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亜美と由美と私
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「アタシ、本気で怒ると怖いからね」
なんてかわいい娘なんだろう? だって、本当に怖い女なんて、わざわざそんな事は言わない。本当に怖くて賢くてふてぶてしい女だったら、わざわざ「自分は怖い」などと宣言せずに、用意周到に相手に奇襲攻撃を食らわすのだから。それが出来ないヘタレさこそが、亜美の逆説的な「美徳」だ。
彼女は黙っていれば、それなりに男にモテそうなかわいい娘。だけど、潔癖な男嫌い。それゆえに、彼女の女としての魅力は、少なくとも異性愛業界では無駄になってしまう。
亜美は見かけだけなら、ベタなぶりっ子キャラを演じるのが似合いそうに見えるけど、本人はそれをフル活用するなんて考えたくもないらしい。そんな、暗愚ではない代わりに愚直な彼女が、私は好きだ。
「男の子は好きな女の子ほどいじめたくなるなんて、大嘘。だって、アタシが小学生の頃にいたクラスメイトの女の子なんて、弱気な性格でさえない子だったし、他の女の子たちは男子連中にあの子をスケープゴートとして差し出していたんだから」
その女の子は、シャレにならない事件の被害者になり、転校していったという。亜美が言うには、そんな意地悪な、いや、邪悪な女子クラスメイトたちの一人が、今では反戦リベラル系のフェミニストでコラムニストとしてそこそこ有名人になっているという。私はその人を知らなかった。
「あの人、あのモデルさんを『どこのクラスにも必ず一人はいた嫌な女子のタイプ』呼ばわりしたけど、何だか鏡に向かって言ってるみたい」
まあ、確かにどんなフェミニストだって一人くらいは嫌いな女はいるハズだ。レズビアンだって、どうしても生理的に受け付けないタイプの同性がいるハズだ。ましてや、私は平凡なシスジェンダーの異性愛者の女だから、「女の敵は女」だというまごう事なき現実/事実/真実の全否定なんて出来ない。
でも、私は亜美を「敵」だとは思えない。
「由美って、いまだにネトウヨをやめてないの。毎日ネットでヘイトしてるみたい」
亜美の妹、由美は、亜美が実家を出て一人暮らしを始めてからもなお、実家暮らしだ。正直言って、あの娘は色々な意味で亜美みたいにかわいくない。たびたびネガティヴな発言をしても、それは明らかに同情の催促だ。以前亜美にこっそり教えられてから見たあの娘のブログのプロフィールには「孤独を愛する人間嫌い」なんて書いていたけど、そのプロフィールといい、ブログの内容といい、無意識の媚びを感じさせた。
私の小学生時代のクラスメイトにも、こんな欺瞞モロ出しの娘がいた。
「由美ったら、また仕事をクビになったの。韓流ドラマファンのオバちゃん相手に突っかかって、ね。多分、初恋の人が在日コリアンの男の子で、その子に振られたのがいまだにトラウマになっているのかも」
由美の「男嫌い」は、亜美のそれに比べて「上辺だけ」感が強い。あの娘は明らかに亜美よりずっと男好きだ。自分にとっては都合の悪い男を「クソ野郎」呼ばわりしつつも、しっかりと「王子様」を求めている。
ネット上で「虫愛づる姫君」を気取るのは、明らかに彼女なりの誘惑の演技だ。だけど、私が男だったら、あんなバカ女なんて論外だ。「女は皆女優」なんて言葉があるらしいけど、あの娘は目も当てられない大根役者だ。
私は亜美の健気な愚直さが好き。自らのヘタレさを繕うために必死で虚勢を張るのだって、愛おしい。だけど、あの不肖の妹は、どんな「妹萌え」の男にも相手にされないだろう。この姉妹には、男兄弟がいない。亜美がお菓子の城なら、由美は攻略する価値のない砦だ。
「アタシたちが『スイーツ』なら、ネットのミソ男なんて『ビター』だよね」
そう、ミソ男、すなわちミソジニー男が使うネットスラング「スイーツ(笑)」だ。亜美が言いたいのは、要するにあんな連中は苦々しい奴らだから、「ビター(泣)」だったり「スパイシー(怒)」だったりするのだ。私たちはカフェでパンケーキを食べている。
「パンケーキの方が大事」だなんて言葉で女をバカにする男なんて、私たちにとっては論外だ。
一人っ子の私はお姉ちゃんがほしかった。妹でも良かったけど、由美みたいな妹なら、明らかにいない方がマシだ。亜美は明らかに自分の妹を重荷に思っている。せめて、本人がネトウヨをやめてくれれば、少しはマシなんだけど、あの娘は自分が嫌いな人間に対しては聞く耳を持たないし、私も亜美もあの娘に対して何かを言う口を持たない。
「小学生になる前はあんなんじゃなかったんだけどね、あの子」
何だか分かる気がする。なぜなら、私自身、保育園時代と小学生時代とでは明らかに違っていたから。小学校入学前の私は世間の物差しなんて気にしていなかったから。
「ごちそうさま」
私たちはそれぞれの家に戻った。次に遊べるのはいつだろうか? 私たちはそれぞれ多忙だ。学生時代に比べて、会う機会が少ない。私はテレビのリモコンに手をのばす。
「あ、この人嫌いだ」
私が嫌いな男性お笑い芸人の冠番組だ。顔を見た瞬間、チャンネルを変える。どうもお笑い芸人というカテゴリーの芸能人は、スクールカーストの匂いがプンプンする。
亜美も由美も私も、テレビの向こうの売れっ子芸能人たちも、義務教育時代の尻尾を引きずっている。その尻尾を引っ張られたり、踏まれたり。私はキッチンに向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
普段はホップの苦味が心地良いのに、今の私は別の苦味を感じる。あの芸人の顔を見たからだけではない。由美のせいだ。私は思う。
あの娘は昔の私だ。
そう、男のミソジニーが都合の悪い他者に対する嫌悪感なら、女のミソジニーは自己嫌悪の延長としての同族嫌悪だ。あの娘のみっともなさは、昔の私そのものだ。そして、亜美が私の友達になってくれなければ、私は孤独なままだっただろう。
なんてかわいい娘なんだろう? だって、本当に怖い女なんて、わざわざそんな事は言わない。本当に怖くて賢くてふてぶてしい女だったら、わざわざ「自分は怖い」などと宣言せずに、用意周到に相手に奇襲攻撃を食らわすのだから。それが出来ないヘタレさこそが、亜美の逆説的な「美徳」だ。
彼女は黙っていれば、それなりに男にモテそうなかわいい娘。だけど、潔癖な男嫌い。それゆえに、彼女の女としての魅力は、少なくとも異性愛業界では無駄になってしまう。
亜美は見かけだけなら、ベタなぶりっ子キャラを演じるのが似合いそうに見えるけど、本人はそれをフル活用するなんて考えたくもないらしい。そんな、暗愚ではない代わりに愚直な彼女が、私は好きだ。
「男の子は好きな女の子ほどいじめたくなるなんて、大嘘。だって、アタシが小学生の頃にいたクラスメイトの女の子なんて、弱気な性格でさえない子だったし、他の女の子たちは男子連中にあの子をスケープゴートとして差し出していたんだから」
その女の子は、シャレにならない事件の被害者になり、転校していったという。亜美が言うには、そんな意地悪な、いや、邪悪な女子クラスメイトたちの一人が、今では反戦リベラル系のフェミニストでコラムニストとしてそこそこ有名人になっているという。私はその人を知らなかった。
「あの人、あのモデルさんを『どこのクラスにも必ず一人はいた嫌な女子のタイプ』呼ばわりしたけど、何だか鏡に向かって言ってるみたい」
まあ、確かにどんなフェミニストだって一人くらいは嫌いな女はいるハズだ。レズビアンだって、どうしても生理的に受け付けないタイプの同性がいるハズだ。ましてや、私は平凡なシスジェンダーの異性愛者の女だから、「女の敵は女」だというまごう事なき現実/事実/真実の全否定なんて出来ない。
でも、私は亜美を「敵」だとは思えない。
「由美って、いまだにネトウヨをやめてないの。毎日ネットでヘイトしてるみたい」
亜美の妹、由美は、亜美が実家を出て一人暮らしを始めてからもなお、実家暮らしだ。正直言って、あの娘は色々な意味で亜美みたいにかわいくない。たびたびネガティヴな発言をしても、それは明らかに同情の催促だ。以前亜美にこっそり教えられてから見たあの娘のブログのプロフィールには「孤独を愛する人間嫌い」なんて書いていたけど、そのプロフィールといい、ブログの内容といい、無意識の媚びを感じさせた。
私の小学生時代のクラスメイトにも、こんな欺瞞モロ出しの娘がいた。
「由美ったら、また仕事をクビになったの。韓流ドラマファンのオバちゃん相手に突っかかって、ね。多分、初恋の人が在日コリアンの男の子で、その子に振られたのがいまだにトラウマになっているのかも」
由美の「男嫌い」は、亜美のそれに比べて「上辺だけ」感が強い。あの娘は明らかに亜美よりずっと男好きだ。自分にとっては都合の悪い男を「クソ野郎」呼ばわりしつつも、しっかりと「王子様」を求めている。
ネット上で「虫愛づる姫君」を気取るのは、明らかに彼女なりの誘惑の演技だ。だけど、私が男だったら、あんなバカ女なんて論外だ。「女は皆女優」なんて言葉があるらしいけど、あの娘は目も当てられない大根役者だ。
私は亜美の健気な愚直さが好き。自らのヘタレさを繕うために必死で虚勢を張るのだって、愛おしい。だけど、あの不肖の妹は、どんな「妹萌え」の男にも相手にされないだろう。この姉妹には、男兄弟がいない。亜美がお菓子の城なら、由美は攻略する価値のない砦だ。
「アタシたちが『スイーツ』なら、ネットのミソ男なんて『ビター』だよね」
そう、ミソ男、すなわちミソジニー男が使うネットスラング「スイーツ(笑)」だ。亜美が言いたいのは、要するにあんな連中は苦々しい奴らだから、「ビター(泣)」だったり「スパイシー(怒)」だったりするのだ。私たちはカフェでパンケーキを食べている。
「パンケーキの方が大事」だなんて言葉で女をバカにする男なんて、私たちにとっては論外だ。
一人っ子の私はお姉ちゃんがほしかった。妹でも良かったけど、由美みたいな妹なら、明らかにいない方がマシだ。亜美は明らかに自分の妹を重荷に思っている。せめて、本人がネトウヨをやめてくれれば、少しはマシなんだけど、あの娘は自分が嫌いな人間に対しては聞く耳を持たないし、私も亜美もあの娘に対して何かを言う口を持たない。
「小学生になる前はあんなんじゃなかったんだけどね、あの子」
何だか分かる気がする。なぜなら、私自身、保育園時代と小学生時代とでは明らかに違っていたから。小学校入学前の私は世間の物差しなんて気にしていなかったから。
「ごちそうさま」
私たちはそれぞれの家に戻った。次に遊べるのはいつだろうか? 私たちはそれぞれ多忙だ。学生時代に比べて、会う機会が少ない。私はテレビのリモコンに手をのばす。
「あ、この人嫌いだ」
私が嫌いな男性お笑い芸人の冠番組だ。顔を見た瞬間、チャンネルを変える。どうもお笑い芸人というカテゴリーの芸能人は、スクールカーストの匂いがプンプンする。
亜美も由美も私も、テレビの向こうの売れっ子芸能人たちも、義務教育時代の尻尾を引きずっている。その尻尾を引っ張られたり、踏まれたり。私はキッチンに向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
普段はホップの苦味が心地良いのに、今の私は別の苦味を感じる。あの芸人の顔を見たからだけではない。由美のせいだ。私は思う。
あの娘は昔の私だ。
そう、男のミソジニーが都合の悪い他者に対する嫌悪感なら、女のミソジニーは自己嫌悪の延長としての同族嫌悪だ。あの娘のみっともなさは、昔の私そのものだ。そして、亜美が私の友達になってくれなければ、私は孤独なままだっただろう。
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