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11 観覧車とバースデー

第37話

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 開花パークは基本的に、四季折々の花を楽しむところ。
 だけど、一つだけ、遊園地みたいな要素があって。
 それが、開花町を一望できる観覧車なの。

「やった、間にあったね」

 肩で息をしながら、ホッとしたようにほほ笑む咲也くん。
 わたしは、ぜーはーと息を切らし、胸をおさえて、呼吸をととのえるので精一杯。
 バスケ部の練習についていけなかったのは、運動オンチなのと、この体力のなさ!

「一千花センパイ、だいじょうぶ?」

 咲也くんは申し訳なさそうに、眉を八の字に下げた。

「ごめんね。無理に走らせてしまって……」
「ううん、もうだいじょうぶだよ」

 ようやく呼吸が落ちついてきて、わたしはニコッとした。

「そう……? じゃあ、行こうか」

 わたしは、歩きだそうとした咲也くんの腕をつかんで、
「ちょっと待って」
 と止めた。

「どうしたの……?」

 目を丸くする咲也くんに、わたしはおずおずと切りだす。

「あのね……この観覧車にはジンクスがあってね……」
「知ってるよ」

 咲也くんは平然と言った。

「デートでカップルが乗ったら、必ず別れるっていうジンクスでしょ?」
「知ってたの!?」

 おどろくわたしに、うなずいてみせる咲也くん。

「よくあるうわさだよ。おれはそんなの気にしない。一千花センパイは気にするの?」
「そんなこと……ないけど……」

 否定しつつも、「わたし、意外とそういうの気にするタイプかも」と思った。
 咲也くんには、お見通しだったみたい。

「あっ、気にしてくれてるってことは、おれ、脈ありかな? どんどん攻めちゃっていい?」

 咲也くんは顔を近づけてきて、にんまりした。

「~~~~っ」

 またそうやって、わたしの心をかき乱すんだからっ!
 頬に熱を感じながら、今度は、わたしが咲也くんの手を引いていく。

「ほら、急ぐわよ」
「あっ、うん」

 入園料は無料だけれど、さすがに観覧車は一人二百円かかる。
 受付で、わたしが二人分の料金をはらった。
 咲也くんが「おれが出すから」と渋ったけれど、センパイとしては、おごられてばかりはイヤだよ。

 家族連れが多い列にならぶと、それほど待たずに、わたしたちが乗るゴンドラに案内された。
 チューリップの形をした、赤いゴンドラ。
 なかに乗りこむと、結構せまい。
 昔、家族で乗ったことがあるけど、もっと広かった記憶がある。
 肩を寄せあうようにして座っていると、ゴンドラはゆっくりと上昇をはじめた。

「おおっ、上がってく、上がってく」

 はしゃいだように言う咲也くんが、なんだかかわいくて、頬がゆるむ。
 いつもクールだから、年相応な男の子の一面を見ると、安心するんだよね。

 じわじわとゴンドラは上がっていき、さっきまで見てまわっていた花壇や木を見下ろせる高さになった。

「今日はありがとね、一千花センパイ」

 やわらかい声で、ふいに感謝されてしまった。

「ううん、こちらこそ、ありがとう……だよ。誘ってくれて、うれしかったよ」

 外の景色を見つめながら、言葉をつづけるわたし。

「ひさしぶりに、ここに来られたしね。大好きな花をたくさん見られて、ご飯もごちそうになって、芽依さんにはこんな素敵なワンピースを着せてもらったし。あと……咲也くんといっぱい話せたし……」
「おれもホントにうれしいんだ。忘れられない誕生日になったよ」

 え……? ええええええっ!

「た、誕生日だったの!?」

 景色どころではなくなって、あわてて咲也くんに向きなおる。

「うん、今日で十三歳」

 ゴンドラの窓から目を離さないで、他人事のように言う咲也くん。

「どうして言ってくれなかったの!?」

 知ってたら、もっと――。

 咲也くんは、ようやくわたしを見て、
「おれにとっては、誕生日なんて、ちっともめでたくないんだ」
 って、さびしそうに笑ったんだ。

 誕生日が、めでたくない……? どうしてそんな……。

「今日――四月三十日はね、乙黒咲也が生まれた日であり、魔神リュウガが魔神リュウトとして復活した、まわしい日でもあるんだぜ?」

 咲也くん、そんなことを……。
 胸のなかに、ひんやりしたスキマ風が吹きこむような感覚――。
 そんなさびしいことを言わないで、咲也くん!
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