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プロローグ
人魔大戦
しおりを挟むー気づいた時には全てが赤だった。
私、 吉田 祐奈は自分以外の人が全員血塗れになって倒れているという異常な光景を見た後に一つ、溜息を吐いた。
それがこんな悲惨な光景を見ても何も感情が浮かんで来ない己に対してなのか、呆気なく倒れてしまった敵魔族に対してなのかは解らなかった。
ただ、悲しかった。
この世界に勇者として召喚された時には、兎の皮を剥ぐことにすら泣きながら吐いたというのに、今では自分と同じ人という形をした魔族を何万人と倒しても何も感じなかった。
もしも、元の世界に戻れたとしても私は異端者扱いをされるに違いない。
そう思えるほど私は容易く命を奪っていっていた。
そう言えば、最後に倒した魔族に『悪魔』と呼ばれたな。
酷い奴だ。
私はみんなから『勇者』と呼ばれて慕われているのに。
『悪魔』だなんて。
寧ろ悪魔はお前らだろうと言いたい。
まぁ、もう言っても返事なんて返してくれないだろうけど。
そんな事を考えながら自分の国に戻る為に歩く。
私が一歩進むごとにグチュリと下の死体から音がする。
これは別に私が出したいから出しているわけではないし、死体を踏みたくて踏んでいるわけでもない。
ただ、目測で分かる範囲全ての地面の上に死体が敷き詰められているのだ。
例え踏むのが嫌でも、立ち尽くしていたら死んでしまう。
だから仕方なく、踏みながら進んでいるのだ。
歩きながら誰にともなく、そんな意味のない言い訳を考えてみる。
きっとこんな事を言ったら、私の国の人たちは寧ろ踏めと唆されるだろうし、魔族の人たちはお前が殺したくせにと罵られるだろうな。
いや、その前に私を殺そうとかかって来るだろう。
そう考えると、魔族の人たちは私に何も言われないということになるな。
少しだけ、辛いかもしれない。
何に対してかは解らないけど。
こういうのを『冷徹』というのかな。
それとも『残虐』?
…どちらにもあっているようで違う気がする。
ならば聞いてみるか。
丁度、国境に建てられている砦が見えて来たし。
砦には、何人もの兵士たちが集まっていた。
皆、笑顔だ。
それちに釣られて私も笑顔になる。
私は、兵士たちに手を振りながら砦の中へと入って行く。
目指すのは自分の部屋だ。
その途中で、少しだけ変な一人の若い兵士に聞いてみた。
私は残虐かどうか。
そしたら、その兵士は真面目な顔で「ええ、とても」と答えたが、その直後慌てて魔族から見たら、と言った。
そうか、私は魔族から見たらとても酷い奴なんだなと思った。
その後、私は思い出したように他の地域でも聞いて見たが、魔族視点で答えてくれたのは彼だけだった。
その彼はこの戦争が終結したときに何か手柄を立てたようで、偉い人の養子になったらしい。
私の大きな部屋で聞いたその話は、ずっと心に残っている。
まさか、彼が私と同い年とは思わなかった。
精々、一つ二つ年下だと思っていた。
彼的には微妙な覚えられ方だとは思うが、私には驚きでしかなかった。
結果、未だに彼のことは覚えている。
名前はもう覚えていないけど。
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