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3 フクザツです

第8話

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「それはまた……運命の再会というか……」

 ブルームスが、まん丸な目をぱちくりさせる。

「そうなのよ! びっくりしちゃった!」

 わたしは家に帰ってすぐ、部屋でセーラー服をぬぎながらブルームスに報告していた。

 かつて魔神リュウトとして、世界を闇で染めあげようとした男の子。
 わずか二年で、別人のように成長して、ふたたびわたしの前にあらわれたんだ。
 身長はわたしを追い越しているし、すっかりイケメンになっていて、すぐには咲也くんだとはわからなかった。

「お父さんが神戸に転勤になっていたけど、またこっちに帰ってくることになったんだって」
「それで、咲也くんとどんな話をしたの?」

 真剣な表情で、ブルームスがたずねてきた。

「それがね……たがいにリュウトとアイカだってわかったあとは、あまり昔の話はできなくて……」

 部屋着に着がえたわたしは、苦笑いして報告をつづける。


     ◆


「リュウト……」

 つぶやいたわたしの頭のなかに、一年にもわたる魔法バトルの記憶がよみがえる。
 それは、思いだすのもつらい記憶――。
 世界の命運が、小学五年生のわたしの肩にかかっていたのだから。

 だけど、咲也くんはもう、魔神リュウトじゃない。
 わたしだって、魔法少女アイカじゃない。
 モヤモヤした想いをふりきるように、わたしは軽く頭をふった。

「咲也くん……なの?」

 こくりとうなずく咲也くん。

「親父の転勤が終わって、またこっちに帰ってきたんだ」

 わたしは笑顔をつくって、明るく言った。

「ひさしぶり! ぜんぜん気づかなかったよ! 背も伸びてるし、オトコマエになっちゃって!」
「一千花センパイはきれいになったよ」

 ドキッ。
 時間が止まったかのよう。
 男の子にそんなこと、言われたことがない。
 顔全体が熱くなってきた。耳まで真っ赤になってるかもっ!

「や、やだなー。そんなお世辞まで覚えちゃったの?」
「おれ、お世辞なんか言わないよ。一千花センパイはきれいだ。かがやいてるよ。フツーの女の子として、幸せな日常を生きてきたんだろうなって……」

 さびしげに笑う咲也くん。

「咲也くん……?」
「おれはフツーには戻れなかったよ。戻れるわけがない」
「どういう……こと?」

 胸がざわざわしてきて、思わず眉をひそめた。

「たとえ魔力を失ったとしても、おれは魔神リュウガの息子なんだ。闇の人間なんだよ。それは変わらない。かがやいてる一千花センパイは、おれにはまぶしすぎる」
「そんなこと言わないでよ。咲也くんは、もうフツーの……」
「一千花センパイを闇で染めたくなっちゃうな」

 ニヤッと、挑発的な眼差まなざしを向ける咲也くん。

「なっ!?」

 後ずさって、固まっていると――。
 咲也くんは、ぷっと吹きだした。
 ええっ!? ど、どういうこと!?

「わりぃ、冗談だよ。かわいいね、一千花センパイ。に受けちゃって」

 愉快そうに言う咲也くん。
 からかわれた!

「もうっ! ヘンな冗談はやめてよね!」

 口をとがらせると、咲也くんはぽつりと、
「フツーに戻れなかったのはホントだけどね……」
 って、つぶやいたんだ。

「え……?」

 聞き返したときだった。

「あれー? 一千花か?」

 声がして、ふり返ると、よく知っている男の子が近づいてきた。

れんくん!」

 御堂みどう蓮くん――。
 中三で、わたしのひとつ年上の、幼なじみ。
 家が近所で、小さいころは、いっしょに外を走りまわって遊んだ仲なんだ。

「水やりしにきてくれたの?」

 じょうろをもっている蓮くんの手元を見て、たずねるわたし。

「ああ、さっき植草センセにつかまっちまってさ……」

 言いながら、咲也くんに視線をやる蓮くん。

「ん? 一年坊か?」
「あっ、園芸部に入部希望なんだって。乙黒咲也くん」
「乙黒です。よろしくおねがいします」

 咲也くんが、ぺこりと頭を下げると、蓮くんはガッツポーズして、声をはずませた。

「うおっしゃ! そりゃ助かるぜ! 植草センセにも言われたトコなんだよ。『新入生の勧誘をどんどんやって、人手をふやせ』って」
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