魔王の息子、勇者育成の為に人間界に降り立ちます

除湿マン

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002.堕天使ルシファー

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 俺はアルマカンドの城の一室にいた。先日父上から大いなる試練を課され、それに一人、自室で考えを巡らせていた。
 父上―――――魔王アリアルは、千年の眠りについた。それは溜め込まれ腐り果てた魔王としての強大な力を復活させ、魔王としての威厳を取り戻す為の儀式なのだと父上はかねてより仰っていた。

「レイラ様、お待たせしました~」

 どこからともなく現れたのは、腰の辺りまである白くて長い美しい髪を靡かせた女だった。露出の高い服を身に纏っており、背中からは漆黒の翼が生えている。
 彼女の名は、ルシファー。かつては天界に住まう天使であったが、あるときこのアルマカンドに惹かれ堕天し、翼を黒くして俺の世話をしてくれている。付き人のようなものだ。

 ルシファーは白く細い手に、一枚の紙を持っていた。いや、よく見るとそれは一枚ではなく、複数枚あった。

「なんだ? それは…」

「実は以前より魔王様から預かっておりました。つい先ほどまでは白紙だったんですけど~…一枚目の紙に何やら文字が浮かび上がったんですよ」

 ルシファーは紙を一枚俺に差し出した。俺はそれを机に置いた。紙にはこう書かれていた。





『勇者育成計画

これ以降の内容は、デイン大陸に降り立ち実行しなければならない



・勇者になるに相応しい人間を一人選び、聖剣を抜くことが出来る力を身につけさせる

・剣士、魔導師、召喚士の3人の勇者の仲間に相応しい人間を選び、育て上げる

・勇者とその仲間は、一人一人が仲間のために命を懸けることができなければならない 』





 そこに書かれている文字は、衝撃的な内容だったと言えるだろう。ルシファーは俺の顔色を窺うように、何やら半にやけで俺の顔を覗き込んでいた。

「なんだ?」

「いえ、レイラ様、どんな反応するかな~って」

 ルシファーは無邪気な笑みを浮かべる。ルシファーは俺の付き人であるが、かなり自由奔放で天真爛漫であった。

「そうだな。確かに衝撃的な内容ではあるが…父上の意図を汲むことも大切だ」

「というと?」

「父上の言葉から察するに、これは勇者デインと父上との間の真の意志に関連していることは間違いないだろう」

 さらに俺は続ける。

「父上は、今の人間にはアルマカンドに足を踏み入れる程の力は無いと嘆いておられた」

「そういえばそうでしたね~」

 ルシファーは人差し指を顎に当て、宙を見ながら思い出していた。

「勇者育成とは…そんな父上の嘆きを解消するためのものだとは思えないか?」

「魔王様のご不満を解消することが、真の意志につながるってことですか?」

「そうだ。意志に反するからこその不満とも取れる」

 父上はあのような身体になってしまわれた。そして今は眠りについている。であるならば、この不満を解消できるのは俺しかいないだろう。

「悩む必要は無いな。ルシファー、デイン大陸に降りるぞ」

「ええーっ!? 人間の所に行くんですか?」

「当然だ。この紙を読んでいないのか? デイン大陸に降り立ち実行しなければならないと書いてあるだろ」

 俺はルシファーに紙を返す。ルシファーは半泣きで紙をじっと見つめ、該当する文章を見つけると情けない声を上げた。

「人間かぁ。上手くやっていけるかなぁ…」

「お前が心配することではないだろう。お前が人間と接触を持つことはない」

「え? そうなんですか?」

 こいつは相変わらず何も考えていないのか?

「勇者を育成するのに、魔王の息子と堕天使が堂々と人間の前に現れてどうする? お前に関しては、その黒い翼が見られるだけで問題なんだ」

「ふぇ~…好きで黒くなったんじゃないやい」

 ルシファーはまた情けない声を上げる。というのも、ルシファーは白い翼が好きだった。堕天使になる以前、天界にいる頃は天使として白い翼を背負っていたが、堕天使になると翼は黒くなった。堕天使になったこと自体を後悔したことはないが、翼の色は変えないで欲しかったとか。

「綺麗じゃないか、黒い翼。お前によく似合っている」

「…っ……レイラ様ぁ」

 ルシファーは目に涙を浮かべ、頬を赤らめて俺の肩を抱いてきた。鬱陶しいな、こいつは。

「とにかく、お前は向こうに行ったら姿を隠せ、いいな?」

「御意! 御意です、レイラ様っ!」

 ルシファーはご機嫌だった。
 俺は俺で、人間の前では魔族であることを隠し通す必要があるだろう。本来魔族対峙の為の勇者育成に、魔族が絡んでいてはおかしな話だ。
 姿を大きく変える必要は無いだろう。魔族の中には人間に見た目が遙かに近い者も多い。俺の見た目も人間に近いはずだ。少し長い耳を短くして、力を抑えれば何とかなるだろう。

「目が赤いのもまずいか…」

「ええっ!? ダメですよ、目が赤くていいんです!」

 急に声を荒げたのはルシファーだった。

「赤い瞳はレイラ様のチャームポイントなんですよ!?」

「ちゃーむぽいんと?」

 なんだそれは、何魔法だ。

「魅力ってことです! それに、人間の中には目の色が青だったり黄色だったりする奴らがいますから、赤くても何の問題も無いと思います! 私、天使だった頃天界から人間を観察させられたことがあるからよく覚えてるんです」

 なるほど、それはルシファーにしては説得力がある。

「よかったな、天使やってて」

「今も一応天使ですよ?」

 なんだそのダブルピースは。
 俺はルシファーを連れ、アルマカンドを横断し、ある場所にまでやってきた。
 そこは、アルマカンドの最東端。最もデイン大陸に近い場所であった。そして赤黒い空に浮かぶ、いびつな形の靄もやを、俺は見上げた。

「ルシファー。俺は人間をこの目で見たことがない。だから当然、デイン大陸に降り立ったこともない」

「ええ」

「逆にお前は、長い間天使として天界から人間を見てきた。だから人間のこと、デイン大陸のことについてはある程度見知っている。そうだな?」

「? そうなると思いますけど…どうしてそんなこと聞くんですか?」

 ルシファーはきょとんとしている。常に宙にふわりと浮いているルシファーの目線は、いつも俺より高いところにあった。

「お前に頼ることがあるかもしれない。その時は、頼んだぞ」

 俺はルシファーを見上げて言う。ルシファーは徐々に顔を歪ませ、涙を浮かべ、頬を赤らめた。

「…っ……はい…!」

 そうか、俺に頼られることがそんなに嬉しいか。

「だがまず、ここを越えなければならない」

 俺とルシファーの頭上に広がる靄の正体は、魔層である。魔層とは、父上が自らの魔力を結束させて作った時空間魔法の一種であり、今俺の目の前にあるこれは、デイン大陸とアルマカンドを隔てる三つの魔層のうちの一つ、その名を『デュオロンの層』という。

「デイン大陸誕生の頃、竜の国を仕切っていた竜人の名前だったか?」

「ええ。そして確か…二層目が精霊の長の名前を取って『イズミラの層』…三層目が勇者デインの名前を取って『デインの層』だったと思います」

 本来、人間と魔族を隔てるための魔層だ。簡単に通れるとは思っていない。

「ここから、父上が課した試練は始まっているということだ。ルシファー、覚悟はいいか」

「いつでもおっけーです!」

 俺は、大地を蹴り、デュオロンの層に身を投じた。

 瞬間、強大な引力が俺たちを襲い、俺たちは魔層の中心部まで送り込まれた。



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