8 / 30
8、怪しい声の洞窟へ
しおりを挟む
「怪しい声のする洞窟の調査……」
聞くだけでも怪しさ満点な依頼なのがわかって、私は正直二の足を踏んでいた。
これまで、教会に依頼されるがまま、そこそこ難しいモンスターとも戦ってきた。しかし、それらはすべて詳細な情報があったからやれたことだと思っている。
この依頼は、洞窟の中にいるのがどんなものなのか、誰も何も知らない状態のスタートということだ。むしろ、それを知りに行くのが内容なのである。
かなり危険度が高い任務なのは、このざっくりした説明でも理解できた。
しかし、恐ろしいという思いも当然あるものの、その奥からムクリと好奇心が顔を覗かせてもいる。
強いものがいるのだとしたら、遭遇してみたいという気持ちが湧いてきてしまっているのだ。
婚約破棄されるときにエーリク様に言われた「きみは強いからひとりでも平気だよね」という言葉が、時々私を戦いへと駆り立てるのである。
というより、己の強さを試し、証明しなくてはならない気分になるのだ。
そんな私の戦士(ファイター)魂が、この依頼を受けたいといっている。怖いと思う気持ちも当然あるけれど。
でも、ディータはどうだろうかと、私は隣に立つ彼の顔を盗み見た。
「声の主を確認するだけというが、逆に倒してしまった場合や傷つけたときは依頼は失敗、もしくは報酬が減額になるのか?」
「いえ、そんなことはありません。この依頼は二段階に別れていて、まずディータさんたちにやってもらおうと思っているのが、〝洞窟の声の主の確認〟です。それが無事済めば、ほかの方たちに〝洞窟の声の主の排除もしくは討伐〟を頼もうと思っておりましたので」
「ということは、俺たちが二つ目の任務を達成してしまってもいいってことだよな? その場合、二つ目の依頼の報酬も当然もらえるよな?」
「……そうなりますね」
職員とディータとのやりとりを見ていて、彼が考え込んでいる様子はこれが理由だったのかと合点がいった。
おそらく、ディータもこの依頼の内容が何となく気になり、どんな〝落とし穴〟があるのか考えたのだろう。
「……これ、ディータさんがもし尋ねなかったらひとつの依頼で二つ片付けようとしてましたよね? 報酬をケチって」
私がコソッと確認すると、ディータは困った顔で頷いた。
ギルドの職員は、確認すれば答えてくれるけれど、それをしなければこうしてしれっと黙っているということだ。
何というか……まるまる信用してはいけないのだなと、今のやりとりで理解させられた。
こういった意味でも、冒険者生活は甘くないのだ。
「じゃあ、無理な場合はひとつめの依頼だけこなして撤退するが、できれば二つめの依頼である〝排除もしくは討伐〟もこなしてこようと思う。で、それぞれの報酬はいくらなんだ?」
ディータは知っておくべきことをあらかた聞いておこうと、職員に確認している。そんな様子を見て、彼と組んでもらえてよかったなと感じていた。
きっと私ひとりなら、職員にいいように使われていただろう。
確認すれば教えてくれるから、まるっきり悪なのではない。けれど、親切かといわれればそうではないし、善とはいえないと感じる。
貴族社会にいたときも、腹の探り合いは常だった。だから、どこへいっても呑気ではいられないという話なのだけれど、私はそれをどこかで失念していたのだ。
「えっと、最初の依頼の報酬が一万ゼニー、そして排除なり討伐なりをする二つめの依頼の報酬が四万ゼニーほどの予定でした……」
「なるほど。それを伝えずに俺たちに行かせて、あわよくば二つめの報酬である四万ゼニーを浮かせられたらって思ってたんだな。んじゃ、無事に帰ってきたら五万ゼニーもらうからな」
「え、あ、はい……それでいいです」
ディータに冷静に確認され、職員は渋々頷くしかなかった。おそらく、この眼鏡の職員はギルドの阿漕なやり方をこなすには善良すぎるのだ。うまくやる人間は、たぶんもっとうまくやる。
とはいえ、こちらも商売だ。騙されたり当然もらえるものを掠め取られたりするのは、避けたいことだ。
「じゃあ、イリメル行こうか。無事にやりとげて、五万ゼニーもらおうな」
「はい!」
出発ゲートに向かいながら、ディータは爽やかな笑顔で言う。
きっと、私がずっとお金のことを気にしていたから、彼もそれを気にかけてくれていたのだろう。
彼がそれを恩に着せないのはわかっていても、私が負い目に感じたくないのだ。
借りがある状態でなくなれば、ディータといるのはきっともっと楽しくなる。そう感じているから、早く身軽になりたい。
「ここは……森?」
出発ゲートの中でまばゆい光に包まれ、次に目を開けたときには緑豊かな場所に立っていた。
洞窟と聞いていたから、もっと石や岩の多いところかと思っていたのに。
そしてあたりを見回してみても、問題の洞窟らしいものは見当たらない。
「まだ不確定要素の多い依頼だから、少し離れたところに飛ばされたんだろうな。とりあえず、問題の洞窟が見つかるまでこのあたりを散策してみようか」
「はい」
まず動いてみなければどうにもならないというわけで、私たちはあたりを歩いてみることにした。
こんなこともあろうかと、私は大きめのカバンで来ていたのだ。今は、少しでも多くお金がほしい。だから、視界に入ったお金になりそうな草や石やキノコは、何でも採取して帰ることにしている。
「イリメル、今度|手袋(グローブ)買おうか。じゃないと、きみの手が汚れてしまうし、怪我しちゃいけないから」
私がせっせと草を引っこ抜いていると、ディータが呆れたような、心配するような様子で言った。
ディータは時々、私をこんなふうに過保護に扱おうとする。それが何だかくすぐったい気持ちになる反面、ちょっぴり不満だ。
「大丈夫ですよ、ディータさん。私、家を飛び出してからはずっと、教会に身を寄せながらも草や魚を食べて生活してたんですからね」
頼りないお嬢さんではないのだということを言いたかったのだけれど、それを聞いたディータはますます困った顔をした。
「飛び出してきたってことは、帰れる家があるし、いつか帰らなくてはならないかもしれないってことだろ……いや、何でもない」
私のことを心配しているのに、なぜか彼はつらそうな顔をした。もしかしたら、何か思い出させたくないことを思い出させてしまったのかもしれない。
これまでディータのことを、ひとりで勇敢に戦う、強くて優しい冒険者だと思っていた。でも、よく考えたら彼がこれまでどのように生きてきたのかも、なぜずっとソロだったのかも、まるで何も知らないのだ。
とはいえ、それを今聞くつもりはない。私だって自分のことを、婚約破棄されて〝己の強さ〟を確かめるために家を飛び出してきた侯爵令嬢だなんて、言えるわけがないのだから。
「ディータさん、たくさん精算アイテム集めましょう! そしたら、帰ってからの食事、豪華にするってことで!」
少し妙な感じになってしまった空気を払拭するために努めて明るく言うと、それに応えるみたいにディータも笑ってくれた。
それから私たちは草やキノコを集めながら道を進んでいき、問題の洞窟が見えるところまでやってきた。
それは、蔦に覆われた岩壁にぽっかりと口を開けていた。
「洞窟って、たぶんこれですよね……? 遠くから見たら緑だったから、てっきり木々だと思ったのに」
「緑に包まれた岩山、だな。そしてその中に空洞ができていて、洞窟になっているようだ」
私たちは洞窟の中を伺うように、じっと耳を澄ませた。
しかし、そんなタイミングであろうことか、私のお腹の虫が大きな声で鳴いた。
「す、すみません……」
「いや、いいよ。お腹が空くのは当たり前のことだし」
「……うぅ」
ディータが爽やかに笑い、それでさらに私が羞恥に震えていると、また大きな音が鳴り響いた。
ディータはそれを聞いてハッとした顔をしたが、今度は私のお腹ではない。慌てて首を振ると、彼は耳を澄ませるよう身振りで示した。
「この音? 声? とにかく、よく聞いてみてほしいんだ」
ディータに言われ、私は先ほどより集中して耳を洞窟へ向けてみた。すると、地を這うような低い音が聞こえてくる。
ぐぐぐぐぐううぅぅぅ~……というような、聞いているとその音の発生源に吸い込まれてしまいそうな、ひどい音だ。
これがおそらく、依頼の内容にあった〝怪しげな声〟なのだろう。
これから私たちは、この恐ろしげな音の発生源を突き止めにいかなければならない。
洞窟の中を探索するのであれば、まず灯りは必須だろう。それに、いきなり攻撃されたときに備え、バリアも張っておきたい。もしものときのために、私にもディータにも身体強化の加護をつけておいたほうがいいかもしれない。
そんなふうに今後の計画を頭の中で立てていたのに、ディータが洞窟に視線をやったまま、怪訝そうに首を傾げていた。
やばいモンスターがいるかもしれないと身構えている私とは、少し温度差があるように感じる。
「ディータさん、どうしました?」
「あ、いや……この音、何かに似てるなって考えてたんだ。そしたらさ、イリメルのお腹の音じゃないかなって」
「……へ?」
何かを考え込む様子で一体どんなことを話すのかと思っていたのに、ディータはそんな間の抜けたことを言う。
私はそれを聞いて怒るべきか恥じらうべきか考えたのだが、彼はいたって真剣な顔をしている。
そしてさらに、怖いことを言った。
「つまりさ、これはモンスターの鳴き声ではなく、腹の音ってことなんじゃないか? 洞窟の中には、腹を空かせたモンスターがいるかもしれないってことだ」
ディータの発言によって、私の頭の中にはお腹を空かせて涎ダラダラの恐ろしいモンスターの姿が浮かんだ。
そんなやつのいるところに行ったら、私たちはまんまと餌にされてしまうのではないか。
考えただけで、とても怖い。
それなのに、ディータは落ち着いている。
「――よし。それなら、何か肉を獲りにいって焼くか。イリメルもお腹を空かせていることだしな」
聞くだけでも怪しさ満点な依頼なのがわかって、私は正直二の足を踏んでいた。
これまで、教会に依頼されるがまま、そこそこ難しいモンスターとも戦ってきた。しかし、それらはすべて詳細な情報があったからやれたことだと思っている。
この依頼は、洞窟の中にいるのがどんなものなのか、誰も何も知らない状態のスタートということだ。むしろ、それを知りに行くのが内容なのである。
かなり危険度が高い任務なのは、このざっくりした説明でも理解できた。
しかし、恐ろしいという思いも当然あるものの、その奥からムクリと好奇心が顔を覗かせてもいる。
強いものがいるのだとしたら、遭遇してみたいという気持ちが湧いてきてしまっているのだ。
婚約破棄されるときにエーリク様に言われた「きみは強いからひとりでも平気だよね」という言葉が、時々私を戦いへと駆り立てるのである。
というより、己の強さを試し、証明しなくてはならない気分になるのだ。
そんな私の戦士(ファイター)魂が、この依頼を受けたいといっている。怖いと思う気持ちも当然あるけれど。
でも、ディータはどうだろうかと、私は隣に立つ彼の顔を盗み見た。
「声の主を確認するだけというが、逆に倒してしまった場合や傷つけたときは依頼は失敗、もしくは報酬が減額になるのか?」
「いえ、そんなことはありません。この依頼は二段階に別れていて、まずディータさんたちにやってもらおうと思っているのが、〝洞窟の声の主の確認〟です。それが無事済めば、ほかの方たちに〝洞窟の声の主の排除もしくは討伐〟を頼もうと思っておりましたので」
「ということは、俺たちが二つ目の任務を達成してしまってもいいってことだよな? その場合、二つ目の依頼の報酬も当然もらえるよな?」
「……そうなりますね」
職員とディータとのやりとりを見ていて、彼が考え込んでいる様子はこれが理由だったのかと合点がいった。
おそらく、ディータもこの依頼の内容が何となく気になり、どんな〝落とし穴〟があるのか考えたのだろう。
「……これ、ディータさんがもし尋ねなかったらひとつの依頼で二つ片付けようとしてましたよね? 報酬をケチって」
私がコソッと確認すると、ディータは困った顔で頷いた。
ギルドの職員は、確認すれば答えてくれるけれど、それをしなければこうしてしれっと黙っているということだ。
何というか……まるまる信用してはいけないのだなと、今のやりとりで理解させられた。
こういった意味でも、冒険者生活は甘くないのだ。
「じゃあ、無理な場合はひとつめの依頼だけこなして撤退するが、できれば二つめの依頼である〝排除もしくは討伐〟もこなしてこようと思う。で、それぞれの報酬はいくらなんだ?」
ディータは知っておくべきことをあらかた聞いておこうと、職員に確認している。そんな様子を見て、彼と組んでもらえてよかったなと感じていた。
きっと私ひとりなら、職員にいいように使われていただろう。
確認すれば教えてくれるから、まるっきり悪なのではない。けれど、親切かといわれればそうではないし、善とはいえないと感じる。
貴族社会にいたときも、腹の探り合いは常だった。だから、どこへいっても呑気ではいられないという話なのだけれど、私はそれをどこかで失念していたのだ。
「えっと、最初の依頼の報酬が一万ゼニー、そして排除なり討伐なりをする二つめの依頼の報酬が四万ゼニーほどの予定でした……」
「なるほど。それを伝えずに俺たちに行かせて、あわよくば二つめの報酬である四万ゼニーを浮かせられたらって思ってたんだな。んじゃ、無事に帰ってきたら五万ゼニーもらうからな」
「え、あ、はい……それでいいです」
ディータに冷静に確認され、職員は渋々頷くしかなかった。おそらく、この眼鏡の職員はギルドの阿漕なやり方をこなすには善良すぎるのだ。うまくやる人間は、たぶんもっとうまくやる。
とはいえ、こちらも商売だ。騙されたり当然もらえるものを掠め取られたりするのは、避けたいことだ。
「じゃあ、イリメル行こうか。無事にやりとげて、五万ゼニーもらおうな」
「はい!」
出発ゲートに向かいながら、ディータは爽やかな笑顔で言う。
きっと、私がずっとお金のことを気にしていたから、彼もそれを気にかけてくれていたのだろう。
彼がそれを恩に着せないのはわかっていても、私が負い目に感じたくないのだ。
借りがある状態でなくなれば、ディータといるのはきっともっと楽しくなる。そう感じているから、早く身軽になりたい。
「ここは……森?」
出発ゲートの中でまばゆい光に包まれ、次に目を開けたときには緑豊かな場所に立っていた。
洞窟と聞いていたから、もっと石や岩の多いところかと思っていたのに。
そしてあたりを見回してみても、問題の洞窟らしいものは見当たらない。
「まだ不確定要素の多い依頼だから、少し離れたところに飛ばされたんだろうな。とりあえず、問題の洞窟が見つかるまでこのあたりを散策してみようか」
「はい」
まず動いてみなければどうにもならないというわけで、私たちはあたりを歩いてみることにした。
こんなこともあろうかと、私は大きめのカバンで来ていたのだ。今は、少しでも多くお金がほしい。だから、視界に入ったお金になりそうな草や石やキノコは、何でも採取して帰ることにしている。
「イリメル、今度|手袋(グローブ)買おうか。じゃないと、きみの手が汚れてしまうし、怪我しちゃいけないから」
私がせっせと草を引っこ抜いていると、ディータが呆れたような、心配するような様子で言った。
ディータは時々、私をこんなふうに過保護に扱おうとする。それが何だかくすぐったい気持ちになる反面、ちょっぴり不満だ。
「大丈夫ですよ、ディータさん。私、家を飛び出してからはずっと、教会に身を寄せながらも草や魚を食べて生活してたんですからね」
頼りないお嬢さんではないのだということを言いたかったのだけれど、それを聞いたディータはますます困った顔をした。
「飛び出してきたってことは、帰れる家があるし、いつか帰らなくてはならないかもしれないってことだろ……いや、何でもない」
私のことを心配しているのに、なぜか彼はつらそうな顔をした。もしかしたら、何か思い出させたくないことを思い出させてしまったのかもしれない。
これまでディータのことを、ひとりで勇敢に戦う、強くて優しい冒険者だと思っていた。でも、よく考えたら彼がこれまでどのように生きてきたのかも、なぜずっとソロだったのかも、まるで何も知らないのだ。
とはいえ、それを今聞くつもりはない。私だって自分のことを、婚約破棄されて〝己の強さ〟を確かめるために家を飛び出してきた侯爵令嬢だなんて、言えるわけがないのだから。
「ディータさん、たくさん精算アイテム集めましょう! そしたら、帰ってからの食事、豪華にするってことで!」
少し妙な感じになってしまった空気を払拭するために努めて明るく言うと、それに応えるみたいにディータも笑ってくれた。
それから私たちは草やキノコを集めながら道を進んでいき、問題の洞窟が見えるところまでやってきた。
それは、蔦に覆われた岩壁にぽっかりと口を開けていた。
「洞窟って、たぶんこれですよね……? 遠くから見たら緑だったから、てっきり木々だと思ったのに」
「緑に包まれた岩山、だな。そしてその中に空洞ができていて、洞窟になっているようだ」
私たちは洞窟の中を伺うように、じっと耳を澄ませた。
しかし、そんなタイミングであろうことか、私のお腹の虫が大きな声で鳴いた。
「す、すみません……」
「いや、いいよ。お腹が空くのは当たり前のことだし」
「……うぅ」
ディータが爽やかに笑い、それでさらに私が羞恥に震えていると、また大きな音が鳴り響いた。
ディータはそれを聞いてハッとした顔をしたが、今度は私のお腹ではない。慌てて首を振ると、彼は耳を澄ませるよう身振りで示した。
「この音? 声? とにかく、よく聞いてみてほしいんだ」
ディータに言われ、私は先ほどより集中して耳を洞窟へ向けてみた。すると、地を這うような低い音が聞こえてくる。
ぐぐぐぐぐううぅぅぅ~……というような、聞いているとその音の発生源に吸い込まれてしまいそうな、ひどい音だ。
これがおそらく、依頼の内容にあった〝怪しげな声〟なのだろう。
これから私たちは、この恐ろしげな音の発生源を突き止めにいかなければならない。
洞窟の中を探索するのであれば、まず灯りは必須だろう。それに、いきなり攻撃されたときに備え、バリアも張っておきたい。もしものときのために、私にもディータにも身体強化の加護をつけておいたほうがいいかもしれない。
そんなふうに今後の計画を頭の中で立てていたのに、ディータが洞窟に視線をやったまま、怪訝そうに首を傾げていた。
やばいモンスターがいるかもしれないと身構えている私とは、少し温度差があるように感じる。
「ディータさん、どうしました?」
「あ、いや……この音、何かに似てるなって考えてたんだ。そしたらさ、イリメルのお腹の音じゃないかなって」
「……へ?」
何かを考え込む様子で一体どんなことを話すのかと思っていたのに、ディータはそんな間の抜けたことを言う。
私はそれを聞いて怒るべきか恥じらうべきか考えたのだが、彼はいたって真剣な顔をしている。
そしてさらに、怖いことを言った。
「つまりさ、これはモンスターの鳴き声ではなく、腹の音ってことなんじゃないか? 洞窟の中には、腹を空かせたモンスターがいるかもしれないってことだ」
ディータの発言によって、私の頭の中にはお腹を空かせて涎ダラダラの恐ろしいモンスターの姿が浮かんだ。
そんなやつのいるところに行ったら、私たちはまんまと餌にされてしまうのではないか。
考えただけで、とても怖い。
それなのに、ディータは落ち着いている。
「――よし。それなら、何か肉を獲りにいって焼くか。イリメルもお腹を空かせていることだしな」
189
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる