20 / 25
たまトマ丼が好き
しおりを挟む
私の好物の一つに、卵とトマトの炒め物がある。中華料理で、西紅柿炒鶏蛋というものだが、これは私が大切な人が初めて私のために作ってくれた料理だ。
「どうだ、坊主。うまく出来るか?」
マツナガ博士が言う。私のフォースタスはアガルタの厨房で博士に料理のイロハを叩き込まれている。
まずは、中華スープの素で味付けした溶き卵を炒めてスクランブルエッグにする。卵を取り出し、トマトを炒める。ある程度炒めたら、先ほどのスクランブルエッグを加えてさらに炒め、塩コショウで味を整えて、完成。
「いただきます」
おいしい。フォースタスは私の表情を見て安心したようだ。マツナガ博士はそんな私たちを温かい目で見つめている。
今の私も、この料理が好きだ。少なくとも、週に一回くらいは作って食べている。どんぶり飯に盛り、「たまトマ丼」にする。いまだに飽きない。
そんな私は今もなおフォースタスが作ってくれるこの料理が好きだ。この人の料理はみんなおいしいけど、それでも私はこの卵とトマトの炒め物が好きなのだ。
今日の私は、中華風ではなくイタリア風でこれを作る。
トマトはイタリア料理のシンボルだ。ならば、せっかくだからイタリア風の味付けで作ってみよう。
まずは、溶き卵にアンチョビソースを少し加えて味付けし、スクランブルエッグを作る。炒め油はイタリア風らしくオリーブオイルを使う。フライパンからスクランブルエッグを一旦取り出し、オリーブオイルでニンニクとトマトを炒める。ある程度経ったら、スクランブルエッグをフライパンに戻して混ぜ合わせて炒め、バジルと塩コショウで味を整える。
あらかじめ器に盛ったご飯の上に載せ、イタリア風「たまトマ丼」の完成。
「うまいな」
フォースタスはほめてくれる。
「ありがとう」
私の料理の腕はフォースタスの足元にも及ばない。やはり、この人が作る卵とトマトの炒め物が一番だ。
フォースタスはテレビの電源を入れる。いきなり、ソーニア情勢のニュースだ。相変わらず内戦が続いているソーニアで、ゴールディとアスタロスの消息は分からない。
今の連邦政府は、震災復興を優先しているので、ソーニアに鎮圧軍を送る事は出来ない。しかし、おそらくは交渉人や特殊部隊を向こうに潜入させているだろう。
「ロクシーが行方不明になっているのって、あいつについて行ったという噂だけど、色々とうさんくさいし、きな臭いな」
「あいつ」、プレスター・ジョン・ホリデイ。ロクシーことロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドは、ソーニア州知事ホリデイの愛人だ。かつては私を敵視し、私自身も不快感を抱いた元同業者だ。彼女は正式な引退宣言をしないまま、アヴァロンシティから失踪した。
ミヨンママがあの古巣の芸能事務所を辞めてから、あの事務所は〈ジ・オ〉や〈神の塔〉に乗っ取られたようだ。ネミはそんな「魔窟」からかろうじて脱出出来た。彼女も私と同じ人造人間だ。私たちは〈ジ・オ〉のような狂信者集団とは相容れない。
私たちは、新しい家が完成するまではアガルタ特別区にあるこの別荘で暮らしている。ここには時々ネミが遊びに来る。彼女は芸能界引退を考えている。
私自身、以前のようには芸能活動を出来ないだろう。ステージには立たず、楽曲提供をするのが中心になる。幸い、そのようなオファーは少なくないから、ミュージシャンとして完全に引退する必要もないし、したくもない。
私は「表現をする女」だ。私はフォースタスを愛しているけど、決してそれだけの女ではありたくない。
「どうだ、坊主。うまく出来るか?」
マツナガ博士が言う。私のフォースタスはアガルタの厨房で博士に料理のイロハを叩き込まれている。
まずは、中華スープの素で味付けした溶き卵を炒めてスクランブルエッグにする。卵を取り出し、トマトを炒める。ある程度炒めたら、先ほどのスクランブルエッグを加えてさらに炒め、塩コショウで味を整えて、完成。
「いただきます」
おいしい。フォースタスは私の表情を見て安心したようだ。マツナガ博士はそんな私たちを温かい目で見つめている。
今の私も、この料理が好きだ。少なくとも、週に一回くらいは作って食べている。どんぶり飯に盛り、「たまトマ丼」にする。いまだに飽きない。
そんな私は今もなおフォースタスが作ってくれるこの料理が好きだ。この人の料理はみんなおいしいけど、それでも私はこの卵とトマトの炒め物が好きなのだ。
今日の私は、中華風ではなくイタリア風でこれを作る。
トマトはイタリア料理のシンボルだ。ならば、せっかくだからイタリア風の味付けで作ってみよう。
まずは、溶き卵にアンチョビソースを少し加えて味付けし、スクランブルエッグを作る。炒め油はイタリア風らしくオリーブオイルを使う。フライパンからスクランブルエッグを一旦取り出し、オリーブオイルでニンニクとトマトを炒める。ある程度経ったら、スクランブルエッグをフライパンに戻して混ぜ合わせて炒め、バジルと塩コショウで味を整える。
あらかじめ器に盛ったご飯の上に載せ、イタリア風「たまトマ丼」の完成。
「うまいな」
フォースタスはほめてくれる。
「ありがとう」
私の料理の腕はフォースタスの足元にも及ばない。やはり、この人が作る卵とトマトの炒め物が一番だ。
フォースタスはテレビの電源を入れる。いきなり、ソーニア情勢のニュースだ。相変わらず内戦が続いているソーニアで、ゴールディとアスタロスの消息は分からない。
今の連邦政府は、震災復興を優先しているので、ソーニアに鎮圧軍を送る事は出来ない。しかし、おそらくは交渉人や特殊部隊を向こうに潜入させているだろう。
「ロクシーが行方不明になっているのって、あいつについて行ったという噂だけど、色々とうさんくさいし、きな臭いな」
「あいつ」、プレスター・ジョン・ホリデイ。ロクシーことロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドは、ソーニア州知事ホリデイの愛人だ。かつては私を敵視し、私自身も不快感を抱いた元同業者だ。彼女は正式な引退宣言をしないまま、アヴァロンシティから失踪した。
ミヨンママがあの古巣の芸能事務所を辞めてから、あの事務所は〈ジ・オ〉や〈神の塔〉に乗っ取られたようだ。ネミはそんな「魔窟」からかろうじて脱出出来た。彼女も私と同じ人造人間だ。私たちは〈ジ・オ〉のような狂信者集団とは相容れない。
私たちは、新しい家が完成するまではアガルタ特別区にあるこの別荘で暮らしている。ここには時々ネミが遊びに来る。彼女は芸能界引退を考えている。
私自身、以前のようには芸能活動を出来ないだろう。ステージには立たず、楽曲提供をするのが中心になる。幸い、そのようなオファーは少なくないから、ミュージシャンとして完全に引退する必要もないし、したくもない。
私は「表現をする女」だ。私はフォースタスを愛しているけど、決してそれだけの女ではありたくない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
