ロボ彼がしたい10のこと

猫屋ちゃき

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第二話

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 星奈は久しぶりに幸福な夢を見た。
 瑛一が泊まりに来ていて、朝に弱い星奈より早く起きだして朝食を作ってくれている夢だ。
 物静かでクール系に見えるけれど、瑛一はかなりの甘党だ。だから、作る朝食もフレンチトーストやお砂糖たっぷりのスクランブルエッグなど、甘いものばかりだった。
 夢の中、甘い香りをまとった瑛一が起こしに来てくれる。低く穏やかな声で名前を呼んで、優しく身体を揺さぶって。
 それがあまりにも幸せな夢だったから、目覚めてすぐに、星奈は落胆した。
 瑛一はどこにもいないし、甘い香りもしない。
 けれども、絶望して泣かずにいられたのは、代わりにキッチンに立つエイジの姿が見え、卵の焼けるいい匂いがしていたからだ。

「おはよう、セナ。もう起きて、問題はない?」

 星奈がベッドの上に起き上がったのに気づいて、キッチンからエイジが顔を覗かせた。問題はないかと聞かれて、星奈は昨夜のことを思いだした。

「そっか……昨日はお好み焼きを少し食べて、泣き疲れて眠っちゃったんだった」

 星奈はあのまま、泣いて食事どころではなくなって、食べ残したお好み焼きにラップをかけて冷蔵庫にしまってから力尽きたのだ。何とかベッドに入ったけれど、その直後から記憶がない。

「すごくたくさん泣いて水分が抜けたはずだ。だから、補給しないと」
「ありがとう」

 エイジから水の入ったコップを受け取り、それを飲み干した。ただの水道水なのにそれがひどくおいしく感じられるほど、エイジの言う通り喉が渇いていたらしい。

「そういえば、エイジはずっと起きてたの? ちゃんと休んだ?」

 星奈は今頃になって、エイジには休息は必要なのか、休むとしたらどうすればいいのかを真野たちに確認していなかったことに気がついた。

「休んだ。そこで。基本的にセナが眠っているときや留守のときは、休眠スリープモードになってる」
「そうなんだ」

 まるでパソコンみたいだなと思ったけれど、それは言わずにおいた。「そこで」とエイジが指さしたのが部屋の隅で、小さくなって休んでいる姿を想像するといじらしくて、そういった気遣いは間違いなく彼の〝人間らしさ〟だと思ったからだ。

「そんなに隅っこにいかなくていいからね。もっとくつろいで大丈夫だから」
「わかった」

 星奈の体調を確認すると、エイジはまたひょいとキッチンに戻ってしまった。それから少しして、皿を片手に戻ってきた。

「目玉焼きを、作ってみた。食べられそうか?」
「朝食を作ってくれたんだ……ありがとう」

 エイジが持ってきた皿には、おいしそうな目玉焼きが乗っていた。どうやら卵が焼ける匂いは夢ではなく、現実だったようだ。

「卵は焼くのと茹でるのはあの人たちから教わった。パンも焼けるけど、何枚食べる?」
「パンはいいや。ありがとう」
「飲み物は?」
「じゃあ、牛乳を」

 星奈の注文を受け、エイジはキッチンへ行くと、牛乳の入ったグラスを手に戻ってきた。甲斐甲斐しいなと思いつつ、これが家庭にロボットがいる感覚かと星奈は感動した。
 働きぶりに感心しつつも、ヒューマノイドロボットがここまで人間に近い姿をしている必要があるのかとふと思ってしまう。今の星奈にとっては、エイジのこの見た目や存在はちょうどいいのだけれど。

「セナの今日の予定はどうなってる?」

 塩を振った目玉焼きをつついていると、エイジが隣に座って神妙に尋ねてきた。

「予定? 予定っていう予定はないかな。大学は春休みだし、バイトはまだ、お休みをもらってるし……」

 カレンダーを見て、星奈の心は少し陰鬱になった。
 今は三月。二月の初旬に後期課程の試験が終わり、春休みが始まっている。本来ならたくさんバイトのシフトを入れて、友達と遊びに行く約束をして、瑛一ともいろいろなところに出かけるはずだった。
 それが、春休みが始まってすぐに瑛一が亡くなって、気がつけば二月は終わり、三月になっている。
 四月になれば大学が始まるし、店長の厚意で休ませてもらっているとはいえ、いつまでもバイトを休んでいるわけにはいかない。カレンダーを見て冷静になると、自分がいかに甘え、甘やかされていたかわかる。
 いくら親しい人が亡くなったとしても、二週間も塞ぎ込んでいる社会人はいない。どれだけ心の中につらい思いを抱えていても、それを押し隠して仕事をするのが当たり前なのだろう。

「予定を聞いたってことは、〝やりたいことリスト〟を消化したいってことだよね? どれにしようか?」

 話しながら目玉焼きを食べ終えて、星奈はリストに視線を落とす。すると横からエイジの指が伸びてきて、あるひとつの項目を指差す。
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