上 下
24 / 51
第4章 白野先輩とふたりっきり!

第23話

しおりを挟む
   ◆ ◆ ◆


 そしていま、あの白野先輩を目で追っているわたしがいる。
 ――と、サッカーボールがコロコロと、わたしたちのほうへ転がってきた。山川さんがすばやく拾い上げる。

「ごめーん」

 笑顔で走ってきたのは――白野先輩!

「はい、赤木さん」

 ニヤリとして、なぜかわたしにボールを渡す山川さん。
 近づいてきた白野先輩に、きゃあきゃあと、みんなが色めき立った。

「ごめん」

 パスを要求した白野先輩にボールを投げると、それを華麗にリフティングして、足元におさめた。

「ありがとう」

 爽やかにお礼を言って走り出そうとした白野先輩だけど、わたしの顔を見て「あれ?」と、立ち止まった。

「あっ……もしかして……文芸部の……?」
「は、はいっ! 赤木です!」
「ああ、やっぱり。覚えてるよ。まだあそこで部活動してるの?」
「はい!」
「あともうひとりの子は……ええと……」
「水原さんです! 先月、転校しちゃったんですけど……」
「そうなんだ……。それは寂しいね」

 すると、遠くのほうから「おーい、白野! なにしてんだよ!」とせっつく声がした。

「おう! いま行くよ!」

 そう叫ぶと、白野先輩はわたしにニコッとして、「じゃあね」ときびすを返し、ドリブルで離れていった。
 その背中を見つめるわたし。
 久しぶりに近くで見た白野先輩の笑顔。やはり――悲しみを感じさせるものだった。

「赤木さん、すごいね!」
「えっ?」

 我に返ったわたしを、山川さんのグループの子たちが取り囲む。

「白野先輩に覚えてもらってるじゃん!」
「うらやましすぎる!」
「てか、赤木さんって、モテる人? 黒江くんとも仲いいし!」
「ええっ! 黒江くんは友だちだってば!」
「またまた~」

 そこへ山川さんが割って入った。

「はーい、そこまで! アンタたち、うらやましがってないで、イケメンと付き合えるよう努力しなさいよ」

 そして、わたしの手を引っぱった。

「ちょっとごめん。赤木さんとふたりで話させてね」

 みんなから少し離れて、朝礼台まで引っぱってこられた。

「……どうしたの?」

 とまどっていると、山川さんはコソッと耳打ちしてきた。

「黒江くんから話はきいてるよ。白野先輩が好きなんでしょ?」

 ええええっ!

「な、な、なにを……」
「ああ、大丈夫! 口は堅いし、誰にも言わないから」

 いやいや、そういうことではなくてっ! 黒江くんは一体……?

「黒江くんに頼まれたのよ。協力してくれって。上手い具合に白野先輩が近づいてきてくれてよかったわ。あたしのアシストよかったでしょ?」

 そして、山川さんは視線を移して手をふった。

「……?」

 わたしも視線をそちらへ移すと……体育用具倉庫の陰に黒江くんが!
 黒江くんはわたしたちに向かって手をふった。一部始終を見守っていたらしい。
 とたんに頭がクラクラしてきた。
 黒江くんは本気だ。本気でわたしと白野先輩をくっつけようとしてるよ!


   ◆ ◆ ◆


 五時間目の授業中。
 わたしは自分のノートに伝言を書き、黒江くんに回した。

 ――どうなってるの?

 黒江くんは顔色を変えずにササッと返事を書いた。

 ――作戦決行。山川さんにも協力してもらってる。

 それはわかってるってば!

 ――わたしには無理!

 珍しくストレートに意志を伝えてみる。

 ――ネガティブ禁止! 大丈夫! 俺にまかせて。

 わたしの意志は、ちっとも伝わらなかったらしい。
 親指を立ててみせる黒江くん。それ、お気に入りのポーズだね。
 はぁ。自然とため息が出る。
 わたしの隣は、突っ走っちゃう系イケメンでした。


   ◆ ◆ ◆


 放課後。文芸部の部室――。
 作戦会議がはじまっていた。参加者は黒江くん、門倉部長。
 わたしはというと、いつものように静かに読書している。

「――というわけで、偶然が重なったけれども、接触に成功したわけです」
「まずは第一段階、突破ね。接触しなければ、はじまらないもの」

 なにか言ってるけど、スル―。

「ちょっとヒナちゃん! なにしてるの?」
「……部活動です」
「うぐっ。……こっちだって大切な部活動よ。ヒナちゃんの恋を応援しよう大作戦!」

 あきらめて、本をぱたんと閉じるわたし。

「赤木さん。相手と言葉を交わせたのは大いなる一歩だよ。情報を集めたけど、白野先輩は、いまは誰とも付き合ってないみたいなんだ。いまがチャンスだよ。これからどんどん攻勢をかけていこう」
「ヒナちゃんのことを覚えてたのよね。脈ありだわ!」
「はあ……」

 黒江くんと門倉部長には、白野先輩とはじめて会ったときのこと、昼休みに交わした言葉について説明済みだ。
 なにやら盛り上がってるふたりをよそに、わたしのテンションはさほど上がっていない。
 わたしの白野先輩に対する気持ちが恋なのかなんなのか、まだハッキリしないんだもん。
 そりゃあ、黒江くんに負けず劣らずのイケメンだからドキドキするけど……それよりも笑顔から感じる悲しみが気にかかる。


 作戦会議とやらが終わって、ようやく部活動がはじまった。
 門倉部長が紙に鉛筆を走らせる音。わたしと黒江くんが本のページをめくる音。
 わたしの大好きな時間と空間――。


 外が薄暗くなってきて、帰り支度をはじめたころ、戸をノックする音。
 入ってきたのは、なんと、遠藤くんだった。
 どうして文芸部の部室に!?
しおりを挟む

処理中です...