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第12話
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こほんとせきばらいをひとつ入れて、話しはじめる小百合センパイ。
「花を育てることは、楽しいです。イケメンを愛でている気分になれるからです」
しーんと静まり返る理科室。
気にするそぶりもなく、スケッチブックをひらいて、みんなに見せる小百合センパイ。
「私が好きな花は、スズランです!」
言葉どおり、スズランのイラストが描かれている。
淡いパステルカラーで色づけされた、とっても上手なイラストだ。
ただ、スズランの横には、クールなイケメンも描かれていて。
「大きな葉にかくれるように、そっと白い花を咲かせるスズラン。控えめで、クールなイケメンを連想しますっ!」
小百合センパイのテンションがどんどん高まっていく。
あちゃー。妄想スイッチが入っちゃったよ。
「ですが、スズランには毒があります。そんなキケンなところも、魅力です」
顔を赤らめ、体をくねらせると、咲也くんに視線を送る小百合センパイ。
咲也くんを「入部希望者です」って紹介したとき、小百合センパイ、「創作意欲をかきたてられるわ!」って興奮してたもんなぁ。
咲也くんがモデルなのは明らかだ。
小百合センパイは少女マンガが大好きで、将来の夢は、漫画家かイラストレーターなんだとか。
さらに、イケメンと恋愛する自分を妄想しては、自分だけの世界に入っちゃう人なんだよね。
だから、小百合センパイにとっては、花をイケメンに見立てるのは、ごくごく自然なのであります。
となりの咲也くんをちらっと見やると、反応に困っている感じ。
「ああいう人なの。ごめんね」
こそっと言うと、咲也くんは肩をすくめて、
「おもしろいセンパイじゃないですか」
と言って、苦笑い。
春だというのに、理科室の空気は完全に冷えきってる。
新入生たちはドン引きだ。
うん、わかるよ。
わたしも最初は、小百合センパイのテンションにとまどったけど、今はもうなれてきた。
「ガーベラも好きです!」
小百合センパイはスケッチブックをめくり、次のイラストを見せる。
色とりどりの花を咲かせているガーベラ。
「ガーベラの花言葉は『希望』『前進』。前向きで明るいイケメンを連想しますっ!」
短髪で、元気みなぎる長身のイケメンも描かれている。
あー、これは蓮くんがモデルだね。
小さいころからずっといっしょだから、そう感じないけど、ほかの女の子にとって蓮くんはイケメンらしい。
そういえば蓮くんはよくモテる。空手バカだけど、女の子にはやさしいし、ワイルドな魅力があるそうで。
ガラッ!
扉がひらいて、三人の男の子が飛びこんできた。
「わりぃ! 遅くなった!」
なぜか空手着に身をつつんで息を切らした蓮くんと、あとのふたりは、たしか蓮くんの友だちだ。
「ガーベラ! ……じゃなかった、御堂くん! 遅いじゃない! てか、なあに、そのカッコウ!」
妄想モードを解除して、金切り声をあげる小百合センパイ。
「きゃあ! 御堂センパイよ!」
「かっこいい!」
新入生たちのなかから、黄色い歓声が飛ぶ。
蓮くん目当ての女の子もいたみたいだ。
「まぁまぁ。おもしろい出し物を思いついて練習してたんだよ。ここからは、おれにまかせてくれよな。園芸部の魅力をアピールするからさ」
蓮くんがウインクすると、
「しょうがないわね。見学会もあるから、三分以内でね」
と、場所をゆずって、わたしのとなりに立つ小百合センパイ。
「ウケをとれよ!」
蓮くんの友だちふたりは、一番うしろの席に座った。
「――では、副部長のおれ、御堂蓮が、園芸の心がまえを空手の演武で表現します」
ええっ!?
園芸と空手が結びつかない。どんなふうになるんだろう?
「園芸は忍耐力が必要です。水やりや雑草ぬきなど、地道な作業が一年を通して、ずっと必要です」
すると、蓮くんは気合いの入った声を、理科室に響かせた。
「忍耐だー! うりゃあ! せやあっ!」
さけび声とともに、まるでだれかと戦っているかのように、突きや蹴りをくりだす。
空手の型だ。
わあっと、みんなが沸いた。
やがてピタッと動きを止めると、蓮くんは、ふたたび口をひらく。
「そして、植物の敵は害虫です。予防や駆除作業が必要になってきます」
言葉を切って、大きく深呼吸。
蓮くんの額には、玉のような汗。
「害虫をー! ぜったいにー! 倒すっ!」
さけんで、また動きだすと、さらにキレのある演武を披露する蓮くん。
キラキラと光る汗が、あたりに飛びちる。
黄色い歓声と、爆笑と、拍手が混ざりあって、ものすごい盛りあがり!
蓮くんの友だちだろうか、指笛まで聞こえてきた。
えっと、結局、園芸部の説明に、なんで空手……?
まあ、園芸部の活動に興味を持ってもらうのが目的だし、盛りあがって大成功! ではあるのかな……?
「花を育てることは、楽しいです。イケメンを愛でている気分になれるからです」
しーんと静まり返る理科室。
気にするそぶりもなく、スケッチブックをひらいて、みんなに見せる小百合センパイ。
「私が好きな花は、スズランです!」
言葉どおり、スズランのイラストが描かれている。
淡いパステルカラーで色づけされた、とっても上手なイラストだ。
ただ、スズランの横には、クールなイケメンも描かれていて。
「大きな葉にかくれるように、そっと白い花を咲かせるスズラン。控えめで、クールなイケメンを連想しますっ!」
小百合センパイのテンションがどんどん高まっていく。
あちゃー。妄想スイッチが入っちゃったよ。
「ですが、スズランには毒があります。そんなキケンなところも、魅力です」
顔を赤らめ、体をくねらせると、咲也くんに視線を送る小百合センパイ。
咲也くんを「入部希望者です」って紹介したとき、小百合センパイ、「創作意欲をかきたてられるわ!」って興奮してたもんなぁ。
咲也くんがモデルなのは明らかだ。
小百合センパイは少女マンガが大好きで、将来の夢は、漫画家かイラストレーターなんだとか。
さらに、イケメンと恋愛する自分を妄想しては、自分だけの世界に入っちゃう人なんだよね。
だから、小百合センパイにとっては、花をイケメンに見立てるのは、ごくごく自然なのであります。
となりの咲也くんをちらっと見やると、反応に困っている感じ。
「ああいう人なの。ごめんね」
こそっと言うと、咲也くんは肩をすくめて、
「おもしろいセンパイじゃないですか」
と言って、苦笑い。
春だというのに、理科室の空気は完全に冷えきってる。
新入生たちはドン引きだ。
うん、わかるよ。
わたしも最初は、小百合センパイのテンションにとまどったけど、今はもうなれてきた。
「ガーベラも好きです!」
小百合センパイはスケッチブックをめくり、次のイラストを見せる。
色とりどりの花を咲かせているガーベラ。
「ガーベラの花言葉は『希望』『前進』。前向きで明るいイケメンを連想しますっ!」
短髪で、元気みなぎる長身のイケメンも描かれている。
あー、これは蓮くんがモデルだね。
小さいころからずっといっしょだから、そう感じないけど、ほかの女の子にとって蓮くんはイケメンらしい。
そういえば蓮くんはよくモテる。空手バカだけど、女の子にはやさしいし、ワイルドな魅力があるそうで。
ガラッ!
扉がひらいて、三人の男の子が飛びこんできた。
「わりぃ! 遅くなった!」
なぜか空手着に身をつつんで息を切らした蓮くんと、あとのふたりは、たしか蓮くんの友だちだ。
「ガーベラ! ……じゃなかった、御堂くん! 遅いじゃない! てか、なあに、そのカッコウ!」
妄想モードを解除して、金切り声をあげる小百合センパイ。
「きゃあ! 御堂センパイよ!」
「かっこいい!」
新入生たちのなかから、黄色い歓声が飛ぶ。
蓮くん目当ての女の子もいたみたいだ。
「まぁまぁ。おもしろい出し物を思いついて練習してたんだよ。ここからは、おれにまかせてくれよな。園芸部の魅力をアピールするからさ」
蓮くんがウインクすると、
「しょうがないわね。見学会もあるから、三分以内でね」
と、場所をゆずって、わたしのとなりに立つ小百合センパイ。
「ウケをとれよ!」
蓮くんの友だちふたりは、一番うしろの席に座った。
「――では、副部長のおれ、御堂蓮が、園芸の心がまえを空手の演武で表現します」
ええっ!?
園芸と空手が結びつかない。どんなふうになるんだろう?
「園芸は忍耐力が必要です。水やりや雑草ぬきなど、地道な作業が一年を通して、ずっと必要です」
すると、蓮くんは気合いの入った声を、理科室に響かせた。
「忍耐だー! うりゃあ! せやあっ!」
さけび声とともに、まるでだれかと戦っているかのように、突きや蹴りをくりだす。
空手の型だ。
わあっと、みんなが沸いた。
やがてピタッと動きを止めると、蓮くんは、ふたたび口をひらく。
「そして、植物の敵は害虫です。予防や駆除作業が必要になってきます」
言葉を切って、大きく深呼吸。
蓮くんの額には、玉のような汗。
「害虫をー! ぜったいにー! 倒すっ!」
さけんで、また動きだすと、さらにキレのある演武を披露する蓮くん。
キラキラと光る汗が、あたりに飛びちる。
黄色い歓声と、爆笑と、拍手が混ざりあって、ものすごい盛りあがり!
蓮くんの友だちだろうか、指笛まで聞こえてきた。
えっと、結局、園芸部の説明に、なんで空手……?
まあ、園芸部の活動に興味を持ってもらうのが目的だし、盛りあがって大成功! ではあるのかな……?
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