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15 ひさしぶりです

第46話

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 自分の部屋に入ると、けわしい表情のブルームスが宙に浮かんでいた。
 また怒らせちゃった!?

 ブルームスは、わたしに顔をグッと近づけてきて、
「下に来ているのは、だれ……?」
 と、緊張まじりの小声で聞いてきた。

「蓮くんだけど……?」
「そう……」

 考えこむような仕草しぐさを見せたブルームスのしっぽが、ピンと立っている。
 わたしは、机の上のスマホを手にとり、ネックストラップで首にかけた。

「蓮くんがね、話があるんだって。今からちょっと公園に行ってくるよ」

 部屋を出ようとするわたしを、前足を広げて止めるブルームス。

「その蓮くんから、かすかに闇の魔力を感じるのよ」
「ええっ!?」

 おどろいて大声が出たわたしの口を、肉球でふさがれてしまった。

「しーっ。かすかに……だけどね。一千花とふたりきりにするのは心配だわ。アタイもついていくから」
「いいけど……ブルームスはだいじょうぶなの……?」
「短時間ならヘーキよ。一千花は普段通りにふるまってね」
「うん……」

 蓮くんから魔力が!? どういうことなんだろう?


     ◆


「遠慮しないで、またいつでも食べに来てね」
「プレゼント忘れないでよー」

 お母さんと万理花に送りだされ、わたしと蓮くんは家を出た。
「もう暗いから、すぐ帰ってきなさいよ」と、お母さんはわたしにクギをさすのを忘れなかったけど。


 わたしの家から近い、開花第一公園。
 今や、わたしと咲也くんの待ちあわせ場所だ。
 もうすぐ午後七時。
 空は藍色から、黒色へと移ろいでいる。
 公園に着くまで、他愛たわいもない会話をした。
 なぜか、蓮くんはちっとも園芸部の話題には入らない。

 ちなみに――わたしの肩には、ブルームスが乗っかっているよ。
 蓮くんにはその姿は見えないし、ふれることもできないけれど、ちょっと緊張する。

 公園内は、わたしたち以外に、だれもいない。
 巨大クスノキまで来て、ようやく蓮くんは足を止めた。

「話って、なんなの? あっ、わたしが次期部長をまかされるって話?」

 だんだんと、園芸部の話じゃないんじゃないかと思いはじめていたけれど、そうたずねてみた。

「いや……その話じゃなくってさ、乙黒のことなんだよ」
「咲也くんのこと……?」
「ああ」

 首のうしろをかく蓮くん。
 うす暗いなかでも、照れたような表情になっているのがわかる。

「おまえらって、マジでつきあってるんだよな?」
「それは……」

 わたしたちの関係って、とってもフクザツで。
 まだつきあってはいないけれど、「つきあってない」と説明するのはちがう気がした。

「えっと……つきあってる……かな」

 迷ったあげく、答えをしぼりだす。

「そっか……」

 蓮くんの声色こわいろに、悲しみがにじんでいるのを感じて、ハッとした。

「乙黒って、最初から一千花にほれてる感じだっただろ? おまえだって、乙黒のことをただの後輩として見てる感じはしなかったし……。だったら、うまくいけばいいなって余裕かましてたけど――」

 軽く息を吐く蓮くん。
 このあとの展開が予想できてしまって、わたしは緊張で、どういう顔をすればいいかわからなくなっていた。

「うまくいってる一千花たちを見てたら、胸がこう……しめつけられるんだよ」

 苦しそうに胸をおさえる蓮くん。
 商店街で咲也くんにデートに誘われ、手を引かれていったとき、蓮くんと目が合ったときのことが思いだされた。
 蓮くん、さびしげな目をしてた……。

「それで気づいた。おれは、一千花のことが好きなんだって……」

 頭が真っ白になった。
 だって、わたしたちは幼なじみで、親友みたいで、恋愛感情なんて入りこむスキマもなくて――。

「おれじゃ、ダメか……?」

 まっすぐに、わたしを見つめる蓮くん。
 わたしが返すべき反応が、何通りも、頭のなかに浮かんだ。

 たとえば、「またまた~、からかってるんでしょ?」とか、「蓮くんにはファンが大勢いるじゃん」とか、冗談にまぎらわせる反応。

 ――そんなのダメだ!
 蓮くんの真剣なキモチには、真剣に応えなきゃ!
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