4 / 9
自分専属の友達
しおりを挟む
わたしと瑞穂は共にいじめられっ子だった。
わたしは内気で根暗でコミュ障だから、いじめられっ子としては実に分かりやすいタイプだ。だけど、わたしはあの娘がなぜ他の女子たちにバカにされていたのか、当時は全く理解不能だった。
わたしたちが男子連中に人気がなかったのは当然だ。なぜなら、単刀直入に顔がかわいくなかったからだ。もちろん、女子ウケだって、かわいい娘の方がいい。男子を巡っての直接の利害対立がない限りは、ブスより美人やかわいい娘の方が同性に好かれる。だけど、瑞穂が他の女子たちに嫌われていたのは、外見のせいだけではなかった。
「どうして、みんなあの娘をバカにするの?」
「あの娘は『バカの一つ笑い』よ」
当時のスクールカーストで中の下くらいだった娘が嘲笑う。そのくらいのランクが一番わたしたちに対して容赦ない。もちろん、わたしと瑞穂は下の下、中の下の娘のフレーズは言わずと知れた「バカの一つ覚え」のもじり。要するに、瑞穂は「どんな人でも笑顔は魅力的だ」という信仰を健気に抱いていたのだ。
瑞穂は素直ないい子だった。だけど、他の女子連中から見れば、そんなあの娘は単に「ズルくなれるほど賢くない」だけだったようだ。
中学時代のわたしは、他の女子たちから距離を置いていた…というか、疎外されていた分、自分自身が女であるのにも関わらず、「女心」を理解出来なかったし、しようともしなかった。なぜなら、わたしは自分を精神的に「中性」だと思っていたし、女社会に居場所がないと思っていた。
「『Avaloncity Stories』の中で誰が好き?」
「うーん、やっぱりフォースタスとアスターティのカップルかな? 他にカップルで好きなのは、果心と緋奈だね」
わたしたちは互いに好きな漫画やアニメを通じて、一気に仲良くなった。『Avaloncity Stories』とは、わたしが当時からハマっていたSF漫画で、今でも愛読している。
「彼氏にするなら、商鞅と久秀のどっちがいい?」
わたしは悩んだ。なぜなら、わたしには二次元キャラに対して「恋する」という発想がなかったから。それに、当時の担任の先生に密かに恋していたから。今のわたしは一人の成人女性として「ロリコン」の男を嫌っているけど、当時のわたしには同年代男子を恋愛対象にするなんて考えられなかった。なぜなら、男子連中はわたしを「バイキン」呼ばわりしていじめていたから。だからこそ、女子連中はわたしと瑞穂を見下して意地悪な安心感を抱いていたのだ。
「うーん、どっちも怖いし」
「あたしは商鞅とアスモダイのコンビが好き。アスモが人間の姿の美形だったら、もっといいんだけど」
そうだ、瑞穂はいわゆる「腐女子」だった。そして、それもあの娘が他の女子たちに見下される理由の一つだったけど、本質的な要因はそれではない。
でも、おかげであの娘はわたし専属の友達になってくれた。
わたしは高校進学後、あの娘には会っていない。それぞれ別の学校に行ったし、すっかり疎遠になっていた。わたしは短大卒業後、フリーターとして細々と食べていきつつ、小説を書いている。
わたしが瑞穂の名前を久しぶりに見て聞いたのは、ある事件のニュースだ。
あの娘は高校を卒業後、わたしとは別の短大に進学し、卒業して中小企業の事務員になっていた。どうやら、瑞穂は高校進学以降はわたしより勉強熱心になり、成績優秀になっていたようだ。あの娘はまぶたを二重に整形し、ダイエットに成功して、大企業の社員と結婚して専業主婦になっていた。
あの娘は加害者、相手は被害者。
瑞穂が殺した旦那は、わたしと瑞穂をバカにしていた元クラスメイトの女と不倫していた。そう、あの娘を「バカの一つ笑い」と嘲笑っていた女だ。
あの女は直接の被害者でも加害者でもないけど、コラムニストとして社会的に成功していたから、なおさら事件がセンセーショナルになった。専業主婦バッシングで炎上商法、枕営業で売れっ子コメンテーターになった女は、またしても瑞穂を踏みにじった。
旦那の暴力に耐えかねて、瑞穂は酔った旦那が寝ている合間に窒息死させた。そして、すぐに警察に電話をかけて自首した。
わたしは瑞穂との面会を避けた。なぜなら、わたしは恋人がいない独り身、あの娘は夫殺し、お互いにみじめになるだろうからだ。わたしの義務教育時代で唯一の友達は、とっくの昔にわたしとの「契約期間」が終わっていた。わたしたちは互いに何を与え、何を得たのだろう?
瑞穂は素直ないい子。当時のわたしは単純素朴にそう思っていた。だけど、もうすぐ三十代になるわたしは悟った。
クラスのバカ女子連中は、あの娘の人当たりの良さを「必死で他人に媚びるための演技」だと見抜いていたのだ。要するに瑞穂は特別異端な存在ではなく、他の女子と変わらない保身術を使っていたつもりが、かえってお粗末だったから、バカにされていたのだ。だけど、わたしはそれさえも出来なかった。
わたしはあの娘を理解出来ていなかった。マシュマロみたいな柔らかい笑顔の中には、苦いクリームが詰まっていたのだ。あの不倫女が中学時代にあの娘に対して「笑顔がキモい」呼ばわりしたのは、いわゆる「女の直感」だったのだろう。かわいそうな瑞穂。あの娘は必死で善良な人間を演じていたけど、あの性悪女のせいで化けの皮を剥がされた。
「ごめんね、瑞穂」
判決が下され、刑務所生活を数年送って出所したあの娘に、わたしは会いに行けるだろうか? それとも、あの娘から会いに来てくれるだろうか? わたしは宇多田ヒカルの曲を聴きながら泣いている。あの娘もわたしも宇多田ヒカルと椎名林檎が好きだった。今夜は思い切り酔っ払いたい。わたしは冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
わたしは内気で根暗でコミュ障だから、いじめられっ子としては実に分かりやすいタイプだ。だけど、わたしはあの娘がなぜ他の女子たちにバカにされていたのか、当時は全く理解不能だった。
わたしたちが男子連中に人気がなかったのは当然だ。なぜなら、単刀直入に顔がかわいくなかったからだ。もちろん、女子ウケだって、かわいい娘の方がいい。男子を巡っての直接の利害対立がない限りは、ブスより美人やかわいい娘の方が同性に好かれる。だけど、瑞穂が他の女子たちに嫌われていたのは、外見のせいだけではなかった。
「どうして、みんなあの娘をバカにするの?」
「あの娘は『バカの一つ笑い』よ」
当時のスクールカーストで中の下くらいだった娘が嘲笑う。そのくらいのランクが一番わたしたちに対して容赦ない。もちろん、わたしと瑞穂は下の下、中の下の娘のフレーズは言わずと知れた「バカの一つ覚え」のもじり。要するに、瑞穂は「どんな人でも笑顔は魅力的だ」という信仰を健気に抱いていたのだ。
瑞穂は素直ないい子だった。だけど、他の女子連中から見れば、そんなあの娘は単に「ズルくなれるほど賢くない」だけだったようだ。
中学時代のわたしは、他の女子たちから距離を置いていた…というか、疎外されていた分、自分自身が女であるのにも関わらず、「女心」を理解出来なかったし、しようともしなかった。なぜなら、わたしは自分を精神的に「中性」だと思っていたし、女社会に居場所がないと思っていた。
「『Avaloncity Stories』の中で誰が好き?」
「うーん、やっぱりフォースタスとアスターティのカップルかな? 他にカップルで好きなのは、果心と緋奈だね」
わたしたちは互いに好きな漫画やアニメを通じて、一気に仲良くなった。『Avaloncity Stories』とは、わたしが当時からハマっていたSF漫画で、今でも愛読している。
「彼氏にするなら、商鞅と久秀のどっちがいい?」
わたしは悩んだ。なぜなら、わたしには二次元キャラに対して「恋する」という発想がなかったから。それに、当時の担任の先生に密かに恋していたから。今のわたしは一人の成人女性として「ロリコン」の男を嫌っているけど、当時のわたしには同年代男子を恋愛対象にするなんて考えられなかった。なぜなら、男子連中はわたしを「バイキン」呼ばわりしていじめていたから。だからこそ、女子連中はわたしと瑞穂を見下して意地悪な安心感を抱いていたのだ。
「うーん、どっちも怖いし」
「あたしは商鞅とアスモダイのコンビが好き。アスモが人間の姿の美形だったら、もっといいんだけど」
そうだ、瑞穂はいわゆる「腐女子」だった。そして、それもあの娘が他の女子たちに見下される理由の一つだったけど、本質的な要因はそれではない。
でも、おかげであの娘はわたし専属の友達になってくれた。
わたしは高校進学後、あの娘には会っていない。それぞれ別の学校に行ったし、すっかり疎遠になっていた。わたしは短大卒業後、フリーターとして細々と食べていきつつ、小説を書いている。
わたしが瑞穂の名前を久しぶりに見て聞いたのは、ある事件のニュースだ。
あの娘は高校を卒業後、わたしとは別の短大に進学し、卒業して中小企業の事務員になっていた。どうやら、瑞穂は高校進学以降はわたしより勉強熱心になり、成績優秀になっていたようだ。あの娘はまぶたを二重に整形し、ダイエットに成功して、大企業の社員と結婚して専業主婦になっていた。
あの娘は加害者、相手は被害者。
瑞穂が殺した旦那は、わたしと瑞穂をバカにしていた元クラスメイトの女と不倫していた。そう、あの娘を「バカの一つ笑い」と嘲笑っていた女だ。
あの女は直接の被害者でも加害者でもないけど、コラムニストとして社会的に成功していたから、なおさら事件がセンセーショナルになった。専業主婦バッシングで炎上商法、枕営業で売れっ子コメンテーターになった女は、またしても瑞穂を踏みにじった。
旦那の暴力に耐えかねて、瑞穂は酔った旦那が寝ている合間に窒息死させた。そして、すぐに警察に電話をかけて自首した。
わたしは瑞穂との面会を避けた。なぜなら、わたしは恋人がいない独り身、あの娘は夫殺し、お互いにみじめになるだろうからだ。わたしの義務教育時代で唯一の友達は、とっくの昔にわたしとの「契約期間」が終わっていた。わたしたちは互いに何を与え、何を得たのだろう?
瑞穂は素直ないい子。当時のわたしは単純素朴にそう思っていた。だけど、もうすぐ三十代になるわたしは悟った。
クラスのバカ女子連中は、あの娘の人当たりの良さを「必死で他人に媚びるための演技」だと見抜いていたのだ。要するに瑞穂は特別異端な存在ではなく、他の女子と変わらない保身術を使っていたつもりが、かえってお粗末だったから、バカにされていたのだ。だけど、わたしはそれさえも出来なかった。
わたしはあの娘を理解出来ていなかった。マシュマロみたいな柔らかい笑顔の中には、苦いクリームが詰まっていたのだ。あの不倫女が中学時代にあの娘に対して「笑顔がキモい」呼ばわりしたのは、いわゆる「女の直感」だったのだろう。かわいそうな瑞穂。あの娘は必死で善良な人間を演じていたけど、あの性悪女のせいで化けの皮を剥がされた。
「ごめんね、瑞穂」
判決が下され、刑務所生活を数年送って出所したあの娘に、わたしは会いに行けるだろうか? それとも、あの娘から会いに来てくれるだろうか? わたしは宇多田ヒカルの曲を聴きながら泣いている。あの娘もわたしも宇多田ヒカルと椎名林檎が好きだった。今夜は思い切り酔っ払いたい。わたしは冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる