクの巫女、死んじゃうよ!」
そう言われて、彼は自身のステータスを確認した。
-----------------------
名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:聖獣体 (不安定)、憤怒
契約巫女名:優奈 (ユナ)
生命力:6256 / 6256
呪力:2078 / 2078
戦闘力:1329
呪術攻撃力:756
防御力:777
素早さ:311
備考:
特殊能力 咆吼、威圧、狼爪、狼牙、突撃
契約巫女を思うあまり、憤怒状態によって精霊が聖獣体となった姿。
不完全、不安定な状態で、長くその姿を維持することができない。
なお、聖獣体は生命力が0になると死亡する。
聖獣体が発現する可能性は、全精霊体の0.1~0.5%未満。
-----------------------
あ……これ、駄目なヤツだ……。
このサルの精霊が言う通り、こんな状態で巫女にちょっとでも攻撃したら……いや、爪がかすっただけで死んでしまう――。
タクは、本能的にそれを理解した。
そして恐る恐る、二回生の巫女達……とくに、今睨み付けていた精霊巫女のキヌを見ると、上半身だけなんとか起こしてこちらを見ながら、ガタガタと震え、涙を流して怯えていた。
タクは、自分がものすごく悪いことをしているような気がしてきた。
「ご、ごめん……俺が悪かった……」
タクがそう言うと、急に自身の全身が縮んで、元のぬいぐるみのような精霊体に戻ったのがわかった。
-----------------------
模擬戦の結果:
一回生 ナツミ …… 生命力規定値以下に減少により退場。
一回生 ハルカ …… 生命力規定値以下に減少により退場。
一回生 優奈 …… 反則 (精霊巫女以外の攻撃方法 (聖獣体の『咆吼』『威圧』)により退場。
結論:二回生の勝利。
-----------------------
しかし、そんな模擬戦の結果など些事に過ぎぬほど、聖獣体の発現は大騒ぎになったのだった。
一撃ずつはそれほど重くないのだが、何しろ手数が多い上にキヌ自身も身軽で、優奈の長刀の攻撃は簡単にかわされてしまう。
超接近戦を許してしまった優奈は、長刀の柄の部分でなんとか相手の攻撃を防ぐという防戦一方となった。
じりじりと後退し、他の一回生メンバーと距離が離れてしまう。
その頃、ハルカは幻影の大蛇の中に実際の精霊巫女がいることを恐れて、大技「水流爆」を使ってしまうが、これが空振り。
それどころか、背後からクジャクの精霊巫女、エノの「羽根飛剣」を受けて生命力を削られてしまう。
その様子を見たナツミが、矢を連打してエノを倒そうとするが、その前に幻影の大蛇が襲いかかる。
先ほど実際に短剣使いが出てきたために身構えてしまい、矢を射かけるタイミングを失った。
そして次にエノを目視で確認したとき、その姿は消えていた。
「くっ……あのサルの巫女は優奈が相手をしているから、ここにはいないと分かっていたんだが……」
ナツミは、側に居たハルカに謝るように声をかけた。
どうしても大蛇の幻影に腰が引けてしまうのだ。
「一旦、防御に徹しましょう……『水流壁っ』!」
高速で渦を巻く薄い水の膜が、ナツミとハルカを完全に取り囲んで守りを固める。
この状態でも、上部は空いているのでナツミは矢を打てるのだが、その手の内は相手に知られてしまっており、一旦上空に飛んで軌道を変え、落下してくると言う無駄の多い矢の軌道は、相手側の精霊により巫女に伝えられて躱されてしまう。
向こうも攻撃できないとはいえ、この水流壁は使用し続けるだけで激しく呪力を消費してしまう。
この状態で勝つ見込みがあるとすれば、優奈が相手の一人を倒してこちらに来てくれて、守りを解除して一斉に残り二人を責め立てるという、かなり望みの薄い展開だ。
そんなふうに考えていると、空いている上空から複数の刃が降り注ぎ、二人とも生命力を削られた。
最初何が起きたのか分からなかったが、
「あっ……ここは林の中、高い木の上から刃を飛ばせるみたいですっ!」
とハルカが気づいたことを言って、ナツミもようやく理解した。
「くそっ……向こうも、飛び道具の軌道を変えることができたかっ!」
ナツミのようにほぼ180度軌道を変えることはできないだろうが、ある程度の高所からなら垂直に降り注ぐように軌道を変更できるようだった。
もう二人にあまり体力の余裕はない。
一か八か、水流壁を解いて全力で遠距離攻撃を打つ以外に勝機は見いだせない。
「ナツミさん、行きますっ!」
ハルカがそう言って、渦を巻く薄い水の膜を解除した。
相手がどこにいるか、おおよその位置は精霊のリン、ユキアが示していた。
次の瞬間、その方向に見えた相手に向かって、ナツミは狐火を帯びた矢を、そしてハルカは最近覚えた氷刃を、それぞれ全力で連射した。
それらは正確に木の上の巫女、大木の側に隠れた巫女に各々高速で飛んでいき、貫いたかに見えたのだが、なんの手応えも無く素通りしていった。
そしてそれらが、いつの間にか消えていた大蛇の代わりに、シロヘビの巫女が用意した幻影であることに気づいた時には、もう手遅れだった。
すぐ隣の木に隠れていたクジャクの巫女から大量の「羽根飛剣」が降り注ぎ、二人の生命力の残りは三分の二を下回ってしまった。
接近戦を繰り広げていた優奈とサルの精霊巫女、キヌ。
最初はその手数に押されていた優奈だったが、長刀の柄を少し短くし、刃を両端に付けた形状に変化させると、相手の動きについて行けるようになった。
「くっ……生粋な……」
焦ったキヌは、一旦離れて素早く木によじ登り、そこから落下速度を上乗せして両方の剣を振り下ろしてきた。
「きゃあぁ!」
思わぬ重い一撃をなんとか防いだ優奈だったが、体勢が崩れた。
「もらった!」
キヌがここぞとばかり踏み込んで、両方の剣を交差させるように振りかざしたが、優奈は瞬時にバックステップしてそれを躱した。
「なっ……!」
キヌが呆然とする中、優奈が反撃に出るが、そこで甲高い笛の音が二回、響いた。
一回生の二人が敗退した合図だった。
一瞬、優奈の顔がゆがみ、それに反してキヌに笑みが漏れる。
しかし、それでも優奈の心は折れない。逆に、自分一人で最後まで戦おうと決意する。
これまで、ナツミ、ハルカの二人には、自分が精霊巫女ではないということで迷惑をかけてしまっていたのだ。
二人のためにも、自分が精一杯戦わないといけない。
その執念と、優奈の天賦の才が、自らを傷つけかねない両刃の長刀を高速で操らせた。
「ちっ……この……うっ……」
二刀流の短剣使いが、得意の接近戦で、速さと重さで押され始める。
キヌがダメージを受け、まずい、と思ったときに、優奈の動きが突然鈍った。
優奈は、キヌの加勢に来たエノによる「羽根飛剣」を受けてしまっていたのだ。
さらに、キヌの体が二体に分裂する。ウタによる幻影だ。
「……まったく、余計なことを……まあ、けど、これもチーム戦の掟だ。悪いけど、あっさり終わらせるよっ!」
キヌが笑みを大きくする。
優奈はなんとか耐えようとするが、三対一では流石に勝ち目がない。
あっという間に生命力が削られていく。
キヌ一人が相手なら勝てる……そう考えていたのは、優奈を見守り、励ましていたオオカミ型の精霊、タクだ。
しかし、ここに来て一気に状況が変わり、彼の心に焦りが、次に怒りがこみ上げてくる。
――何をしている……なんで三人がかりで、俺の精霊巫女一人に攻撃を加えているんだ……。
俺の可愛い優奈を、なぜ三人で虐めているんだ……。
止めろ……それ以上優奈に手を出すなら、俺が相手になってやるっ!
――唐突に、その化け物は現れた。
体長3メートルを優に超える、巨大な銀色のオオカミだ。
所々に黒い紋様も混じっており、その姿は美しさ、猛々しさ、神々しさを併せ持っていた。
巨躯のオオカミは、咆吼を上げた。
そのあまりのすさまじさに、その場に居合わせた二回生の精霊巫女は全員腰を抜かして座り込んだ。
一回生の優奈も、目を見開いて驚き、立ちすくんでいる。
オオカミは、考えた。
優奈を虐める三人を、どうしてくれようか、と。
するとその目の前に、一体の精霊が割り込んできた。
サルのぬいぐるみのような小さな体を震わせ、涙目になっている。
「やめろっ! それ以上ボクの巫女に近づくな! 『聖獣体』になるなんて、反則だぞっ!」
そのサルの精霊、ココミは、両手を広げて巨躯の銀狼の前に立ちはだかった。
「……『聖獣体』?」
「そうだ! 知らないのか? 自分のステータスを見てみなよっ! そんなので攻撃されたら、ボクの巫女、死んじゃうよ!」
そう言われて、彼は自身のステータスを確認した。
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名前:タク (モデル:オオカミ)
状態:聖獣体 (不安定)、憤怒
契約巫女名:優奈 (ユナ)
生命力:6256 / 6256
呪力:2078 / 2078
戦闘力:1329
呪術攻撃力:756
防御力:777
素早さ:311
備考:
特殊能力 咆吼、威圧、狼爪、狼牙、突撃
契約巫女を思うあまり、憤怒状態によって精霊が聖獣体となった姿。
不完全、不安定な状態で、長くその姿を維持することができない。
なお、聖獣体は生命力が0になると死亡する。
聖獣体が発現する可能性は、全精霊体の0.1~0.5%未満。
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あ……これ、駄目なヤツだ……。
このサルの精霊が言う通り、こんな状態で巫女にちょっとでも攻撃したら……いや、爪がかすっただけで死んでしまう――。
タクは、本能的にそれを理解した。
そして恐る恐る、二回生の巫女達……とくに、今睨み付けていた精霊巫女のキヌを見ると、上半身だけなんとか起こしてこちらを見ながら、ガタガタと震え、涙を流して怯えていた。
タクは、自分がものすごく悪いことをしているような気がしてきた。
「ご、ごめん……俺が悪かった……」
タクがそう言うと、急に自身の全身が縮んで、元のぬいぐるみのような精霊体に戻ったのがわかった。
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模擬戦の結果:
一回生 ナツミ …… 生命力規定値以下に減少により退場。
一回生 ハルカ …… 生命力規定値以下に減少により退場。
一回生 優奈 …… 反則 (精霊巫女以外の攻撃方法 (聖獣体の『咆吼』『威圧』)により退場。
結論:二回生の勝利。
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しかし、そんな模擬戦の結果など些事に過ぎぬほど、聖獣体の発現は大騒ぎになったのだった。
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