彼は勇者だから、彼女は魔王だから、

千羊

文字の大きさ
20 / 29
ある人々のはなし

あの予言の先

しおりを挟む
 未来はうつろう。

 それは予言者であるわたしが常日頃から感じていたことでした。
 未来を見ても、それは決まったことではありません。
 周りにぼやりと他の可能性の未来が浮かんでいるのです。
 今一番なりえる未来は真ん中に、はっきりと。
 それ以外は輪郭が薄く、ほとんどありえない未来は霞んで見えます。
 けれど、それが入れ替わることもあります。
 何が原因かはっきりとはわかりませんが、たくさんの出来事が重なり合って、未来は一刻一刻と変わっていくのです。

 それはわたしにとって嬉しいことでした。
 ありえた未来は幸せだったり、不幸だったり様々です。
 けれど、一人一人の行動が確実に未来に繋がっていることが、これからの未来が、わたしたちの未来が少しでも自分で変えられることが何よりも嬉しかったのです。





 ある日、わたしはとある未来を見ました。
 それは寝ている時でした。
 わたしは意識的に未来を見るときと、突然見える未来があります。
 予言者の能力はそのはっきりした未来もぼんやりとしている未来も入り込むことが出来るのです。

 ―――まるで、自分がその場にいるかのように。

 だから、なんの未来だろうと一番はっきりとした未来に飛び込みました。



 いつものようにまるでわたしがその未来の場所にいるように眺めていました。
 そこは小さな村のようでした。
 そんなに大きくはない家が二つ並んでいます。

 突然、蹄の音が響き、わたしは顔をそちらに向けました。
 そこにいたのはどこかで見たことあるような騎士。
 そいつはゴテゴテとした鎧に身を包み、疲れた黒馬に跨っていました。
 そして並んだ家の前を見ると、顔を顰め、馬を繋いで戸を強く叩きます。
 ドンドンドンドンと遠慮ないノックに、その家の住人が顔を出しました。

 ―――扉から出て来たのは眉間に皺を寄せた強面の男。
 騎士の姿を見ると、一層皺を深くし男は、なんだ、と言いました。

 騎士はその姿に一瞬怯み、息を呑んだが、すぐに立て直して懐から紙の束を取り出しました。
 そして少し上ずった声で言いました。
 ここに娘はいないか。
 勇者から手紙を預かっている、と。

 男はそれを聞いて、ただでさえ恐ろしい顔を歪めました。
 そして、一度も視線を下に向けるとまた戻し、騎士に言いました。
 娘はもう、いない、と。

 騎士はさっきとは違う意味で息を呑んだ。
 じゃあ、どうすれば、と。

 どうやら騎士は勇者に手紙を届けるように頼まれているようでした。
 しかし、その相手がいないので困っているのでしょう。
 そしてその相手とはわたしの妹。
 ここは、妹の生まれ育った村なのでしょう。

 男は慌てる騎士に手を掛けたな、というと、一度中に入り、一枚の紙を持って来ました。
 そして言いました。
 これを勇者に渡してくれ、と。

 騎士はそれをしかと受け取ると、また黒馬に跨いで去ってしまったのでした。


 そして、場面が変わりました。


 そこはどこかの街でした。
 大きな街で、人が集まって、大盤振る舞いに飲み食いしています。

 その中に見覚えのある男がいました。
 いや、男というにはまだ幼い、青年に近い少年といったほうがなんとなく近い気がする人。
 それは、わたしが何度も未来で見た勇者でした。

 勇者は誰かに話しかけられると、紙の束を渡されました。
 それは、わたしがさっきまで見ていたもの。
 勇者自身が書いたものでしょう。

 それを受け取った勇者は驚きに目を見張ります。
 そして、束ねていた紐の中から自分には見覚えのないであろう紙を引っ張り出しました。
 乱暴に開いて、中を読むと、勇者は固まってしまいました。

 わたしが近寄り、中身を覗くと、そこに書かれていたのはこうでした。
 娘は死んだ、と。
 ただそれだけが不恰好な字で書かれていました。

 ただただ唖然とする勇者に仲間たちが近寄ります。
 勇者はまるで、抜け殻のようでした。


 それから場面が何度か変わりました。
 そこには自失状態になった勇者が映り、その隣には癒術士のお姫様が心配そうにしていました。
 映っては変わる場面の中で、勇者が段々とお姫様によって心を癒されていくのがわかります。
 それは恋などの好意だったのか、それとも自分の恋人を亡くして縋ったのか。
 けれど、確かに二人は仲を深めていったのです。

 そして、最後に映ったのは勇者とお姫様の結婚式。
 恋人を亡くして2年以上も経っているからか、その表情は随分と明るいものでした。
 幸せそうに、見えました。



 そうして、その未来からわたしは出て来ました。
 これは、妹の恋人である勇者の未来なのでしょう。
 彼はきっと、お姫様と幸せになるのでしょう。
 ―――今のままであれば。






 わたしはそれ以外の未来をその時は見ませんでした。
 けれど、またある日、この未来の夢を見たのです。

 しかし、そこに映ったのは全く別の未来。

 妹の弟が手紙を受け取り、勇者が妹に会うために自分を追い込むもの。
 その中にはお姫様の付け入る隙なんてありませんでした。

 何がどう影響してこの未来が一番近いものになったかわかりません。
 けれどこの未来の先には、妹が―――……







*

―――自分の幸せを願いましたとさ。


どうやったら、お姫様と勇者が結ばれるかという話。
実はこういうルートなら二人は結ばれます。
まあ、もうありえないんですけどね!

次で最後です。
未来のはなし。
『夢のゆめ』お楽しみに。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...