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4 みんなが見てるっ!

第13話

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 演武が終わったので、小百合センパイが、また中央に進んで、
「こんな感じで、私たちは楽しく活動してます。よかったら、このまま見学会に参加してください。参加者には、校内の花壇や畑を案内しますので、昇降口まで移動をおねがいします!」
 声を張りあげると、みんなが一斉に立ちあがり、「御堂センパイおもしろかったね」「見学会どうする?」「モチ参加でしょ」と、ワイワイ言いながら移動の準備をはじめた。

 先導するように、小百合センパイと、二年の青柳あおやぎさんたちがそそくさと理科室を出ていく。
 理科室がガヤガヤとさわがしくなるなか――。

「愛葉センパイ、おつかれさまです」

 咲也くんがニコッと話しかけてくれた。

「あはは。ありがと、乙黒くん」

 苦笑いしながら返事すると、汗をふきながら蓮くんが近づいてきた。

「なんだ? 一千花も、なにかやったのか?」
「わたし、見てるだけでよかったハズなのに、蓮くんの代わりに説明したんだよ?」

 じとーっと蓮くんを見つめて、抗議するわたし。

「あっ、一千花がやってくれたの? わりぃ、それはスマンかった。あがり症なのに、悪いな」

 蓮くんは手を合わせ、申し訳なさそうな顔になった。

「でも、うまくいったんだろ?」
「まあ……咲也くんがサポートしてくれたからね」

 わたしが言うと、蓮くんは咲也くんに視線をうつした。

「乙黒、サンキューな。コイツ、たよりないセンパイだからよ、これからも力になってやってくれな」

 真剣な表情で、こくりとうなずく咲也くん。

「はい。おれ、愛葉センパイの力になりたいです」

 えっ、ええええええええ!
 なに、その誤解をまねくような言い方!

「おっ、おう。そうか……」

 軽い調子で言っただけなのに、妙にマジメに返されて、面食らっている蓮くん。
 わたしはあわてて口をひらいた。

「それより、空手をやるなんてびっくりだよ」
「へへ、盛りあがったろ?」
「まあ、そうだけど……」

 屈託なく笑う蓮くんの髪から、汗のしずくがぽたりと落ちた。
 園芸部のために、一生懸命やってくれたんだ。おつかれさま。

「蓮くん――」

 ハンカチをわたそうと思ったら。

「御堂センパイ」

 新入生の女の子ふたりが、蓮くんのうしろに立っていた。

「ん?」

 声をかけてきた子が、となりの子を「ほら」とうながす。

「あの……これ使ってください!」

 顔を赤らめ、意を決したように、スポーツタオルを差しだす。
 おっと。わたしの出る幕じゃない。
 あわててハンカチを引っこめるわたし。

「ありがとー」

 にこやかにタオルを受けとって、汗をふく蓮くん。
 きゃー! という悲鳴にも似た声があがる。
 気づけば、新入生の女の子たちの多くは、まだ理科室を出ていない。
 今度は、三人組の女の子たちが近づいてきた。
 そのなかの、中央に立っている子が、咲也くんに話しかける。

「乙黒くん。見学会、早く行きましょうよ」
「ああ」

 蓮くんと対照的に、クールにうなずく咲也くん。
 蓮くんも、咲也くんも、やっぱりモテモテだね。
 すると、小百合センパイが、猛ダッシュで理科室に舞い戻ってきた。

「もうっ! 御堂くん! それから新入りの乙黒くん! あなたたちが動かないから、ぜんぜん、みんなが移動しないじゃないの! 見学会のタイムスケジュールは分きざみなのよ!」
「おっと、部長がお怒りだ。みんな行こうぜ」

 蓮くんが動きだすと、女の子たちがぞろぞろとついていく。

「愛葉さん! あなたも早く!」
「あっ、ごめんなさい。今すぐ……」

 小百合センパイにせかされ、走りだしたときだった。
 キュッ!
 上履きの底と、床がこすれる音。
 床がぬれていたんだと思うの。
 それで、わたしはバランスを崩してしまったらしい。

 そこからは、スローモーションのよう。
 おどろいている小百合センパイの顔から、天井へと視線がゆっくり移動する。
 これは……つまり……後ろむきに倒れるパターンだ!
 背中をぶつけちゃうかな? 頭を打ったらキケンだよね?

 ていうか! みんなが見ているまえで派手に転ぶなんて、はずかしすぎるっ!
 そんなことを考えている間にも、どんどん「そのとき」は近づいて――。
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