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10 恋の開花宣言
第36話
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ふいに、強い春風が吹いて、ハナミズキの木をゆらした。
わわっ、髪がぐちゃぐちゃだ。
乱れた髪を、ぱぱっと手ぐしで直すわたし。
咲也くんは、ハナミズキの花を見あげて、口をひらいた。
「一千花センパイ。ハナミズキの花って、ホントは花じゃないの知ってる?」
「えっ、そうなの?」
「うん。みんなが花だと思って見てるのは、ホントは葉っぱなんだ。花は、葉っぱの中心に小さくあつまってるんだよ」
「そうなんだ? ぜんぜん知らなかったよ」
咲也くんは、左目をおさえた。
「この魔眼は厄介でさ、見たくないものまで見せやがる。……でもさ、他のやつには見えない、かくれた光を見つけることができるんだ」
そう言って、咲也くんはわたしに向きなおると、左目から手を離した。
「おれは、大きな葉っぱにかくれて咲いてるホントの花を見つけられる。入学式の日――中庭の花壇で、おれはたしかに、一千花センパイの胸のなかの光を見た」
「咲也くん……」
「ダメダメで、なんの取り柄もない? 勉強が苦手? 運動オンチ? おれに言わせりゃ、だからどうしたって感じだね」
「えっと……」
早口でまくしたてる咲也くんに圧倒される。
「花が大好きで、園芸部でがんばってるじゃん。門倉部長と御堂センパイをしっかりサポートしてる姿、見てるぜ」
咲也くんのウインクに、ドキッとするわたし。
「それに……一千花センパイにはブルームスって、最高の相棒がいるだろ? おれには入りこめないキズナがある。親友の望月センパイもいて、やさしい門倉部長がいて、御堂センパイみたいな幼なじみもいるじゃんか」
「うん、うん……」
何度もうなずくわたし。
「それは、一千花センパイが、かがやいてるからだと思うぜ。もっと、自分を好きになりなよ」
――人を好きになれ。そうすりゃ、自分のことも好きになれるさ。
植草先生に言われたことが思いだされた。
「わたし……」
言いかけたとき、咲也くんが頭をかきながら言ったの。
「おれ、一千花センパイが初恋の相手なんだよな」
「ええっ!?」
「ほら、おれが小四のとき、いじめられてるの助けてくれたじゃん? まちがいなく、あのときが初恋だったよ。あのあと、魔法少女アイカの正体だって知って、フクザツではあったけどさ……」
「…………」
さっきからドキドキしっぱなしで、もう心臓がもたないよっ!
「おれ、神戸に行ったあと、ほかの女の子は好きになってないんだ。初恋がまだケイゾク中ってわけさ」
咲也くんはニコッとして、わたしの肩に手をおいた。
「おれは一千花センパイをぜったいに守る。約束する。だから――」
「だから……?」
わたしは、咲也くんの瞳をまっすぐに見つめて、言葉をうながす。
「一千花センパイの胸のなかにある光で、おれを照らしつづけてほしい。すぐうしろ向きになるおれを、その光で正しい方向に導いてくれよな」
「咲也くん……」
もう、自分にうそはつけない。
こんなに胸がきゅんきゅんと苦しいのは、咲也くんに恋してるからだ。
恋の花は、とっくに咲いてた!
ぎゅっとワンピースのすそをつかんで、決意を固めると――。
園内放送が流れた。
――観覧車の受付終了まで、あと十分となりました。ご利用の方は、風の丘エリアまでお急ぎください。
放送を聞くなり、咲也くんはあわてふためいた。
「しまった! 一千花センパイと観覧車に乗りたかったんだ! すっかり忘れてた!」
「えっ……」
「急げば、まだ間にあうか……。行こう!」
「あっ、待って――」
走りだした咲也くんに手を引かれていくわたし。
待ってよ!
ここの観覧車って、よくないジンクスがあるんだよ、咲也くんっ!
わわっ、髪がぐちゃぐちゃだ。
乱れた髪を、ぱぱっと手ぐしで直すわたし。
咲也くんは、ハナミズキの花を見あげて、口をひらいた。
「一千花センパイ。ハナミズキの花って、ホントは花じゃないの知ってる?」
「えっ、そうなの?」
「うん。みんなが花だと思って見てるのは、ホントは葉っぱなんだ。花は、葉っぱの中心に小さくあつまってるんだよ」
「そうなんだ? ぜんぜん知らなかったよ」
咲也くんは、左目をおさえた。
「この魔眼は厄介でさ、見たくないものまで見せやがる。……でもさ、他のやつには見えない、かくれた光を見つけることができるんだ」
そう言って、咲也くんはわたしに向きなおると、左目から手を離した。
「おれは、大きな葉っぱにかくれて咲いてるホントの花を見つけられる。入学式の日――中庭の花壇で、おれはたしかに、一千花センパイの胸のなかの光を見た」
「咲也くん……」
「ダメダメで、なんの取り柄もない? 勉強が苦手? 運動オンチ? おれに言わせりゃ、だからどうしたって感じだね」
「えっと……」
早口でまくしたてる咲也くんに圧倒される。
「花が大好きで、園芸部でがんばってるじゃん。門倉部長と御堂センパイをしっかりサポートしてる姿、見てるぜ」
咲也くんのウインクに、ドキッとするわたし。
「それに……一千花センパイにはブルームスって、最高の相棒がいるだろ? おれには入りこめないキズナがある。親友の望月センパイもいて、やさしい門倉部長がいて、御堂センパイみたいな幼なじみもいるじゃんか」
「うん、うん……」
何度もうなずくわたし。
「それは、一千花センパイが、かがやいてるからだと思うぜ。もっと、自分を好きになりなよ」
――人を好きになれ。そうすりゃ、自分のことも好きになれるさ。
植草先生に言われたことが思いだされた。
「わたし……」
言いかけたとき、咲也くんが頭をかきながら言ったの。
「おれ、一千花センパイが初恋の相手なんだよな」
「ええっ!?」
「ほら、おれが小四のとき、いじめられてるの助けてくれたじゃん? まちがいなく、あのときが初恋だったよ。あのあと、魔法少女アイカの正体だって知って、フクザツではあったけどさ……」
「…………」
さっきからドキドキしっぱなしで、もう心臓がもたないよっ!
「おれ、神戸に行ったあと、ほかの女の子は好きになってないんだ。初恋がまだケイゾク中ってわけさ」
咲也くんはニコッとして、わたしの肩に手をおいた。
「おれは一千花センパイをぜったいに守る。約束する。だから――」
「だから……?」
わたしは、咲也くんの瞳をまっすぐに見つめて、言葉をうながす。
「一千花センパイの胸のなかにある光で、おれを照らしつづけてほしい。すぐうしろ向きになるおれを、その光で正しい方向に導いてくれよな」
「咲也くん……」
もう、自分にうそはつけない。
こんなに胸がきゅんきゅんと苦しいのは、咲也くんに恋してるからだ。
恋の花は、とっくに咲いてた!
ぎゅっとワンピースのすそをつかんで、決意を固めると――。
園内放送が流れた。
――観覧車の受付終了まで、あと十分となりました。ご利用の方は、風の丘エリアまでお急ぎください。
放送を聞くなり、咲也くんはあわてふためいた。
「しまった! 一千花センパイと観覧車に乗りたかったんだ! すっかり忘れてた!」
「えっ……」
「急げば、まだ間にあうか……。行こう!」
「あっ、待って――」
走りだした咲也くんに手を引かれていくわたし。
待ってよ!
ここの観覧車って、よくないジンクスがあるんだよ、咲也くんっ!
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