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4 みんなが見てるっ!

第14話

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 だけど、わたしの背中も、頭も、床にぶつかることはなかったんだ。
 重力に逆らうような浮遊感。
 そして、しっかりと体が固定されている安心感。

「あっぶねー。ぎりぎりセーフですよ」

 ホッとしたようにわたしの顔をのぞきこんでいるのは――咲也くん!

「あっ、えっ……?」

 背中を支えてくれている腕が、咲也くんのものだと気づくのに数秒かかった。
 後ろに倒れたわたしを、咲也くんが間一髪で助けてくれたんだ!

「意外とドジですね、愛葉センパイは」

 わたしを見下ろし、ニコッとする咲也くんのきれいな顔が至近距離にあった。
 また、甘いアーモンドのような香り。

「あっ、ありがとう。助けてくれて……」

 わたしは、やっとのことでお礼を言った。

「いえ……」

 咲也くんと見つめあうわたし。

「よっ! 熱いね、ご両人!」

 うしろのほうから、からかうような声が飛んできて、わたしはハッと我に返った。
 咲也くんが体を起こしてくれたので、あわてて手を離した。
 からかってきたのは、蓮くんの友だちだ。

「きゃあ! 大胆!」

 新入生の女の子たちが大さわぎしている声も、耳に入ってくる。
 ああっ! みんなが見ているまえで、わたしたちは――。
 もう、すべてが遅かった。
 蓮くんの演武が終わったとき以上に、どよめきや歓声が起こっていたんだ。
 どうやら蓮くんにも見られちゃってたみたい。

「あー、一千花わりぃ。そこ、おれの汗が飛びちってたもんな」

 あやまりながらも、ニヤニヤしている蓮くん。「これはイイものが見れた。あとでからかってやろう」って、顔に書いてある。
 てか、すべったのは、蓮くんの汗のせいかっ!

「王子さまとお姫さまみたいだったわ……。サイコーに胸キュンな、王道のシチュエーションよ!」

 目をハートマークにして興奮しているのは、小百合センパイだ。

「おーい、門倉。見学会やるんだろ?」

 いつまでも動かない小百合センパイに、蓮くんが近づく。
 小百合センパイの顔のまえに手をかざして、上下にふってみるけれど、反応なし!

「ダメだ、完全に妄想スイッチ入ってるわ」

 あきれて肩をすくめる蓮くん。
 わたしも、もう放心状態で。
 そばにいる咲也くんのほうを、まともに見られない。
 頭がぼーっとしているし、心臓の鼓動も、うるさいくらいに、ドキドキと暴れまわっていたんだ。

 そのあとの、見学会のことは、ほとんど記憶にない。
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