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第3章 黒江くん、突っ走る
第21話
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「実はね……赤木さんには好きな人がいるのよ」
「す、好きだなんて、そんな!」
「水原さんとよく話してたじゃないの。白野くんがいいって」
「それは……気になるなあって程度の話で!」
黒江くんが再び小首をかしげたので、わたしは説明した。
「あっ、水原さんというのはね、わたしの親友なの。水原凛ちゃん。先月まで文芸部にいて、クラスでもわたしの隣の席でね……。神戸に転校しちゃったんだけど……入れかわるようにして黒江くんが……」
「そうだったんだ。親友と離れ離れになるのはつらいだろうね」
しんみりしたように声のトーンを落とした黒江くん。
「うん……。でもね、スマホのメッセージでやりとりしてるし、関西だから、二度と会えないわけじゃないしね」
「そうだね。新幹線だと、大して時間かからないさ」
黒江くんはうなずいて、たずねてきた。
「どんな子なの?」
「わたしと同じで、クラスではおとなしい子。だからかな、すっごく気が合って、ずっといっしょにいたの。あっ、一年のときに、この文芸部で仲良しになってね。二年で同じクラスになれたんだ。恋愛小説が好きでね、自分でも書いてて、よく読ませてもらったけど、上手だったよー」
リンちゃんの話が止まらなくなってきたけど、黒江くんは興味深げに相づちをうってくれる。
「この部室にいるときは、人がかわったようにおしゃべりになってたなあ。門倉部長の妄想にもツッコミ入れたりして、漫才みたいだったんだから!」
門倉部長が軽くせき払いして。
「その話はいいってば。……なんか、話そらそうとしてない?」
いえいえ、そういうわけでは……。
あはは、と笑ってごまかしたら、門倉部長がついに言ってしまった。
「わたしと同じ三年で、サッカー部の白野一騎くんが好きになったらしいのね。まあ、アイドルみたいな美形だから、当然といえば当然なんだけど……」
うっとりする門倉部長。
妄想をはじめる前に、訂正しておかなきゃ!
「あの……好きになった……というのは言いすぎなんですけど~」
「へえ。そんなにイケメンなんですか」
「うんうん、黒江くんがクールな王子さま系イケメンだとすれば、白野くんは母性本能くすぐるカワイイ系イケメンかな」
「俺もイケメン扱いなんですね……。俺は別に……」
「なに言ってるの! 黒江くんは誰がどう見たってイケメンよ! 作画完ぺきだから!」
「作画って……」
あの~、わたしの声は届いていないのでしょうか?
「とにかくね、二年のイケメンNo.1が黒江くんなら、三年のイケメンNo.1は白野くんね。ヒナちゃんが好きになっちゃうのも無理ないわよ。いっつも笑顔でね、人なつっこいの。キュンキュンさせてくれるのよ!」
また身体をくねらせ、目をつむる門倉部長。
妄想世界に入っちゃったかな?
「いつも笑顔……ね」
ぼそりとつぶやいた黒江くんの顔に、暗い陰がさした気がした。
「黒江くん……?」
気になって思わず声を漏らしたわたしに、フッとほほ笑んだ黒江くんは少しさびしげで。
「しかし、その白野先輩って、相当、人気あるみたいだね」
「う、うん……」
「赤木さんの恋の相手か……」
「へっ!?」
――――恋。
それはあまりに眩しく、甘美な響きがした。
「こ、こ、恋だなんて、大げさな! そんなのまだわかんないよ。さっきも言ったけど、ちょっと気になるなあ……って程度のことで……」
あたふたするわたしをよそに、腕組みし、考えこむ黒江くん。
「うーん、俺はそっち方面はまるで疎いんだけど、なにか力になれたら……」
「ええっ! いいよ、そんなの!」
「遠慮しなくていいってば。俺たち友だちだろ?」
「あう。……はい」
そう言われたら、なにも言えなくなってしまう。
「友だちの恋は応援しなきゃな。赤木さんと、その白野先輩が付き合えるよう、全力でバックアップするよ!」
ええええええっ!
「大丈夫。できる限りのことはするから」
そう言って、ウインクしてみせる黒江くん。
「友だちのことは幸せにしたいし」
あっ……。またなにかを思い出しそうになった。これって……そうだ、例の夢のなかで、黒猫のクロエがわたしに言ってくれる言葉と似てる!
――ヒナがみんなを幸せにするなら、俺はヒナを幸せにしたいんだ。
クロエはさらに「それが俺の使命だから――」とも付け加えて……。
さすがに、そんなこと、黒江くんは言わないよね?
そう思っていたら、黒江くんはほほ笑んで言ったの。
「なんだか、赤木さんを幸せにすることが、俺の使命だって……そんな気がするんだよな」
「えっ……」
黒江くん! やっぱり、あなたは……。
「――なんて、大げさかな?」
黒江くんは照れたように髪をくしゃっとさせると、おもむろに門倉部長に近づいた。
「門倉部長!」
黒江くんが呼びかけると、門倉部長はパチッと目を開けた。
「あっ、えっ、ああっ……」
妄想世界から現実に帰ってきた門倉部長は、至近距離にいる黒江くんにうっとりと見とれ、みるみるうちに頬を赤く染めた。
「門倉部長もぜひ協力してください。いっしょに赤木さんの恋を応援しましょう!」
「う、うん、そうね。応援しなきゃね」
勝手に話を進めないでよー!
「赤木さんと白野先輩が付き合えるように、文芸部で全面バックアップしましょうよ!」
「そうね! 部を挙げて応援すべきだわ! ヒナちゃんは大船に乗った気でいて!」
門倉部長はいとも簡単に乗せられてしまった。
満足げな黒江くんは、わたしに向かって「まかせろ」といわんばかりに親指を立てた。
もしかして……ひょっとすると……おそらく……黒江くんって、突っ走っちゃう系の人!?
これから、どうなっちゃうんだろう?
「す、好きだなんて、そんな!」
「水原さんとよく話してたじゃないの。白野くんがいいって」
「それは……気になるなあって程度の話で!」
黒江くんが再び小首をかしげたので、わたしは説明した。
「あっ、水原さんというのはね、わたしの親友なの。水原凛ちゃん。先月まで文芸部にいて、クラスでもわたしの隣の席でね……。神戸に転校しちゃったんだけど……入れかわるようにして黒江くんが……」
「そうだったんだ。親友と離れ離れになるのはつらいだろうね」
しんみりしたように声のトーンを落とした黒江くん。
「うん……。でもね、スマホのメッセージでやりとりしてるし、関西だから、二度と会えないわけじゃないしね」
「そうだね。新幹線だと、大して時間かからないさ」
黒江くんはうなずいて、たずねてきた。
「どんな子なの?」
「わたしと同じで、クラスではおとなしい子。だからかな、すっごく気が合って、ずっといっしょにいたの。あっ、一年のときに、この文芸部で仲良しになってね。二年で同じクラスになれたんだ。恋愛小説が好きでね、自分でも書いてて、よく読ませてもらったけど、上手だったよー」
リンちゃんの話が止まらなくなってきたけど、黒江くんは興味深げに相づちをうってくれる。
「この部室にいるときは、人がかわったようにおしゃべりになってたなあ。門倉部長の妄想にもツッコミ入れたりして、漫才みたいだったんだから!」
門倉部長が軽くせき払いして。
「その話はいいってば。……なんか、話そらそうとしてない?」
いえいえ、そういうわけでは……。
あはは、と笑ってごまかしたら、門倉部長がついに言ってしまった。
「わたしと同じ三年で、サッカー部の白野一騎くんが好きになったらしいのね。まあ、アイドルみたいな美形だから、当然といえば当然なんだけど……」
うっとりする門倉部長。
妄想をはじめる前に、訂正しておかなきゃ!
「あの……好きになった……というのは言いすぎなんですけど~」
「へえ。そんなにイケメンなんですか」
「うんうん、黒江くんがクールな王子さま系イケメンだとすれば、白野くんは母性本能くすぐるカワイイ系イケメンかな」
「俺もイケメン扱いなんですね……。俺は別に……」
「なに言ってるの! 黒江くんは誰がどう見たってイケメンよ! 作画完ぺきだから!」
「作画って……」
あの~、わたしの声は届いていないのでしょうか?
「とにかくね、二年のイケメンNo.1が黒江くんなら、三年のイケメンNo.1は白野くんね。ヒナちゃんが好きになっちゃうのも無理ないわよ。いっつも笑顔でね、人なつっこいの。キュンキュンさせてくれるのよ!」
また身体をくねらせ、目をつむる門倉部長。
妄想世界に入っちゃったかな?
「いつも笑顔……ね」
ぼそりとつぶやいた黒江くんの顔に、暗い陰がさした気がした。
「黒江くん……?」
気になって思わず声を漏らしたわたしに、フッとほほ笑んだ黒江くんは少しさびしげで。
「しかし、その白野先輩って、相当、人気あるみたいだね」
「う、うん……」
「赤木さんの恋の相手か……」
「へっ!?」
――――恋。
それはあまりに眩しく、甘美な響きがした。
「こ、こ、恋だなんて、大げさな! そんなのまだわかんないよ。さっきも言ったけど、ちょっと気になるなあ……って程度のことで……」
あたふたするわたしをよそに、腕組みし、考えこむ黒江くん。
「うーん、俺はそっち方面はまるで疎いんだけど、なにか力になれたら……」
「ええっ! いいよ、そんなの!」
「遠慮しなくていいってば。俺たち友だちだろ?」
「あう。……はい」
そう言われたら、なにも言えなくなってしまう。
「友だちの恋は応援しなきゃな。赤木さんと、その白野先輩が付き合えるよう、全力でバックアップするよ!」
ええええええっ!
「大丈夫。できる限りのことはするから」
そう言って、ウインクしてみせる黒江くん。
「友だちのことは幸せにしたいし」
あっ……。またなにかを思い出しそうになった。これって……そうだ、例の夢のなかで、黒猫のクロエがわたしに言ってくれる言葉と似てる!
――ヒナがみんなを幸せにするなら、俺はヒナを幸せにしたいんだ。
クロエはさらに「それが俺の使命だから――」とも付け加えて……。
さすがに、そんなこと、黒江くんは言わないよね?
そう思っていたら、黒江くんはほほ笑んで言ったの。
「なんだか、赤木さんを幸せにすることが、俺の使命だって……そんな気がするんだよな」
「えっ……」
黒江くん! やっぱり、あなたは……。
「――なんて、大げさかな?」
黒江くんは照れたように髪をくしゃっとさせると、おもむろに門倉部長に近づいた。
「門倉部長!」
黒江くんが呼びかけると、門倉部長はパチッと目を開けた。
「あっ、えっ、ああっ……」
妄想世界から現実に帰ってきた門倉部長は、至近距離にいる黒江くんにうっとりと見とれ、みるみるうちに頬を赤く染めた。
「門倉部長もぜひ協力してください。いっしょに赤木さんの恋を応援しましょう!」
「う、うん、そうね。応援しなきゃね」
勝手に話を進めないでよー!
「赤木さんと白野先輩が付き合えるように、文芸部で全面バックアップしましょうよ!」
「そうね! 部を挙げて応援すべきだわ! ヒナちゃんは大船に乗った気でいて!」
門倉部長はいとも簡単に乗せられてしまった。
満足げな黒江くんは、わたしに向かって「まかせろ」といわんばかりに親指を立てた。
もしかして……ひょっとすると……おそらく……黒江くんって、突っ走っちゃう系の人!?
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