彼は勇者だから、彼女は魔王だから、

千羊

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ある人々のはなし

帰らぬ息子とその幼馴染

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勇者の母視点。


*

 季節が巡り、いつの間にか暖かい時期に移り変わってゆく。
 私は一人分の洗濯物を取り込むと、ふう、と息をついた。
 最近、腰の調子が悪くなってきた気がする。
 本来ならば村にいる癒術士に相談しに行くのだけれど、今は不在だから、となり村まで行かなければならない。
 少し前までいた、あの娘はもう、戻ることはない。
 あの娘を一途に愛した私の息子も、―――今は。







 私には息子がいる。
 泣き虫で、臆病で、情けない顔をよくする大切な息子が。
 あの子が産まれたのはこの穏やかな村よりもずっと遠くにある王都だった。

 私の夫は魔剣士で、魔物を倒してそれで生計を立てていた。
 一時期、私の村に止まったことがあって、私はその時に彼と恋に落ちたのだ。
 彼と結ばれたいと思っても、家族はもちろん大反対して、結局駆け落ち同然で村から飛び出した。
 でも、今考えてもそのことに後悔はない。
 そして、その先で生まれたのがこの子だ。

 夫は息子が生まれたことを泣いて喜んで、将来は一緒に仕事をするんだと目も開ききっていない赤子に魔法を見せていた。
 私は結界師だから、二人を守れたらと思った。



 ―――けれど、夫は一人で魔物を倒しに行った先で怪我を負い、そのせいで死んでしまった。
 小さな息子と、私を残して。

 私は悲しみに暮れた。
 家族を裏切ることになっても結ばれたいと願った人だった。
 一生この人と添い遂げたいと思った。
 けれど、私の腕には大切な息子がいて、後を追おうだなんて考えなかった。
 この子が大きくなるまでちゃんと育てて、可愛い子を見つけて結婚して、孫を見るまでは死ねないと思った。
 そうじゃなければ、出産で疲れて、一緒に魔物退治に行けなかった私のせいで死んでしまった夫に合わせる顔がないからだ。
 あの人はきっと、気にすることはない、俺の力不足だと言うだろうけれど、これは私の気持ちの問題だ。
 自己満足だけれど、死んだら行くと言われる天の国であの人に満面の笑みで息子を立派に育てたんだと自慢して、キスしてあげたい。
 そうしたら、きっとあの人は髪をぐしゃっと撫でてくれて、それから照れた顔で口付けを返してくれる。
 私は真っ赤にした彼の顔を見て満足したい。
 だから逝ってしまった、燃されてしまった彼にそれまでの別れを告げた。

 それから私は王都で働いていた。
 結界師という職業はとても需要がある。
 戦闘での守り役にもなるし、町や村では魔物の侵入を防ぐ結界を張れるからだ。
 守りを固めるために人数が多くても困らないのに、絶対数が少ないからどの町でも引く手数多なのだ。
 それはこの王都でも同じだった。
 そのお陰で私は女手一つで息子を育てられた。

 けれど村から幼馴染の妻の凶事が届いて、私は帰ることにした。
 実は、王都で女一人子供一人が暮らすのは楽ではなかった。
 信頼できる人が少ないから、仕事をしている間に預けられる人もほとんどいない。
 物価も高くて、月々渡される給料もその月のうちに大半を使い切ってしまう。
 だから、帰ろうと思った。
 息子をもっとのびのびと育てたい。
 幼馴染の妻は昔仲良くしていたし、結婚の際には助言をもらった。弔ってあげたい、と思った。
 家族には後ろ指をさされたっていい。

 私は、村に帰ったのだった。




 そこでの暮らしは穏やかだった。
 息子は広い村で走り回って遊んでいるし、幼馴染の妻はきちんと、弔えた。
 家族は少し怒っていたけれど、私と新しい家族である息子を歓迎してくれた。
 私は結界師として雇ってもらえ、のどかな村で息子と一緒に平和な毎日を暮らしていた。

 私の幼馴染にはもう二人の子供がいて、母親が亡くなったというのに泣かない強い子だった。
 その子は最初は初めて会う人だから私を警戒していたけれど、段々慣れてか息子と遊ぶときに大事に負ぶっていた弟を私に預けるようになった。
 私は息子の小さいころを見ているようで嬉しかったし、人見知りで照れ屋の息子が幼馴染の娘を気に入ったようだったから快く送り出した。

 年々と二人は仲良くなっていった。
 隣同士だからか、親が幼馴染同士だからわからないけれど、私たちの家は特に交流が多くて、夕飯をよく一緒に食べたりもした。
 私は、王都よりもずっと心を落ち着けて暮らせていた。


 ―――でも、息子たちが大きくなって、変わった。
 息子が、勇者に選ばれたからだった。

 私は結界師である関係上、魔物がどんどん増えてきていると知っていた。
 もしかしたら魔王が復活するんじゃないかとさえ思っていた。
 けれど、夫と同じ魔剣士になった息子が勇者に選ばれるだなんて考えもしなかった。

 息子は勇者になったことをまずは自分の幼馴染に告げ、そして私に伝えてくれた。
 表情を悟られないために顔を隠したり後ろ向きで話すのは小さい頃からの癖で、今もこちらを見ようとせずに淡々と自分でなければ出来ないことだからと教えてくれた。
 私は息子の努力が神に認められたことは嬉しいし、誇らしかったけれど、それ以上に心配だった。
 勇者の旅が、魔王討伐への道のりが険しいことは明らかだ。
 これから息子がどんな辛い目に合うだろうか。悲しい思いをするだろうか。
 けれど、引き止めはしたくなかった。
 息子の、決めたことだから。
 そう、思ったと言うのに、

「―――行ってしまうの?」

 全てを聞いた私から溢れた言葉はそれだった。
 引き止めないつもりだったのに、この弱々しい言い方ではまるで行かないでと言っているようなものだった。
 息子は私の震えた声に驚いていた。思えばこんな姿は見せたことがなかったかもしれない。それくらいに夫が死んでからは息子のために強くあろうとした。

「母さん」

 息子の声は随分と低くなった。
 成人を超えたばかりだから、まだ少年に近いかもしれないけれど、夫にそっくりになってきた気がする。
 そんな声で呼ばれて、腕を引かれて抱き締められた。そこで私は息子も少し震えていると初めて知ったのだ。
 私が女性にしては身長が高い方であるから、ほとんど同じ身長である息子の肩に自分の顎が触れる。手を回すと、その背中は思ったよりも大きくて、抱き締めていないこの数年で大きくなったのだと実感する。

「俺には、行かない選択肢はないんだ。彼女も、母さんも、守りたいから。―――俺は、勇者だから」

 その決心は固いようだった。性格や見た目が夫に似ていたからあまり思わなかったけれど、こんなところは優柔不断だった夫と違って駆け落ちを決めた私に似たのかもしれない。

「……そう、なのね」
「うん。ごめん、母さん」

 私はぎゅっと息子を思いっきり強く抱き締めた。うっと呻き声が聞こえたけれど、それを気にせず自分も苦しいくらい腕の力を強める。この先どれくらいこの先あたたかな温もりを感じ取れるか分からない。それに大丈夫。これくらいでは息子の肋骨は折れない。そんな柔な鍛え方はしていないと知っている。まあ、全てはあの子のためなんだけれどね。
 私はパッと腕を離した。そして、気合いを入れるように肩をガシッと掴む。

「もうっ、いつの間にか大きくなっちゃって! 母さんびっくりよ!」

 額を合わせると、息子の顔が目の前に来た。瞳の色もその眼差しもやっぱり夫そっくりだ。
 母さん、痛いよと声が聞こえるが、そんなのも私が鼻声なのも今は無視だ。

「頑張って来なさい」
「……うん」

 貴方は頑張り屋さんだからそこは心配してないけれどね。

「仲間とは仲良くするのよ」
「……うん」

 貴方は人見知りだから、ちゃんと話しをするようにするのよ。

「ちゃんと道は人に聞くのよ」
「……うん」

 貴方は不思議なくらい道に弱いんだから。

「あと、挫折してもいいのよ」
「うん。……えっ?」

 まだ目の前にある息子の瞳が見開く。けれど、本気で言っているの。

「私は貴方の父さんと一時は旅していたから貴方のところに行くなんて簡単よ」

 貴方みたいに方向音痴でもないからね。

「だから、挫けたら私が奮起させに行ってあげる」

 誰だって心が折れそうな時はある。私は家族に結婚を反対された時や夫が死んだ時だった。でも、結婚の時は私の幼馴染の妻に励まされ、次は息子の存在に心を慰めてもらった。
 だから、勇者だとしても頼っても構わないと思う。
 勇者である前に、貴方は私の息子なのよ。
 貴方の幼馴染の方が効果があるかもしれないから、一緒に連れていってあげるのもいいわね。
 そう思いながら笑ってはいても、私の瞳からはいつの間にか涙が溢れていた。
 やっぱり心配でたまらない。
 たった一人の可愛い息子だ。あの人の生きた証でもあり、私の今までの全て。
 だから、一つだけお願い。お願いだから、

「無…事で、……無事でいて、ちょうだい」

 弱々しい掠れた声で、ぼろぼろと涙に濡れる私がなんて情けないことか。
 私はいつからこんなに弱くなってしまったのだろうか。
 昔もっと頑固で、男勝りで、すぐ手が出るから幼馴染たちとは何度殴り合いの喧嘩をしたのか数えるのも億劫になるくらいだ。
 けれど母親になって、こんなに脆くなってしまった。きっと息子に何かあれば、それこそ私は一瞬で全て崩れてしまうかもしれない。
 ああ、なんて私は弱いのだろう。

「母さん、ありがとう。……ありがとう」

 そう言って息子も涙を流していた。
 泣き虫なところは勇者になっても変わらない。もしかしたら、いつまでも変わらないのかもしれない。ああ、このまま変わらないでいてほしいなと思う私がいる。

「すぐに行って、すぐに倒して帰って来なさい。母さんも、あの娘も待ってるわ」

 うん、うんと何度も頷く息子に寄りかかって、私は小さい頃のように頭を撫でながら慰めた。
 きっと、この子ならやり遂げて帰って来てくれる。
 あの人と私の自慢の息子だもの。







 見送りの日、息子はあの娘にやっと愛の告白をして、発った。
 私はいってらっしゃいと言ったけれど、その後にあの娘と話したから、もう忘れてしまったかもしれない。
 一途なところは私似だと笑った。







 ―――けれど、息子は私の元に帰ってこなかった。
 息子の愛したあの娘も。






 幼馴染からあの娘が従軍して魔王領へ行ったのは知っていた。
 私はあの娘を小さい頃からの見ていたからか、いつかは息子のお嫁さんになると思っていたからか、いつの間にか自分の娘のような気がしていて、心配だった。
 けれど、あの娘は発った。
 息子の行ってしまったすぐ後に。
 そして、―――死んでしまった。

 その知らせがもたらされたのは、息子が魔王を倒すという偉業を成し遂げてすぐだった。







 息子はそのことを知って、あの娘の家に押しかけたらしい。
 けれど、去ってしまったと幼馴染に告げられた。

 幼馴染は真っ直ぐと私を見て言っていた。
 その瞳は後悔と罪悪感に濡れていた。
 けれど、私はそんな幼馴染を気にする余裕もなかった。

「……なんで、」

 自分の感情が抑えられなかった。
 息子が今、どういう気持ちかと思うと、そしてあの娘がいないこの場所に帰ってこないかもしれないと思うと、複雑に渦巻いたものが胸から込み上げてきたのだ。

「なんでっ! なんで、自分の娘を止めなかったのよ!!」

 自分よりも幾分高い幼馴染の胸倉を掴み、睨みつけた。
 死ぬ可能性がある場所になぜ送り出したか理解が出来ない。

「あの娘は行く必要がなかったじゃない!! ここで、待っていれば良かったじゃない!! ―――なのに、なんでっ!! なんでなのよ!!」

 完全に八つ当たりだった。
 幼馴染の胸を何度も何度も叩いては泣きながらなんで、と子供のように私は繰り返した。
 けれど、私の言葉を聞いた幼馴染は無表情に小さな声でごめんと零しただけだった。それがただでさえ不安定な私の心を余計に揺さぶった。

「うちの子みたいに勇者に選ばれたわけでもない。だから、引き止めれば良かったじゃない!! なんで、なんでっ、そうしなかったのよ!!」

 貴方にとってあの娘はその程度だったの!?
 そう、大きく叫んだ。
 同時に自分よりも大きな怒鳴り声が響いた。

「その程度なわけないっ!!! ―――だが、どうすれば良かったんだ!!!」

 私の腕が強く振り払われる。
 今まで一切変わらなかった表情が崩れるように歪んだ。

「あの娘がオレに引き止められた? それこそありえない!」
「ありえなくないわ! あの娘は貴方の妻に似て賢い子でしょう!?」
「その賢い子が自分で決めたんだ!それに自分で決めたことは貫き通すあの娘を止められるはずがない!!」
「それでもっ! 引き止めるんでしょう!!」

 それが親なんだから! と強く言った。
 けれど、それを聞いた幼馴染は弱々しく膝を崩した。そして、今にも消え入りそう震えたな声で小さく呟いた。

「―――出来ない」

 オレには、出来ない、と。
 その姿は今にも地面に溶けて消えてしまいそうだった。
 小さな頃から鉄仮面で、喧嘩も強い幼馴染のこんなところを見たことがあっただろうか。
 ―――ああ、あった。
 彼の妻の、葬式の日だった。
 あの日、小さな娘に支えられなければ立っていられないくらい弱っていた。あの時の幼馴染はそのまま燃される妻の元へ駆け寄って一緒に天の国へと行ってしまいそうだった。
 けれど、今は娘というその支えさえない。
 あの娘は、もういないんだ。
 それは、つまり。

「―――じゃあ、うちの子も、戻っては、こないの…?」

 幼馴染に対して、凄く酷い質問だと思う。
 彼には一生会えない娘を嘆く時間を与えず、生きている息子の事を聞く、自分のことだけであるかのような言葉。いや、実際私は自分のことしか考えていなかった。けれど、魔王討伐を聞いた後思い描いた息子を出迎える情景が捨て切れなかった。
 ねぇ、と項垂れる幼馴染の肩を揺する。

「なんで、あの子を引き止めてくれなかったの…?」

 ねぇ、答えてよ、と駄々を捏ねるように。

「あの人と、私の、大事な息子なのよ。ずっと、待ってたのよ。―――なのに、なんで?」

 私の、全てなの。返して。返して。
 貴方が自分の娘を引き留めてさえいれば、息子は帰ってきたの。
 それで私はあの人が死んだ時に決めた事を、息子が結婚して、孫まで見て、天の国にいるあの人に自信を持って会いに行くっていうことが出来ないわ。
 ねぇ、私の息子を、あの子を返して。

「―――やめて!!」

 私の思考は突然の声に遮られた。
 私はゆるゆるとその発生源に顔を動かした。そこにいるのは、幼馴染の、息子。
 涙に濡れるその表情はもういない幼馴染の妻の瞳にに似ていた。

「姉さんは、姉さんは、―――ま、魔王に、転職したんだ……」

 上ずった声で言われた言葉は衝撃的で、私の思考は全て止まった。
 けれど、続けられた声はしっかりと頭の中に入っていた。

「にいさんが勇者から逃げようがなかったように魔王に選ばれた姉さんに選択肢はなかった。だから、ここを去った。死ぬと、分かっていても。―――姉さんは、にいさんに、殺されたんだ」
「…………えっ?」

 だって、と私の口がそれを否定する。

「魔王は魔物から生まれるのでしょう?」
「―――違うよ。魔王は人間で、今代は、―――姉さんだった」
「そんなはずがないわ。息子が、あの娘を殺したなんて」

 ありえない、そんなのありえないとへたり込む。足に力が入らなかった。

「ねぇ! そんな嘘を言って何が楽しいの!?」

 涙でぐしょぐしょになった顔で見上げた。
 そこには同じく涙を流したあの娘の弟がいたけれど、その表情が、泣き顔だというのに、昔から何度も見てきたというのに、今は何故かとても綺麗だと思った。

「―――おばさんは、悲しいだけなんでしょう? でもね、父さんも、僕も、にいさんも、みんな悲しいよ。姉さんがいない世界がこんなに静かだなんて、冷たいだなんて、なんの香りもしないだなんて、知らなかった」

 流れた大粒の涙が横顔を伝い、床に落ちてぱしゃりと小さく広がる。その色は澄んでいた。

「でも、姉さんは、戻ってこないんだよ。―――もう、いないんだ。僕らは、それを、それを受け入れるしか、ないんだ」

 凛とした顔。
 この子はこんなに強い子だっただろうか。
 腕に抱いてあやしてあげたのを昨日のことのように思い出せるのに、あの娘が育てたこの子はいつの間にこんなに立派になったのだろうか。
 それに比べて、私はただただ幼馴染を、その娘と息子を責めるだけだった。
 彼らこそ辛いというのに。

「―――にいさんは、いつか、また帰ってくるよ」

 そうかもしれない。
 あの子は自分の幼馴染一筋だけど、人の気持ちがわかる子だった。だから、いつかは私に会いに来てくれるだろう。何年かかったとしても。
 けれど、あの娘はもういないんだ。
 さっきとは違う意味でそう思った。
 悲しみに暮れても一人でしっかり立って、父親を支えようとするこの子と崩れてしまったままの幼馴染を考えて。

「―――ごめん、ね」

 本当に、私は弱くなってしまった。まるで底がないようにどこまでもどこまでも。
 でもそれは、自分で立っていなかったからだ。
 私は息子に支えられていた。
 夫が死んだ日から、ずっと、ずっと。
 息子の笑顔に、笑った声に、温もりに、全てに。

「おばさん、言いすぎてしまったわ。―――本当に、本当に、ごめんなさい」

 けれど、もう自分で立ち上がらなければならない。
 息子はいつ帰ってくるかわからない。私しか、私を支えるものはないんだ。
 もし、ずっと息子に支えられていたら、それこそ天の国の夫に合わせる顔がない。
 きっと夫は強い私を愛してくれただろうから。

「ねぇ、おばさん、」

 自分の父を支えるあの娘の弟が顔を上げた。
 私が立ち上がったことで、低くなったその顔を見るために少し視線を下げる。

「姉さんは、待ってるって約束した。きっと姉さんは約束はちゃんと守るから、魔王城で待っていたのだと思う。でも、にいさんはここで待ってると思ったでしょう? ―――だから、おばさんがここで待ってあげて。あの時一度来て去ってしまったにいさんは迷子みたいで、無くなってしまった帰る場所を探しに行ったのだと思う」

 きっと姉さんの前の自分の帰る場所を思い出すと思うから、と言って、その子は隣にある自分の家へと消えていった。
 本当に、二人には酷いことを言ってしまった。
 それがどれだけ心を抉るものだっただろうか。私よりもずっと、ずっと傷ついただろう。
 でも、それでもあの娘の弟は私を一度も責めずに私を思いやった。
 なんて、強い子に育ったのだろうか。
 ああ、今さっき自分の足で立とうと、少しでも強くなろうと思ったのに、自分の弱さをますます突きつけられた気分だ。





「待ってる、か」

 あの日、息子に言った言葉。
 本当はすぐにでも追いかけたいけれど、私はそれを守ろう。
 私は、―――いつまでも待ち続けよう。
 今は帰らぬ息子を。帰ってくるだろう息子を。


*

どこまでも息子想い。
彼女は確かに強かった。
けれど、こうなってしまったのは夫が死んでから頑張り過ぎて心が少しずつ擦り切れていったから。
弱くなったのではなく、強いが故に限界が来ても一度も吐き出さなかったせい。

書いていて他者視点の一人でもいいのじゃないかと思いましたが、この書き方が合っていると思ったので。

最後らへんの会話は弟が魔王が倒されたと知って、一ヶ月くらい。
弟は自分の中で姉の死を消化しようと必死です。
母の愛をひたすら書きたかったんです。
それに加えて、弟を他の視点からでも書きたかったんです。

この母は夫を亡くしてから息子一番に過ごしてきたので、どうしても最優先は息子。
なので、きっと父視点を見ている読者さんにはこの母言い過ぎだと思うと思います。
その言葉の根底は息子で、それに魔王の事情も知らないので、父大打撃。
テレーゼと似たようなやり取りをするのは血の繋がりを感じますね。
父は今回の言葉でかなりの心の傷を負いました。
後日また謝罪に来ますが、それは強くなった弟と、時が癒してくれるでしょう。

番外編のあとがきですが、ちょいちょい付け足したりしています。
他の話も補足として追加していたりするので是非足を運んで見てください。

次は今回よりも軽くなるのかな?
『その予言の先』お楽しみに。
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